SOLIDWORKSユーザー必見!クラウドPDM導入のリアルと3DEXPERIENCE活用の最前線
1. はじめに:クラウドPDMと3DEXPERIENCEの可能性
設計データをチーム全体で効率よく管理し、リモートでも安全に共有したい──そんなニーズが高まる中で、いま注目されているのが「クラウドPDM」と「3DEXPERIENCE」です。
従来のPDM(製品データ管理)は、社内のサーバーを用いたオンプレミス型が主流でした。しかしこの方式では、インフラの整備・保守が必要であり、拠点間連携やテレワーク対応に多くの制約がありました。
一方、SaaS(Software as a Service)型のクラウドPDMなら、社内ネットワークに縛られず、設計データをどこからでも管理・共有できます。導入のハードルも下がり、中小〜中規模企業でも導入しやすくなっています。
さらに近年では、ダッソー・システムズが提供する「3DEXPERIENCEプラットフォーム」が注目を集めています。これは単なるPDMにとどまらず、CADツールやプロジェクト管理機能などを統合した“クラウド上の開発基盤”であり、SOLIDWORKSとの連携にも優れています。
本記事では、クラウドPDMと3DEXPERIENCEの基本から実践活用法までを解説します。設計データの一元管理、権限設定、バージョン管理、テレワーク対応、さらにはDX推進まで──日々の業務課題をどう解決し、未来の設計環境をどう描いていくか、そのヒントをお届けします。
2. SOLIDWORKSとクラウドPDMの基本
引用:SOLIDWORKS PDMサイト:https://www.solidworks.com/ja/product/solidworks-pdm
SOLIDWORKSを日常的に使用している設計者にとって、クラウドPDMは設計データを一元管理し、業務全体の効率を高めるために欠かせない仕組みです。かつては、ローカル環境内でファイルを管理する運用が一般的でしたが、その方法では、バージョンの混在や誤操作によるファイル破損といった問題が頻発していました。こうしたトラブルは、設計ミスや再作業につながり、チーム全体の生産性を下げてしまいます。
クラウドPDMを活用すれば、設計データをオンライン上で一元的に管理でき、ワークフロー管理や通知機能、リアルタイムでのデータ共有といった機能を通じて、常に最新の情報を全員が共有できます。複数のメンバーが同時に作業していても、データの整合性が保たれるため、誤ったバージョンで作業するリスクを大幅に低減できます。
さらに、クラウドPDMはSaaS型のライセンス形態を採用していることが多く、利用規模に応じた柔軟な契約が可能です。これにより、小規模なプロジェクトやチーム単位からスモールスタートし、徐々に運用範囲を拡大していくアプローチがとりやすくなります。また、専用のITインフラを大きく構築する必要がなく、クラウドストレージの容量拡張やユーザー管理なども管理画面上で簡単に操作できるため、中規模製造業でも導入しやすい環境が整っています。
本章では、SOLIDWORKSとクラウドPDMそれぞれの基本的な特徴と、それらがどのように連携して設計業務を支えているのかを解説していきます。特に、3Dモデリングや2D図面、アセンブリ構造といった日常業務で扱う主要な設計データにフォーカスしながら、CADとPDMの連携における重要なポイントを整理していきます。
2.1 SOLIDWORKSの基本機能と利点
SOLIDWORKSは、3D CADソフトウェアの代表的存在として広く利用されており、その直感的なインターフェースと豊富な機能群によって、アイデアをすばやく具体化できる点が大きな特長です。中心となるのは、スケッチから形状を作成していくパラメトリックモデリングの機能で、寸法や関係性を数値でコントロールできるため、設計変更にも柔軟に対応できます。
また、アセンブリ機能を使えば複数部品間の関係性を定義しながら組み上げることができ、動作のシミュレーションも行えます。これにより、設計段階で干渉や動きの不具合を事前に把握でき、製造後の手戻りを防ぐことが可能になります。構想設計から量産設計、さらには図面出力に至るまでを一貫してサポートするため、SOLIDWORKSは多くの製造業の設計業務に深く根付いています。
こうした高機能なCADで作成されるデータを、どのように管理していくかは非常に重要です。データ管理が不十分なままでは、モデルの重複作成や、誤って古いファイルを参照するといった事態が起こりやすくなります。そうしたリスクを回避し、設計全体の整合性を確保するためにも、クラウドPDMや3DEXPERIENCEとの連携が大きな意味を持つようになってきています。
2.2 クラウドPDMの概要とその重要性
クラウドPDMとは、インターネット経由で部品や図面といった設計データを一元的に管理し、必要なときにどこからでもアクセスできるようにするシステムです。最大の特長は、社内に物理的なサーバーを置かずに運用できる点で、データの保管やバックアップ、バージョン管理などをクラウド上で完結できるという利便性があります。
このようなクラウド型の仕組みは、テレワークや拠点間連携を前提とした働き方が広がる中で、設計業務の新たな標準として注目されています。ユーザーやグループごとのアクセス権限を細かく設定できるため、情報漏洩リスクを最小限に抑えながら、柔軟なデータ共有とコラボレーションが可能になります。
特に重視されるのがバージョン管理の機能です。設計データは変更が頻繁に発生するため、誰が・いつ・どのような修正を加えたのかを記録し、過去の状態に遡れるようにすることは非常に重要です。クラウドPDMでは、こうした履歴管理をワークフローと連携させながら自動化でき、チーム全体で常に「今の最新版」を共有できる環境を構築できます。
このように、クラウドPDMは単なるデータ保存ツールではなく、設計品質や業務効率を大きく左右する基盤として、SOLIDWORKSユーザーの現場での価値を高めています。
3. クラウドPDMの導入ステップ
引用:SOLIDWORKS Japan Blog:https://blogs.solidworks.com/japan/solidworks-blog/3dexperience/20240821/
クラウドPDMを導入する際には、いきなりシステムを構築するのではなく、段階的かつ計画的にステップを踏むことが重要です。まず最初に行うべきは、自社の現状と課題を正確に把握し、導入の目的と予算の枠組みを明確にすることです。たとえば、「バージョン管理が煩雑で設計ミスが頻発している」「テレワークに対応したい」「BCP対策としてクラウド化したい」といったように、現場で直面している具体的なニーズを洗い出していきましょう。
次に必要となるのは、ITインフラの現状や既存の設計データ管理方法についての棚卸しです。これにより、現在どのような運用がされていて、どこに非効率があるのかを見極められます。そのうえで、クラウドPDMの導入候補を比較検討し、自社の業務フローに適した機能を持つシステムを選定します。比較が不十分なまま導入を進めてしまうと、後から運用上の問題が生じ、結果として追加コストが発生する恐れもあります。
また、導入時にはワークフローや運用ルールの定義も不可欠です。PDMシステムは単にデータを保管するだけでなく、設計の進行・承認・変更などの業務プロセスと深く関わるため、それらの流れを事前に整理しておくことで、導入後の混乱を防ぐことができます。とくに、リアルタイムデータの扱いや通知設定などは、運用に直結する重要なポイントとなるため、詳細な運用シナリオを描いたうえで導入を進める必要があります。
この章では、クラウドPDMの選定から環境構築、データ移行に至るまでの各ステップを順を追って解説していきます。導入前に押さえておくべきポイントを明確にし、無理のない導入計画を立てることで、設計部門全体の生産性を高め、SOLIDWORKSを中心とした製品開発の基盤強化につなげていきましょう。
3.1 クラウドPDM選定のポイント
クラウドPDMを選ぶ際には、単に機能の多さで比較するのではなく、自社の業務に適したバランスを持つシステムかどうかを見極める必要があります。とくに重視すべきなのが、リモートアクセスやモバイル対応、セキュリティ性能、拡張性、そしてSOLIDWORKSとの親和性です。
まず、近年の働き方に対応するためには、どこからでもアクセスできるかどうかが重要になります。現場でタブレットを活用して図面を確認するケースも増えており、Webブラウザやアプリ経由でスムーズに操作できるかは重要な評価ポイントです。また、クラウドである以上、セキュリティ要件も欠かせません。保存データの暗号化方式、アクセス制御、監査ログなど、情報漏洩を防ぐ仕組みが備わっているかを確認しましょう。
次に確認したいのが、将来的な拡張性です。たとえば、今は10人の設計チームでも、数年後には倍の規模になる可能性があります。その場合でもスムーズにユーザー追加や容量拡張ができることは、長期運用の安心材料になります。
さらに、SOLIDWORKSとの連携面も非常に重要です。設計データ(部品、アセンブリ、図面など)をクラウド上に違和感なくアップロード・管理できるか、ファイル名やプロパティ情報がそのまま引き継がれるかなど、操作性の点でも現場の作業を妨げない設計であることが求められます。
総じて、PDMの選定時には、単なる機能表では見えない「使いやすさ」「馴染みやすさ」も含めて評価し、自社のワークフローに自然に組み込めるクラウドPDMを見つけることが、導入成功の第一歩となります。
3.2 導入準備と環境構築
クラウドPDMの選定を終えた後は、いよいよ導入準備と環境構築のフェーズに進みます。最初に行うべきは、ユーザー管理とアクセス権限の設計です。たとえば、設計者には編集権限を与え、営業や製造部門には閲覧のみに制限するといった、業務に応じたきめ細かな設定が求められます。これにより、不要な操作によるミスや情報漏洩のリスクを抑えることができます。
次に、承認フローや設計変更の通知といったワークフローの構築も重要です。クラウドPDMでは、自動通知機能やステータス管理によって、プロセス全体の可視化が可能になります。あらかじめプロジェクトごとのルールを定めておくことで、設計の進行状況が関係者全員に共有され、承認やレビューのスピードが向上します。
また、導入にあたってはネットワーク環境の見直しも行いましょう。クラウドベースの設計データを頻繁にアップロード・ダウンロードする場合、通信の安定性や速度は業務効率に直結します。社内ネットワークが設計業務に耐えうる帯域を確保できているかを事前に確認し、必要に応じて回線の増強も視野に入れるべきです。
加えて、フォルダ構成や命名規則、ファイルの保存ルールといった“運用ルール”の策定も非常に大切です。こうしたルールが不明確なままだと、せっかく導入したPDMも現場に定着せず、逆に混乱を招きかねません。導入時点での徹底したルール設定と社内周知によって、運用の安定性が大きく向上します。
3.3 データ移行とバージョン管理
クラウドPDMの環境構築と並行して進めるのが、既存の設計データの整理と移行です。まずは現行データの棚卸しを行い、重複しているファイルや古くなったバージョンなどを整理することで、スムーズな移行の準備を整えます。不要なデータをそのまま移行すると、後からの運用が煩雑になり、クラウドPDMのメリットが活かせなくなるからです。
移行作業では、SOLIDWORKSで作成されたCADデータに含まれるアセンブリ構造やリンク情報、カスタムプロパティなどが正しく引き継がれるよう、ベンダーやSIパートナーと連携して慎重に進めることが重要です。特にバージョン管理に関しては、PDMごとに自動付番のルールやファイル命名の仕組みが異なる場合があり、旧来の運用とのギャップを事前に吸収しておく必要があります。
また、移行後の運用に向けて、クラウドPDM側のバージョン管理機能をしっかりと理解し、設計チーム全体で運用ルールを統一することも欠かせません。どのタイミングでバージョンを上げるのか、どこまでを履歴として保存するのかなど、業務プロセスと紐づけた管理方針を明確にしておきましょう。
これらの準備を丁寧に行えば、導入後は設計者が常に最新の正しいデータを参照でき、誤って旧バージョンを使用するといったミスを防げます。結果として、プロジェクト全体の品質が向上し、手戻りやトラブルによるコスト増加を防ぐ効果も期待できます。
4. 3DEXPERIENCEプラットフォームの活用方法
引用:SOLIDWORKS Japan Blog:https://my.solidworks.com/reader/wpblogsja/solidworks-blog%252F3dxwj%252F201030%252F/3dexperience-world-japan-2020-
クラウドPDMの導入によって設計データの管理基盤が整ったら、次に注目したいのが「3DEXPERIENCEプラットフォーム」の活用です。これはSOLIDWORKSを提供するダッソー・システムズが開発した統合型のクラウド基盤で、単なるCADやPDMの枠を超えて、設計・製造・プロジェクト管理・データ連携などをクラウド上で包括的に扱うことができます。
3DEXPERIENCEの最大の特長は、Webブラウザからアクセスできるクラウドサービスでありながら、設計・開発の全体フローを一元管理できる点にあります。設計チームだけでなく、営業や製造部門、さらには顧客やパートナー企業とも同じプラットフォーム上でデータを共有し、リアルタイムでコラボレーションが可能です。
また、クラウド環境の強みを活かし、拠点間の同時作業やリモートワークにも柔軟に対応できます。3DEXPERIENCEは、単なるクラウドPDMではなく、プロジェクト全体の「情報のハブ」となる存在です。これにより、各部門の情報が分断されずに集約され、業務の進行状況を迅速に把握し、問題点をいち早く発見できるようになります。
この章では、3DEXPERIENCEの基本機能とそのメリット、さらに実際の活用シナリオを紹介し、SOLIDWORKSとの連携によって生まれる業務改善の可能性を具体的に示していきます。クラウドPDMとの組み合わせにより、設計・開発のフローに一貫性が生まれ、企業全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を大きく後押しすることができるでしょう。
4.1 3DEXPERIENCEのコア機能と利点
3DEXPERIENCEが提供する中核機能は、「データの統合管理」と「チーム間のコラボレーション促進」です。クラウド上でモデリングやシミュレーションを行い、その成果物をチーム内でリアルタイムに共有できることで、設計作業の重複や手戻りが減少し、業務全体のスピードアップにつながります。
また、設計変更や承認フローをクラウド上で一貫して行えるため、物理的に離れたチーム間でもスムーズに連携できます。従来のように、メールやファイル転送サービスを介して情報をやり取りする必要がなくなり、すべての関係者が常に最新データを確認しながら意思決定を行うことが可能になります。
3DEXPERIENCEのもう一つの魅力は、SaaSモデルとしての拡張性です。企業の成長段階に合わせて、必要なアプリケーションを段階的に追加できるため、初期導入時の負担を抑えながら、後から機能を広げていくことができます。たとえば、まずは設計データの共有機能から始め、次にシミュレーションやPLM(製品ライフサイクル管理)機能を追加するという流れも容易です。
さらに、プロジェクト管理ツールやタスクボード、進捗ダッシュボードといった機能が統合されていることで、設計や製造だけでなくマネジメント層の業務にも直結する情報基盤となります。これらの機能を活用すれば、進捗確認やタスク割り当てが簡素化され、意思決定のスピードも向上します。3DEXPERIENCEは、現場の作業だけでなく、組織全体の連携と生産性を引き上げる土台として活躍します。
4.2 実践的な活用シナリオ
3DEXPERIENCEの具体的な活用例として、地理的に拠点が分散している中規模製造業における事例が挙げられます。たとえば、設計拠点が東京、製造拠点が福岡にあるようなケースでも、3DEXPERIENCEを使えばCADデータを即時に共有し、図面や仕様に対するフィードバックをリアルタイムでやり取りすることが可能になります。これにより、試作サイクルを短縮し、開発リードタイム全体の圧縮を図ることができます。
また、近年のリモートワーク普及に対応するためにも、3DEXPERIENCEは非常に有効です。自宅や出張先からでもクラウド上の設計データに安全にアクセスでき、レビューや承認といった作業もすべてオンラインで完結できます。必要に応じて、外部パートナーとのデータ共有も可能で、セキュリティポリシーに応じたアクセス制御により、重要情報の漏洩リスクを防ぎながら、柔軟なコラボレーションが実現します。
たとえば、設計図面の一部だけを外注先に共有し、図面全体や部品構成などは非公開にしておくといった細かな制御も可能です。こうした設定により、機密性の高い業務でも安心して外部との連携を進めることができます。
さらに、通知機能やダッシュボード機能を使えば、プロジェクトの進捗や課題を一目で把握することができます。マネージャー層は現場に足を運ばずとも状況を把握でき、設計や製造のボトルネックを早期に特定できます。これにより、意思決定の迅速化やトラブル発生の未然防止が可能となり、企業全体としてのプロジェクト遂行力が底上げされます。
このように、3DEXPERIENCEは単なる補助ツールではなく、クラウドPDMとの連携を前提とした“設計の中核基盤”となり得る存在です。SOLIDWORKSとの連携を深めることで、設計・開発業務のあらゆる局面において効果を発揮し、次世代の製品開発体制を実現するカギとなるでしょう。
5. クラウドPDMと3DEXPERIENCEの統合
クラウドPDMと3DEXPERIENCEは、それぞれ単独でも高い効果を発揮しますが、両者を統合的に活用することで、業務全体の効率や柔軟性、コラボレーションの質において、より大きな成果が得られます。クラウドPDMが設計データの安全な一元管理を担い、3DEXPERIENCEがそのデータを軸にプロジェクトやコミュニケーションを支えることで、設計から製造までの業務がつながり、無駄のない流れをつくることができます。
この連携により、設計データの運用がより戦略的なものとなり、社内外を問わず情報共有のスピードと精度が向上します。データがリアルタイムで更新されることで、チーム間の認識ズレが起こりにくくなり、ミスや手戻りを最小限に抑えられます。部門間の壁を超えた情報共有が可能になり、製品開発の全体最適が図られるのです。
さらに、クラウド環境であることの強みとして、自然災害や障害への備えとなるBCP(事業継続計画)対策としても機能します。クラウド上では自動バックアップや多拠点分散による冗長構成が整備されており、万一の際にも設計データが失われるリスクを大きく低減できます。これは、企業の信頼性を高め、顧客やパートナーに対する安心感の提供にもつながります。
本章では、クラウドPDMと3DEXPERIENCEの連携によって得られる3つの主要な利点について、それぞれの視点から詳しく解説していきます。導入の検討において「部分的な効率化」にとどまらず、「業務全体の高度化」へつなげていくためのヒントとして、以下の内容を押さえておきましょう。
5.1 設計プロセスの効率化
クラウドPDMと3DEXPERIENCEを連携させることで、設計業務における一連のプロセスがよりスムーズかつスピーディになります。まず大きな効果が現れるのが、設計データのアップロードやバージョン管理の効率化です。クラウド環境では常に最新の情報が共有されているため、設計者は迷うことなく正しいファイルを参照でき、誤ったバージョンで作業してしまうといったミスを防ぐことができます。
また、承認や設計変更のワークフローも、3DEXPERIENCE上で一元管理できます。タスクの割り当てや進捗の可視化、ステータスの自動更新などが可能になり、手作業による確認や申請が不要になります。これにより、設計変更の対応スピードが向上し、レビュー遅延による納期遅れも回避しやすくなります。
たとえば、クラウドPDMで正確にバージョン管理されたデータをもとに、3DEXPERIENCE上で設計レビューを実施し、承認とフィードバックが即時に反映されるといった流れが実現します。このような連携は、エンジニアリング部門だけでなく、製造や品質保証、調達部門にも波及し、組織全体の業務スピードと連携力を引き上げる効果があります。
また、リアルタイム性の高い情報共有により、発生する課題や設計ミスの早期発見にもつながります。手戻りを減らし、全体的なリードタイム短縮に寄与する点は、特に多品種短納期を求められる製造業において大きな価値となるでしょう。
5.2 コラボレーションとイノベーションの促進
クラウドPDMと3DEXPERIENCEの連携は、組織内外のコラボレーションを格段に強化します。設計データや関連情報が一元化され、誰が・いつ・どのように関与しているかが可視化されることで、チーム間の意思疎通がスムーズになります。設計部門と製造部門の連携はもちろん、営業、購買、品質管理といった他部門との連携も活性化され、全社的な情報共有基盤として機能します。
また、3DEXPERIENCEには「コミュニティ機能」や「フィードバック投稿」などの機能があり、アイデアの提案やレビューをオープンな形で行うことができます。これにより、異なる視点を持つメンバー同士の知見が融合し、従来の組織構造では生まれにくかった新しい発想やイノベーションが生まれる土壌が育ちます。
たとえば、製造部門からのフィードバックが設計初期段階に即座に反映されることで、加工性の高い設計を実現できたり、営業部門が顧客の要望を設計者にリアルタイムで共有することで、カスタム対応の精度とスピードが高まったりします。
こうした相互作用が継続的に積み重なることで、組織全体の創造性と応答性が高まり、市場の変化にも柔軟に対応できる体制が築かれていきます。情報が閉ざされず、組織を横断してつながる環境が、今後のものづくりにおける競争優位の源泉となるのです。
5.3 セキュリティとコンプライアンスの強化
設計データは企業にとって重要な知的資産であり、その取り扱いには高度なセキュリティと厳格なアクセス管理が求められます。クラウドPDMと3DEXPERIENCEは、この点でも高い水準の安全性を備えており、情報管理の強化に大きく寄与します。
まず、ユーザーごとに細かくアクセス権限を設定できるため、部署や業務内容に応じて「参照のみ」「編集可」などの制限を柔軟に設けることが可能です。さらに、外部パートナーと連携する場合でも、プロジェクト単位やフォルダ単位で公開範囲を限定することで、機密情報を保護しながら必要な連携を実現できます。
加えて、クラウド基盤におけるデータ暗号化、二重認証、多重バックアップなどの機能により、サイバー攻撃や障害発生時のリスクを最小限に抑えることができます。設計データが常に安全に保存され、障害時にも迅速に復旧できる体制があることで、企業の信頼性と事業継続性が強化されます。
また、誰がいつどのデータにアクセスし、どのような変更を行ったのかといった履歴を監査ログとして保存できるため、コンプライアンスの面でも有効です。たとえば、ISOなどの外部監査に対応するための証跡管理や、設計変更履歴の明確化などがスムーズに行えます。
このように、セキュリティと利便性を高次元で両立できる点は、クラウド環境の大きなメリットです。安心して情報を取り扱いながら、社内外の連携を活性化できる仕組みは、DX時代における設計・製造の土台として重要な役割を果たします。
6. クラウドPDM導入シナリオ
この章では、クラウドPDMを導入した場合にどのような効果が期待できるのかを、想定されるシナリオをもとに紹介します。製造業の現場でよく見られる課題と、それに対するクラウドPDMと3DEXPERIENCEによる解決アプローチを組み合わせた「モデルケース」として描いていますので、自社への導入効果を検討する際の参考イメージとなるでしょう。
クラウドPDMの導入は、単なるツールの置き換えではなく、設計プロセスそのものの効率化や働き方の変革にもつながる取り組みです。3DEXPERIENCEとの連携によって、その効果をさらに拡張できることも大きな特徴です。ここでは、2つの典型的な導入シナリオを例に、導入によって得られる変化を見ていきましょう。
6.1 中規模製造業における導入シナリオ
ある中規模の製造業が、設計データの管理にローカルサーバーを使っていたとします。部門ごとに設計者が増えてくると、同じファイルを同時に扱ったり、最新版の確認に手間取ったりといった課題が目立ち始めました。ファイルの重複や、誤って古いバージョンで設計を進めるミスが発生し、品質や納期にも影響が出ていました。
このような状況を打開するため、想定企業ではクラウドPDMの導入を決断。まずは設計チーム内での利用に限定し、小規模から運用をスタートさせました。クラウド上でのバージョン管理とファイルロック機能により、同時編集の衝突を回避し、最新版の追跡が明確になりました。ファイル検索にかかっていた時間も大幅に短縮され、作業の重複や取り違いが抑えられました。
さらに、設計変更が発生した際には、自動通知によって関係者にすぐに共有され、承認ワークフローがスムーズに進行するようになりました。社外からのアクセスにも対応できるため、設計者が在宅勤務中でも業務を滞りなく進めることができ、柔軟な働き方の実現にもつながりました。
結果として、設計から試作までのリードタイムが全体で約20%短縮され、トラブル発生件数も減少。この想定シナリオは、クラウドPDMが設計業務の生産性と安定性を高めるツールとして効果的に機能することを示す一例です。
6.2 リモートワーク対応と多拠点運用のシナリオ
次に、複数拠点で設計を行っている企業を想定します。各拠点やサテライトオフィス、さらには在宅勤務の環境から、設計者が同じ製品の開発に参加しているようなケースでは、ファイルの同期やバージョン整合性の維持が大きな課題になります。
このモデルケースでは、クラウドPDMを導入したことで、拠点ごとに分散していた設計データがクラウド上で一元化され、インターネットを通じてどこからでもアクセスできるようになりました。ユーザーごとにアクセス権限が制御されており、セキュリティを確保しながらも、必要なメンバーが必要な情報にリアルタイムでアクセスできる体制が整いました。
また、タブレットやモバイル端末を活用し、工場現場や営業先で図面を確認したり、コメントを追加したりといった活用方法も進みました。さらに、3DEXPERIENCEと連携することで、設計レビューや進捗管理もクラウド上で完結。物理的な距離や勤務場所の違いを超えたプロジェクト運営が実現しました。
このような想定シナリオでは、クラウドPDMと3DEXPERIENCEの導入によって、単にデータ管理が効率化されるだけでなく、プロジェクト推進力そのものが高まることが期待できます。働き方の柔軟性が向上し、人材の活用範囲も広がり、企業としての競争力強化にも寄与する構造が見えてきます。
7. まとめ:クラウドPDMと3DEXPERIENCEで変わる設計の未来
本記事では、SOLIDWORKSを活用する設計現場において、クラウドPDMと3DEXPERIENCEを導入することの意義や実務上のメリットについて解説してきました。クラウドPDMは、設計データの一元管理やバージョン管理、遠隔アクセスといった課題を解決するための有効な手段であり、従来のオンプレミス環境では実現が難しかった柔軟な運用や業務効率の向上を可能にします。
さらに、3DEXPERIENCEとの組み合わせによって、設計・製造・営業・品質といった部門を超えたシームレスな情報連携が実現し、プロジェクトのスピードと精度が飛躍的に向上します。単なるデータ管理ツールの導入ではなく、企業全体の設計プロセスや働き方を見直す契機として、クラウドPDMは極めて重要な役割を果たす存在になっています。
導入の際は、一気に全社展開するのではなく、スモールスタートで確実に運用を定着させ、段階的に範囲を広げていくことが成功のポイントです。クラウドならではの拡張性と柔軟性を活かし、自社に合った形で導入・活用していくことで、無理なく設計業務の改革を進めていくことができるでしょう。
今後、クラウド技術やAI、データ連携の進化がさらに加速していく中で、設計環境もより高度で協調的なものへと変化していくことが予想されます。その未来に備え、いまクラウドPDMと3DEXPERIENCEの導入を検討することは、単なるIT投資ではなく、企業の競争力を根本から高めるための一歩です。
SOLIDWORKSを中核とした開発体制の強化を目指す方々にとって、クラウドPDMと3DEXPERIENCEは、これからの設計現場を支える確かなパートナーとなるはずです。
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参考情報
・SOLIDWORKS 製品ページ
・SOLIDWORKS PDM 製品情報ページ
https://www.solidworks.com/ja/product/solidworks-pdm
・3DEXPERIENCE プラットフォーム概要
https://www.3ds.com/ja/3dexperience/
・SOLIDWORKS Japan Blog
https://blogs.solidworks.com/japan/solidworks-blog/3dexperience/20240821/