1. TOP
  2. ブログ
  3. 3D配筋とは?利用される技術から対応ソフトウェアまでやさしく解説

3D配筋とは?利用される技術から対応ソフトウェアまでやさしく解説

1. はじめに:建設業界の“新常識”3D配筋とは?

建設現場では、コンクリート構造物をつくる際に鉄筋の配置が欠かせません。しかし、従来の2D図面だけでは、複雑な形状や鉄筋の密集箇所を正確に把握するのが難しく、施工ミスや手戻り、追加コストの原因となることもありました。

こうした課題を解決する新しいアプローチとして注目されているのが「3D配筋」です。その名の通り、鉄筋を立体的なデジタルモデルで表現・管理することで、実際の構造や他部材との干渉関係を“目で見て”確認できるようになります。結果として、図面の読み間違いや施工現場での混乱を大幅に減らすことが期待されています。

3D配筋は、建設業界で進むDX(デジタルトランスフォーメーション)やBIM(Building Information Modeling)とも深く関係しています。これまで職人の経験や紙図面に頼っていた作業工程をデジタル化し、効率的かつ正確に進めることができるようになるのです。

現在では、大規模な建築設計から小規模な現場まで、幅広いプロジェクトで3D配筋の導入が進みつつあります。鉄筋の数量を自動で算出したり、干渉をリアルタイムでチェックしたりと、設計・施工の両面で大きな効果を発揮しています。

本記事では、「3D配筋とはどのような技術なのか?」という基本から、そのメリットや導入時のポイント、今後の展望までをわかりやすく解説します。施工ミスの削減や業務の効率化を目指す建設関係者の方にとって、3D配筋はまさに“これからの常識”と言える技術です。

2. 3D配筋とは?基本概念をわかりやすく解説

引用:https://archi.fukuicompu.co.jp/products/gloobe_c/frame.html

3D配筋とは、その名の通り「鉄筋を三次元で表現する技術」のことです。従来は鉄筋の配置を平面図や断面図といった2D図面で表していましたが、3D配筋を使うことで、建物内部に配置された鉄筋の位置や重なり具合を立体的に視覚化できるようになります。これにより、配筋計画の全体像を把握しやすくなるだけでなく、設計者・施工者・発注者といった関係者全員が、同じイメージを共有しながらスムーズに意思疎通できるようになるのが大きな特徴です。

3D配筋が注目されている背景には、BIM(Building Information Modeling)やi-Constructionといった業界全体のデジタル化の流れがあります。BIMは建物の形状や構造、材料、施工スケジュールなどをすべて一元的にデータで管理する仕組みで、3次元のモデルを用いて設計から施工、維持管理までを統合的に行うことができます。このBIMの広がりとともに、鉄筋も従来の2D表現ではなく、BIMモデルの一部として3次元で管理される必要が出てきたため、3D配筋への関心が急速に高まっているのです。

また、建設現場では、2D配筋図だけでは理解しにくい複雑な箇所が多く存在します。図面の読み違いや見落としにより、工事が遅れたり、再施工が必要になったりすることも少なくありません。3D配筋を用いれば、設計段階から鉄筋配置を視覚的に把握できるため、干渉の発見や修正が早期に行え、施工の効率化と品質の向上に大きく貢献する可能性があります。


2.1. 3D配筋の定義:鉄筋を立体的にモデリング

3D配筋とは、鉄筋を一本ずつコンピュータ上の仮想空間に配置し、立体的な形状としてモデリングする技術です。具体的には、鉄筋の直径や長さ、曲げ形状、定着長さなどの属性情報を3D CADやBIMソフトウェア上で設定し、そのデータをもとに鉄筋を三次元モデルとして画面上に表示します。

3Dモデルは、ただ表示するだけでなく、回転・拡大・断面表示なども自由に行えるため、構造物の内部がどのようになっているかを詳細に確認できます。これにより施工者は、「どこに、どのような鉄筋が入っているのか」を視覚的に理解できるため、図面だけでは把握しにくかった部分もスムーズに読み取れるようになります。

また、立体モデルによって得られるデータは、干渉チェックや鉄筋数量の自動集計にも活用されます。たとえば、RC(鉄筋コンクリート)構造において、配筋計画と配管設備などの配置を同時に検討する場合、3Dモデルなら両者が干渉しないかどうかを事前に確認することが可能です。これにより、設計の整合性が高まり、現場での修正作業や手戻りのリスクを大幅に減らすことができます。


2.2. 2D配筋図との違い:見える・わかる・伝わる

従来の2D配筋図は、鉄筋の配置を平面や断面の記号や記述で示しており、図面を読むには高度な知識や経験が必要でした。特に、梁やスラブ、配管などが交差する複雑な部分では、位置関係を正確に把握するのが困難で、図面上では見落としや誤解が起こりやすくなっていました。若手技術者や図面に慣れていない職人にとっては、混乱の原因となるケースも少なくありません。

一方、3D配筋では建物内部を“透かし見る”ように表示したり、任意の断面を切り取って確認できたりするため、鉄筋の重なりや通り道が直感的に理解できます。これにより、「見てわかる」ことが可能になり、設計意図の伝達が格段にスムーズになります。

また、3Dモデルは発注者や設計者、施工現場の職人など、立場の異なる関係者同士をつなぐ“共通言語”としても有効です。難解な専門用語や複雑な図面を使わなくても、「ここで干渉が起きそうです」といった指摘を視覚的に説明できるため、意思疎通の手間や認識のズレを大幅に減らすことができます。


2.3. 使用される主な形式と技術:IFCなど

引用:https://www.buildingsmart.org/standards/bsi-standards/industry-foundation-classes/

3D配筋を活用するためには、BIMソフトウェアとのスムーズな連携が不可欠です。BIMでは建築設計から構造、設備、施工、管理までの情報を一元管理するため、配筋モデルもその一部として正しく取り込めるよう、共通のデータ形式が必要になります。その代表例が「IFC(Industry Foundation Classes)」という標準フォーマットです。

IFCは建設業界におけるオープンなデータ形式で、RevitやTekla Structures、GLOOBEなど、異なるソフトウェア間でも情報のやり取りを可能にします。たとえば、鉄筋モデルをIFC形式で出力すれば、異なるベンダーのソフトでもその形状や属性情報を継承しながら編集・確認ができ、設計事務所や施工会社、協力会社などの間でスムーズな連携が実現します。

また、日本国内で多く利用されている福井コンピュータの「GLOOBE」といったソフトにも、3D配筋を扱える機能が搭載されています。GLOOBEは日本の建築基準法や実務に特化した設計支援機能を備えており、JIS規格や公共工事の指針に対応した使いやすさが魅力です。こうしたソフトウェアと標準フォーマットの組み合わせによって、3D配筋の導入・運用が現場レベルでもより現実的なものとなっています。

3. 3D配筋の主なメリット

3D配筋を導入する最大のメリットは、設計・施工の両面において手戻りの大幅な削減が期待できることです。これまでの現場では、施工が始まってから「鉄筋と配管が干渉してしまった」「梁の下にスペースが足りなかった」といった問題が発覚し、設計変更や再施工が必要になるケースが少なくありませんでした。これにより工期が延びたり、余計な人件費や資材コストが発生したりする事例も数多く報告されています。

3D配筋を活用すれば、こうした問題を設計段階で視覚的に発見し、干渉の早期発見と修正が可能になります。また、鉄筋の数量をソフトウェアが自動で集計してくれるため、これまで手作業で行っていた複雑な計算作業が不要になり、精度と効率が大きく向上します。ミスが減るだけでなく、設計業務にかかる時間や人手も削減でき、他の作業にリソースを振り向けることが可能です。

ここでは、3D配筋がもたらす代表的なメリットを4つの視点で解説していきます。いずれも、現在の建設現場が抱える課題を解決し、将来的な業務改善にもつながる要素ばかりです。導入の判断材料として、ぜひ参考にしてください。


3.1. 干渉チェック:配管・梁・開口部などとの衝突回避

近年の建物は、高度な設備や多様な構造要素を内包しており、鉄筋の周囲には配管・ダクト・電気配線などが複雑に入り組んでいます。こうした要素が混在する空間では、事前に干渉を確認しておかなければ、施工時に鉄筋と他部材がぶつかるリスクが高くなります。特に2D配筋図だけでは、空間の奥行きや高さ関係が把握しにくく、図面では問題に気づけなかったというケースも多くあります。

3D配筋を使えば、鉄筋や配管、建築構造体などをひとつのモデル上で重ね合わせ、立体的な干渉チェックを行うことができます。たとえば、RevitやTekla StructuresといったBIMソフトウェアでは、干渉箇所を色付きでハイライト表示する機能があり、重なりやクリアランス不足の箇所を一目で確認することが可能です。これにより、施工前の段階で問題箇所を修正し、計画の見直しや設計変更をスムーズに進めることができます。

さらに、過密な配筋によってコンクリートの打設が困難になるといった施工品質への影響も、3Dで確認することで事前に回避できます。構造計算の結果と照らし合わせながら、施工性と安全性のバランスがとれた設計を実現できる点は、現場の生産性と品質向上に大きく貢献します。


3.2. 視覚的な理解の促進:施工者や発注者との意思疎通

3D配筋が持つ「視覚的にわかる」という特性は、関係者間の意思疎通を飛躍的に改善する効果があります。従来の2D配筋図は、図面の読み取りにある程度の専門知識が必要であり、特に経験の浅い技術者や現場作業員、あるいは建設に詳しくない発注者にとっては、内容を正確に理解するのが難しい場面も少なくありませんでした。

3Dモデルであれば、建物の内部構造や鉄筋の配置が立体的に表示されるため、「どこに何があるか」が直感的に伝わります。例えば、現場説明の際に3Dモデルを見せながら「この鉄筋がここで配管と干渉しそうです」と示すことで、図面上では伝わりにくかった内容も一目で理解してもらえるようになります。

この「見てわかる」利点は、設計者から現場担当者、さらには発注者や管理者まで、立場の異なるメンバーをスムーズにつなぐ共通のコミュニケーションツールとして非常に有効です。設計意図や変更理由の説明がしやすくなり、誤解や説明不足によるトラブルを防ぐだけでなく、プロジェクト全体の進行を円滑にします。

また、若手技術者の教育面でも、3Dモデルは有効な学習ツールとなります。紙の図面だけでは難しかった空間の理解も、立体的に見せることで直感的に学ぶことができ、技術習得のスピードアップにもつながります。


3.3. 鉄筋数量の自動算出:ミスの削減と業務効率化

3D配筋が実務でとくに重宝される理由のひとつが、鉄筋数量をソフトウェアで自動集計できるという点です。従来は、2D配筋図から鉄筋の本数や長さ、曲げ加工の形状を読み取り、手作業で数量を算出していました。この作業には手間がかかるうえ、人為的なミスも起こりやすく、設計変更が発生した際には再集計が必要になるなど、大きな負担となっていました。

3D配筋では、鉄筋の形状や属性をモデリングした段階で、その情報が自動的に数値化されます。たとえば、ある梁にどれだけの本数と長さの鉄筋が必要か、曲げ加工の詳細、重複部分まで含めてシステムが正確に計算してくれるため、計算ミスや集計漏れのリスクを大幅に軽減することが可能です。

また、数量のデータは他のシステムと連携させることで、鉄筋加工帳の作成や材料発注、コスト見積もりにも活用できます。設計変更が発生した場合も、モデルを更新するだけで数量がリアルタイムで再計算されるため、作業のやり直しが不要になり、スピーディかつ柔軟な対応が可能です。これにより、業務全体の効率化とコスト削減が同時に進みます。


3.4. BIMとの連携:一元管理による設計~施工の最適化

3D配筋は、BIM(Building Information Modeling)との組み合わせによって、その真価をさらに発揮します。BIMは建物に関するすべての情報をデジタルで統合・管理する仕組みであり、建築・構造・設備など複数の分野が同じプラットフォーム上で連携することができます。3D配筋をBIMに組み込むことで、鉄筋の情報も他の構成要素と一体で扱えるようになり、プロジェクト全体の調整や管理が格段に効率化されます。

たとえば、RevitやTekla StructuresといったBIM対応ソフトウェアに3D配筋データを組み込むことで、配筋計画と空調・電気設備、構造部材の配置などを同時に検討でき、施工順序の最適化や材料の手配計画にも活かすことが可能です。これにより、設計~施工に至る全工程を通して、整合性のある情報管理が実現し、作業の重複や連携ミスの防止につながります。

さらに、国土交通省が推進するCIM(Construction Information Modeling)との親和性も高く、3D配筋を含むBIMモデルは、今後ますます公共事業などでの標準手法として浸透していくと考えられます。こうした背景をふまえると、BIMと3D配筋の連携は、建設業界におけるDXの要となる存在であり、今後のプロジェクト運営において重要な武器となるでしょう。

4. 対応ソフトウェア紹介:どんなツールで実現できるか?

3D配筋を実現するには、専用のソフトウェアの活用が欠かせません。それぞれのソフトには独自の強みがあり、操作性や機能、対応するプロジェクトの規模などが異なります。そのため、導入を検討する際は、プロジェクトの内容や現場のニーズに応じて最適なソフトを選ぶことが重要です。

現在、多くの現場で使われているBIMソフトウェアには、Autodesk社の「Revit」、Trimble社の「Tekla Structures」、そして日本国内で開発された福井コンピュータの「GLOOBE」などがあります。いずれのソフトも、3D CAD機能に加えて、干渉チェックや鉄筋数量の自動算出、施工図面の出力といった実務を支援する機能を搭載しており、建設現場のDXを推進するための有力なツールです。

また、これらのソフトは「IFC(Industry Foundation Classes)」と呼ばれる標準フォーマットを通じてデータのやり取りができるため、異なるベンダーや協力会社との間でもスムーズに情報を共有することが可能です。操作に慣れるまでは研修やマニュアルが必要ですが、導入が軌道に乗れば、設計や施工の現場に大きな効果をもたらしてくれるでしょう。

以下では、代表的な3つのソフトウェアについて、それぞれの特徴や活用シーンを詳しくご紹介します。


4.1. Revit(Autodesk):建築設計と統合しやすい

引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Autodesk_Revit

Revitは、建築設計・構造設計・設備設計を一つのプラットフォーム上で統合的に扱えるBIMソフトウェアで、特に建築設計と構造分野での採用が多いことで知られています。3D配筋に関しても、高度なモデリング機能が備わっており、設計者が直感的に鉄筋を配置できるようになっています。鉄筋の配置後は、干渉チェックや数量算出をそのまま行えるため、設計から施工準備までの流れを効率化することが可能です。

また、RevitはAutodesk社の製品群との親和性が高く、AutoCADなどの他ソフトからのデータインポートもスムーズです。すでにAutoCADを利用している会社であれば、Revitへの移行も比較的容易であり、既存の設計資産を活かしたまま3D配筋に対応できるのも大きな利点と言えるでしょう。

一方で、Revitは機能が非常に多岐にわたるため、初めて使う場合は操作に慣れるまでに時間がかかることがあります。効果的な活用のためには、社内研修やマニュアル整備、専門知識を持つ担当者の配置など、導入後の体制づくりも重要です。適切な準備を行えば、Revitは強力な業務支援ツールとして活躍してくれます。


4.2. Tekla Structures(Trimble):構造詳細の高精度モデル

引用:https://cdestructures.com.au/tekla-structures/

Tekla Structuresは、構造設計に特化した高精度なBIMソフトウェアとして知られており、特に鉄筋やコンクリートのモデリングに強みを持っています。3D配筋の分野では、非常に細かい設定が可能で、鉄筋の定着長さや曲げ形状、継手の配置といったディテールまで忠実に表現できるため、実際の施工を意識した設計を行いたい現場に最適です。

特筆すべきは、その精密さとリアルさです。施工性を考慮した配筋配置や、施工段階での組立性をあらかじめ確認する機能など、実務に直結する高機能が備わっています。海外の大規模プロジェクトでも多く導入されており、グローバルな技術標準にも対応できるソフトです。特に橋梁やトンネルといった土木構造物の配筋設計においては、その精度の高さが大きな武器となります。

ただし、これだけの機能を活かすには、それなりの学習コストと設備投資が必要です。大規模で複雑な構造物を扱うプロジェクトには非常に適していますが、小規模な建物に導入する場合は、機能の一部しか活かせない可能性もあります。プロジェクトの規模や複雑さ、予算に応じて、導入の可否を検討することが求められます。


4.3. GLOOBE(福井コンピュータ):日本の建築設計向け

引用:https://archi.fukuicompu.co.jp/products/gloobe/

GLOOBEは、日本国内の建築実務に最適化されたBIMソフトウェアで、国産ならではの操作性やサポート体制の手厚さが特長です。JIS規格や各自治体の設計基準に沿ったテンプレートや設定項目が充実しており、日本国内の公共事業や民間案件でスムーズに使える環境が整っています。英語ベースの海外製ソフトに不安がある企業にとっては、GLOOBEの日本語対応やマニュアルの充実は大きな安心材料です。

GLOOBEにも3D配筋を扱える機能が搭載されており、住宅から中規模の建築まで、さまざまな建設プロジェクトに活用されています。たとえば、RC造の住宅の配筋設計や、小規模な商業施設の鉄筋干渉チェックなどでも十分に効果を発揮します。特に、日本国内での導入事例が豊富なため、初めて3D配筋に取り組む設計事務所や建設会社でも、比較的スムーズに運用を開始することができます。

さらに、他のBIMソフトとの連携も意識されており、IFC形式でのデータ出力・入力にも対応しています。これにより、GLOOBEで作成したモデルを他社の設計チームや施工管理部門と共有することも可能で、設計・施工の一貫性を確保しやすい点も評価されています。中小規模案件への導入にも適しており、国産BIMとして着実に支持を広げているソフトウェアです。

5. 3D配筋導入のポイントと課題

3D配筋の技術は多くのメリットをもたらす一方で、実際に導入する際にはいくつかの課題にも直面します。特に、ソフトウェアの導入コストや社内教育にかかる時間、既存の業務フローとの調整といった点は、多くの企業にとって慎重な判断が求められる要素です。こうした導入時の“壁”を正しく理解し、現実的な対策を講じることで、スムーズな運用と効果的な活用につなげることができます。

また、3D配筋を取り入れる際には、必ずしもすべての業務を一気に切り替える必要はありません。まずは一部の重要な構造や複雑な箇所に限定して試験的に導入し、効果を確認しながら段階的に運用範囲を広げていく方法も有効です。部分導入であっても、施工品質や業務効率に目に見える成果が得られれば、社内の理解や投資判断にも良い影響を与えるでしょう。

以下では、3D配筋導入に際して特に注目すべき4つのポイントを取り上げ、それぞれの課題と対応策について具体的に解説していきます。


5.1. 初期コストと学習コスト

3D配筋を活用するには、まずソフトウェアのライセンス費用やサブスクリプション契約にかかるコストを見積もる必要があります。加えて、3DモデリングやBIM運用を快適に行うためには、それに見合ったスペックのパソコンや周辺機器も必要となるため、ハードウェアのリプレースが必要になる場合もあるでしょう。

さらに、ソフトを使いこなすための社員教育や操作トレーニングにも時間とコストがかかります。操作に慣れるまでには一定の時間が必要で、業務の合間に学習時間を確保しなければならないケースもあるでしょう。こうした「初期投資の大きさ」は、特に中小規模の会社にとって導入のハードルとなりやすい要素です。

ただし、これらの投資は長期的に見れば回収可能なコストでもあります。たとえば、施工ミスの削減による再工事の減少や、見積もり精度の向上による資材ロスの防止といった効果は、目に見えないコストダウンにつながります。短期的な費用だけでなく、中長期的な生産性の向上や品質強化という視点で導入判断を行うことが重要です。

また、近年では操作マニュアルやオンライン講座が充実しているソフトも多く、外部講習に頼らずとも社内で効率的に学習できる環境が整ってきています。これらをうまく活用することで、学習負担を軽減しながら技術を習得できる可能性も高まっています。


5.2. 社内での運用体制の整備

3D配筋を社内で活用していくためには、ソフトウェアを導入するだけでは不十分です。設計チーム・施工管理チーム・現場担当者など、関係するすべての部門が情報を共有し、連携して運用できる体制を整えることが不可欠です。そのためには、既存の業務フローを見直し、新しい運用ルールを定める必要があります。

たとえば、2D配筋図と3Dモデルを併用する場合、それぞれの役割や活用タイミング、管理方法を明確にしないと混乱が生じます。また、クラウドやネットワークを活用してモデルを共有する体制がなければ、遠隔地の現場や外部パートナーとの連携が滞るおそれもあります。

そのため、3D配筋を導入する際には、まず社内のITインフラやデジタル業務環境の現状を確認し、必要な整備を行うことが大切です。さらに、操作を熟知した担当者を中心にした技術支援チームを立ち上げ、他部署への教育や運用サポートを継続的に実施することも有効です。

加えて、マニュアルや運用ガイドを整備しておけば、新人や異動者が配属された場合でも、スムーズに知識の引き継ぎが行えます。こうした体制づくりによって、3D配筋の導入効果を組織全体で最大化することができます。


5.3. ソフト間連携・BIMとの整合性

3D配筋のモデリングは、単体の作図作業にとどまらず、建築・構造・設備といった他分野との連携を意識する必要があります。そのため、使用するソフトウェア同士の互換性や連携精度が非常に重要な要素となります。たとえば、設計部門が使っているソフトと施工管理側のソフトでファイル形式が異なっていると、データのやり取りに手間がかかり、整合性を保つのが難しくなります。

この問題を解決する手段の一つが、「IFC(Industry Foundation Classes)」と呼ばれる共通のデータ形式です。IFC形式でモデルをやり取りすることで、異なるソフトウェア間でも情報の受け渡しが可能になり、部署や協力会社をまたいだ共同作業がスムーズに行えるようになります。ただし、ソフトのバージョンや仕様によっては細かい部分で互換性に差が出ることもあるため、事前に連携テストを行っておくことが望ましいです。

また、BIMとの連携がうまくできれば、配筋データを構造計算や施工計画、工程管理といった他の情報と統合的に扱うことができます。これにより、最終的な施工図や見積もり、作業指示に至るまで、一貫したデータ管理による効率化と高精度化が実現します。こうした連携体制を整えることで、組織全体としてのDX推進にもつながるでしょう。


5.4. 小規模案件での実用性とコストバランス

3D配筋は、大型建築や複雑な構造物で特に効果を発揮する技術ですが、小規模な案件であっても導入メリットが得られるケースは少なくありません。たとえば、住宅のリフォームや小規模な商業施設でも、配筋ミスや設計変更による再工事が発生すれば、納期の遅延や追加コストといった影響は大きくなります。

ただし、プロジェクトの規模が小さい場合、ソフトウェア導入費や学習コストが相対的に重く感じられることもあります。そのため、導入の際は、対象となる業務内容や案件数、社員の習熟度などを踏まえた上で、費用対効果を冷静に見極める必要があります。導入コストに対して十分なリターンが得られるかどうか、試算しておくことが重要です。

近年では、クラウドベースや月額課金制といった柔軟な料金プランを提供するソフトウェアも増えてきており、初期費用を抑えて部分的に導入することも可能になっています。まずは特定のプロジェクトや部署でパイロット導入を行い、効果を見極めた上で、全社展開に移行するという段階的な導入スタイルも有効です。

このように、「スモールスタート」で確実に成果を積み上げていくことが、3D配筋を成功に導くポイントとなるでしょう。無理なく、確実に導入を進めていくことが、現場への定着と技術活用の鍵になります。

6. 今後の展望:3D配筋がもたらす建設の未来

3D配筋は、すでに設計・施工の現場で多くのメリットを発揮していますが、今後さらにその活用領域は広がっていくと考えられています。建設業界では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する動きが加速しており、3D配筋はその中心的な技術のひとつとして位置づけられつつあります。

特に、国土交通省が推進する「BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling)」政策により、公共事業を含むさまざまな建設プロジェクトで3次元モデルを活用する流れが進んでいます。これにより、鉄筋の情報も含めた統合的なデジタル管理が求められ、3D配筋の役割はますます重要になってきました。

今後は、AI(人工知能)による設計支援や、点群データとの連携、さらにはMR(複合現実)やAR(拡張現実)といった視覚技術との融合が進み、3D配筋の可能性はさらに広がっていくでしょう。以下では、そのような未来の建設現場での活用を見据えた4つの展望について解説します。


6.1. AIによる鉄筋自動配置技術

今後注目されるのが、AIを活用した鉄筋の自動配置技術の進化です。現在は設計者が手作業で鉄筋の配置を決め、モデリングしていますが、将来的にはAIが構造設計の情報や建物形状をもとに、最適な鉄筋の配置を自動で提案する時代が来ると期待されています。

この技術が実現すれば、配筋設計のスピードが格段に向上するだけでなく、人的なミスも減り、設計の精度や安全性も大きく向上するでしょう。加えて、熟練技術者が不足する現場でも一定以上の設計品質を確保できるため、人材不足への対応策としても有効です。

もちろん、AIが自動生成した配筋案に対しては、最終的なチェックや調整を人間の設計者が行う必要があります。また、独自の設計基準や社内ノウハウへの対応も含め、運用には柔軟な調整が求められるでしょう。しかし、設計支援ツールとしてAIが果たす役割は今後ますます大きくなり、設計業務の効率化に大きく寄与することが期待されています。


6.2. 点群データとの統合による現況反映

近年、レーザースキャナーやドローンなどを用いた点群データの活用が急速に進んでいます。これにより、既存建物や構造物の現況を高精度に把握できるようになり、3D配筋との組み合わせによってリノベーションや補修設計の精度が飛躍的に向上しています。

たとえば、古い建物の改修を行う場合、図面と実際の状態が異なっていることは珍しくありません。こうした場合、点群データから現況の3Dモデルを作成し、そこに3D配筋モデルを重ねることで、干渉の確認や補強計画をより正確に立てることができます。

このような手法は、橋梁やトンネルといったインフラ施設の保守管理にも応用されており、老朽化対策の迅速化や施工精度の向上にも貢献しています。点群データと3D配筋を統合することで、現場のリアルな情報を設計に即座に反映できるようになり、無駄のない補修計画と確実な施工が実現します。


6.3. 国交省のBIM/CIM推進と連携可能性

日本において、3D配筋の普及に大きく影響しているのが、国土交通省が推進するBIM/CIMの政策です。BIMやCIMの導入が公共工事で義務化・推奨されるようになり、設計・施工・維持管理までの一連のプロセスで3次元データの活用が進められています。

3D配筋は、このBIM/CIMモデルの中でも特に構造分野における重要な情報要素として位置づけられており、鉄筋モデルを組み込むことで構造解析や施工計画といった情報との連携が可能になります。たとえば、鉄筋の配置データが工程管理や施工ステップに直結すれば、より実行性の高いスケジュール作成や、現場での作業指示が行えるようになります。

また、BIM/CIMのデータ仕様が標準化されていくことにより、3D配筋のモデルもさまざまな関係者間で共有・活用しやすくなり、業界全体での連携強化と効率化が進むことが予想されます。今後、3D配筋がBIM/CIMモデルの基本構成要素として位置づけられ、公共・民間問わずスタンダードになる可能性は十分にあります。


6.4. 現場でのMR/AR表示による視覚サポート

現場作業における3D配筋の活用方法として、MR(複合現実)やAR(拡張現実)との連携にも大きな期待が寄せられています。たとえば、ヘッドマウントディスプレイやスマートグラスを用いれば、施工現場に3D配筋モデルを重ね合わせてリアルタイムに表示できるようになり、鉄筋の配置をその場で視認しながら施工を進めることが可能になります。

これにより、施工者は図面と現場を見比べる必要がなくなり、直感的に「どこに、どのように鉄筋を組めばよいのか」を把握できます。施工ミスを防止しやすくなるだけでなく、作業効率も向上し、習熟度の差による品質のばらつきを抑えることにもつながります。

また、現場の安全確保という点でもMR/ARの導入は有効です。施工前に干渉箇所や危険領域を視覚的に把握できることで、作業手順の見直しやリスク回避策の検討がしやすくなります。こうした技術の活用により、3D配筋は「デジタルと現場をつなぐ架け橋」として、建設プロジェクト全体の最適化に貢献する存在となるでしょう。

7. まとめ:見える配筋が建設の未来を変える

3D配筋は、鉄筋の配置を立体的に可視化することで、これまで図面だけでは見落とされがちだった問題点を早期に発見し、施工トラブルや手戻りの削減に大きく貢献する革新的な技術です。干渉チェックや数量自動算出といった実務的なメリットに加え、設計者・施工者・発注者の間でスムーズな意思疎通を可能にする「共通言語」としての役割も果たします。

また、BIMやCIMといった建設業界全体のデジタル化を推進する仕組みとの親和性が高く、今後は公共工事をはじめとしたさまざまなプロジェクトで3D配筋の導入が加速していくことが予想されます。AIや点群データ、MR/ARなどの先端技術との連携も進みつつあり、3D配筋は単なる「図面の進化」にとどまらず、建設の在り方そのものを変える存在へと成長していくでしょう。

もちろん、導入にあたっては初期費用や教育体制の整備といった課題もありますが、それらを乗り越えるだけの価値と効果が、3D配筋には備わっています。まずは一部のプロジェクトや部署から試験導入を始め、効果を見極めながら段階的に展開していくことで、現場への定着も無理なく進めることができるはずです。

「見える配筋」によって、現場の品質と効率は確実に向上します。これまで属人化していたノウハウを可視化し、次世代へと引き継ぐ体制を築く上でも、3D配筋は非常に有効なツールです。建設業界の新たなスタンダードとなり得るこの技術を、ぜひ積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。

大手ゼネコンBIM活用事例と 建設業界のDXについてまとめた ホワイトペーパー配布中!

❶大手ゼネコンのBIM活用事例
❷BIMを活かすためのツール紹介
❸DXレポートについて
❹建設業界におけるDX

<参考文献>

BIM/CIMポータルサイト | 国土交通省

https://www.nilim.go.jp/lab/qbg/bimcim/bimcimindex.html

i-Construction・インフラDX推進コンソーシアム

https://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/i-con_consortium/index.html

Autodesk Revit | Revit ソフトウェア正規品の価格と購入

https://www.autodesk.com/jp/products/revit/overview

【構造に特化したBIMソフト】Tekla Structures 公式サイト | Tekla

https://www.tekla.com/jp/products/tekla-structures

GLOOBE|建築CAD – 福井コンピュータアーキテクト

https://archi.fukuicompu.co.jp/products/gloobe_s/

    ホワイトペーパーフォームバナー

    【DL可能な資料タイトル】

    • ・プログラムによる建築/土木設計のQCD(品質/コスト/期間)向上
    • ・BIM/CIMの導入から活用までの手引書
    • ・大手ゼネコンBIM活用事例と建設業界のDXについて
    • ・デジタルツイン白書
    • ・建設業/製造業におけるデジタルツインの実現性と施設管理への応用

    詳細はこちら>>>

    PAGE TOP