OpenBIMとIFC 4.3を正しく読み解く|誤解されやすいポイントを解説
1. はじめに
近年、建築・土木分野ではBIM/CIMの活用が進み、異なるソフトウェア間でデータをやり取りするための共通ルールとして、IFC(Industry Foundation Classes)への関心が高まっています。特に、OpenBIMという考え方の広がりとともに、IFCをどのように理解し、実務に組み込むかが重要なテーマになりつつあります。
一方で、「OpenBIM」や「IFC 4.3」といった用語が先行し、その意味や位置づけが十分に整理されないまま使われている場面も少なくありません。たとえば、IFC 4.3をBIMソフトの新しいバージョンのように捉えてしまう誤解が代表例です。実際のIFC 4.3は、buildingSMARTを中心に整備され、ISO 16739-1:2024 として国際標準に位置づけられたデータ仕様(共通ルール)であり、ソフトウェアの更新とは異なるレイヤーにあります。
本記事では、OpenBIMとIFC 4.3の関係を基本から整理し、誤解されやすいポイントを明確にしながら、実務でどのように捉え、どう向き合うべきかを解説します。あわせて、道路・橋梁・鉄道などインフラ分野への広がりも踏まえ、現実的な活用の考え方を読み解いていきます。
2. OpenBIMとIFC 4.3の基本理解

引用:https://www.youtube.com/watch?v=_yQM3OMUPp8
本記事を読み進めるうえで、まず押さえておきたいのが、OpenBIMの考え方とIFC仕様の基本的な位置づけです。BIMという言葉は広く知られるようになりましたが、その中身や前提となるルールまで正しく理解されているとは限りません。特に、OpenBIMとIFCを切り分けて捉えることが、後半の内容を理解するための重要な土台になります。
IFCには複数のバージョンが存在しますが、IFC 4.3ではインフラ設計に関わる要素が拡張され、道路・鉄道・橋梁といった土木分野の構造物を扱うための枠組みが新たに整理されました。ここではまず、OpenBIMとは何か、そしてIFC 4.3がどのような位置づけの仕様なのかを順を追って整理していきます。
2.1. OpenBIMとは何か?
OpenBIMとは、buildingSMARTが提唱している考え方で、「特定のBIMソフトウェアやベンダーに依存せずに、データをやり取りできる環境を実現しよう」という思想を指します。特定のツールを否定するものではなく、異なるツール同士でも情報を共有できる状態を目指す点が特徴です。
実際のプロジェクトでは、設計者・施工者・発注者など、立場の異なる関係者がそれぞれ別のBIMやCADソフトを使うケースが少なくありません。しかし、ソフトごとに独自形式だけでデータを扱っていると、情報の受け渡しが難しくなり、手戻りや変換ミスが発生しやすくなります。
そこで重要になるのが、どのツールでも共通して理解できる「共通言語」としてのデータ形式です。OpenBIMは、共通のデータスキーマや標準に基づいて情報を扱うことで、ソフトウェアの違いを越えた情報共有を可能にしようとする考え方だといえます。
このような環境が整うことで、設計・施工・維持管理といった工程をまたいだ情報連携がしやすくなり、プロジェクト全体でデータを活用するための基盤が整っていきます。
2.2. IFC 4.3の概要と重要性
IFC(Industry Foundation Classes)は、異なるBIM/CIMソフトウェア間で、建物や構造物の形状情報・属性情報を意味を保ったまま交換するためのデータモデル(共通ルール)です。OpenBIMを実現するための中核となる技術要素であり、特定のツールに依存しない情報共有を前提としています。
IFC 4.3は、従来のIFC 2×3やIFC4を踏まえつつ、対象とする領域を拡張した仕様です。特に、道路・鉄道・橋梁といったインフラ分野を意識したデータ構造が整理され、建築分野に限らず、土木構造物も含めた情報をIFCスキーマ上で扱うことが想定されています。
ここで重要なのは、IFC 4.3が「新しい機能を追加した」というよりも、どの分野の情報を共通ルールとして整理するかを明確にした仕様である点です。建築とインフラを横断したBIM/CIMのデータ活用を考えるうえで、IFC 4.3は前提として理解しておくべき仕様の一つといえるでしょう。
2.3. OpenBIMとIFC 4.3で誤解されやすいポイント
OpenBIMやIFC 4.3は注目度が高まる一方で、用語や位置づけが混同されたまま理解されているケースも少なくありません。特に、仕様・考え方・ソフトウェア対応といった異なるレイヤーの話題が一緒に語られることが、誤解の原因になりがちです。ここでは、実務でよく見られる誤解と、実際の位置づけを整理します。
表:よくある誤解と実際の位置づけ(OpenBIM/IFC 4.3)
| よくある誤解・イメージ | 実際の位置づけ・正しい理解 |
| 【誤解されがち】IFC 4.3は新しいBIMソフトのバージョン | 【正しい理解】IFC 4.3はBIMソフトではなく、異なるソフト間でデータをやり取りするための仕様(データスキーマ) |
| 【誤解されがち】IFC 4.3=OpenBIMそのもの | 【正しい理解】OpenBIMは考え方・方針であり、IFCはOpenBIMを実現するための技術要素の一つ |
| 【誤解されがち】ISO化された=今すぐ導入必須 | 【正しい理解】ISO化は国際標準として承認されたことを示すもので、導入時期や運用方法はプロジェクトごとに判断される |
| 【誤解されがち】IFC 4.3対応ソフトなら全要素を扱える | 【正しい理解】対応範囲はソフトウェアごとに異なり、一部要素のみ対応している場合もある |
| 【誤解されがち】IFC 4.3を使えばBIM/CIMの課題は解決する | 【正しい理解】実際には運用ルール整備や関係者間の合意形成が不可欠 |
このように整理すると、IFC 4.3は「新しいBIMの仕組み」そのものではなく、OpenBIMという考え方を技術的に支える仕様の一つであることが分かります。また、ISO標準化、ソフトウェア対応、現場での運用はそれぞれ異なるレイヤーの話として切り分けて捉える必要があります。
こうした前提を踏まえたうえで、次章では、IFC 4.3が従来のIFCからどのような点で拡張され、特にインフラ分野でどのような変化が生まれているのかを具体的に見ていきます。
3. IFC 4.3の進化とその影響

引用:https://www.autodesk.com/jp/solutions11/bim/bim-interoperability-standards
ここからは、IFC 4.3が従来のIFCからどのような点で進化し、その結果として業界にどのような影響が考えられるのかを整理していきます。新しい仕様という言葉だけを見ると大きな変化を想像しがちですが、実務で重要なのは「何が変わり、何が変わっていないのか」を切り分けて理解することです。
誤解されやすいイメージと、実際に追加・整理されたポイントを区別して捉えることで、IFC 4.3を導入・検討する際の判断をより現実的なものにすることができます。
3.1. IFC 4.3の新機能と拡張
IFC 4.3で特に注目されているのは、インフラ分野を対象とした要素が新たに整理・追加されている点です。これまで主に建築分野で使われてきたIFCに対し、道路設計や鉄道設計などで用いられる構造物を扱うためのデータ構造や枠組みが、IFCスキーマ上で定義されました。
また、橋梁設計をはじめとする土木分野の構造物についても考慮されており、従来のIFC 2×3やIFC4では表現しきれなかった情報を、より整理された形で扱えるようになっています。これにより、建築分野と土木分野の情報を同一のIFCスキーマ上で整理・共有できる可能性が広がり、分野をまたいだデータ交換の進め方を見直すきっかけになると考えられます。
さらに、buildingSMARTが公開しているIFC 4.3のドキュメント(https://ifc43-docs.standards.buildingsmart.org/ など)は、ISOとして公開されたスキーマと同一の内容をベースにしつつ、具体的な例示や明確化、補足説明を加えた形で整理されています。そのため、実務ではこれらの資料を参照しながら、仕様を確認し、段階的に試行・検証を進めるケースも多く見られます。見方を変えれば、最新の仕様を理解するための情報が比較的そろっている時期だともいえるでしょう。
3.2. インフラへの対応とその意義
IFC 4.3の大きな特徴の一つは、インフラ設計分野への対応が明確に打ち出された点にあります。これまでIFCは、利用の中心が建築分野に置かれてきましたが、土木構造物が仕様上の対象として整理されたことで、CIM(Construction Information Modeling)の文脈でもIFCをどう位置づけるかが、より具体的に議論しやすくなっています。
実務の視点で見ると、道路や橋梁、トンネルといったインフラ構造物を、分野ごとに異なるフォーマットで管理する必要が減り、IFCを共通の土台としてモデルを整理できる可能性が広がります。これにより、設計情報の受け渡し方法や、関係者間での情報共有の進め方を見直すきっかけにもなります。
また、将来的なインフラ整備の進展や、BIM/CIMの運用がさらに広がっていくことを考えると、IFC 4.3の動向を継続的に把握しておくことの重要性は高まっています。早い段階から仕様の考え方や適用範囲を理解しておくことが、結果としてプロジェクトの選択肢や競争力を維持することにつながるでしょう。
4. ISO標準化されたIFC 4.3の理解
IFC 4.3は ISO 16739-1:2024 として正式に承認され、国際標準の一部として位置づけられました。これにより、IFCは特定の団体や地域に限定された仕様ではなく、国際的に共通のルールとして扱われやすくなっています。一方で、「ISO標準になった=今すぐ実務で必ず使わなければならない」と受け取られてしまうケースもあり、この点は注意が必要です。
実際には、ISO標準化はあくまで仕様としての位置づけが明確になったことを意味するもので、現場の運用を一律に縛るものではありません。たとえば、国土交通省が公開しているCIM関連資料においても、IFCの活用は想定されているものの、特定のIFCバージョン(IFC 4.3)を必須条件として一律に前提としているわけではありません。実務では、プロジェクトの目的や関係者の対応状況に応じて、使用するIFCバージョンを選択する運用が一般的です。
4.1. ISO標準化の意味とその影響
ISO標準化とは、ある仕様やルールが国際的に通用する基準として認められたことを意味します。IFC 4.3がISO化されたことで、OpenBIMを実現するための標準形式として、各国や業界で検討・採用されやすい前提条件が整理されたといえます。これは、発注者や業界団体が共通ルールを参照しやすくなる点でも大きな意味を持ちます。
また、ソフトウェア開発会社にとっても、どの仕様を基準に機能開発を進めるかを判断しやすくなるという効果があります。ただし、ISO標準として認定されたからといって、その瞬間にすべての現場が一斉に切り替わるわけではありません。
ISO標準化はあくまで「今後の方向性」を示すものであり、実際にどの範囲までIFC 4.3を使えるかは、現場の準備状況や、利用するツールの実装レベルによって大きく異なります。そのため、「ISO標準だから即実務必須」と捉えるよりも、「今後、IFC 4.3を軸にした運用が広がっていく可能性が高い」と理解するほうが現実的です。
4.2. ISO化と業界への影響
IFC 4.3のISO化は、建築業界やインフラ分野におけるデータ共有ルールを、より明確な形で整理する流れを後押ししています。共通の基準が示されることで、BIMプロジェクト管理においても、どの仕様を前提にプロセスを設計するかを検討しやすくなります。
同時に、BIMソフトウェアやCIMツールを提供するベンダー側でも、ISO化されたIFC 4.3への対応を視野に入れた開発が進みつつあります。すでにオートデスクのCivil 3DやRevitをはじめ、複数のBIMソフトウェアで、拡張機能や実験的な形でIFC 4.3への対応が進められています。
今後、建築標準や技術標準を国際的にそろえていく流れの中で、IFC 4.3は「使える選択肢」の一つとして、徐々に主流の位置づけへ近づいていくと考えられます。ただし、導入のタイミングや使い方はプロジェクトごとに異なるため、ISO化の意味を正しく理解したうえで、現実的な運用を検討することが重要です。
5. IFC 4.3の実務への適用

IFC 4.3を実際のプロジェクトで活用するためには、仕様そのものを理解するだけでなく、使用するBIM/CADソフトウェアの対応状況や、現場ごとの運用方針、チームメンバーの理解度など、複数の要素をあわせて考える必要があります。仕様として可能であることと、実務で無理なく使えることの間には差があるためです。
ここでは、IFC 4.3を検討する際に特に重要となる「ソフトウェアの対応状況の読み取り方」と、「現場で適用する際に意識しておきたいポイント」に分けて整理します。
5.1. BIM/CADソフトのIFC 4.3対応をどう読むか
「IFC 4.3対応」と表示されているBIM/CADソフトであっても、その対応内容は一律ではありません。たとえば、IFC 4.3形式のファイルを読み込むことはできても、書き出しには対応していないケースや、特定の要素のみが対象となっている場合もあります。
そのため、ソフトウェアを選定したり機能を確認したりする際には、「どこまでの要素が対象になっているのか」「読み込みと書き出しの両方に対応しているか」「データの整合性がどの程度保たれるか」といった点を、具体的に確認することが重要です。特にインフラ分野の機能については、現在も拡張が進んでいる段階のツールが多く、仕様上は対応していても実務で十分に使えるかどうかは別問題になることがあります。
そのため、現場に本格導入する前に、小規模なモデルで試してみる、実証実験を行うといった段階的な確認が有効です。また、BIMプロジェクト管理におけるデータ交換の混乱を防ぐためにも、プロジェクト開始前に使用するIFCのバージョンを関係者間で共有し、統一しておくことが重要になります。
5.2. 現場でのIFC 4.3適用の現実
すでにIFC 2×3やIFC4を用いた運用を行っている現場であれば、基本的なBIMデータの流れはある程度整っているかもしれません。しかし、IFC 4.3を全面的に導入する場合には、ソフトウェアの更新だけでなく、社内のBIM教育や運用ルールの見直し、関連ツールとの連携確認など、準備すべき事項が増える点に注意が必要です。
また、実務の現場では、すべての施主や協力会社がIFC 4.3に対応しているとは限りません。そのため、プロジェクトごとに使用するIFCのバージョンを調整したり、IFC 4.3で作成したデータを別バージョンに変換したりする運用が必要になるケースもあります。
このような状況を踏まえると、IFC 4.3を使う場合であっても、他バージョンとの変換を前提としたワークフローをあらかじめ用意し、スムーズなデータ交換を意識することが現実的です。現時点では、IFC 4.3の実装状況や対応範囲にはソフトウェアごとの差があるため、プロジェクトや組織の状況に応じて、試験的な取り組みを重ねながら段階的に適用範囲を広げていく方法が、無理のない進め方といえるでしょう。
6. 結論:OpenBIMとIFC 4.3をどう理解し、扱うべきか
本記事では、OpenBIMとIFC 4.3の関係を整理し、その位置づけや実務での向き合い方を解説してきました。OpenBIMは特定のツールに依存しないための考え方であり、IFCはそれを技術的に支える共通のデータスキーマです。IFC 4.3はその延長にある最新仕様で、建築分野に加え、インフラ分野までを視野に入れた拡張が行われています。
ただし、IFC 4.3がISO標準として承認されたからといって、すべての現場が直ちに全面移行する必要があるわけではありません。実際の導入可否や活用方法は、使用するソフトウェアの対応状況やプロジェクト体制、関係者間の合意形成によって大きく左右されます。
重要なのは、IFC 4.3を「新しい流行の仕様」として捉えるのではなく、将来を見据えた選択肢の一つとして冷静に理解することです。仕様(ルール)、規格(位置づけ)、実装(ソフトウェア対応)を切り分けて考え、段階的な検証を重ねながら活用していくことで、OpenBIMを前提としたデータ活用をより現実的に進めることができるでしょう。
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<参考文献>
IFC 4.3.2 Documentation
https://ifc43-docs.standards.buildingsmart.org/
IFC 4.3 Formally Approved and Published as an ISO Standard – buildingSMART International
https://www.buildingsmart.org/ifc-4-3-formally-approved-and-published-as-an-iso-standard/
IFC Schema Specifications – buildingSMART Technical
https://technical.buildingsmart.org/standards/ifc/ifc-schema-specifications/
土木IFC対応ソフトウェア確認要件(案)
https://www.mlit.go.jp/common/001289040.pdf
IFC 4.3 software implementations – buildingSMART Technical
https://technical.buildingsmart.org/ifc-4-3-software-implementations/
IFC 4.3 Import/Export Extension for Civil 3D をダウンロードする場所
IFC 4.3 Support | Autodesk IFC Manual
https://autodesk.ifc-manual.com/revit/advanced-topics-and-best-practices/ifc-4.3-support







