ゼネコンに学ぶ生成AIの社内ルール|建設会社が押さえたい策定ポイントを解説

1. はじめに

近年、建設業でも生成AIを業務に活用する動きが広がっています。プロジェクトマネージャーをはじめ、日々多くの文書作成や情報整理を行う方にとって、文書作成や議事録の要約、情報検索などを効率化できる点は大きなメリットです。

一方で、建設業では設計図面や施工計画、契約情報など、機密性の高い情報を取り扱う場面も少なくありません。生成AIへ無制限に情報を入力すると、意図せず外部へデータが流出するおそれがあるため、情報漏えいを防ぐためのAIセキュリティを整える必要があります。

そのため、生成AIを単に「使わない」とするのではなく、どのような情報なら入力してよいのか、どの情報を厳重に保護すべきかといった社内ルールを定めることが重要です。鹿島建設や清水建設、大成建設などの大手ゼネコンでは、すでに社内のAI利用環境を整備し、具体的なルールやAIガバナンスの仕組みづくりを進めています。本記事では、こうしたゼネコン各社のAI活用事例を踏まえ、建設会社が押さえておきたい生成AIの安全管理ポイントを解説します。

2. 建設業で生成AIの社内ルールが必要な理由

2.1. 生成AIの普及と建設業への影響

生成AIは、高度な言語モデルをもとに、文章の要約やメールの下書き、翻訳、報告書の作成、プログラミングなど、幅広い業務を支援します。建設業でも、BIM/CIMデータの取り扱いや施工記録の検索、法規情報の確認など、さまざまな分野での活用が期待されています。

建設業でも生成AIの活用が進んでおり、日本建設業連合会では、先端ICT活用専門部会に参加する建設会社を対象に生成AIの利活用状況を調査しています(参照*1)。AIを活用した技術検索などでは、施工技術や安全基準などに関する膨大な文書を短時間で整理し、必要な情報を取り出せる可能性があります。一方、一般に公開されている生成AIサービスを利用する場合、入力した情報がサービス提供元の学習データとして蓄積されるかどうかなど、データの取り扱いを理解しないまま利用することにはリスクがあります。 

そのため、建設会社がAIを導入する際は、誰がどのサービスを利用するのか、どのような業務に使うのかを事前に整理し、無秩序な利用を防ぐ必要があります。ゼネコンなどで進むAI活用事例も踏まえ、安全性と利便性を両立するための社内ルールを整備することが求められています。

2.2. 機密情報の取り扱いと情報保護の重要性

建設業では、設計図面やBIM/CIMデータ、見積評価表、契約情報、発注者との打ち合わせ内容などを日常的に扱います。こうした情報には社外秘の技術ノウハウや個人情報が含まれることもあり、取り扱いを誤って情報漏えいが発生すれば、企業の信頼を失うおそれがあります。

特に、生成AIに図面や試験データ、機密書類を直接読み込ませる場合は、利用するサービスによってデータがどのように保存・利用されるのかを確認する必要があります。データの取り扱いや学習への利用状況が不明な場合、情報漏えいにつながるリスクも否定できません。そのため、AIセキュリティの観点から、社内ルールで「入力を禁止する情報」の範囲を明確にしておくことが重要です。 

ゼネコンに限らず、中小の建設会社でも機密情報の基準をあらためて定め、生成AIを使った文書作成や情報検索を行う際には、情報の取り扱いに十分注意する必要があります。

2.3. 生成AIの信頼性と確認プロセス

生成AIが作り出す回答は、必ずしも正確とは限りません。AIによるハルシネーション(誤情報生成)が起きると、施工計画に関する数値や設計の根拠に誤りが含まれるおそれがあります。特に安全面や工期に関わる情報に誤りがあれば、プロジェクト全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。

そのため、重要な情報については、生成AIの出力結果を人が確認することが重要です。鹿島建設も、生成AIが作成する回答には真偽が確かではない情報が含まれるため、鵜呑みにしないよう注意を示しています(参照*2)。特に数値や法規、安全性に関わる情報を業務で利用する場合は、根拠となる一次情報などと照合することが大切です。 

こうしたAI安全管理の仕組みは、中小建設会社でも必要です。すべてをAIに任せるのではなく、専門スタッフが内容を確認し、誤りがあれば修正するルールを社内で定めておくことが求められます。

3. ゼネコンにおける生成AIの安全な活用事例

3.1. 鹿島建設のAI利用環境整備

引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/鹿島建設

鹿島建設は、重要情報の漏えいリスクを考慮してChatGPTの業務利用を禁止していましたが、その後、Azure OpenAI Serviceを活用した独自システム「Kajima ChatAI」を構築しました。入力した情報が外部の学習に利用されない、鹿島グループ専用のAI利用環境を整備しています(参照*2)。 

利用時には従業員認証を行うほか、利用履歴を記録する機能も設けています(参照*2)。また、情報セキュリティの予防活動として、鹿島グループ全体を対象としたeラーニングを毎年実施し、事故事例や生成AIなどのIT活用時のリスクを周知しています(参照*3) 。 

中小建設会社が参考にしたいポイントは、利用可能なAIサービスを会社として明確にし、利用履歴の記録やアクセス管理を適切に行うことです。最初から大規模なシステムを導入するのではなく、まずは「利用するサービスを限定し、人によるチェックを必須にする」などの仕組みを整えるとよいでしょう。

3.2. 清水建設のAIガバナンスと教育

引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/清水建設

清水建設は、2023年11月から全従業員向けに生成AIサービス「法人GAI」を導入しています。同サービスでは、入力したデータが学習に利用されない仕組みに加え、会社支給端末からのみのアクセス制限や、利用履歴を記録する機能を取り入れています(参照*4) 。 

さらに清水建設は、「シミズグループ AI基本方針」を策定し、「人間中心のAI活用」「人権の尊重」「法令順守・権利保護」「安全性の担保」「説明可能性・透明性の確保」「AIガバナンス体制の構築と人財育成」の6つを基本原則として示しています(参照*5)。企業全体でAI活用の考え方を共有し、安全かつ適切に利用するためのガバナンス体制や人財育成を進めている点が特徴です。 

中小企業でも、このような組織的な方針を定め、AIによる情報検索や翻訳など、具体的にどのような用途で利用できるのかを整理しておくと、従業員の混乱を防ぎやすくなります。技術的な制限を設けるだけでなく、AIを利用する目的や方針を社内に浸透させることが重要です。

3.3. 大成建設の技術情報活用とセキュリティ

引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/大成建設

大成建設は、社内の技術データや資料を生成AIで効率的に検索できる「専門技術検索システム」を開発しています。このシステムでは、社内書類の技術データや資料から必要な情報を選別・抽出し、専門的な質問に対する回答を短時間で提供します(参照*6)。

また、Microsoft AzureのAzure OpenAI Serviceを活用して構築されており、大成建設は、質問や回答などの情報が外部に漏洩するリスクを回避した、安全なシステムであると説明しています(参照*6) 。

中小建設会社が生成AIで社内情報を活用する場合も、一般公開されているサービスに社外秘情報を安易に入力するのではなく、利用するサービスのデータの取り扱いやセキュリティ要件を事前に確認することが重要です。自社の社内ルールに沿って、生成AIに入力できる情報の範囲を明確にしておきましょう。

ここまで紹介したゼネコン3社の取り組みを整理すると、以下のとおりです。 

企業主な取り組み安全な利用に向けたポイント
鹿島建設「Kajima ChatAI」を構築従業員認証、利用履歴の記録、IT活用リスクの教育
清水建設全従業員向け生成AIサービスを導入会社支給端末からの利用、利用履歴の記録、AI基本方針の策定
大成建設「専門技術検索システム」を開発Azure OpenAI Serviceを活用した安全な情報利用環境

4. 建設会社の生成AI社内ルールに盛り込みたい6つの項目

建設会社が生成AIの社内ルールを策定する際は、主に以下の6つの項目を検討しましょう。

項目主な内容
利用可能なAIサービス会社が利用を許可する生成AIサービスを決める
禁止される情報生成AIに入力してはいけない情報を明確にする
生成内容の確認AIの回答を人が確認するルールを設ける
著作権・知的財産権第三者の資料や社内ノウハウの取り扱いを決める
利用履歴・インシデント管理利用状況の把握や問題発生時の対応方法を決める
教育・ルールの見直し社員教育を行い、社内ルールを定期的に見直す

4.1. 利用可能なAIサービスの選定

まず、会社全体で「どの生成AIサービスを利用してよいか」を明確にしましょう。例えば無料の公開チャットツールを利用する場合、利用規約やデータの取り扱いを十分に理解していないと、意図せず社内情報がAIの学習データに使われるおそれがあります。

一方、Azure OpenAI Serviceなどの企業向けクラウドプラットフォームは、データが外部へ漏れにくい環境を提供するものもあります。こうした企業向けサービスに限定するなど、利用できる選択肢を絞ることで、AIセキュリティを確保しやすくなります。

また、個人が独自に取得したアカウントを使用しないルールを設けることも重要です。AIによるプログラミングや文書作成支援を行う場合も、会社が正式に許可したアカウントを使用しましょう。

4.2. 禁止される情報の明確化

建設業では、発注者・協力会社に関する情報や設計図面、BIM/CIMデータなど、外部へ漏えいすると大きな損害につながる情報を数多く扱います。こうした機密データについては、利用する生成AIサービスや情報の機密性を踏まえ、社内ルールで入力を禁止する情報を明確にする必要があります。 

ただし、「機密情報は禁止」とするだけでは、実際の業務でどこまでが対象になるのか判断が曖昧になりがちです。例えば、以下のように入力してはいけない情報を具体的に示しておくとよいでしょう。

  • 契約書
  • 未公開の施工ノウハウ
  • 個人を特定できる発注者情報

これにより、従業員が生成AIを使って情報検索や議事録の要約を行う際にも、どのような情報にリスクがあるのかを判断しやすくなります。

4.3. 生成内容の確認とチェック体制 

生成AIで作成された文章は、最終的に人が確認し、内容の正確性や妥当性をチェックしましょう。特に、安全対策や工程管理など、誤りが現場に大きなリスクを及ぼす情報については、複数人で再確認する体制を設けることも有効です。

また、AIを使って報告書や技術提案を作成する場合、参照されたデータが古い可能性もあります。生成AIが常に最新の法令や技術情報に対応しているとは限らないため、担当者が根拠を再確認し、誤った情報が含まれていないかを確認する必要があります。

こうした確認を行うことで、ハルシネーションによる誤りや不適切な提案に気づき、公開や提出の前に修正できます。必要に応じて、責任者による確認や承認のフローを設けるとよいでしょう。

4.4. 著作権と知的財産権への配慮

第三者が権利を持つ図面や文書の一部をそのまま生成AIへ入力する場合は、著作権や知的財産権に注意する必要があります。特に建築設計事務所や協力会社が作成した資料などは、権利関係が複雑になっている場合があります。

また、自社独自のノウハウが外部へ流出するリスクにも注意が必要です。内部資料を外部の生成AIへ入力すると、サービスによっては学習データに取り込まれ、外部ユーザーへの回答に影響する可能性があります。

そのため、著作物や独自の技術情報は原則として入力しないルールを設け、社外への公開を前提とした情報のみを利用するなど、取り扱いに注意しましょう。

4.5. 利用履歴とインシデント管理

生成AIを活用するうえでは、万一の事態に備えて、どの部署の誰がどのような情報を入力したのかを把握できる仕組みが重要です。社内で利用履歴を記録しておけば、問題が発生した際に原因を確認し、対応しやすくなります。

また、機密情報を誤って入力した場合の報告フローや、インシデントへの対応ルールも明文化しましょう。関係部門や担当者へ速やかに報告できれば、必要に応じてAI事業者やシステム管理者への削除依頼など、適切な対応を進めやすくなります。

社内ルールへの違反が見つかった場合の対応方針も必要です。意図しない違反を含め、適切な研修や周知を行うことで、同様のトラブルを減らす取り組みが求められます。

4.6. 継続的な教育とルールの見直し

AI技術は急速に進化しており、法規制や社内の業務環境も変化していきます。そのため、AI社内ルールは一度決めて終わりにするのではなく、定期的に見直し、必要に応じて改善していく体制を整えることが大切です。

具体的には、従業員を対象とした勉強会や研修を定期的に実施し、新しい生成AIサービスの機能や注意点を共有することが効果的です。また、AIによる情報検索を行う担当者向けに、実際のプロンプト例を使ったトレーニングを実施することも検討するとよいでしょう。

経済産業省などの公的機関が示すAI事業者ガイドラインも定期的に確認することで、最新の動向を把握し、必要なタイミングで社内ルールを見直しやすくなります。

5. 中小建設会社が社内ルールを導入する手順

大手ゼネコンのような大規模システムの構築が難しい中小建設会社でも、段階的に進めることで、必要なAI社内ルールを整備できます。導入は、以下の4つのSTEPで進めるとわかりやすいでしょう。

STEP1:現在のAI利用状況を把握する
現在どのようなAIをどの業務で利用しているのかを洗い出し、想定されるリスクを把握します。

STEP2:利用サービスと禁止情報を決める
利用可能なAIサービスと入力を禁止する情報を簡潔にまとめ、従業員が理解しやすい形で周知します。例えば、個人名や未公開の施工情報は入力しないなど、具体例を示すと判断しやすくなります。

STEP3:運用しながら見直す
実際にルールを運用し、問題や疑問点があれば随時見直します。

STEP4:教育と情報共有を続ける
定期的な説明会やヒヤリハット情報の共有を続け、社内に知識を定着させます。

専門的なシステムを導入しなくても、まずはシンプルなガイドラインの整備と社員教育を並行して進めることが大切です。

6. 社内ルール策定で参考にするAI事業者ガイドライン

「AI事業者ガイドライン」は、AIの開発・提供・利用に関わる事業者がAIを安全・安心に活用するための指針です。2026年3月には第1.2版が取りまとめられ、安全性やプライバシー保護、公平性、透明性など、AIに関するさまざまな事項が示されています(参照*7) 。

中小建設会社では、自社で詳細なルールブックを作成するためのリソースが限られている場合があります。その際は、公的なガイドラインを参照し、自社に当てはまる項目を選んで整理することで、基本的なAIガバナンスの仕組みを整えやすくなります。

特に、どの情報にアクセス権を与えるのか、生成AIの回答をどのように確認するのかといった点については、必要に応じて法律の専門家やITベンダーの協力を得ると安心です。

7. まとめ

生成AIは、建設会社の業務効率化に大きく貢献する可能性があります。一方、図面や契約情報、施工データなど機密性の高い情報を多く扱う建設業では、AI社内ルールを適切に策定し、安全性と利便性のバランスをとることが重要です。

鹿島建設・清水建設・大成建設などのゼネコンの事例を参考に、利用するサービスの選定や禁止事項の明確化、生成内容の確認、社員教育などを取り入れることで、中小建設会社でも安全なAI活用を進められます。特に、情報漏えい対策や技術情報の取り扱いには十分注意し、生成された内容を人が最終確認することが欠かせません。

本記事で紹介したポイントを踏まえ、自社の規模や業務に合ったAIガバナンスの仕組みを整え、生成AIを安全かつ効果的に活用していきましょう。

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<参考文献>
(*1)建設テックの最新動向と各社のAI活用状況について|一般社団法人日本建設業連合会
https://www.nikkenren.com/kenchiku/ict/seminar/pdf/2025/R07_02.pdf

(*2)October 2023:特集 鹿島の働き方 | KAJIMAダイジェスト | 鹿島建設株式会社
https://www.kajima.co.jp/news/digest/oct_2023/feature/03/index.html

(*3)リスクマネジメント | ガバナンス | 鹿島建設株式会社
https://www.kajima.co.jp/prof/governance/risk_management/

(*4)全従業員向けに生成AIサービスの提供を開始 | お知らせ | 清水建設
https://www.shimz.co.jp/information/others/20240326.html

(*5)「シミズグループ AI基本方針」を策定 | お知らせ | 清水建設
https://www.shimz.co.jp/information/others/20250612.html

(*6)生成AIを用いた専門技術検索システムを開発 | 大成建設株式会社
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2023/231226_9849.html

(*7)AI事業者ガイドライン(第1.2版)|経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/20260331_report.html