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FlowDesignerで音響シミュレーション!CFDによる騒音・音圧の見える化入門

1. はじめに — なぜ今、音響シミュレーションなのか?

製品の静音性は、ユーザーの快適性や安全性を左右する重要な要素です。家電製品や空調設備、産業機械などの開発現場では、「音がうるさい」というクレームがブランド価値を下げてしまうことも珍しくありません。そのため、設計段階から騒音を予測し、未然に対策を講じることが求められるようになっています。

特に、空気や流体の動きが関係する騒音は「流体騒音」と呼ばれ、ファンやダクト、吸気口などに代表される構造部位で発生します。こうした騒音は、音源の位置や共鳴現象を特定するのが難しく、実機を使った騒音測定では試行錯誤に時間もコストもかかってしまいます。

そこで注目されているのが、CFD(数値流体力学)を活用した音響シミュレーションです。流体の流れや圧力分布を数値的に解析することで、騒音の発生メカニズムを可視化し、設計の初期段階から静音化対策を講じることが可能になります。

中でもFlowDesignerは、CFDと音響解析を統合した環境を提供し、圧力変動や乱流による騒音を視覚的に捉えることができます。直感的な操作画面と多彩な可視化機能により、流れの「見えない音」を読み解くことができるため、製品開発における設計精度と効率の向上を同時に実現します。

本記事では、騒音対策に悩む設計者・技術者の方々に向けて、FlowDesignerを使った音響シミュレーションの基本的な考え方から、実際の活用手順、事例までをわかりやすく解説します。

2. FlowDesignerの基本概要

引用:FlowDesigner公式サイト:https://www2.akl.co.jp/products/

FlowDesignerは、CFD(数値流体力学)を用いた流体解析ソフトウェアとして、長年にわたり多くの現場で活用されてきた実績があります。初心者でも扱いやすいインターフェースを備えながら、高度な乱流モデルや多彩な可視化手法をサポートしており、産業機械や建築、自動車分野など幅広い領域で利用されています。

近年では、単なる流体解析にとどまらず、音響解析の領域でも活用できるように機能が拡張されてきました。特に、気流による騒音を予測する技術(QE:Quietness Evaluation)や、音響設計との連携が求められる現場において、FlowDesignerはCFDと音響シミュレーションを一体的に行える点で注目を集めています。

さらに、企業向けのライセンス体系や柔軟なモデリング機能も充実しており、設計・開発における試行錯誤をバーチャル環境で何度も繰り返せることが大きな強みです。たとえば、産業用ファンの形状を変更しながら仮想的に騒音レベルを評価できるため、試作を減らして開発コストや納期を大幅に抑えることができます。

2.1 FlowDesignerとは何か?

FlowDesignerは、流体力学の理論に基づいたCFD解析を、視覚的かつ直感的に扱えるように設計された国産のシミュレーションツールです。ユーザーは3Dモデルをインポートして、空気や液体の流れ、圧力分布、速度場といった物理量を可視化しながら解析できます。

また、近年では音響解析への応用も進んでおり、圧力変動や音速を元にした音響パワーレベルの推定や、流れの乱れによって生じる音の可視化も可能となっています。たとえば、ファンや吸気口周辺で発生する流体騒音の強さや位置を明らかにし、製品の静音性を改善するための設計判断に役立てることができます。

FlowDesignerでは、音響解析の代表的な手法として「音響線形化」や「FDTD法(有限差分時間領域法)」などが利用されており、流れと音を統一的に捉えるアプローチが可能です。さらに、音の回折や干渉といった複雑な音響現象も、形状の違いによる騒音源の変化を解析することで視覚的に把握できます。

騒音問題に悩む製品開発者にとって、FlowDesignerの分かりやすい操作性は導入のハードルを大きく下げるポイントとなります。高度な設定は必要に応じて自動補完されるため、ユーザーは細かな数式にとらわれず、圧力勾配の確認や騒音レベルの評価といった本質的な作業に集中することができます。

2.2 CFDと音響シミュレーションの統合

従来、流体解析と音響解析は別々のツールで行われるのが一般的でした。CFDソフトで得られた流れの情報を音響解析ツールに手動で移す必要があり、手間がかかる上に変換ミスや整合性の問題も起きがちでした。

しかしFlowDesignerでは、CFDで計算された流速、密度、圧力などのデータをそのまま音響解析に活用できるため、設計の流れを中断することなく、統合的に「騒音対策シミュレーション」を進めることが可能です。これにより、音源の可視化と対策検討がスムーズにつながります。

たとえば、スピーカーの内部構造設計や、ファン付き機器の騒音抑制設計において、流体が乱れる箇所を特定し、それがどのように音として放射されるかを分析できます。FlowDesignerは、こうした音源の分布や音圧の伝播経路を明確に示してくれるため、騒音低減に向けた有効な改善案の立案がしやすくなります。

また、設計の最適化に向けて、形状や材料の違いによる騒音の影響を比較検討する「パラメータスタディ」も、FlowDesigner上で効率的に実行できます。乱流モデルを切り替えながら複数のパターンを一括解析することで、最小限の試行回数で最大の静音効果を持つ設計案を見つけることができます。

3. 音響シミュレーションの基礎

騒音対策を効果的に行うには、まず音がどのように発生し、どのように周囲に広がっていくのか、その仕組みを正しく理解することが欠かせません。特に、機械や空調設備などの設計現場では、空気の流れによる「流体騒音」が騒音の主な原因になることが多くあります。

このような流体騒音は、流速の変化や渦の発生といった現象により、目に見えない圧力の波として周囲に広がっていきます。音の発生箇所やその影響範囲は、形状や運転条件によって大きく変わるため、実機ではなく設計段階でその振る舞いを予測できることが、製品品質や開発効率の向上につながります。

また、音の伝わり方には、波の反射・回折・干渉といった複雑な現象が関係しており、単に「どれくらいの音が出ているか」だけでなく、「どこに、どのように音が届くか」まで考慮する必要があります。こうした音のふるまいを数値的に再現し、視覚化する技術が音響シミュレーションです。

FlowDesignerは、CFDで得られた流体解析の結果をもとに、音響に関する情報を導出し、騒音の発生と伝播をシミュレーションする機能を備えています。これにより、試作なしで騒音源の位置や原因を特定し、最適な対策を検討することが可能となります。

以下では、音の基本的な性質と、FlowDesignerによる音響シミュレーションの実施ステップについて、順を追って見ていきます。

3.1 音響の物理的特性と基本用語

音とは、空気や水などの媒質中を伝わる圧力の波であり、耳に届いたときに「音」として知覚されます。流体中の局所的な圧力の変化が時間的に伝播することで、音波として周囲に広がっていくのがその基本的な仕組みです。

音の速さ、つまり音速は、空気中ではおおよそ340m/s(温度や気圧により変動)で伝わります。音の「高さ」は波の周波数によって決まり、例えば高周波になるほど高い音として、人間の耳には聞こえます。

音の大きさを数値で表す際には、一般的に「デシベル(dB)」という単位が使われます。これは対数スケールで表現されており、10dBの差があると、おおよそ2〜3倍の大きさの違いとして体感されるのが一般的です。音響シミュレーションでも、音圧レベルや音響パワーレベルをdB単位で評価するのが主流です。

また、構造物に空洞や共鳴部がある場合、特定の周波数で音が大きく増幅される「共鳴現象」が発生することがあります。この現象は、実際の騒音の聞こえ方に大きな影響を与えるため、設計初期段階での考慮が非常に重要です。

このような音響現象の正確な理解と可視化によって、設計時に必要な防音処理や騒音源の除去がより効果的に行えるようになります。

3.2 音響シミュレーションの基本プロセス

FlowDesignerで音響シミュレーションを行う際は、まずCFDによって対象領域の流れ場を計算し、流速、圧力分布、渦の発生箇所などの情報を取得します。この流体解析の段階が精度の基盤となるため、乱流モデルの選択が非常に重要です。代表的なモデルには、k-εモデルや、大規模渦を直接追跡できるLES(Large Eddy Simulation)などがあります。

次に、CFDで得られた圧力変動などの物理量をもとに、音波としての成分を抽出し、音の伝播をシミュレーションします。FlowDesignerでは、音響線形化に加え、FDTD法(有限差分時間領域法)などの手法により、音響波動方程式を時間領域で数値的に解くことが可能です。

このFDTD法を活用することで、音がどのように空間内を伝わるかを時間の経過とともに詳細にシミュレートできます。障害物に当たって反射したり、壁の端を回り込んで回折したりする様子も視覚的に確認できるため、空間全体での音のふるまいを把握しやすくなります。

FlowDesignerでは、これらの解析結果を3Dで可視化できるため、音圧レベルや音源位置が視覚的に明確になります。どの部位が主な音源となっているか、特定の周波数帯で騒音が強く出ている箇所はどこかといった情報が一目で把握でき、静音化に向けた設計修正に活かすことができます。

このように、FlowDesignerによる音響シミュレーションは、数値解析と視覚化を組み合わせることで、実際の製品開発や設備設計に直結する高い実用性を備えています。

なお、FlowDesignerを用いた音響解析では、対象とする周波数帯にも注意が必要です。一般に、FDTD法のような時間領域手法を用いる場合、高周波数(たとえば10kHz以上)の音波を解析するには、非常に細かい空間メッシュと短い時間ステップが必要になります。これは、波長が短くなる高周波数帯では、精密な空間・時間分解能が求められるためです。

FlowDesignerは、主に低〜中周波数帯(数百Hz〜数kHz程度)の解析を得意としています。室内騒音やファン騒音、空調設備の風切り音など、実務上多くの騒音課題においては十分な解析精度を発揮しますが、可聴域の上限(20kHz付近)や超音波領域を対象とする場合には、計算コストが増大し、精度確保が難しくなる可能性があります。

このため、高周波ノイズの詳細解析が必要な場面では、専用の高精度音響ソルバー(例:Actranなど)との併用や、対象周波数に応じたモデル分割を検討することが推奨されます。

4. FlowDesignerでの音響解析ステップ

ここからは、FlowDesignerを使って騒音や音圧分布をどのように解析するか、その一連の流れを具体的に解説します。モデル作成から解析の実行、そして結果の可視化と評価まで、各ステップを丁寧に進めることで、設計段階での意思決定がよりスムーズになります。

音響シミュレーションを正しく行うためには、まずベースとなる流体解析の精度をしっかり確保することが不可欠です。特に、ファンや送風経路のように騒音が発生しやすい部位においては、その形状や境界条件を的確にモデリングすることで、より現実に近い音響予測が可能になります。

また、解析の目的に応じて乱流モデルや音響解析の手法を選び分ける必要があります。騒音の発生位置を明らかにしたいのか、周囲への伝播を重視するのか、あるいは設計変更による比較検証を行いたいのか。それぞれに適した設定を行うことで、信頼性の高い結果が得られます。

最終的に、音響特性の評価では、デシベル表示による騒音レベルの可視化や、特定周波数帯での音源解析など、設計判断に直結するデータを得ることができます。本章では、これらの流れをステップごとに解説していきます。

4.1 モデルの準備と設定

まず最初のステップは、対象とする機器や空間の3Dモデルを用意し、流体および音響解析に適した形でメッシュを生成することです。音響シミュレーションでは、圧力波の変化を捉えるためにある程度細かいメッシュが必要となるため、特に流れの急変が生じる領域や回転体周辺などは高密度に設定することが推奨されます。

次に、流体の物性値、たとえば空気の密度や音速などを正確に設定します。これは解析結果の物理的妥当性を保つための基本であり、実機の使用環境を想定した条件を忠実に再現することが望まれます。温度や気圧の違いが音速に影響を与える点も考慮すべきです。

また、騒音源となる要素(たとえばファンのブレードや吸排気口)を構造的に明確に分けてモデリングしておくと、後の騒音可視化がより正確になります。さらに、音圧レベルを観測したい場所(たとえば外装部や特定の受音点)を事前に指定しておくことで、解析後の比較や評価がスムーズになります。

この段階で重要なのは、想定される運転条件に合わせた入力パラメータの設定です。ファンの回転数、風量、通風経路の断面積など、実際の使用環境に近い条件をモデルに反映させることで、現実的なシミュレーション結果が得られます。

4.2 境界条件の設定と解析実行

次に行うのが、解析領域における境界条件の設定です。これは、流体の出入り口や壁面の特性など、モデルを囲む条件を定義する作業で、解析精度に大きな影響を与えます。たとえば、吸音性のある壁材か、反射性の高い金属かによって、音の伝播挙動は大きく変化します。

また、流体の入口には速度や流量、温度といった条件を与え、出口には圧力一定や流出自由といった設定を施す必要があります。音響解析では、これらの条件に加えて「音響透過境界」や「吸音境界」など、音の挙動に関わるパラメータも設定することで、より現実に近い解析が可能になります。

FlowDesignerで解析を開始すると、ソルバーが時間の進行に沿って流れや圧力、音圧の変化を逐次計算していきます。FDTD法などを使えば、非定常な圧力波の動きをリアルタイムに再現することもでき、音の伝播経路や反射ポイントなどを視覚的に把握できます。

大規模なモデルや高解像度メッシュを用いる場合、計算にかかる負荷は大きくなります。そこで並列計算機能やクラウドリソースを活用することで、計算時間を短縮しつつ解析精度を維持する工夫が求められます。

もし解析中に解が発散したり、結果が不安定になる場合は、境界条件や乱流モデルの設定を見直す必要があります。使用しているモデルによっては、初期条件の揺らぎや境界層処理の不足が原因となるため、モニタリンググラフをこまめに確認しながら調整を進めることが重要です。

4.3 結果の解釈と可視化

解析が完了したら、得られたデータをどのように読み取り、設計や評価に反映させるかが重要になります。FlowDesignerには多彩な可視化機能が備わっており、音圧レベルの分布や圧力コンター図を3Dで表示することで、音の発生源や強度の集中箇所を直感的に把握することができます。

騒音源解析では、音圧が特に高くなるポイントを探し出し、その部位における流れの乱れや渦の発生状態をあわせて確認します。流体力学的に見て圧力勾配が大きい領域や、速度の急変が起きている箇所は、騒音発生の可能性が高い領域として特定できます。

これに加えて、特定の周波数帯域に注目した伝播解析を行うことで、共鳴や定在波といった問題が生じるリスクを早期に把握することができます。周波数分析によって、吸音材の選定や構造の最適化といった対策の方向性を定量的に評価できます。

可視化された結果は、設計レビューや顧客への報告資料としても活用でき、騒音対策の意図や効果をわかりやすく伝える手段となります。また、対策前後のシミュレーション結果を比較することで、設計の改善効果を数値で証明できる点も大きなメリットです。

このように、FlowDesignerの音響解析は、単なる数値評価にとどまらず、設計の説得力を高める「視覚的な根拠」としても、大きな役割を果たします。

5. 実際の活用事例

ここでは、FlowDesignerの音響解析機能が実際の設計・開発現場でどのように活用されているか、具体的な事例を通じて紹介します。騒音発生源の特定や音圧レベルの予測といった直接的なニーズへの対応だけでなく、静音化による製品の差別化や、住環境の改善といった間接的な価値にもつながる点がポイントです。

騒音対策は単に音を小さくするだけではありません。快適な生活環境や作業空間を実現することは、ユーザー満足度や企業の信頼性を高める重要な要素であり、ブランドイメージにも直結します。また、製品開発の現場では、騒音に関する要件をクリアすることで、各種規格への適合や市場競争力の向上といった副次的な効果も得られます。

FlowDesignerは、その視覚的で直感的な解析結果を通じて、設計者や関係者が共通のイメージを持ちやすく、対策方針を明確に共有できる点でも高く評価されています。以下に紹介する2つの事例では、騒音の発生原因を定量的に特定し、対策の効果を数値とビジュアルで確認できたことで、設計判断や関係部門との合意形成がスムーズに進みました。

5.1 産業機械における騒音低減

製造工場などで稼働する大型ファンやコンプレッサーは、動作中にかなりの騒音を発生させます。こうした機器の騒音は、作業員の健康や集中力に影響するだけでなく、施設周辺への環境負荷としてクレームにつながることもあります。そのため、早い段階から静音化の取り組みを行うことが強く求められています。

ある産業機械メーカーでは、工場内に設置する大型ファンの静音化を目的としてFlowDesignerを導入しました。従来は試作機を用いた実験的な騒音評価が中心でしたが、時間とコストがかかるうえ、効果の見通しが立ちにくいという課題を抱えていました。

FlowDesignerによる解析では、ファンのブレードとカバー部の隙間に発生する高乱流域が、主要な騒音源であることが判明しました。これを受けて、ブレードの先端形状をわずかに変更し、さらに吸音材を配置したところ、シミュレーション上で音圧レベルが十数dB低下するという予測が得られました。その後の実機検証でも、ほぼ同等の騒音低減効果が確認されました。

このプロジェクトでは、可視化された騒音分布や気流の挙動を資料として社内外に提示したことで、設計変更の妥当性が理解されやすくなり、上層部の意思決定や取引先への説明もスムーズに進んだといいます。騒音対策が明確な根拠とともに提示できたことで、対策費用の投資判断も後押しされ、結果的に開発の効率化と品質向上の両立が実現されました。

5.2 建築設計での音響環境改善

建築分野でも、空間の快適性を左右する要素として音響対策の重要性が高まっています。オフィスビルや集合住宅などでは、外部の騒音が内部空間に与える影響をできるだけ抑える必要があり、特に空調設備や外構機器の配置においては設計段階での騒音シミュレーションが求められています。

ある建築設計プロジェクトでは、屋上に設置する空調室外機から発生する風切り音が、周辺住民にとっての騒音源になりうることが懸念されていました。従来の対策では、経験則や遮音性能の試算をもとに防音壁を設計していましたが、音の伝播経路を正確に把握する手段がなく、過剰設計や対策の不十分さにつながることがありました。

そこでFlowDesignerを用いて、室外機からの騒音がどの方向にどの程度伝わるかを解析した結果、特定の時間帯に風向きと反射の関係で騒音が集中的に拡散するエリアが判明しました。この情報をもとに、防音壁の高さと配置を再検討し、必要最小限の構造変更で十分な遮音効果を得ることができました。

騒音伝播の可視化結果は、建築主や近隣住民との説明資料としても活用され、「なぜこの位置に壁を設置するのか」「どれほどの効果があるのか」が明確に伝わったことで、関係者の納得を得ることにも成功しました。結果として、建築物の評価も高まり、周辺環境への配慮が行き届いた設計として高く評価される事例となりました。

6. FlowDesignerと他の音響解析ツールの比較

騒音対策のためのシミュレーションツールにはさまざまな選択肢があります。なかでも広く知られているのが、ANSYS FluentやActranなどの高機能解析ソフトです。これらのツールは、複雑な音響伝播や構造音連成などにも対応しており、非常に精密な結果が得られる一方で、高度な知識や運用コストを必要とする傾向があります。

そうした中で、FlowDesignerはCFDと音響解析の両方を、比較的扱いやすいインターフェースで提供している点で、設計現場での初期検討や対策の方向性を素早く掴むのに適したツールといえます。解析の自由度と操作の簡便さがバランスよく設計されており、設計者自身が仮説検証や比較評価を実施できる点が大きな魅力です。

たとえば、ANSYS Fluentは、乱流モデルやマルチフィジックス解析に強みを持ち、大規模かつ精緻なCFD・音響連成解析を行いたい場合に向いています。航空宇宙や自動車のような厳密なエンジニアリング分野では欠かせないツールですが、その分、専門知識や解析設定にかかる工数が多く、短納期での検討や初期設計には向かない場合もあります。

一方、Actranは音響解析に特化したソフトウェアであり、構造物の振動や音響放射といった物理現象を非常に細かくシミュレーションできます。多層壁材の吸音特性や構造物の音響共鳴といった詳細な挙動を精密に捉えることができますが、CFDとの連携には別途インターフェース設定やチューニングが必要で、運用の柔軟性にはやや制約があります。

それに対してFlowDesignerは、CFDの延長で音響解析ができる統合型の構成であり、モデリングから解析、結果の可視化までを一つのツールで完結させることが可能です。これにより、騒音源の傾向を早期に把握し、設計段階での騒音予測や改善案の立案に素早く対応できる環境を実現しています。

製品開発や建築プロジェクトの内容、必要とされる解析精度や業務の体制によって、適切なツールは変わってきます。フルスケールでの詳細検討が必要なケースではFluentやActranが有効ですが、導入のしやすさや学習コスト、社内展開のしやすさを重視する場合はFlowDesignerが有力な選択肢になります。

実際、多くの現場では「まずは騒音の傾向を掴みたい」「簡易な音圧分布を見ながら対策効果を比較したい」といった初期検討フェーズにおいて、FlowDesignerの使いやすさが高く評価されています。導入ハードルが低く、直感的な操作が可能である点から、CFDや音響解析の専門家でなくとも試行錯誤を進められるのが強みです。

7. まとめ:FlowDesignerで広がる音響解析の可能性

騒音は、製品の快適性や建築空間の品質を大きく左右する重要な設計要素です。しかし、その原因となる音の発生や伝播のメカニズムは複雑で、目に見えないために「気づいたときには遅い」ということも少なくありません。こうした課題に対して、数値流体力学(CFD)と音響解析を組み合わせて可視化・予測できる技術は、設計の現場に新たな可能性をもたらします。

FlowDesignerは、CFDと音響解析を統合的に扱える環境を提供することで、騒音の発生箇所や伝播経路を視覚的に捉え、静音化設計に向けた具体的な判断を早期に下すための有効なツールとなります。ユーザーフレンドリーな操作性と豊富な可視化機能により、専門家だけでなく、設計担当者自身が試行錯誤を繰り返しながら対策の検討を進められる点も魅力の一つです。

また、FlowDesignerの導入は、単なる騒音対策にとどまらず、設計品質の向上や開発の効率化、さらには関係者との円滑なコミュニケーションにも寄与します。音響可視化という共通言語を通じて、設計者・開発者・顧客の間で合意形成がしやすくなり、トラブルの予防や意思決定の迅速化が図れるからです。

今後、より高性能な計算環境の普及やAIによる自動最適化の進展により、音響シミュレーションの精度とスピードはさらに向上していくでしょう。FlowDesignerのような実践的な解析ツールを活用することは、騒音トラブルを未然に防ぐだけでなく、製品や建築の価値を高めるための重要な戦略の一つになります。

目に見えない「音」を、設計の力でコントロールする。それは、エンジニアにとって新しい挑戦であり、同時に大きな可能性を秘めた領域です。FlowDesignerを使った音響シミュレーションは、その第一歩を後押ししてくれる強力なパートナーとなるでしょう。

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参考情報

・アドバンスドナレッジ研究所

https://www2.akl.co.jp/

・逆解析機能|アドバンスドナレッジ研究所|熱流体シミュレーションソフトFlowDesigner

https://www2.akl.co.jp/products/advanced/

・用語解説 | 公益社団法人 日本騒音制御工学会

https://www.ince-j.or.jp/question/glossary

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