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構造解析ソフトウェア Nastranとは?初心者のための基礎解説

1.はじめに:Nastranとは?

<画像引用>

・Hexagon「MSC Nastran 振動解析・構造解析ソフトウェア | 公式MSC Software」

https://hexagon.com/ja/products/product-groups/computer-aided-engineering-software/msc-nastran

Nastran(ナストラン)は、航空宇宙や自動車業界など幅広い分野で利用されている構造解析ソフトウェアです。これは有限要素法(FEM)という数学的手法を用いて、振動解析や強度解析などのさまざまなシミュレーションを可能にします。たとえば飛行機や車の部品がどの程度の荷重に耐えられるのか、どのような周波数で振動しやすいのかを事前に調べることで、実際の試作品を作る前から必要な改良点を見つけることができます。

CAE(Computer Aided Engineering)の一部門として、Nastranは設計段階でのリスク軽減や開発コスト削減に非常に貢献します。初心者向けにも使いやすいインターフェースを備えたツール群(例:MSC Software社のPatranやHexagonが提供するMSC Apexなど)と連携することで、機械設計に不慣れな方でもシミュレーションを進めやすくなっています。

実際のところ、NastranにはMSC NastranやNX Nastranといった派生製品があり、提供元も複数存在します。主要なベンダーとしてMSC SoftwareやSiemensなどが挙げられ、どちらも航空宇宙だけでなく建築分野や機械設計の現場で活躍する解析事例を豊富に公開しています。そういった事例を通じて学習しやすいという点も、解析ソフトウェアの導入を検討するうえで大きな魅力といえるでしょう。

Nastranを使うと、線形静解析から座屈解析、非線形解析、熱解析など多彩な機能が扱えます。こうした構造解析のフローを身につけると、機体の軽量化や振動低減、さらには製品開発の期間短縮といった具体的な成果につながります。

2.Nastranの歴史と発展

Nastranは、もともとNASA(アメリカ航空宇宙局)で開発されたことから、その名称に由来があります。実際には航空宇宙分野の複雑な構造を解析するために生まれた経緯がありますが、その後、多くの企業が商用化を推進し、機能を大幅に拡張してきました。

解析ソフトウェアとしてのNastranは、最初はロケットや人工衛星の機体強度を評価するためにつくられました。しかし、適用範囲が広がるにつれ、現在では自動車や船舶、建築分野などさまざまな業種で、構造解析や製品開発の設計支援ツールとして使われています。航空機メーカーだけでなく、エンジニアリング全般のコミュニティにも根付いており、世界のCAE業界、特にFEMを駆使するシミュレーション分野のスタンダード的存在になっています。

実際の製品開発では、初期段階で仮想試作を行い、そこでの解析結果を事前評価して製品設計を最適化します。試作回数を減らし、リスクを低減する役割を果たす点が、Nastranの長年の強みとして評価されています。商用化が進んで以降は、新しい解析モジュールの追加や高速計算(ハイパフォーマンスコンピューティング)の技術導入により、大規模モデルの解析も現実的になってきました。

2.1.NASAからの出発点

Nastranのはじまりは1960年代、NASAがロケット開発や宇宙船構造を解析する必要から生まれたものです。当時はコンピューターの性能も限られていましたが、それでも複雑な機体挙動を数値で見極めるために開発が進められました。

有限要素法(FEM)の理論を活用し、構造物を多数の小さな有限要素に分割して、その部分ごとの応力・変形を計算するアプローチです。これにより非常に精密なシミュレーションが可能となり、打ち上げ前に振動解析や強度解析を行い、設計段階から問題点を洗い出せるようになりました。

また、当時はロケットの1回あたりの打ち上げコストがとても高く、失敗は許されない状況でした。NASAのプロジェクトではこの限界状況をクリアするため、実機試験に匹敵するぐらいの計算精度が求められ、その経験がNastranのソルバー開発に活かされています。

2.2.商用化とその進化

NASAによって開発されたNastranは、1970年代初頭から商用ライセンスとして世の中に提供されるようになりました。それを手掛けたのが、現在のMSC Software(Hexagonグループの一部)などの企業です。当時、世界初の商用FINITE要素プログラムとして登場したことで、多くのエンジニアリング企業が導入を検討し、他のCAEソフトウェアとは比べ物にならないほどの実績を積んでいきました。

また、その後はSiemensをはじめとする企業がNX Nastranを提供するなど、多彩なバージョンが登場しました。それぞれがユーザー要望を取り入れ、座屈解析や複雑な非線形解析など、多岐にわたる機能強化が行われています。さらに時代とともに並列計算(マルチコアやGPU)への対応が進み、大型モデルでも短時間で結果が得られるように進化を遂げています。

このように誕生から数十年を経て、Nastranは多くの業界標準ツールとして採用され続けています。その背景には、メーカー同士で解析モデルの互換性を保ちやすいことや、実績を基にした信頼性があることが大きく関係しているのです。

3.Nastranの主要機能と解析能力

Nastranが担う主な役割は、構造物が受ける外力や加速度などをコンピューター上で再現し、それに伴う応力や変形を評価することにあります。しかし、その総合力は単なる強度解析だけにとどまりません。有限要素法を応用して振動解析や座屈解析、熱解析などをカバーし、設計者が疑問に思うほとんどの「もしも」に応えることが可能です。

一般的には線形静解析から始まり、そこから固有値解析や非線形解析にステップアップする流れが多いのですが、Nastranを使いこなすと、深いレベルで各設計パラメータを検討しやすくなります。たとえば振動の原因を特定したり、部材の厚みを調整して軽量化と強度を両立させたり、複合材の特性を考慮した製品開発も可能になります。

ここでは基本機能から応用機能まで、順を追って見ていきます。初心者向け学習を進める場合は、一度に全機能を把握する必要はありません。段階的に学ぶことで、CAEの世界にスムーズに入っていけるはずです。

3.1.基本的な解析機能

まずは線形静解析(線形静的な強度解析)です。これは荷重を受けても変形が小さいと仮定した場合の応力や変形を求める手法で、Nastranを初めて使うときによく扱われます。

続いて固有値解析です。これは振動しやすい周波数(固有振動数)を求める手法で、航空宇宙分野では機体の振動モードを把握するために欠かせません。製品がある特定の周波数で大きく揺れてしまう共振現象を避けるため、あらかじめ数値計算で確認するのが目的です。

また、座屈解析にも対応しています。これは建物や飛行機の翼など、薄い板や細長い部材が圧縮荷重を受けたときに、突然パタンと変形してしまう現象を事前に見つける解析です。この解析機能によって、不意な座屈が起きないかどうかを確かめることができます。

3.2.応用解析機能

Nastranは単純な線形だけでなく、動的な振動解析にも強みがあります。ハイパフォーマンスコンピューティングを活用することで、自動車業界などで頻繁に行われる周波数応答解析やランダム振動解析のシミュレーション時間を短縮できます。

さらに複合材や非均質材料を使う部品の最適構造設計にも対応できます。FEMモデルを組み立てる際、繊維方向や層などを詳しく指定することで、たとえば飛行機の軽量化を追求したり、自動車の衝突安全性とのバランスを検討したりといったことが可能になります。こうした応用領域の幅広さは、CAE活用が進む現場で高く評価されています。

一部の業務では、耐疲労性の検討も必要です。Nastranは疲労解析ソフトと連携し、繰り返し荷重が加わるような状況下でもどの程度の使用寿命が見込まれるのかを予測する手助けになります。このように、応用解析機能も充実している点がNastranの大きな特徴です。

3.3.非線形と熱解析の紹介

非線形解析は、大きな変形やゴムなど材料特性が変化しやすいケースに利用されます。線形解析では対応できない複雑な挙動をシミュレートできるため、設計者にとっては不可欠な手段となります。実際、航空宇宙の現場でも翼の大きなたわみや複合材の応力分布をより正確に見るために、この機能が多用されています。

一方、熱解析も重要です。特に航空宇宙では、大気圏突入時やエンジン付近の温度が非常に高くなるため、その影響を評価する必要があります。Nastranを使った連成解析により、温度変動が材料に与える応力や変形を予測し、設計に反映させることが可能です。

このように、非線形解析と熱解析を含め、さまざまな観点から構造を評価できるのがNastranの強力な魅力です。初心者向けにも解説される教材が増えてきているので、個人学習しやすい環境が整いつつあります。

4.Nastranが支える業界

NastranはNASA発祥のため、航空宇宙業界のイメージが強いですが、現在では自動車業界や機械設計、そして建築分野を含む多彩な産業で採用されています。これらの分野では、試作から性能評価までの開発サイクルを迅速化し、コストや重量を削減することが求められています。Nastranの高い計算精度と解析速度は、その目標を実現する強力なエンジニアリング手段となっています。

また、解析ソフトウェアとしての歴史が古く、教育資料やオンライン教材が充実している点も特筆すべきです。初心者向けから高度な内容まで段階的に学ぶことができるため、新人エンジニアの育成や専門知識の継承にも役立っています。ここでは主要な産業での具体的な活用例を探ってみましょう。

どの業界においても、まずは線形静解析や固有値解析を行い、構造物の基礎的な性能をチェックします。そのうえで忌避すべき振動領域を回避したり、部品の軽量化に取り組んだりする流れが定番です。非線形解析を含めた複雑な検証は、最適化や高度なシミュレーション技術を持つ機関を中心に行われます。

4.1.航空宇宙業界での利用

航空機やロケットなど、軽量化と強度確保が同時に求められる世界では、NastranのFEMによる構造解析が大きく寄与します。翼や機体フレームの振動解析を行って、飛行中の騒音や共振を低減する設計を可能にします。また、着陸時の着力や乱気流を受けた際の応力分布を解析することも重要で、えぐいほど高額になる試作費を削減できるメリットがあります。

さらに、NASAが当初目指していた宇宙開発では、ロケットのように極限状態にさらされる機体構造を評価する際、Nastranの線形静解析と非線形解析を併用し、臨界箇所を特定して安全性を向上させています。業界全体としても実績が豊富なため、新しい設計手法や材料が出てきてもNastranで試せば、ある程度の指標が得られるという安心感があります。

したがって航空宇宙関連のエンジニアは、Nastranを使った構造解析や振動低減設計を学ぶことで、より早く確実に開発目標を達成できるといえるのです。

4.2.自動車産業での応用

自動車の開発でも、Nastranは基本的な解析ソフトウェアのひとつとして広く認知されています。車のシャーシやエンジン部品など、路面からの振動や衝撃に耐えうる剛性設計を検討する際に非常に効果的です。

特に近年はEV(電気自動車)の普及により、車体の軽量化が一層求められています。軽量化した分、ボディ剛性が下がれば振動や騒音が増える可能性があるため、そのバランスをCAEで調べるのが肝要になります。Nastranで振動モードや応答をシミュレートし、シミュレーション結果に基づいて剛性を確保しつつ質量を最適化するアプローチが一般的です。

また、衝突解析自体は専用のソフトが用いられることが多いですが、Nastranの非線形解析機能とあわせて安全評価全体を補完する使い方も広がっています。

4.3.その他の産業での活用例

機械設計や建築分野などでもNastranの活躍は大きいです。たとえば大型クレーンや生産工場の設備、さらには摩天楼のような超高層ビルの振動解析に用いられ、強風や地震時の応答を評価して設計に反映します。

また、個別の研究機関では新素材の実験にもNastranが応用されています。高い温度下でどれほど構造が歪むのか、あるいは材料特性に非線形性が発現する場合にどんな解析パラメータを設定すべきかなど、さまざまな観点から製品開発の効率化につながっています。

さらに、建築の耐震解析でもシミュレーションによる事前検証が主流になりつつあります。Nastranを組み合わせることで、梁や柱などの部材強度から基礎の安定性まで判断材料を増やし、設計者が納得のいくかたちで建物を設計・改良できるのです。

5.Nastranを始めるためのステップ

Nastranが支える業界は広く、初心者向けの教材やセミナーも数多く存在します。特に初心者の方にとっては、まず構造解析の基本概念を理解し、その上でNastranの操作方法を学ぶのが最適です。いきなり高度な振動解析や非線形解析に進むとハードルが高く感じられるため、基礎を固める段階を意識することが大切でしょう。

また、CAEの世界では、ソフトウェアのインターフェースを使ったメッシュ作成や境界条件の設定などの手順を身につけることも重要です。そのうえで、実例をもとに段階的に難易度を上げながら実践的なモデルを組んでいくと、スキルをより確実に身につけられます。

ここでは学習リソースと実践的な解析スキル向上の方法に分けてご紹介します。航空宇宙など特定分野に特化したい方は、セクターごとに充実している解析事例や専門書に目を通すのもおすすめです。

5.1.初心者向けの学習リソース

まずはCAEの基礎を押さえられる入門書やオンライン教材からスタートするとよいでしょう。「MSC Nastran解析入門」などの書籍は、初心者向けに有限要素法や線形静解析といった基礎を解説してくれます。並行して、PatranやMSC ApexなどGUI操作ツールの使い方も学ぶと、ソルバーをいじるハードルが下がります。

教育資料としては、MSC SoftwareやHexagonの公式サイトに存在するチュートリアルやナレッジベース、さらにYouTube動画などがあります。これらの資料を活用すれば、独学でもある程度スムーズにNastranの操作を体得できます。実行ファイルを用いたコマンドベースの操作は中級者以上の方が挑戦すると、より深い理解が得られるでしょう。

<参考情報>・Hexagon「MSC Nastran サポートページ」

https://simcompanion.jp.hexagon.com/jpcustomers/s/article/MSC-Nastran-Support-Home-Page?language=ja

もし講座やセミナーが近くで開催されていれば、集中的にスキルを習得する場として活用するのもおすすめです。初心者歓迎のCAEセミナーも少なくないため、情報収集をこまめに行ってみてください。

5.2. 実践的な解析スキルの習得

学んだ知識を実務に活かすには、実際に解析事例を自分の手で体験することが不可欠です。たとえば、最初は単純な部材を用いた線形静解析を実行し、結果が理論値と近いかを確認する方法が良い練習になります。そこから徐々に振動解析や固有値解析に進んで、振動モードを可視化したり、部材の座屈挙動を見たりすると良いでしょう。

ある程度慣れたら、熱解析や非線形解析に挑戦してみると、より幅広い案件に対応できるようになります。航空宇宙分野では振動解析や熱的環境を含む課題が多いので、これらは必須スキルといえます。学習した成果は、実際の設計支援ツールとして役立つだけでなく、キャリアアップや技術力向上にも直結します。

加えて、解析結果の妥当性チェックや検証実験との比較も重要です。実験や理論の結果との整合性をとることで、自分のモデル化手法を確立し、さらに複雑なモデルへ応用する基盤を築くことができます。

6. おわりに:設計力を高めるNastran

Nastranは初心者向けから高度な場面まで、幅広い解析機能を備えたコアソフトウェアとして進化してきました。もともとNASAが立ち上げた歴史があり、安全性や効率性が強く求められる現場で着実に地位を築いてきた背景があります。今では航空宇宙業界だけでなく、自動車業界や建築分野など、多彩な業種でCAEの定番ツールとなっています。

解析ソフトウェアを最大限に活用するには、有限要素法や材料力学の基礎知識と合わせて、実務に沿った練習が大切です。そこにNastranの高度な振動解析や非線形解析を組み合わせることで、より安全かつ効率的な製品を生み出せるようになります。設計支援ツールとしての役割にとどまらず、ものづくりにおける創造性やエンジニアリングの幅を広げてくれるのが、このソフトウェアの真の魅力といえます。

もし実際に導入を検討される場合は、HexagonやSiemensなどのサポート体制を利用して、相談しながらシミュレーションの質を高めるのがおすすめです。Nastranを用いることで、企業としても試作に費やす時間とコストを削減し、製品開発をよりスピードアップできるでしょう。特に航空宇宙分野のように安全性に厳しい分野では、早い段階で問題を発見・修正できる大きなアドバンテージにもなります。知識ゼロからでも少しずつ理解を積み上げていけば、Nastranは設計者にとって頼もしい相棒になっていくはずです。

以上のように、Nastranは線形静解析から振動解析、非線形解析、熱解析まで対応できる高機能な解析ソフトウェアです。初心者にとっても書籍やオンライン教材がそろっており、ステップを踏むことで着実に身につきます。ぜひNastranを活用しながら、将来的にはさらに高度なCAE技術を駆使して、革新的な製品開発や設計力の向上を目指してみてください。

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<参考文献>

・Hexagon「MSC Nastran 振動解析・構造解析ソフトウェア | 公式MSC Software」

https://hexagon.com/ja/products/product-groups/computer-aided-engineering-software/msc-nastran

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