BIMとIFCの関係性をやさしく解説|建築・土木の基礎知識
1. はじめに
近年、建築や土木の分野では「建設DX」と呼ばれるデジタル化の取り組みが加速しています。特に国土交通省によるBIM(Building Information Modeling)の推進政策を背景に、多くの建設プロジェクトでデジタルツールの導入が進んでいます。
このような流れの中で注目されているのが、BIMとIFC(Industry Foundation Classes)という2つのキーワードです。BIMは建物や構造物を3Dモデル化し、その中に設計・施工・管理に関する情報を集約する技術。一方で、IFCはそのBIMデータを異なるソフトウェア間でやり取りするための「共通のファイル形式」です。
しかし、BIMとIFCはセットで語られることが多いものの、「それぞれ何を意味するのか」「どう違うのか」「なぜ関係が深いのか」といった点は、初心者にはわかりづらいことが少なくありません。
そこで本記事では、建築や土木の初心者やBIMに触れたばかりの方でも理解しやすいよう、BIMとIFCの基本的な役割やその違い、そして両者を組み合わせることで得られるメリットについて、わかりやすく解説します。この記事を読むことで、BIMとIFCがどのように建設プロジェクトを支え、業務効率や品質向上に貢献するのかが具体的にイメージできるようになるでしょう。
2. BIMとは?
BIM(Building Information Modeling)は、「建築情報モデリング」とも訳され、建築や土木の分野において非常に重要な技術や考え方として広がりつつあります。
従来の図面だけでは表現しきれなかった空間や構造を、三次元のモデルで視覚化し、そこにさまざまな情報を紐づけることで、設計から施工、そして維持管理に至るまで、建物に関する情報を一元的に活用できるようにするものです。
このようにBIMは、単なる「3D図面作成ツール」ではなく、プロジェクト全体の効率化や情報共有を実現するための「情報のしくみ」そのものだといえるでしょう。
2.1. BIMの基本概念
BIMの最大の特徴は、「3Dモデルの部材ひとつひとつに情報を持たせる」という点にあります。
たとえば壁のモデルには、その高さや厚み、使われている材料、施工予定日、さらにはコスト情報などをデジタルで登録することができます。つまり、図面としての「形状」だけでなく、さまざまな「属性情報」が統合されたデータになるのです。
従来のCAD(Computer-Aided Design)では、建物を二次元の線や面で表現するのが一般的でしたが、BIMでは空間内に配置された部材が立体的なオブジェクトとして存在します。そして、ひとつの部材を修正すると、それに関連する他の図面や数量表が自動的に更新される仕組みが整っています。
このように、BIMは建物の形状や寸法だけでなく、その使われ方や履歴までを一括して管理・活用できる手法です。
その結果として、設計事務所、施工会社、設備業者など、異なる立場の関係者がひとつの共通モデルを使って情報を共有し、スムーズにプロジェクトを進めることが可能になります。
2.2. BIMの活用シナリオ
では、実際にBIMはどのように活用されるのでしょうか?
設計段階を例に挙げると、まず設計者がBIMソフトを用いて建物の3Dモデルを作成し、そのモデルをもとに配置図や断面図のほか、日照や通風、空調といったシミュレーションを行います。
たとえば、ある部屋にどのくらい太陽光が差し込むのかをシミュレーションで確認できれば、最適な窓のサイズや配置を検討する材料になります。さらに施工の段階では、「干渉チェック」と呼ばれる機能を使って、構造部材と配管・配線がぶつからないかを事前に可視化することができます。
そして竣工後には、作成されたBIMモデルがそのまま維持管理の場面でも役立ちます。どの設備がいつ取り付けられたのか、どの材料が何年で交換の目安を迎えるのかといった情報がBIMモデル内に記録されていれば、改修工事の計画やコスト管理も効率化できます。
このように、BIMは設計・施工・維持管理という建物ライフサイクル全体にわたって同じデータを活用できるという点で、非常に大きなメリットを持っています。
2.3. BIMの主要ソフトウェアとその特徴
BIMを実際に運用するためには、専用のソフトウェアを使用します。なかでも広く使われているのが、Autodesk社の「Revit」や「Civil 3D」、そしてGraphisoft社の「Archicad」などです。
Revitは、建築・構造・設備の設計といった複数の分野を横断して設計できるのが特長で、施工図の作成までを一貫してサポートします。土木系のプロジェクトでは、Civil 3Dが道路や橋梁といったインフラ設計に適しており、国土設計の現場でも多く活用されています。
一方、Archicadは設計者が直感的に操作しやすいユーザーインターフェースが特徴で、軽快な動作と高い自由度により、建築設計の現場で根強い人気を誇ります。
これらのBIMソフトは、それぞれが独自のファイル形式を採用しており、たとえばRevitでは「.rvt」、Archicadでは「.pln」など、他のソフトではそのまま開けない形式になっていることが多いです。
こうした異なるソフト間での情報共有をスムーズに行うために活躍するのが、IFC(Industry Foundation Classes)です。
つまり、BIMとIFCの違いを簡潔に説明すると、BIMは建物の情報を作成・管理する仕組みであり、IFCはその情報を異なるソフト間で共有・連携するための共通フォーマットであると言えるでしょう。
3. IFCとは?
引用:https://www.buildingsmart.org/standards/bsi-standards/industry-foundation-classes/
IFCは「Industry Foundation Classes(インダストリー・ファウンデーション・クラス)」の略で、BIMにおけるデータ共有を円滑にするために開発された、中立的なデータ形式です。
国際的な標準化団体であるbuildingSMARTによって策定されており、異なるBIMソフトウェア間で情報をスムーズにやり取りするための「共通のルール」として活用されています。
このIFCは、「OpenBIM(オープンBIM)」という、ベンダーやソフトの垣根を超えてBIMデータを共有しようとする世界的な取り組みの中心的な技術でもあります。BIMのメリットを最大限に活かすためには、各社のソフトで作られたモデルが共通言語で読み取れる必要があり、その鍵を握っているのがIFCなのです。
3.1. IFCの基本概念
IFCは、建物を構成する要素——たとえば「壁」や「窓」「柱」「梁」など——それぞれに対して、「どんな属性を持たせ、どう記録するか」を標準化しています。
これにより、「どのBIMソフトで作成されたモデルなのか」に関係なく、同じルールに基づいて建物情報を表現・共有できるようになっています。
たとえば、設計事務所がA社製のBIMソフトで作った建物モデルを、施工会社がB社製のソフトで開きたい場合、IFCに変換して保存しておけば、部材の情報や形状をできるだけ忠実に読み込むことが可能です。
また、IFCはただの図面のデータではなく、各部材の「性質」や「関係性」までも保持している点が特徴です。こうした構造によって、設計・施工・維持管理といった異なる工程の担当者が、それぞれ必要な情報を引き出せるしくみが成り立っているのです。
3.2. IFCの役割と重要性
IFCがこれほど注目される理由は、建築・土木業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるうえで、避けては通れない「ソフトウェア間の壁」が存在しているからです。
これまで、BIMソフトは各社が独自に開発しており、それぞれ専用のファイル形式でデータを保存していました。たとえば、Revitは「.rvt」、Archicadは「.pln」といったように、互換性のないファイル形式が乱立していました。その結果、他社製のソフトではファイルを開くことも、編集することも困難という問題が生じていました。
こうした課題を解決するために、IFCという共通フォーマットを活用すれば、ソフトの違いに関係なくデータの受け渡しが可能になります。これにより、設計と構造解析、施工管理、設備設計といった多様なツールや部門間での連携がスムーズになります。
実際、IFCを活用したプロジェクトでは、情報の重複や入力ミスの削減、手戻りの減少といった成果が多く報告されています。結果として、品質向上やコスト削減につながるケースが増えており、IFCの役割はますます重要視されています。
3.3. IFCファイルの構造と情報の格納方法
IFCファイルの中身は一見するとテキストデータの集合に見えますが、その構造は非常に緻密に設計されています。
たとえば、壁の情報を格納する場合には、「素材」「高さ」「幅」といった数値的な属性だけでなく、その壁が「どの階層にあるか」や「どの部屋とつながっているか」といった関係性の情報も含まれています。
また、部材ごとに一意のIDが割り振られており、モデル内のどの要素が何を示しているかが明確になります。これは外部の解析ソフトや管理システムがIFCデータを読み込んだ際にも、正確に情報を把握できるようにするためです。
さらに、IFCでは建物全体を階層構造で表現しています。建物→階層→部屋→部材というように、情報が整理されているため、特定の階だけを抽出したり、部屋ごとの設備情報だけを表示したりすることも可能です。
このような構造化された情報があれば、関係者がそれぞれ必要とする情報を的確に取り出すことができ、作業効率が大きく向上します。ただし、IFCファイルを正しく活用するためには、どのような情報を含めるのか、どの程度の精度でモデリングするのかといった運用ルールの整備も欠かせません。
近年では、プロジェクト初期段階からIFCの仕様を関係者間で共有し、スムーズなデータ連携を実現する取り組みも増えてきています。
4. BIMとIFCの関係性
これまでの内容で、BIMとIFCがそれぞれどのような役割を持つかをご理解いただけたかと思います。ここでは、両者がどのように関係しているのかをさらに深く掘り下げていきます。
BIMとIFCの関係性をイメージするうえでよく使われるのが、「BIMは情報を作り出すための仕組み」であり、「IFCはその情報を届けるための入れ物(データ交換の箱)」というたとえです。つまり、BIMによって作成された詳細な建物情報を、他の人や異なるソフトウェアとやり取りするには、IFCという共通の形式に変換する必要があるのです。
BIMソフトウェアごとにデータの保存形式が異なるため、直接のやり取りでは情報が欠落したり、うまく開けなかったりすることがあります。そこで、IFCという共通フォーマットを介することで、異なるツールや職種の間でも情報のやりとりがスムーズにできるようになるのです。
このようにBIMとIFCは、機能的にも概念的にも密接な関係にあり、両者をセットで理解することが建設プロジェクトの成功にとって非常に重要です。
4.1. データ交換のための共通言語としてのIFC
BIMソフトウェア間でのデータ交換が難しい最大の理由は、各社が独自のファイル形式や仕様を持っていることにあります。たとえば、Revitは「.rvt」、Archicadは「.pln」、Tekla Structuresは「.tekla」など、それぞれのソフトでしか使えない独自フォーマットが存在しています。
このような状況では、たとえ同じプロジェクトであっても、違うソフトを使っているだけで情報のやり取りが困難になるという問題が生じます。設計データを受け取った施工会社が、自社のソフトで開けなかったり、読み込めても情報が欠損していたりすると、やり直しや修正が必要になってしまいます。
こうした課題を解決するために登場したのがIFCです。IFCは、どのソフトでも読み書きできるように設計された中立的なデータ形式であり、データの橋渡し役を担います。IFCを使って保存された建物モデルは、他のソフトウェアでも基本的な構造や属性を保ったまま読み込むことができます。
実際には、ソフトによってIFCの対応状況に差があるため、読み込み時に一部の表現が崩れるなどの課題もありますが、バージョンの更新や精度向上が年々進んでおり、互換性は確実に改善されています。
また、IFCを導入することで、特定のソフトウェアベンダーに依存しない「ベンダーロックインの回避」が可能になります。これは「OpenBIM」という概念とも深く結びついており、長期的に見て柔軟かつ持続可能なプロジェクト運営を可能にする重要な要素です。
4.2. 具体的な連携例とその効果
実際の現場では、BIMとIFCの連携がどのように行われているのでしょうか。ここでは代表的な連携例と、その効果について見ていきます。
たとえば、ある建築設計事務所がRevitを使って建物のBIMモデルを作成したとします。そのデータを施工会社に渡す際、相手がTekla StructuresやCivil 3Dなど別のソフトウェアを使っている場合は、直接のファイル共有ができません。そこでRevitのデータをIFC形式に変換し、相手に渡すことで、施工会社は自社のソフトでも建物のモデルを開くことができ、構造解析や鉄骨製作図の作成を進められるようになります。
また、Archicadで作成したモデルをIFC形式で出力し、設備担当者が別のソフトを使って配管や空調設備の計画を立てるという連携も一般的です。このように、異なる業務担当者や異なるソフトウェアを使用するチーム同士でも、IFCを使うことで共通のモデルをベースにした作業が可能になります。
この連携が実現することで、設計と施工の間にありがちな「伝達ミス」や「図面の読み違い」が大幅に減り、手戻りの防止につながります。結果として、プロジェクトの時間短縮やコスト削減が可能になり、最終的には品質向上にも貢献するのです。
BIMとIFCの関係性を理解し、うまく連携させることは、プロジェクト全体の生産性を飛躍的に高める大きな鍵となります。
5. 実践的なBIMとIFCの活用
これまでに、BIMとIFCの基本的な仕組みや、それぞれの役割について解説してきました。ここからは、両者をどのように組み合わせて建設プロジェクトに活かしていくのか、より具体的な活用方法を見ていきましょう。
BIMとIFCの連携は、単なる情報の作成や交換にとどまらず、プロジェクト全体の管理体制や意思決定のあり方を大きく変える可能性を秘めています。特に複数の企業や専門業種が関与する建築・土木プロジェクトにおいては、円滑な情報共有と協働作業の実現が大きな課題となります。
こうした課題に対して、BIMを中心に据え、IFCでのデータ連携を行うことで、設計から施工、維持管理まで一貫性のある情報環境を構築できます。これにより、関係者全体が正確かつタイムリーな情報を共有しやすくなり、意思決定の迅速化や作業の効率化が期待できるのです。
5.1. プロジェクト管理でのBIMとIFCの組み合わせ
建築や土木のプロジェクト管理においては、設計事務所、構造設計者、設備業者、施工会社、発注者など、さまざまな立場の関係者が関わります。それぞれが異なる役割を持ち、異なるツールを使って作業しているため、共通の情報基盤が存在しないと情報の食い違いや伝達ミスが発生しやすくなります。
ここでBIMモデルを情報のハブとして活用し、IFCを通じて全関係者とモデルを共有することで、プロジェクト全体で同じ建物情報を参照できる体制が整います。たとえば、設計内容が変更された場合でも、BIMモデルを更新しIFC形式で再共有することで、各社が最新情報に基づいた作業を行えるようになります。
このような仕組みによって、設計意図の誤解や、施工段階での手戻りといった無駄なコストや時間の発生を未然に防ぐことが可能になります。また、関係者全員が「同じデータにアクセスしている」という安心感があることで、コミュニケーションもスムーズになり、チームとしての生産性が高まります。
5.2. 設計プロセスでのBIMとIFCの活用
設計段階においては、BIMモデルを作成してから実施設計に至るまで、何度も修正・検討を繰り返しながら完成度を高めていくのが一般的です。初期段階では、建物全体の構成や配置、ボリューム感を大まかにモデリングし、その後クライアントとの打ち合わせや社内レビューを通じてブラッシュアップしていきます。
この過程でIFCが役立つのは、他ソフトとの連携によって外部の専門的な解析や検討が可能になる点です。たとえば、BIMモデルをIFC形式に変換して構造解析ソフトに渡し、応力や変形の解析を行った上で、その結果をBIMモデルにフィードバックする、といった使い方が挙げられます。
また、設備設計やエネルギー解析など、他分野との協働を前提とした設計でも、IFCを通じてスムーズに連携ができます。複数の専門家が、共通のモデルをベースにそれぞれの視点から検討を重ねることで、設計の整合性や精度が飛躍的に向上します。
このように、BIMとIFCの併用は、設計プロセスにおいても非常に大きな効果をもたらし、短期間で質の高い設計を実現するための鍵となっています。
5.3. コスト削減と品質向上に貢献するBIMとIFC
BIMとIFCを活用するメリットは、設計や施工の段階だけにとどまりません。むしろ、竣工後の維持管理や長期的なライフサイクル運用においてこそ、その真価を発揮します。
たとえば、橋梁やダムなどの大規模な土木構造物においては、BIMによってあらかじめ3Dモデルを作成し、施工ステップのシミュレーションを行うことで、資材の過不足や工程の遅れといった問題を事前に発見しやすくなります。その結果、必要な資材を適切なタイミングで調達でき、無駄な在庫や人件費を削減できます。
また、BIMモデルには施工記録や点検履歴、使用材料の情報なども蓄積できるため、維持管理段階では「どの部材が、いつ、どのように設置されたのか」「次回の点検時期はいつか」といった情報を即座に把握できます。これにより、突発的なトラブルを未然に防ぎ、効率的な修繕計画が立てやすくなります。
実際の事例でも、老朽化したインフラのメンテナンスにBIMを活用し、事前に劣化状況を分析・対応することで、補修の緊急性や費用を最小限に抑えたケースが報告されています。
このように、BIMとIFCの活用は、プロジェクトの全フェーズにわたって長期的なコスト削減と品質の維持向上に貢献します。
6. BIMとIFCの課題と対策
BIMとIFCを活用することで、建設プロジェクトに多くのメリットをもたらすことができますが、実際の運用ではいくつかの課題も存在します。特に、ソフトウェア間の互換性やデータの標準化、導入プロセスにおける知識のばらつきといった点が、スムーズな活用を妨げる要因になりがちです。
BIMとIFCの活用を成功させるためには、こうした課題に事前に向き合い、具体的な対策を講じることが欠かせません。ここでは、BIM・IFC導入時にありがちな問題点を整理し、それぞれの解決策についてわかりやすく解説します。
6.1. 相互運用性と標準化の課題
BIMソフトウェアの多くは、IFC形式でのエクスポートやインポートに対応していますが、実際の現場では「データが完全に再現されない」「読み込みに不具合が出る」といったケースが見られます。これは、IFCの仕様が複雑であること、そして各ソフトウェアベンダーごとにIFC対応の実装内容が異なることが主な原因です。
たとえば、Revitから出力したIFCファイルを他ソフトで開いた際に、部材の属性が一部失われていたり、形状が意図しないかたちで変形していたりすることがあります。こうした問題は「IFC互換性の課題」として広く知られており、BIM導入のハードルのひとつとされています。
また、IFCには複数のバージョンが存在し、使用するバージョンによって取り扱える情報の種類や表現方法が異なります。バージョンが合っていないと、正しく情報が読み込めなかったり、エラーが発生したりする可能性があります。そのため、プロジェクトに参加するすべての関係者が、どのバージョンを使うのかを事前に統一しておくことが非常に重要です。
こうした相互運用性や標準化に関する課題を解消するには、OpenBIMの理念に則り、ソフトウェアメーカー、設計者、施工者、発注者といった各立場が協力しながら運用ルールやガイドラインを整備していくことが求められます。国際的にも国内でも、業界団体を中心にIFCの標準化に関する取り組みが進められており、今後のさらなる改善に期待が寄せられています。
6.2. 導入時の注意点と解決策
BIMやIFCの導入を円滑に進めるためには、技術的な面だけでなく、人的な面での準備や運用体制の整備が不可欠です。まず大切なのは、プロジェクトに関わるすべてのメンバーに対して、基本的なBIMとIFCの教育を行うことです。
たとえば、BIMモデルからIFCファイルを書き出す際の操作方法や、ファイルに含まれる情報の意味を理解していなければ、正しくデータを共有できず、意図しないエラーや遅延が発生する可能性があります。特に、ファイルの受け渡し時に「何を含めているか」が相手に伝わらなければ、読み取る側も正しく使うことができません。
次に重要なのは、IFCファイルの運用ルールをあらかじめ定義しておくことです。たとえば、「どの要素までIFCに含めるのか」「部材の属性はどこまで細かく記述するのか」「ファイルの命名規則はどうするか」といった取り決めを最初に決めておけば、プロジェクト全体の作業が統一され、データのやりとりがスムーズになります。
また、導入時にいきなり大規模なプロジェクトで試すのではなく、まずは小規模な範囲からテスト的に導入してみることも効果的です。たとえば、設計図の一部分や、特定の設備だけを対象にIFCの出力・読み込みを実施し、問題がないかを確認したうえで、段階的に運用範囲を拡大していくことで、リスクを最小限に抑えることができます。
このように、BIMとIFCの導入を成功させるためには、技術的な整備とともに、「人」と「運用ルール」の両面からの準備が非常に重要です。正しい理解と明確な方針のもとで導入を進めれば、BIMとIFCは現場の大きな武器として機能するでしょう。
7. まとめと今後の展望
BIMとIFCは、建築・土木のデジタル化を支える二本柱ともいえる存在です。BIMは、建物や構造物に関する情報を一元的に管理し、設計から施工、そして維持管理までを通して活用できる非常に強力なツールです。一方のIFCは、そのBIMデータをさまざまなソフトウェア間でやり取りするための共通フォーマットとして機能し、関係者間の情報共有をスムーズにします。
BIMだけでも高度な設計・施工が可能ですが、それを真に有効活用するには、異なる業種・立場の人々が共通の情報を扱える環境が欠かせません。IFCはそのための「共通言語」として不可欠な存在であり、両者は相互補完的な関係にあります。
現場ではすでに、BIMとIFCを組み合わせてプロジェクト管理や設計の効率化、施工精度の向上、維持管理の最適化といった多くの成果が上がっています。さらに、OpenBIMという考え方の広がりによって、特定のベンダーやソフトウェアに縛られず、より柔軟で持続可能な建設プロセスの構築が進んでいます。
今後は、BIMやIFCの基本機能にとどまらず、AIやIoT、クラウドとの連携がますます重要になってくるでしょう。たとえば、センサーから取得した情報をリアルタイムにBIMモデルへ反映させたり、IFC経由で外部システムと連携させたりすることで、維持管理の自動化や予防保全といった新たな価値が生まれます。
また、公共事業を中心にBIMやIFCの導入要件が拡大する中、業界全体での知識の共有や教育の充実も求められています。はじめて取り組む方にとっては難解に思えるかもしれませんが、まずは基本をしっかり理解し、小さな範囲から導入していくことで、確実に成果を実感できるはずです。
BIMとIFCの活用は、設計や施工の効率化だけでなく、建築・土木の未来を形づくる基盤となります。変化が求められる今だからこそ、両者の正しい理解と実践が、業務の質と価値を大きく高めてくれるでしょう。
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<参考文献>
建築:建築BIM推進会議 – 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/kenchikuBIMsuishinkaigi.html
IFCとは? – buildingSMART Japan
https://www.building-smart.or.jp/ifc/whatsifc/
Industry Foundation Classes (IFC) – buildingSMART International(英語)
https://www.buildingsmart.org/standards/bsi-standards/industry-foundation-classes/
BIM の相互運用性 | openBIM と buildingSMART | Autodesk
https://www.autodesk.com/jp/industry/bim/interoperability
BIM ソフト | 業界別 BIM 活用方法と事例 | Autodesk