今さら聞けない、建設DXとは?新たに登場したツールを紹介
デジタル技術を活用してビジネスに変革をもたらすDX(デジタルトランスフォーメーション)が、様々な業界で注目を集めています。建設業界も例外ではなく、建設DXという言葉を当たり前のように耳にするようになりました。
しかし、建設業界では、やっとBIMが普及してきたところであり、デジタル技術によるビジネスの変革までは至っていないのが実情です。建設DXによりどのような世界が訪れるのかをイメージできていない方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は建設DXの意味や目的といった基本的な内容を解説します。建設DXで登場した新たなツールも紹介するので、これから建設DXに取り組む方は、参考になさってみてください。
建設DXとは?
まずはDX(デジタルトランスフォーメーション)の基本を確認していきましょう。一般的なDXと建設DXのそれぞれについて解説します。
そもそもDXとは?
一般的に、ビジネスにおけるDXとは、「企業が、ビッグデータ・AI・IoTなどのデジタル技術を活用し、ビジネスモデルそのものを変革すること」を指します*1。業務プロセスの改善や新たなビジネスの創出をするだけでなく、企業風土や従来システムを変革し、競争上の優位性を維持していくことを目的としています。
DX以前のデジタル化は、システムのIT化が主な取り組みでした。IT化は、社内システムの自動化やペーパーレス化による社内業務の効率化が目的とされていたことが特徴です。一方、DXは、社内だけでなく社外関係者も巻き込んでビジネスを変革させる取り組みであり、デジタル技術を活用してビジネスの「新たな価値」を創出することが目的です。
競合と差別化できる付加価値が重要となるこれからの社会において、新たな価値を創出するDXは、多くの企業にとって重要な課題であるといえるでしょう。
建設DXで建設業の新たな価値を生み出す
建設DXとは、建設プロセスにおけるDXを指します。つまり、IoTやAI、クラウドなどのデジタル技術を活用し、建設プロセスを変革させ、新たな価値を創出することを意味しています。
ここで、建設業界で求められている新たな価値について考えてみましょう。参考とするのは、国土交通省が提唱している「新3K」です*2。新3Kとは、給与・休暇・希望を表現しており、適正労務費、週休2日制、魅力・やりがいのある建設業の実現などが目標に掲げられています。
建設DXの大きな目的のひとつは、デジタル技術を活用して生産性を向上させ、「時間外労働の削減」や「休暇取得の増加」を実現することです。また、国土交通省は、デジタル技術を活用した先進的な建設プロセスを目指す「i-Construction」を推進し、誇り・魅力・やりがいを醸成するための建設業のリブランディングを図っています。
建設DXは、業界全体のビジネスを変革させ、休暇・希望といった新たな価値を創出するための取り組みであるといえるでしょう。
建設DXの目的
次に、建設DXの目的を紹介します*3。各企業が建設業界の課題を把握し、目的意識を持って建設DXに取り組むことで、業界全体の利益をもたらす新たな価値を生み出すことができます。
人手不足への対応
建設DXの目的のひとつは、「少ない人手で進められる建設プロセスの実現」です。
建設業界は、若者の離職率の高さや熟練技術者の高齢化などにより、「人手不足」という深刻な問題を抱えています。2024年から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されたので、人手不足問題はこれからさらに深刻化することでしょう。
そこで、国土交通省は「i-Construction」を推進し、ICT建機などを活用した自動施工の試行や、ガイドラインの策定に取り組んでいます*4。自動施工が実現すれば、少ない人手でも施工が可能になります。
また、自動施工の実現は、熟練技術者の高齢化に起因する「技術の伝承」という別の課題にもアプローチできます。従来は熟練技術者から若者に技術が伝承されてきましたが、自動施工が実現すればデジタル情報で技術を伝えられるようになるからです。
建設DXを通して、人手不足に関する多くの課題を解決するソリューションが提案されています。
生産性向上
働き方に関するもうひとつの建設DXの目的は、生産性向上です。
建設業界では、慢性的に時間外労働を行い、休暇を取得できない文化が根付いていました。現在は、このような文化が前述の人手不足の原因のひとつと考えられ、定時で帰りやすい雰囲気づくりや、週休2日制の導入が進められています。
そのために欠かせないのが、建設プロセスの生産性向上です。デジタル技術を活用し、少ない労働時間で円滑にプロジェクトを進められる建設プロセスを確立することが、建設業界の喫緊の課題となっています。
BIMによる合理的な設計・施工プロセスの実現、建設現場への新技術の導入、スムーズな情報伝達による手戻りの防止など、建設DXによる様々な生産性向上効果が期待されています。
建物の価値の向上
建設業の労働環境の改善と並行し、建設DXを通して建物の価値を高める取り組みが推進されています。
建物の価値を維持するためには適切なメンテナンスが必要です。しかし、従来は建築主に建物の管理が一任され、なかなか建物の価値を維持することができませんでした。そこで、設備更新やメンテナンスの内容・時期をBIMやCDEにデジタル情報で入力し、建築主や建物管理者が手軽に管理できる仕組みづくりが進められています*5。このように、社外関係者も巻き込んで建物の価値を高める取り組みを行うことも、建設DXの目的のひとつです。
また、国土交通省は、建築・都市のDXの一環として、「不動産ID」の導入を進めています*6。不動産IDは、物件を一意に特定できるIDであり、官民データの連携による不動産取引の円滑化や既存ストックの利活用が目的です。不動産のスムーズな運用により建物の価値が向上すれば、建設業の重要性が増し、さらにやりがいを感じられることでしょう。
建設DXで登場した新たなツール
最後に、建設DXで登場した新しいツールを紹介します。建設DXに向けてシステムの導入を検討している方は、参考になさってみてください。
BIM(Building Information Model)
BIMは、建物の情報が付与されたパーツで構成する3次元モデルです*7。従来のCADに代わる存在であり、設計・施工・運用・維持管理のすべてのライフサイクルで一貫したBIMの運用が推進されています。国土交通省が「建築BIM加速化事業」で普及を促進していることからも、これからはBIMを中心とした建設プロセスが主流になっていくと考えられます。
代表的なBIMソフトウェア
・Revit(Autodesk)*8
・Archicad(Graphisoft)*9
CDE(共通データ環境)
CDEは、プロジェクトに関するすべての情報を管理する情報プラットフォームです*10。BIMを活用して建物のライフサイクル全体にわたる情報管理を行うための国際規格である「ISO19650」で定義されており、下記のようなツールを導入してCDEを構築するのが一般的です。
代表的なCDEソリューション
・Autodesk Construction Cloud(Autodesk)*11
・Aconex(Oracle)*12
施工管理アプリ
建設DXを推進する建設テックが積極的に開発しているのが、施工管理アプリです。施工管理の支援を目的とし、図面の管理、工程表の作成、工事写真の撮影などの機能を搭載しています。タブレットやスマートフォンで手軽に施工管理業務を進められるので、施工管理者の負担を軽減するソリューションとして期待されています。
代表的な施工管理アプリ*13
・ANDPAD
・ダンドリワーク
おわりに
建設DXは、デジタル技術を活用し、建設業や建物の新たな価値を創出する取り組みです。やりがいを感じながら仕事に取り組み、一方でライフワークバランスの取れた生活を実現できれば、さらに魅力的な業界になることでしょう。
(3080字)
大手ゼネコンBIM活用事例と 建設業界のDXについてまとめた ホワイトペーパー配布中!
❶大手ゼネコンのBIM活用事例
❷BIMを活かすためのツール紹介
❸DXレポートについて
❹建設業界におけるDX
注釈
*1
出所)株式会社野村総合研究所「用語解説|経営 DX(デジタルトランスフォーメーション)」
https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/alphabet/dx
*2
出所)国土交通省「新3Kを実現するための直轄工事における取組」p.1
https://www.mlit.go.jp/tec/content/001368311.pdf
*3
出所)NTT東日本「建設業におけるDXとは? DXでどんな課題が解決できるのか?」
https://business.ntt-east.co.jp/bizdrive/column/post_100.html
*4
出所)国土交通省「自動・遠隔施工の安全ガイドライン」p.2
https://www.mlit.go.jp/tec/content/001618802.pdf
*5
出所)建築設計三会 設計BIMワークフロー検討委員会「設計BIMワークフローガイドライン」p.29
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001429639.pdf
*6
出所)国土交通省「「不動産ID」の狙い」p.1,9
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/content/001594057.pdf
*7
出所)CADJapan.com「BIMと3D CADとの違い」
https://www.cadjapan.com/special/bim-navi/know/difference.html
*8
出所)Autodesk「REVIT」
https://www.autodesk.com/jp/products/revit/architecture
*9
出所)Graphisoft「Archicad」
https://graphisoft.com/jp/solutions/products/archicad
*10
出所)Autodesk「ISO 19650, 共通データ環境, CDE, Autodesk Construction Cloud」
*11
出所)Autodesk「Autodesk Construction Cloud」
https://construction.autodesk.co.jp/
*12
出所)Oracle Corporation「オラクルのAconex Construction Management」
https://www.oracle.com/jp/construction-engineering/aconex/
*13
出所)ASPIC「施工管理アプリの比較13選。現場改善のメリットと選び方」