構造解析ソフト『SNAP-S』でできる静的解析とは?動的・応答解析との違いを知ろう
1. はじめに
近年の建設業や土木工学の現場では、構造物の安全性を事前に確認するために「構造解析ソフト」の活用がますます重要になっています。橋やビルを設計する際、「その構造は荷重に耐えられるのか?」を設計段階でしっかり検討しておくことが、安心・安全なインフラ整備につながるからです。
構造解析にはさまざまな手法がありますが、初心者にも扱いやすく、基本的な安全性評価をスムーズに行えるソフトとして注目されているのが「SNAP-S」です。SNAP-Sは、時間によって変化しない力(静荷重)を扱う「静的解析」に特化しており、橋梁や建築物の荷重チェック、断面力の計算などを効率よく実施できます。
一方で、地震や風といった時間的に変化する力(動荷重)を扱うには「動的解析」や「応答解析」といった別の手法が必要となります。SNAP-Sはこうした高度な動的解析には対応していないものの、初期段階の安全性評価や基本的な構造検討においては、非常に有用なツールです。
本記事では、SNAP-Sの特徴や静的解析の基本をやさしく解説するとともに、動的・応答解析との違いや使い分けについても紹介します。これから構造解析を学ぶ方や、解析ソフトの導入を検討している方にとって、最適な第一歩となるはずです。
2. SNAP-Sとは?概要と基本機能
引用:https://www.kozo.co.jp/program/kozo/snap/
SNAP-Sは、構造解析ソフト「SNAP」シリーズの中でも、機能を絞った軽量版として提供されている国産ソフトウェアです。橋梁設計や建築物設計など、幅広いプロジェクトに対応できる柔軟性を備えており、特に初期の構造検討や安全性の確認に適しています。
SNAPシリーズの中には、地震時の振動や応答をシミュレーションする「動的解析」や「時刻歴解析」などの高度な機能を持つ上位版もありますが、SNAP-Sはその中でも「静的解析」に特化したバージョンです。時間とともに変化しない荷重、たとえば建物の自重や積載荷重、風圧などを対象とした解析を効率的に実行できます。
SNAP-Sの魅力のひとつは、操作性の高さと習得のしやすさにあります。初めて構造解析に取り組む人でも扱いやすいように設計されており、解析モデルの作成や計算、結果の確認までが直感的に行えるようになっています。また、解析エンジンとアルゴリズムが最適化されているため、複数の荷重ケースをすばやく処理できる高速性も大きな特長です。
特に荷重チェックや断面力の算出といった基本的な構造評価の機能が充実しており、複雑な形状のモデルや複数荷重条件にも対応可能です。もちろん、地震のような動荷重に対して詳細な応答解析を行う場合は、SNAPの上位版や他の動的解析対応ソフトの導入が必要になります。しかし、設計の初期段階での安全性検討や全体方針の確認においては、SNAP-Sだけでも十分に機能を果たします。
2.1. SNAP-Sの主な特徴と操作性
まず注目すべきは、SNAP-Sのわかりやすく整理されたユーザーインターフェースです。メニュー構成が直感的で、解析モデルの入力から計算結果の表示までの操作がスムーズに進められるため、初心者でも迷いにくい設計となっています。また、丁寧なヘルプやマニュアルも整備されており、操作中の不明点にもすぐに対応できます。
解析手法としては、一般的な線形静的解析に加えて、非線形挙動を考慮した「増分解析」も可能です。これは、荷重を段階的に増やしながら構造物の応答を追う解析方法で、部材が塑性化した後のふるまいも評価できるのが特徴です。たとえば、地震時に構造が完全に壊れないまでも変形する状況を、静的な視点からある程度再現することができます。
さらに、解析後の結果は視覚的にわかりやすく表示され、応力や変形の分布をグラフィカルに確認できます。これにより、どの部材に負担が集中しているか、どの位置が変形しやすいかなど、構造全体のふるまいを直感的に把握することが可能です。
こうした特長から、SNAP-Sは「シンプルで高速、かつ実用的」という評価を得ており、解析ソフトの比較検討においても多くのユーザーに選ばれています。
2.2. どのようなプロジェクトでSNAP-Sが役立つか?
SNAP-Sは、特に土木や建築の現場で求められる静的荷重に対する解析に強みを発揮します。たとえば、橋梁設計では橋の桁や支点にかかる自重や車両荷重といった恒常的な荷重の検討が不可欠です。SNAP-Sはこれらの静的条件を的確に捉え、断面力計算や部材ごとの応力解析を迅速に行うことができます。
また、建築物の初期設計段階でもSNAP-Sは有効に活用できます。たとえば集合住宅やオフィスビルなどでは、柱・梁・耐力壁の配置によって構造全体の剛性や安定性が大きく変わります。SNAP-Sを使えば、部材が受ける荷重に対して変形量や応力を事前に把握し、大きな設計変更が発生する前にリスクを把握できます。
さらに、SNAP-Sは構造解析にこれから取り組もうとする若手技術者にも適しており、解析の入門ソフトとしての位置づけにもなっています。動的解析や応答解析のような高度な手法に入る前に、まず静的解析で構造の基本的な考え方を理解することは、設計力を高める上でとても重要です。
このように、SNAP-Sはプロジェクトの規模を問わず、初期設計・簡易検討・教育用途といったさまざまな場面で活躍できるソフトウェアです。
3. 静的解析の基本
静的解析とは、時間とともに変化しない荷重(静荷重)を構造物に加えたとき、その構造物がどのように変形し、どの部分にどれだけの力がかかるのかを評価する解析手法です。具体的には、建物の柱や梁にかかる重さや、比較的安定している風圧や積雪の影響などを想定して、構造物の安全性を確認します。
この「静荷重」は、動的解析で扱うような時間変化を伴う力(動荷重)とは異なり、常に一定であるという前提で計算されます。たとえば、ビルの屋上に設置された機器の重量や、橋の自重、積載荷重などがこれに該当します。
多くの建造物では、地震などの特殊な状況を除くと、日常的に受ける荷重の多くが静荷重です。そのため、まずは静的解析によって基本的な安全性を確認し、必要に応じて補強の検討や設計修正を行うのが一般的な流れとなります。
初心者の方にとっても、静的解析は構造解析の出発点として最適です。構造物の力の流れや変形の傾向を理解しやすく、複雑な動的条件を含まないため、計算の原理やモデル化の基本が学びやすいというメリットがあります。SNAP-Sはこの静的解析を効率的に行える設計となっており、学習用にも実務用にも適しています。
3.1. 静的解析とは?
静的解析とは、時間の経過によって荷重が変化しないという前提のもとで構造物の応力や変形を求める解析方法です。対象となる荷重には、建物そのものの重さ(自重)や、倉庫に保管される物品の重量、駐車場に停められる車の重さなどがあり、いずれもある程度「一定」とみなせるものが多いです。
たとえば、倉庫の床に重機が常設されるケースでは、その機械の重さを静荷重として設定し、それが床の梁や柱に与える影響を計算します。静的解析によって求められる主な指標には、「応力」「変形量」「断面力」などがあり、これらをもとに構造物の安全性を判断します。
この手法の利点は、慣性力や振動といった時間的要素を考慮する必要がないため、モデルの構築がシンプルになり、計算時間も短縮できることです。初期設計や小規模な構造物の検討、あるいは複数の荷重ケースを一気に比較したい場合などに非常に適しています。
構造解析に初めて取り組む方にとっても、静的解析は習得しやすい領域です。設計対象が建築物であれ橋梁であれ、まずは「静荷重を受けたときのふるまい」を理解することが、後の動的解析や応答解析を学ぶうえでも大きな助けとなります。
3.2. 静的解析で考慮される荷重の種類
静的解析で取り扱う荷重は、主に「固定荷重」と「変動荷重」の2つに大別されます。固定荷重は、建物の自重や内装材、常設設備の重量など、設計時点で明確に決まっている恒常的な荷重を指します。一方、変動荷重には、使用者の体重、家具、車両の荷重など、時間によってある程度変動するものが含まれます。
これらに加えて、建築物では風荷重や積雪荷重といった自然条件による外力も静荷重として近似的に扱うことがあります。たとえば、高層ビルの設計においては、風圧を一定荷重としてモデル化し、部材ごとにどの程度の応力が発生するかを検討する必要があります。
橋梁の設計では、車両の通過によって発生する荷重を静的に近似して評価することがよくあります。実際には車両が移動することで動的な影響が生じますが、初期検討段階では、一定の荷重としてモデル化することで、十分に有効な結果が得られる場合も多いです。ただし、積載量や車両重量のばらつきが大きい場合には、複数の荷重条件を想定した解析が求められます。
SNAP-Sでは、こうした静的荷重の種類ごとに、専用の入力フォームを使って数値や条件を設定し、解析を効率的に実施できます。入力から解析実行、結果確認までが一連の流れとして整理されているため、手戻りが少なく、構造検討のスピードと精度を両立できます。
3.3. SNAP-Sを使用した静的解析の使用例
使用例としてまず挙げられるのは、橋梁の桁部分に対する解析です。橋の桁には、上部工の自重や通行する車両の荷重がかかるため、これらが各部材にどのような応力を与えるかを評価する必要があります。SNAP-Sでは、橋をフレーム構造またはグリル構造としてモデル化し、荷重条件を与えて線形または非線形の解析を実施することが可能です。
もう一つの例としては、建築物の耐力壁配置に関する検討があります。建物全体の変形や応力の分散を考慮しながら、柱・梁と耐力壁の組み合わせによって建物の安定性を確認する作業です。SNAP-Sでは、これらの構成要素を正確にモデル化し、変形解析を通じて部材の変位量を把握することで、設計段階での配置検討をサポートできます。
これらの解析結果は、部材にかかる力のバランスや変形の傾向を「可視化」することによって、設計者の判断を助ける重要な情報となります。SNAP-Sは、応力や変形の出力結果をグラフィカルに確認できるため、解析に不慣れな技術者でも直感的に状況を把握することができます。
また、操作性や処理速度の高さもSNAP-Sの大きな魅力であり、実務での採用事例が多いのも納得できるポイントです。解析ソフトを選ぶ際には、精度だけでなく、操作のしやすさや結果の見やすさも重要な評価軸になります。その点でSNAP-Sは、初心者にも安心しておすすめできるソフトのひとつです。
4. 動的解析と応答解析の概要
動的解析とは、地震や突風、交通振動など、時間とともに変化する力(動荷重)を対象とした構造解析の手法です。これらの荷重は瞬間的に大きな力を発生させることがあり、構造物に大きな影響を及ぼす可能性があります。動的解析では、そのような時間依存の外力が構造物に与える挙動を、慣性力や減衰力を含めて詳細に評価します。
一方、応答解析は、動的解析の中でも「構造物がその荷重にどう応答するか」、すなわち振動や変形、加速度などを時間の経過とともに追跡し、より具体的に解析するアプローチです。例えば、地震波が建物に伝わったときに、どの階がどれくらい揺れるのか、どの部材に応力が集中するのかを定量的に確認することができます。
SNAP-Sは、このような動的解析や応答解析には対応しておらず、あくまで静的解析を専門としたソフトウェアです。地震を想定した解析を行いたい場合でも、SNAP-Sでは等価静的荷重法といった簡易的な手法しか利用できません。より精密な振動挙動を検討したいときには、SNAP(上位版)やMIDAS、ABAQUSなどの高度な解析ソフトを併用する必要があります。
4.1. 動的解析とは?
動的解析は、時間軸に沿って変化する荷重が構造物に与える影響を解析する手法です。特徴的なのは、力が加わる瞬間だけでなく、その後に生じる振動や揺れの継続、構造体の反応までをシミュレーションする点にあります。これにより、地震や交通の振動などに対して、構造物がどのように耐えられるかを総合的に把握することができます。
動的解析の代表的な手法には、等価静的荷重法、応答スペクトル法、時刻歴応答解析などがあります。特に時刻歴応答解析では、地震波などの入力を時間軸に沿って詳細に与え、その結果として得られる応力や変形の時系列変化を解析します。
このような解析では、荷重だけでなく構造物の質量や剛性、減衰といった要素がすべて影響し合うため、静的解析よりもモデルが複雑になり、計算時間も長くなります。高度な専門知識と高性能な解析ソフトが求められる領域です。
SNAP-Sにも、地震荷重を想定した簡易解析機能はありますが、それは「等価静的荷重法」に限られ、本格的な動的解析の代用とはなりません。したがって、地震動の影響を詳細に評価したい場合は、SNAPの上位版や他の専用ソフトを用いるのが現実的な選択となります。
4.2. 応答解析とは?
応答解析とは、実際の地震波や風荷重など、時間変動する入力に対して、構造物が「どのように反応するか」を詳細にシミュレーションする解析手法です。具体的には、変位・速度・加速度・応力の時間変化を求め、それをもとに構造物全体の安全性や快適性を評価します。
たとえば、建物の最上階が地震時にどれだけ揺れるか、あるいは振動が何秒間続くかなどを知ることで、耐震設計や制振装置の設計に大きなヒントを得ることができます。また、応答解析では、部材単位での応力分布や変位を把握できるため、特定の場所に過度な負担が集中していないかを細かく検証できます。
応答解析は、動的解析の中でも最も高度な手法のひとつとされ、一般的な建築設計においては必要とされない場合もありますが、高層ビル、橋梁、大規模な公共施設など、より厳密な安全検討が求められるケースでは不可欠となります。
SNAP-Sには、応答解析に必要な時間依存の動的計算機能は含まれておらず、対応は難しいのが現状です。MIDASやABAQUSなどの高機能な解析ソフトでは、地震波を読み込んで、構造物全体の応答を可視化する機能が整っており、そうしたツールを併用することが一般的となっています。
4.3. 動的解析と応答解析の適用シナリオ
動的解析や応答解析が求められるシーンは限られていますが、その必要性は極めて高く、特に地震多発地域や強風の影響を受けやすい構造物においては欠かせません。たとえば、高層ビルでは風による長周期の揺れが問題となり、橋梁では大型車両が通過する際の振動による影響が検討対象になります。
また、工場や市場などで搬入出が頻繁に発生する施設では、荷重の変動が連続して発生することが想定されるため、単純な静的解析だけでは対応しきれない場合があります。このような状況では、応答解析を用いることで、時間的に変動する力の影響を精密に評価でき、設計の信頼性を高めることができます。
一方で、応答解析は非常に複雑なシミュレーションを必要とするため、すべてのプロジェクトで実施されるわけではありません。設計対象の重要性や予算、必要とされる解析精度に応じて、静的解析だけで済ませるケースも多く見られます。
つまり、重要なのは「どの構造物に、どの程度の解析が必要なのか」を見極めることです。静的解析で十分な安全性が確保できる場合はSNAP-Sを、より精緻な振動検討が必要な場合は、動的・応答解析対応ソフトとの併用を検討するという使い分けが現実的なアプローチと言えるでしょう。
5. 静的解析と動的・応答解析の違い
静的解析と動的・応答解析は、いずれも構造物の安全性を評価するための解析手法ですが、それぞれで扱う荷重の性質や解析の目的、得られる情報には明確な違いがあります。特に、どのような条件下で使用するのが適切かを理解することは、解析の精度を高め、無駄な手戻りを減らすうえで非常に重要です。
静的解析は、時間の変化を考慮しない一定の荷重(静荷重)を対象とするため、比較的シンプルなモデルで解析でき、設計の初期段階での検討や基本的な構造安全性の確認に適しています。一方、動的解析や応答解析は、地震や風など時間とともに変化する荷重(動荷重)を考慮する必要があり、振動の大きさや持続時間、発生位置などに大きく影響を受けるため、解析内容が複雑になります。
簡単に言えば、静的解析は「構造物がどの程度の力に耐えられるか」を確認するものであり、動的・応答解析は「その力が急激に変化した場合に、構造物がどのように振る舞うか」を確認するものです。たとえば、橋梁や高層ビルといった大型の構造物では、地震や強風に対する揺れの検討が非常に重要であり、動的解析や応答解析が不可欠となります。
この章では、解析手法ごとの違いを詳しく整理し、それぞれの手法がどのような状況に適しているのかを具体的に解説していきます。解析の目的や対象とする構造物の特性によって、使うべきソフトや検討方法は変わってきます。適切な手法を選ぶことは、設計の品質を高めるうえで欠かせないステップです。
5.1. 解析手法の違いとそれぞれの利点
静的解析の最大の利点は、解析の手間やコストが抑えられる点にあります。構造物に加わる荷重が時間的に一定であるという前提に基づくため、モデルの作成も比較的簡単で、計算時間も短く済みます。SNAP-Sのような静的解析に特化したソフトウェアでは、直感的な操作性と高速な解析性能を活かして、設計作業をスピーディーに進めることができます。
静的解析はまた、設計初期の段階でおおまかな安全性を確認する場面に最適です。複数の荷重パターンを簡単に切り替えて試せるため、設計の方向性を早期に固めるのに役立ちます。構造部材のサイズや配置を検討する際に、仮設計として静的解析を活用することで、設計の全体像を効率よく把握できます。
一方、動的解析や応答解析には、静的解析では見逃されがちな現象を把握できるという大きなメリットがあります。たとえば、地震時に構造物のどの部分が最も大きく変形するか、振動によってどの部材に負荷が集中するかなど、詳細な挙動を時間軸で追うことができます。これにより、耐震補強や免震設計の検討にも役立ちます。
また、動的解析では、線形モデルに加えて非線形挙動まで考慮することが可能であり、実際の構造物のふるまいにより近い評価ができます。特に応答解析では、構造物が時間とともにどのように変位・加速度・応力を受けるかを具体的に可視化できるため、安全性の精密な検討が求められるプロジェクトに適しています。
両者はそれぞれの強みを持っており、理想的には併用することで全体の設計精度を高めることができます。解析ソフトを選ぶ際には、構造物の特性や設計目的に応じて、適切な解析手法を組み合わせる判断が求められます。
5.2. どの解析が適切か?シナリオ別の選択ガイド
実際の設計現場では、「静的解析だけで十分なケース」と「動的または応答解析が必要なケース」を明確に見極めることが重要です。たとえば、住宅や中小規模の建築物、あるいは交通量が少ない場所に設置される橋梁などでは、構造物にかかる荷重が大きく変動することは少ないため、静的解析での検討で十分なケースが多く見られます。
SNAP-Sのような静的解析ツールを用いれば、こうした構造物に対して短期間で安全性評価を行うことができ、設計初期の工程を効率よく進めることが可能です。断面力計算や変形量の把握を通じて、大まかな設計方向性を固めたうえで、必要に応じて詳細な検討へと進められます。
一方で、高層ビルや大規模インフラ施設など、地震や風による振動の影響を大きく受ける構造物では、動的解析や応答解析が不可欠です。地震波や風速変化に対して構造物がどのように反応するかを詳しく確認することで、免震構造や制振装置の配置、材料の選定など、精度の高い設計判断を下すことができます。
たとえば、都市部の再開発プロジェクトや重要文化財の保存構造設計などでは、安全性と性能の両立が求められるため、静的解析だけでなく、応答解析までを実施するケースも増えています。SNAP-Sを使って初期段階の構造検討を行い、その後、MIDASやABAQUSなどの動的解析ソフトにモデルを引き継ぐことで、段階的に解析の精度を高めることも可能です。
最終的には、予算・工期・安全性要求のバランスを見ながら、どの解析手法を使うかを判断する必要があります。構造物の性質と求められる設計精度に応じて、適切な解析プロセスを選択することが、品質の高い構造設計を実現する鍵となります。
6. SNAP-Sの活用メリットと注意点
SNAP-Sは、静的解析に特化した構造解析ソフトとして、多くの現場で高い評価を得ています。その最大の魅力は、操作性の良さと解析スピードの速さです。初心者にも使いやすい設計になっており、解析モデルの作成から結果の確認までをスムーズに行える点が大きなメリットです。
さらに、設計支援機能が豊富に用意されており、初期段階の構造検討や設計変更への対応がしやすいのも特長です。SNAP-Sは静的解析に焦点を絞ることで、システム全体が軽快に動作し、必要な計算を短時間で実行できます。これにより、繰り返しの設計・検討作業が効率的に進み、トータルの業務時間やコストを削減することが可能です。
ただし注意点として、SNAP-Sはあくまで静的解析用のツールであるため、本格的な地震解析や風振動解析といった動的応答解析には対応していません。地震による時間変化の影響を詳細に検討する必要がある場合には、SNAP-Sだけでは解析が不十分になる可能性があります。そのため、プロジェクトの要求精度や規模によっては、他の解析ソフトと組み合わせて使用する必要があります。
それでも、SNAP-Sは構造解析の基礎を理解するうえで非常に有用なソフトであり、初期段階の設計や安全性評価の入口として理想的なツールといえます。特に若手技術者や解析初心者にとっては、構造解析の感覚をつかむためのステップとして大きな助けになるでしょう。
6.1. SNAP-Sの強みとしての静的解析
SNAP-Sの最も大きな強みは、静的解析に特化している点にあります。静的解析とは、時間とともに変化しない荷重を対象とした解析で、構造物にかかる力や変形を評価するための基本的な手法です。SNAP-Sではこの静的解析を、線形解析と非線形解析の両方に対応させることで、幅広い構造物に対して柔軟な検討が可能です。
たとえば、荷重を段階的に増加させる「増分解析」によって、部材が塑性域に入ったあとの挙動まで再現することができます。これにより、構造物の限界状態をより現実的に捉え、設計の安全性を高めることができます。さらに、断面力計算や応力解析などの基本機能も充実しており、複雑なモデルに対しても効率的な解析が可能です。
また、SNAP-Sは木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造など、さまざまな構造形式に対応したモデル作成が行えるため、建築・土木のどちらの分野でも活用しやすいのが特徴です。可視化機能も優れており、応力や変形の分布を色分け表示することで、直感的に結果を理解できるようになっています。こうした特長により、設計チーム内での情報共有や設計判断がスムーズに行えます。
構造解析の入口として静的解析を習得することは、解析全体の理解を深めるうえで非常に効果的です。SNAP-Sはそのプロセスを支援する頼もしいツールであり、初心者から経験者まで、幅広いユーザー層にとって実用的な解析環境を提供しています。
6.2. 動的応答解析が必要な場合の対応策
SNAP-Sは静的解析に特化したソフトウェアであり、時間変化を伴う動的応答解析には対応していません。しかし、建築基準法や土木の設計基準においては、構造物の重要度や規模に応じて、動的解析の実施が求められる場合があります。特に地震動の影響を正確に検討しなければならないプロジェクトでは、SNAP-Sだけで解析を完結させることが難しくなります。
そのような場合には、MIDASやABAQUS、またはSNAPの上位バージョンといった、動的解析機能を持つソフトウェアを併用する方法が一般的です。たとえば、SNAP-Sで初期の構造モデルを作成し、安全性を静的解析で確認したうえで、そのモデルを他のソフトに引き継いで詳細な地震応答解析を行うといった、段階的なアプローチが効果的です。
また、プロジェクトによっては、外部の専門技術者に動的解析を委託するケースもあります。その際には、SNAP-Sで作成したモデルデータや荷重条件などを、他ソフトでも読み込める形式に変換し、スムーズに連携できるよう準備しておくことが重要です。BIMやIFC形式の活用なども視野に入れることで、情報の一元化と再利用性を高められます。
現実的には、すべてのプロジェクトで高度な動的解析を実施するのは難しいため、まずはSNAP-Sによる静的解析で基本的な安全性を確認し、必要に応じて応答解析へと進むというステップを踏むことが、効率的かつ現実的な設計手法といえるでしょう。
7. まとめ
本記事では、構造解析ソフト「SNAP-S」を中心に、静的解析の基本と、動的解析・応答解析との違いについて丁寧に解説してきました。
静的解析は、時間によって変化しない荷重を対象とする解析手法で、構造物がどの程度の力に耐えられるかを評価するための最も基本的かつ広く用いられている方法です。SNAP-Sは、この静的解析に特化しており、使いやすいインターフェースとスピーディな解析処理、そして設計支援機能の充実によって、初心者から実務者まで幅広いユーザーに支持されています。
一方で、地震や風といった時間的に変化する荷重に対しては、動的解析や応答解析といったより高度な手法が必要です。これらは、構造物がどのように揺れ、どこに大きな変形や応力が生じるかを時間軸で細かく評価できるため、特に安全性が厳しく求められる構造物では欠かせない技術です。
ただし、すべてのプロジェクトに対して最初から高度な動的解析を行うのは、時間・コスト・リソースの観点から現実的ではありません。そこで有効となるのが、SNAP-Sを活用した段階的な設計アプローチです。まず静的解析で全体の構造安全性を確認し、必要に応じて上位ソフトウェアを用いて動的解析に発展させていくことで、効率的かつ確実に設計精度を高めていくことができます。
構造解析は、単なる「計算作業」ではなく、設計者の意思決定を支える重要なプロセスです。SNAP-Sのような使いやすいツールを活用しながら、解析手法の違いと役割を正しく理解し、それぞれのプロジェクトに最適な方法を選択することが、より安全で信頼性の高い構造物設計につながるでしょう。
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<参考文献>
任意形状立体フレームの弾塑性解析「SNAP」 – 製品紹介 –
https://www.kozo.co.jp/program/kozo/snap/
snap.pdf
https://lp.arkhitek.co.jp/wp-content/uploads/2021/04/snap.pdf
SNAP Ver.7 – ダウンロードセンター