建設DXによる働き方改革のソリューションを紹介 現場はどう変化している?
建設業界にも2024年から時間外労働の上限規制が適用され、働き方改革が各企業で進められています。なかでも、建設DXによる働き方改革のソリューションが注目を集めており、さまざまな技術やシステムが開発されています。
しかし、大手企業だけでなく、数多くのベンチャー企業がサービスを提供していることもあり、自社の事業にぴったりのサービスを選ぶのが難しいと感じている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「建設テック」と「自動施工」というカテゴリーから注目のシステムや技術を紹介します。
「建設ディレクター」という働き方改革の救世主として登場した新たな職域についても触れるので、建設DXや働き方改革による建設現場の変化に興味のある方は、ぜひご覧になってみてください。
建設業界で働き方改革が叫ばれている背景
まずは、建設業界で働き方改革が叫ばれている背景をおさらいしておきましょう。
国土交通省の資料によると、平成9年には685万人いた建設業就業者は、令和3年には482万人まで減っています*1。
また、令和3年時点で、建設業就業者の3割以上が55歳以上であり、29歳以下は1割程度に留まっている状況です。
このような人手不足や高齢化を背景に、建設業界が働き方改革を進める目的は、以下の2点です。
・少ない人手でも進められる建設プロセスを実現する
・働きやすい環境をつくり、若年労働者の流入を増やす
建設プロセスの省人化を進めながら、若者が働きたくなるような魅力ある建設業界をつくることが、業界全体の望みです。
建設テック
それではさっそく建設DXによる働き方改革のソリューションをみていきましょう。はじめに紹介するのは、ベンチャー企業が積極的に参画している「建設テック」です。
施工管理アプリ
施工管理者が現場でタブレットを持ち歩くのが当たり前のようになった近年、幅広くサービスを展開しているのが、「施工管理アプリ」です*2。
施工管理アプリとは、その名のとおり施工管理を支援するアプリであり、工事写真の電子黒板、工程表の作成、書類管理、作業指示の共有といった機能を搭載しています。
施工管理アプリを導入するメリットは、事務所でのノンコア業務が減ることです。現場からタブレットで写真・書類の管理や作業指示を行えるため、事務所に戻って作業する業務が減ります。事務所作業の削減は、時間外労働の削減に直結するため、多くの企業で利用が広がっています。
BIMビューワーや自動3Dモデル技術
BIMが多くのプロジェクトで採用されるようになり、3Dモデルを扱う機会が増えました。
BIMビューワーは必須のツールとなり、現場では施工管理者と職人が3Dモデルを見ながら打ち合わせを行っています。
以前は、手持ちの2D図面だけではコミュニケーションが難しく、打ち合わせのために事務所のパソコンに戻るケースが少なくありませんでした。BIMビューワーの登場により、建物の理解とコミュニケーションが容易になっています。
また、図面やデータから自動で3Dモデルを作成するシステムも登場しています。
ここで紹介したいのが、鹿島建設や清水建設が導入している自動3Dモデルサービス「Modely」です*3。
Modelyは、タブレットで取得した配筋の点群データを基にクラウド上で自動的に3Dモデルを作成します。配筋検査の省力化ツールとして画期的なサービスです。
遠隔施工管理技術
2021年度の「i-Construction大賞」(国土交通省)に輝いたのは、清水建設の遠隔施工管理技術です*4。
クラウドサービス上で構造物のBIMモデルや、現地の点群データ・360°写真を共有し、「現場に行かない施工管理」を実現しています。
クラウドは数多くのサービスが提供されているので、点群データと360°写真を使える環境を整えられれば、遠隔施工管理により施工管理者の負担を大幅に低減できるかもしれません。
自動施工
施工の省人化と安全性を両立する手段として期待されているのが、「自動施工」です。働き方改革による省人化が喫緊の課題である一方、安全対策を施すには人員を減らすわけにはいきません。
そこで注目を集めているのが、無人で自律的に施工を行う自動建設機械です。
自動施工を核とする生産システム
鹿島建設は、建設機械の自動運転を核とする次世代建設生産システム「A4CSEL」を開発しています*5。
A4SCELは、自動化改造した汎用機械が作業データに基づいて自律的に施工を行うシステムです。自律的な施工を司るAIは、熟練技能者の操作データを機械学習し、作業条件や状況に応じた自動運転を実現しています。
鹿島建設は、既に土木工事において自動化建設機械の遠隔管制の成功を報告しています。遠隔施工管理だけでなく、「現場に行かない施工」も実現に近づいているといえるでしょう。
自動搬送システム
建設のロボティクス・トランスフォーメーションを目指す「建設RXコンソーシアム」を通じ、鹿島建設・竹中工務店・清水建設が開発に取り組んでいるのが、資材の「自動搬送システム」です*6。
竹中工務店技術研究所の田葉井宏グループ長は、このシステムにより「作業員にとって付帯作業にあたる資材搬送を自動化し、高いスキルが必要なコア業務に集中できる環境を整える」としています*6。
竹中工務店の「建設ロボットプラットフォーム」と鹿島建設の「自動搬送管理システム」を各社の搬送ロボットや仮設エレベーターに連携することで、どのゼネコン・現場でも使えるようにする方針が明かされています*6。
建設ディレクター
ここまでは新しいシステムや技術を紹介してきましたが、新しい「人」についても触れてみたいと思います。ここで紹介するのは、建設業界の人手不足の解決手段として注目されている「建設ディレクター」です*7。
人手不足解消の新たなソリューション
建設ディレクターは、ITの知識を活かして現場を支援する新しい職域です。建設ディレクターは、施工管理者に大きな負担を強いている工事書類データの入力・作成作業を引き受け、施工管理者をノンコア業務から解放します。
この役割自体は建設DXと直接的な関係はありませんが、施工管理者にコア業務に専念できる環境を与えることは、建設DXに欠かせない準備です。生産性向上をひとつの目的として取り組んでいる建設DXですが、特に初期段階においては、建設DXに対応するために膨大なコア業務が発生するのが実情だからです。
建設ディレクターは、長年施工管理者を悩ませてきた工事書類の処理という課題にフォーカスし、時代の需要にマッチした職域であるといえるでしょう。
ドローンによる測量といったICT技術も取得
建設ディレクターのもうひとつの特徴は、ICT技術を持っていることです。建設ディレクター協会の理事長のインタビューでは、ドローンで写真測量したデータを3次元化する技術が紹介されています*7。
建設ディレクターのなかには、建築学科を卒業している方もいます。育児などの事情で現職を離れていた方が建設ディレクターとして活躍しているケースもあり、3Dモデル作成など、持っている技術はさまざまです。
建設ディレクターの業務は固定化されているわけではなく、その現場で必要な人材に育て上げていく傾向が見受けられます。なかには、マルチプレーヤーとして積極的に現場イベントの準備を手伝い、現場の雰囲気をよくしている建設ディレクターもいます。よい雰囲気で働きやすい環境をつくることも、働き方改革のひとつといえるでしょう。
おわりに
2024年から建設業界にも時間外労働の上限規制が適用され、会社の雰囲気の変化を感じ取っている方も多いのではないでしょうか。
もちろん雰囲気に合わせて時間外労働を減らす意識を持つことは大切ですが、重要なのは時間外労働が少ない状況を維持できる環境を整えることです。そのためにも、
新しい技術やシステム、人材の採用を検討してみてはいかがでしょうか。
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注釈
*1
出所)国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」pp.5-6,17
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001493958.pdf
*2
出所)アスピック「施工管理アプリの比較13選。現場改善のメリットと選び方」
https://www.aspicjapan.org/asu/article/8714
*3
出所)東洋経済「「2024年問題」に挑む建設テック5社のすごい新技」
https://toyokeizai.net/articles/-/701958?page=4
*4
出所)Autodesk「清水建設が “現場に行かない”施工管理を実現、i-Construction大賞に! クラウドでBIMや点群、360°写真をリアルタイム共有」
https://bim-design.com/infra/case/shimz.html
*5
出所)鹿島建設株式会社「A4CSELとは」
https://www.kajima.co.jp/tech/c_a4csel/engineering/index.html
*6
出所)ニュースイッチ「鹿島・竹中・清水…ゼネコン技術連合が挑む資材自動搬送、その中核システムと解決すべき課題」
*7
出所)アステリア株式会社「建設業界の2024年問題は「建設ディレクター」が救う! 一般社団法人 建設ディレクター協会理事長・新井恭子さんに訊く、建設現場のDX」