NX X for CADとは?オンラインで始めるクラウドCAD入門ガイド
1. はじめに
近年、クラウド技術の進化により、製造業や設計分野でも業務のデジタル化が急速に進んでいます。中でも、これまで社内ネットワークや専用PCにインストールして使うのが当たり前だったCADソフトウェアにも、大きな変化が訪れています。
クラウドベースで利用できるオンラインCADは、インストール不要でどこからでもアクセスでき、リモートワークや多拠点間の設計作業にも対応できる柔軟な環境として注目を集めています。
本記事では、Siemens社が提供するクラウド型CADソリューション「NX X for CAD」に注目し、その概要や導入メリットを分かりやすくご紹介します。
特に、設計部門を取りまとめるマネージャーや、クラウドCADへの移行を検討している企業担当者に向けて、オンラインでの共同作業やコスト管理のしやすさなど、実用的な視点での魅力を丁寧に解説していきます。
2. NX X for CADとは?クラウド版NXの概要
引用:https://plm.sw.siemens.com/ja-JP/nx/
NX X for CADは、Siemens NXの豊富な機能をそのままクラウド上で利用できるようにした、クラウド型のCADソリューションです。従来のオンプレミス型と同様に、3Dモデリングやアセンブリ設計、CAE(コンピュータ支援エンジニアリング)、CAM(コンピュータ支援製造)といった多彩な設計・解析機能を備えており、幅広い業種で活用されています。
大きな違いは、NX X for CADがクラウド上で動作する点にあります。ソフトウェアのインストールが不要で、常に最新バージョンの機能を利用できるほか、ユーザー数に応じて契約できるサブスクリプションモデルを採用しているため、導入と運用の柔軟性が大幅に向上しています。
ここでは、Siemens NXの基本的な情報を紹介しながら、クラウドCADとしての仕組み、従来型との違い、そしてライセンス体系について、順を追って解説していきます。
2.1. Siemens NXの基本情報
Siemens NXは、世界中の製造業で採用されている統合型CAD/CAE/CAMソリューションであり、設計から解析、製造に至るまでの業務プロセス全体を一貫してカバーすることができます。その中核にあるのが、PLM(製品ライフサイクル管理)と連携する高機能な設計支援ツールです。
NXでは、3Dモデリングや図面作成はもちろんのこと、構造解析や熱解析などのCAE機能、さらにはCAM機能による加工データの生成も一つのプラットフォームで完結できるため、設計から製造までの一貫性を保ちながら作業を進めることが可能です。
また、デジタルツインやIoTと連携した高度なデータ活用にも対応しており、最新の製造業トレンドにも柔軟に適応できる点が評価されています。大手メーカーはもちろん、中小企業でもその高い拡張性と柔軟性を活かして導入されており、業界を問わず高い信頼を得ています。
2.2. クラウドベースのNXとは
クラウドベースのNX、つまりNX X for CADは、ソフトウェアや設計データを自社内に保有せず、インターネット経由でアクセスして利用する形のCADソリューションです。これにより、ユーザーのパソコンに高負荷をかけることなく、軽量な操作環境で作業を行うことが可能になります。
PCのスペックやOSのバージョンにとらわれず、安定したインターネット環境さえあれば、世界中のどこからでも設計作業を進めることができます。また、ソフトウェアのバージョン管理やセキュリティパッチの更新はクラウド側で自動的に行われるため、ユーザー側での保守作業がほとんど不要になります。
特に、拠点が複数ある企業や、リモートワークを導入している設計現場では、このような柔軟な環境が大きな利点となります。常に同じ設計環境を保ちながら、安全かつ効率的に共同作業が行えるため、チーム全体の生産性向上にもつながります。
2.3. オンプレミス版との主な違い
従来のオンプレミス型NXでは、専用のハードウェア環境を用意し、ライセンス費用に加えてサーバー構築・運用のための設備投資と人的コストがかかるのが一般的でした。そのため、導入にかかるハードルが高くなりがちです。
一方、NX X for CADでは、ユーザー数や用途に応じた柔軟なサブスクリプション契約が可能で、ライセンス数の増減にも対応しやすくなっています。使いたいときに必要なだけ利用できるという運用が可能なため、導入の初期コストを抑え、スモールスタートから始められるメリットがあります。
さらに、セキュリティ面についても、Siemensが管理するクラウド基盤上で運用されているため、自社でセキュリティ対策を行う負担が大きく軽減されます。結果として、導入スピードの向上や、運用コストの削減が期待できるのがクラウド版の大きな魅力です。
2.4. ライセンス形態と利用方法
NX X for CADは、サブスクリプション契約によって提供されており、月単位または年単位の契約が選べるようになっています。契約プランによっては、基本的な3Dモデリング機能に加えて、CAE解析やCAM機能などを一括で利用できるオプションも用意されています。
ユーザー登録はオンラインで簡単に完結し、アカウントが発行されればすぐにクラウド環境からNXにアクセスできるようになります。インストールやライセンスキーの管理といった煩雑な作業を省略できる点も、クラウドならではの利点です。
また、チームの増減に応じてライセンス数を柔軟に調整できるため、繁忙期の増員やプロジェクト終了後の見直しも容易です。こうした柔軟性により、設計業務にかかるコストや管理負担を大幅に抑えることができます。
2.5. 主な機能と対象ユーザー
NX X for CADが提供する機能は、3Dモデリング、アセンブリ設計、製図、CAEによる構造解析、CAMによる加工シミュレーションなど、設計から製造までをカバーするものです。これらの機能が一体化されていることで、プロセス全体の効率化が可能になります。
また、PLM(製品ライフサイクル管理)と連携して設計データを一元管理できるため、大規模な設計組織や多拠点展開を行う企業にとっても非常に有効です。サプライチェーン全体での情報共有や管理がしやすくなるのも大きな強みです。
NX X for CADは、従来のNXユーザーだけでなく、これからクラウド設計へ移行したい中小企業、リモートワークを導入したい企業、あるいは設計の標準化と効率化を求める開発チームなど、幅広いニーズに対応できる柔軟なCADソリューションです。既存データとの互換性も高く、従来の環境からスムーズに移行できるのも魅力です。
3. オンラインでNX X for CADを使うメリット
引用:https://plm.sw.siemens.com/ja-JP/nx/
このセクションでは、クラウドCADであるNX X for CADが実際の業務にどのような利点をもたらすのかを、現場目線で整理していきます。特に、大規模な設計組織を統括するマネージャー層にとっては、システムの運用効率向上や設備投資の抑制といった観点から、導入の効果を具体的に理解することが重要です。
NX X for CADには、インストール不要ですぐに使い始められる手軽さ、リモートワークや在宅勤務に適した柔軟な運用環境、そして常に最新機能を利用できる自動アップデートといった数々の利点があります。
以下では、それぞれのメリットを具体的に掘り下げながら、オンラインCADがいかに設計現場を変革するかを見ていきます。
3.1. インストール不要で始められる利点
従来のハイエンドCADソフトは、導入前にPCスペックの確認やOSとの互換性チェック、ソフトウェアのインストール作業といった、数多くの準備が必要でした。これらはときに、設計を始める前から大きな手間と時間を要する要因となっていました。
しかし、NX X for CADはクラウドベースで提供されているため、ユーザーはブラウザや専用アプリを使ってログインするだけで、すぐに設計作業に取りかかれます。インストールや初期設定が不要なことにより、IT部門の負担を大幅に軽減でき、スピーディに業務をスタートできます。
また、バージョンアップのたびに都度対応が必要だった従来型に比べ、クラウド環境ではすべてが自動更新されるため、ユーザー自身がアップデート作業を行う必要はありません。時間とコストを大きく節約できる点は、企業規模を問わず大きな魅力です。
3.2. リモート作業の可能性
かつては、CADの高度な処理を行うために高性能なワークステーションを用意し、設計作業は主にオフィスで行うのが一般的でした。しかし、働き方改革やパンデミックを契機に、設計業務にもリモート対応のニーズが急速に高まりました。
NX X for CADは、インターネットに接続さえできれば、自宅や出張先、さらには海外拠点からでも利用できる設計環境を実現します。データ処理や演算はクラウドサーバー側で行われるため、ユーザー側の端末に高いスペックは求められません。
これにより、設計者は場所を問わず作業ができ、企業側は人材の活用範囲を広げることが可能になります。複数拠点間での設計共同作業や、遠隔地のエンジニアとのリアルタイムな連携も、クラウドCADによって実現しやすくなっています。
3.3. データ共有と共同作業の容易さ
設計作業では、複数のメンバーが同時に同じプロジェクトに関わることが珍しくありません。その際、データの共有や更新タイミングの管理が課題となります。特にオンプレミス型のCADでは、バージョン管理やファイルの受け渡しに手間がかかり、ミスや重複作業の原因になることもありました。
NX X for CADでは、クラウド上に設計データを一元管理することができ、ファイルの更新や共有がリアルタイムで行えるのが大きな特徴です。設計者が複数名で同時に作業していても、自動的にバージョンを管理し、内容の競合を防ぐ機能が組み込まれています。
さらに、コメント機能や通知機能によって、設計上のやりとりを即座に確認・対応できるため、フィードバックのスピードも向上します。社内はもちろん、協力会社やクライアントとの設計レビューにも活用でき、チーム全体での生産性を高めることができます。
3.4. 常に最新の機能を利用
CADソフトは、定期的なバージョンアップによって新機能や操作性の改善が図られています。しかし、従来のオンプレミス版では、そのたびにアップデート作業を手動で行う必要があり、社内の全端末を一括で更新する手間やコストが発生していました。
NX X for CADでは、クラウド環境により自動アップデートが標準で行われるため、ユーザーは常に最新の状態でソフトを利用できます。たとえば、AIを活用したモデリング支援機能や、複雑形状を効率的に処理する新機能がリリースされた際も、追加作業なく即座に利用できるのです。
最新機能をすぐに業務に取り入れることで、設計効率や品質の向上につながり、競争力を高めることができます。継続的な機能進化に追随しやすいことは、クラウド型CADならではの大きなメリットです。
3.5. コスト管理の柔軟性
設計環境におけるコスト管理は、特に中小企業や期間限定のプロジェクトを運用する企業にとって重要なポイントです。従来の買い切り型ライセンスでは、使用頻度にかかわらず固定コストが発生してしまい、無駄な出費につながるケースも少なくありませんでした。
NX X for CADはサブスクリプション型の契約を採用しており、必要な期間・必要な人数分だけライセンスを柔軟に契約・解除することが可能です。プロジェクトが活発な時期には利用者を増やし、落ち着いたタイミングで契約数を見直すことで、無駄のないコスト管理が実現します。
さらに、クラウドベースのため専用ハードウェアの導入や保守が不要で、設備投資やインフラ管理にかかるコストも抑えることができます。こうした費用面での自由度の高さは、スモールスタートでの導入や、将来的な拡張を見越した運用を行ううえでも大きな利点となるでしょう。
4. よくある質問・導入前に知っておきたいこと
NX X for CADの導入を検討する際、多くの方が気になるポイントとして、「オフライン環境で使えるのか?」「クラウドのセキュリティは大丈夫?」「今使っているCADデータは移行できるの?」といった疑問が挙げられます。
導入に関する意思決定を進めるうえで、こうした不安や疑問を事前にクリアにしておくことは非常に重要です。特に、クラウド型のCADはオンプレミスとは仕組みが異なるため、使い勝手や運用面に関する理解を深めておくことで、導入後のトラブルを回避しやすくなります。
ここでは、実際によく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。初めてクラウドCADを使う方や、導入にあたって社内の説明が必要な方にとって、役立つ情報を整理しています。検討段階での参考資料としてお役立てください。
4.1. オフラインでの使用は可能か?
NX X for CADはクラウドサービスとして提供されるため、基本的には常時インターネット接続が必要です。オンライン環境を前提として設計されているため、完全にオフラインで作業することはできません。
ただし、環境によっては一時的にサーバーのキャッシュを利用して断続的に作業できる場合もあり、すべての作業がリアルタイム接続に依存しているわけではありません。しかし、大容量のファイルを保存したり、クラウド側で計算を行ったりする場面では、安定したネットワーク接続が不可欠です。
そのため、どうしてもインターネットに依存しない運用が求められる場合には、クラウド版だけでなく、オンプレミス版のNXを併用する「ハイブリッド運用」も選択肢として検討する価値があります。利用目的に応じて、最適な構成を選びましょう。
4.2. セキュリティとデータ保管の安全性
クラウド型CADの最大の懸念点としてよく挙げられるのが、機密性の高い設計データを外部サーバーに預けることへの不安です。しかし、NX X for CADはエンタープライズ向けの厳格なセキュリティ対策を実装しており、安全性は非常に高いレベルで確保されています。
具体的には、通信の暗号化(SSL/TLS)、アクセス制御の強化、サーバーの冗長化、定期的なバックアップなどが施されており、万一のトラブルにも備えた運用体制が整えられています。これらの仕組みにより、多くの製造業や航空宇宙、防衛分野でも採用実績があります。
加えて、ユーザーごとに詳細なアクセス権限を設定できるため、社内外の関係者に対しても必要最小限の情報のみを共有できるようになっています。こうした高度なセキュリティ管理によって、むしろ個人のローカル保存によるリスクを減らすことができるのが、クラウドCADの大きな特長です。
4.3. 他のCADファイルとの互換性
すでに他社製のCADソフトを使用している場合、「NX X for CADでも同じデータが使えるのか?」という点は重要な検討材料になります。NX X for CADは、業界標準のファイル形式であるSTEP、IGES、Parasolidなどに対応しており、高い互換性を備えています。
また、他社の3D CADソフトウェア(SolidWorks、CATIA、Creoなど)で作成されたデータもインポートすることができ、多くの設計現場で併用されているCADとの連携もスムーズに行えます。これにより、既存のデータ資産を無駄にすることなく活用でき、移行時の負担を最小限に抑えることができます。
さらに、NXユーザー向けのコミュニティやサポートチャネルでは、他CADとの互換性に関する実践的なノウハウやトラブルシューティングの情報も共有されており、導入時の不安を和らげてくれます。まずは一部の既存データを試験的に取り込み、互換性を確認してみると良いでしょう。
4.4. トライアル利用の可否
導入前に、実際の使用感や自社の業務との相性を確認したいという方に向けて、NX X for CADでは一定期間の無償トライアルが提供されているケースがあります。公式サイトや正規販売代理店を通じて申し込みが可能で、トライアル環境でも主要な機能を体験することができます。
このトライアル期間中には、チュートリアル動画やサンプルデータが用意されており、初めてNXを使う方でも基本操作を無理なく学ぶことが可能です。社内の評価用に一部のプロジェクトで使ってみたり、既存のワークフローに組み込んで検証するなど、実務に即したテストができる点が魅力です。
なお、トライアルには機能制限がある場合や、有効期間が決まっているケースもあるため、試したい機能が含まれているかどうかを事前に確認しておくと安心です。無理のないステップで試用を開始し、導入の可否を見極めていくのが効率的な進め方といえるでしょう。
5. まとめ:まずは体験してみよう
ここまで、Siemensが提供するクラウド型CADソリューション「NX X for CAD」について、その特長やオンラインで使うことによるメリット、よくある疑問への回答までをご紹介してきました。
NX X for CADは、単にインストール不要で使えるというだけでなく、クラウド環境ならではの柔軟な運用、リモートワークへの対応、常に最新の機能が利用できる自動アップデートなど、現代の設計現場が求める多くの要素を兼ね備えたソリューションです。特に、多拠点展開やプロジェクトごとの変動が激しい組織にとっては、コスト面・運用面の両方で大きな価値を提供してくれるツールといえるでしょう。
また、既存のNXユーザーにとっても、データ資産を活かしながらクラウド環境へ移行できる点は大きな魅力です。
まずは、NX X for CADの無償トライアルを通じて、実際の操作感や導入効果を体験してみてはいかがでしょうか。オンラインCADの真価は、使ってみてこそ実感できるものです。チームでのコラボレーションや業務効率の向上を目指す第一歩として、ぜひこの機会にクラウドCADの可能性を体感してみてください。
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<参考文献>
CADとCAMを統合したNXソフトウェア | Siemens Software
https://plm.sw.siemens.com/ja-JP/nx
NX X CADのトークン・ライセンス – 必要な分だけ支払い | Siemens Software
https://plm.sw.siemens.com/ja-JP/nx/products/nx-x-cad-licensing-50-tokens
CADオンライン | Siemens Digital Industries Software
https://trials.sw.siemens.com/ja-JP/trials/nx-x-online-cad
NX CADバンドルと導入オプション | Siemens Software
https://plm.sw.siemens.com/ja-JP/nx/cad-online/cad-deployment
NX CAD/CAMソフトウェア評価版 | Siemens Software
https://plm.sw.siemens.com/ja-JP/nx/cad-cam-software-trials
NX X for CADソリューションの比較 | Siemens Software
https://plm.sw.siemens.com/ja-JP/nx/products/compare-nx-x-cad-bundles