BIMデータを引き継ぐ方法|設計・施工間で決めるルールと注意点
1. はじめに
BIMデータは、建築プロジェクトにおいて、設計から施工、将来の維持管理までを支える重要な情報資源です。三次元モデルや図面だけでなく、部材の寸法や素材、施工条件など、さまざまな属性情報を含んでいるため、後工程でも活用できます。しかし、設計段階のBIMデータを施工段階へ引き継ぐ際に、単にファイルを渡すだけでは、受領側がどこまでを確定情報として扱えばよいのか、どのようなルールでモデリングされているのかを把握できず、手戻りや情報の不足につながる可能性があります。
たとえば、BIMモデルに含まれる情報のうち、施工に必要な部分がどこまで確定しているのかが明確でない場合、工期への影響や、設計意図の誤解による施工ミスにつながる恐れがあります。また、BIMソフトウェアやバージョンの違いによって、作成したBIMデータを正しく開けないケースも考えられます。このように、設計から施工へBIMデータを活用するには、引継ぎ段階で必要なルールを整理し、関係者間で共有しておくことが重要です。
本記事では、BIMデータを設計から施工へ引き継ぐ際に、利用目的に合わせてどのようなルールを整理すべきか、具体的な引継ぎ手順や注意点とあわせて解説します。BIMモデルと図面の関係やBIMデータの整合性、モデリングルールの共有などを確認しながら、プロジェクトマネージャーがスムーズにBIMデータを受け渡すためのポイントを紹介します。
2. BIMデータの引継ぎで決めておきたい7つのルール

ここでは、設計から施工へBIMデータを円滑に引き継ぐために、確認しておきたい7つのルールを紹介します。
| ルール | 確認するポイント |
| 利用目的の明確化 | BIMデータを施工図作成、干渉確認、数量拾いなど何に使うか |
| 引継ぎ対象のデータ範囲 | 必須データ、参考資料、引き継がない情報を区別する |
| ファイル形式と使用ソフト | ファイル形式、ソフトウェア、バージョンを確認する |
| BIMモデルと図面の整合性 | モデルと図面の関係や加筆範囲を明確にする |
| 確定情報と未確定情報 | 確定済みか、変更の可能性があるかを区別する |
| モデリングと属性情報 | 命名方法や属性情報の入力ルールを共有する |
| 更新方法と責任範囲 | 誰が、いつ、どこまで更新するかを決める |
2.1. 利用目的の明確化
まず、BIMデータの利用目的を明確にします。設計から施工へのBIM活用では、施工図の作成や干渉確認、数量拾いなどが挙げられます。目的を具体的に定めておけば、必要な属性情報や確定情報の範囲を整理しやすくなります。
施工では、図面とBIMモデルの整合性や、部材の配置・寸法、モデリングの範囲などを確認します。BIMデータに情報を過度に詰め込むと処理速度の低下や責任範囲の曖昧化につながる可能性もあるため、利用目的に沿って必要な情報を選ぶことが重要です。
2.2. 引継ぎ対象のデータ範囲
BIMモデルには、建材や部材、設備要素、外部リンクされた図面ファイルなど、さまざまな情報が含まれます。そのため、必須データと参考資料を区別し、引継ぎ対象を明確にしておくことが重要です。
引き継ぐデータの範囲をリスト化し、施工に必要な確定情報かどうかを明記しておけば、受領側が必要な情報を把握しやすくなります。施工側で使用しない要素についても、参照情報として扱うのか、引き継がないのかを決めておきましょう。
2.3. ファイル形式と使用ソフトの確認
BIMソフトウェアには複数の製品があり、それぞれに特徴があります。設計側で使用したネイティブ形式をそのまま渡す場合でも、施工側が同じソフトやバージョンを使用していなければ開けないケースがあり、IFCなどの中立フォーマットへ変換する必要が生じることもあります。
たとえば、設計段階では最新バージョンのソフトを使用していても、施工段階では社内規定により古いバージョンを使用している場合があります。こうした環境の違いを確認しないままデータを受け渡すと、情報が正しく引き継がれない可能性があります。あらかじめBIMデータの受渡し形式を双方で決め、必要に応じて変換テストやプレビューを行っておくと、トラブルを防ぎやすくなります。
さらに、ソフトウェアによって属性設定やモデリングルールが異なる点にも注意が必要です。データの受け渡し後に属性情報が欠落したり、形状が崩れたりしないよう、事前に試験的な読み込みを行い、問題がないか確認しておくことが重要です。
2.4. BIMモデルと図面の整合性
BIMを活用して図面を作成する場合、BIMモデルから二次元図面を出力することで、モデルと図面の整合性を確保しやすくなります。一方、実務ではBIMモデルだけでなく、二次元図面上で加筆・調整した情報が含まれる場合もあります。そのため、引継ぎ時にはBIMモデルと図面の関係を明確にしておくことが重要です。
たとえば、BIMモデルには開口が設定されている一方、図面には表記されていない場合、受領側がどちらを参照すべきか判断できず、混乱につながる可能性があります。設計BIMワークフローガイドラインでは、設計から施工へBIMデータを引き継ぐ際の課題として、設計BIMのモデリング・入力ルールや、設計内容として確定している範囲が施工者に伝わりにくいこと、BIMの整合性確保などが挙げられています。(参照*2)
設計段階でBIMモデルや図面を修正した場合は、両者の整合性を確認するとともに、二次元図面上で加筆した情報などがある場合は、その範囲を明確にしておくことが大切です。施工段階で変更が生じた場合についても、変更内容をどのデータに反映するのかをあらかじめ決めておくことで、引継ぎ後の混乱を防ぎやすくなります。
2.5. 確定情報と未確定情報の区分
設計段階で決定した要素でも、実際の施工段階で仕様が変わる場合があります。たとえば、設備機器のメーカー変更や仕上げ材の色変更など、施工時点で別の仕様に変更される可能性があります。しかし、BIMモデルを引き継ぐ際に、「確定している情報」と「変更される可能性がある情報」が混在していると、受領側の誤解につながる恐れがあります。
そのため、BIMデータを引き継ぐ前に、確定情報と未確定情報を整理しておくことが重要です。区分の基準をルール化し、モデル内の要素にステータスを付ける方法を取れば、施工者が受領後の早い段階で、変更の可能性がある情報を把握しやすくなります。
こうした区分は、BIMデータの品質管理だけでなく、プロジェクト全体を円滑に進めるうえでも役立ちます。また、情報を更新する際の責任範囲を明確にしやすくなるため、変更時の確認や調整も進めやすくなります。
2.6. モデリングと属性情報のルール
BIMモデルを扱う際には、部材の命名方法やファイル構成、属性情報の入力方法など、モデリングに関するルールを決めておく必要があります。 設計者にとっては普段から使っているルールでも、施工者には異なる運用方法があるため、両者のルールが異なると、受け取ったデータをスムーズに読み解けない場合があります。
たとえば、素材のグレードや耐火性能などを属性情報として入力する場合は、どの項目に何を入力するのか、どのような命名規則を用いるのかをチーム全体で共有します。モデル要素の階層分けについても、受領側が現場で確認しやすい形にしておくことで、作業を進めやすくなります。BIMモデリングルールを文書化し、定期的に見直す仕組みを整えておくことも重要です。
また、プロジェクトの進行に伴って属性情報の追加や変更が発生することも考慮し、情報を更新しやすいルールとしておくことも大切です。
2.7. 更新方法と責任範囲の共有
引継ぎ後にBIMデータを誰が更新し、どのように管理するのかを明確にしておくことも重要です。設計者と施工者が扱うモデルに違いが生じると、図面や工程計画、発注数量などに齟齬が発生する可能性があります。
そのため、更新するタイミングや責任範囲、施工側が変更できる範囲などを事前に決めておきます。変更後の報告方法なども含めて運用ルールを文書化することで、引継ぎ後の混乱を防ぎやすくなります。
3. BIMデータを設計から施工へ引き継ぐ手順

実際にBIMデータを設計側から施工側へ渡す際は、単にデータを送るだけでなく、段階を踏んで内容を確認しながら進めることが重要です。ここでは、5つのステップに分けて解説します。
- 利用目的を確認する
- ルールと引継ぎ対象を整理する
- BIMデータを整理・確認する
- 引継ぎ資料を共有する
- 受領側で内容を確認する
3.1. 利用目的の確認
まず、施工者がBIMモデルを何に利用するのかを明確にします。たとえば、会議資料として干渉箇所を確認したいのか、詳細な施工図の作成や数量拾いに活用したいのかによって、設計者が事前に準備すべき情報は変わります。
UR都市機構では、工事の着手段階に発注者や設計意図伝達業務受注者、工事受注者などが参加し、施工段階でのBIM活用に向けて設計業務成果品のBIMデータを説明する「BIM伝達会議」を定めています。(参照*3)このように、BIMデータを渡すだけでなく、関係者間で利用内容を確認する機会を設けることも有効です。
また、施工者のIT環境やBIMソフトウェアのバージョンなどもこの段階で確認しておくと、その後のファイル変換に関するトラブルを防ぎやすくなります。
3.2. ルールと対象の整理
次に、引継ぎ対象とするデータの範囲や確定情報・未確定情報の区分、ファイル形式などのルールを確認・整理します。設計者があらかじめ作成したリストや手順書をもとに話し合い、施工側の要望も取り入れながら最終的な内容を決めていきます。
ルールを文書化しておくことで、後になって「この情報はまだ確定していなかったため使えなかった」といったトラブルを避けやすくなります。BIMモデルと図面の関係、属性情報の設定方法、モデリングルールなどについてもあわせて確認し、抜け漏れを防ぎます。
国土交通省のガイドラインや「設計BIMワークフローガイドライン 建築設計三会(第1版)」を参照することで、データ管理の方針も整理しやすくなるでしょう。
3.3. データの整理と確認
決めたルールに沿って、設計側でBIMモデルを整理します。具体的には、不要なエレメントの削除やリンクファイルの整合性確認、属性情報の整備などを行い、使用するバージョンで不具合がないかを確認します。
同時に、図面との整合性やBIMデータの責任範囲をあらためて確認することも重要です。どこまでが設計者の責任範囲で、どこから施工者が調整を加えるのかを明確にしておけば、後から「図面には記載されているが、モデルでは省略されていた」といった齟齬を減らしやすくなります。
引継ぎ時点の確定情報と未確定情報についても、あらためて区分しておくと、施工者がデータを確認する際に判断しやすくなります。BIMデータの品質を保つためにも、この段階で十分に確認しておくことが大切です。
3.4. 引継ぎ資料の共有
BIMモデルと図面だけを渡しても、施工者側が設計者の意図や背景を十分に把握できない場合があります。そのため、モデルだけでは伝えにくい内容を補う「引継ぎ資料」もあわせて用意します。
引継ぎ資料には、たとえば以下の内容を整理します。
- 属性情報の入力ルール
- モデリングルール
- 命名規則
- 確定情報の範囲
- 連絡先や更新依頼の流れ
たとえば、どの要素が暫定的な数値で、どの要素が最終仕様なのかを明確に記載しておけば、施工者が誤解なく作業を進めやすくなります。BIMモデルだけでは見落としやすい橋梁部や外構部分などの細かな箇所についても、資料で補足することで情報の抜けを抑えられます。
3.5. 受領側との内容確認
最後に、施工者側で実際にBIMデータを開き、想定どおりに利用できるか、見落としや情報の欠落がないかを確認します。この段階で不具合や互換性の問題が見つかった場合は、必要な修正を行ったうえで再度受け渡します。
受領確認のための会議では、BIMデータの利用目的に対して必要な情報が揃っているか、ファイル形式やバージョンに問題がないかを確認します。たとえば、リンクファイルや属性情報など、受け渡し時に不足しやすい情報についても確認することが大切です。
施工者から説明を求められた場合は、設計者がモデルの作成意図や未確定情報の理由を伝えます。このように、関係者同士で内容を確認する機会を設けることで、その後のトラブルやBIMプロジェクトのルール変更に伴う混乱を防ぎやすくなります。
4. EIR・BEPを活用して引継ぎルールを共有する
BIMデータの引継ぎルールを明確にする方法の一つに、EIR(Employer's Information Requirements)やBEP(BIM Execution Plan)の活用があります。国土交通省の「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第3版)」でも、EIR・BEPなど、BIMの情報を関係者間で管理・共有するための事項が整理されています。(参照*1)ここでは、それぞれの概要とポイントを解説します。
| 項目 | EIR | BEP |
| 位置づけ | 発注者がBIMに求める要求事項を整理する | EIRを踏まえてBIMの活用方法を具体化する |
| 主な内容 | 利用目的、成果物、必要な情報など | BIMの活用内容、使用ソフト、データの受渡し方法など |
| 引継ぎでの役割 | 必要な情報や成果物を明確にする | 具体的な運用方法を関係者で共有する |
4.1. EIRでの要求事項の整理
EIRは、発注者がBIM適用事業で求める情報や、成果物作成に関する要件をまとめた文書です。建築プロジェクトの初期段階でEIRを作成しておくことで、設計から施工へと段階が進む際にも、BIMデータの利用目的や品質基準を関係者間で共有しやすくなります。
EIRでは、BIMの利用目的や必要な情報、成果品など、発注者がBIM活用で求める内容を整理します。UR都市機構では、「建築設計業務におけるBIM活用実施要領」とあわせて、「EIR(BIM業務仕様書)(例)」や「BEP(BIM実行計画書)(雛形)」を公開しています。(参照*3)こうした資料は、EIRで整理する内容を検討する際の具体例として参考になります。
EIRの段階で必要な要求事項をできるだけ明確にしておけば、引継ぎ時にも「どのファイル形式で納品するか」「どの情報を成果物として必須とするか」を整理しやすくなります。
4.2. BEPでのBIM運用方法の決定
EIRを踏まえ、実際の業務でBIMをどのように活用するかを具体化したものがBEP(BIM Execution Plan)です。BEPでは、BIMの活用内容や実施方法、使用するソフトウェア、データの受渡し方法などを整理し、関係者間で共有します。
たとえば、使用するBIMソフトウェアやバージョン、BIMデータの提示方法、BIM活用の内容などをBEPに整理しておけば、関係者が共通の方針に沿ってBIMを活用しやすくなります。国土交通省の官庁営繕事業では、原則としてすべての新営設計業務・新営工事にEIRを適用してBIM活用を進めており、BEPについてもEIRに基づいて必要事項を整理する運用が示されています。(参照*4)
BEPはプロジェクトや業務段階に応じて作成・更新されるため、BIMデータの引継ぎに関する取り決めについても、必要に応じてBEPなどの文書に反映し、関係者間で共有しておくことが重要です。
5. BIMデータを引き継ぐときの注意点
最後に、BIMデータの引継ぎで見落としやすいポイントや、トラブルにつながりやすい点を整理します。後工程での混乱を防ぐためにも、あらかじめ注意点を確認しておきましょう。
5.1. BIMモデルだけでは伝わらない情報も共有する
BIMモデルだけでは、設計者の意図やモデル内の情報の確定範囲、モデリングルールなどを十分に把握できない場合があります。そのため、設計から施工へBIMデータを引き継ぐ際には、必要に応じてモデルの内容を補足する資料や情報も共有することが重要です。
設計BIMワークフローガイドラインでは、設計から施工へBIMデータを円滑に引き継ぐために、図面とBIMモデルの整合性、設計内容として確定している範囲、BIMのモデリング・入力ルールなどを整理し、施工者へ伝える考え方が示されています。(参照*2)
そのため、BIMモデルを受け渡す際には、確定している情報の範囲やモデリングルールなど、モデルだけでは判断しにくい情報もあわせて共有することで、受領側の誤解や手戻りを防ぎやすくなります。
5.2. プロジェクト途中のルール変更の共有
BIMプロジェクトでは、その途中で仕様が変わったり、設計者と施工者の合意事項が変更されたりする場合があります。こうしたルール変更を一部のメンバーだけが把握している状態では、旧ルールに基づくデータが使われ続け、後から大きな混乱につながる可能性があります。
そのため、EIRやBEPに定めた内容を変更する場合は、関係者へ速やかに共有し、必要に応じて関連する文書やBIMモデルにも反映できる仕組みを整えておくことが大切です。 変更履歴を追跡できる形で記録し、誰がいつ決定し、どの部分を変更したのかを明確にしておけば、情報を正確に更新しやすくなります。
こうした対応により、BIMデータの情報共有や責任範囲を保ちやすくなり、プロジェクト完了後の保守や改修工事でも活用できる履歴を残せます。
6. まとめ
BIMデータを設計から施工へ確実に引き継ぐためには、まず利用目的を明確にし、確定情報・未確定情報の区分や、モデリング・属性情報の入力ルールを整理しておくことが重要です。また、単にファイルを渡すだけでなく、関連資料や会議などを通じて内容を共有し、受領側が適切に活用できる状態を整える必要があります。
こうした引継ぎのポイントを押さえておくことで、設計段階で検討された意図が施工側にも伝わりやすくなり、認識のずれや手戻りの低減につながります。さらに、整理したルールや手順は、維持管理や将来の改修作業でも活用でき、建築プロジェクト全体の品質確保や業務の効率化にも役立ちます。
これからBIMデータの受け渡しに携わる場合は、できるだけ早い段階から引継ぎルールや手順を整理し、関係者間で共有できる状態を整えておきましょう。
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<参考文献>
(*1)建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第3版)|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/002012930.pdf
(*2)設計BIMワークフローガイドライン建築設計三会 (第1版)|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001429639.pdf
(*3)「建築設計業務における BIM活用実施要領」の公開|UR都市機構
https://www.ur-net.go.jp/rd_portal/UR-BIM/bim-yoryo.html
(*4)官庁営繕:官庁営繕事業におけるBIM活用 |国土交通省
https://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk6_000094.html
