Marlow modelとは?Abaqusでの材料モデリング手順をやさしく解説
1. はじめに
材料の特性を正確にシミュレーションで再現するには、適切な材料モデルを選び、実験データを正しく扱うことが不可欠です。特にゴムのように大きな変形を伴う非線形材料は、一般的な線形モデルでは挙動を正確に再現できないことが多く、専用のモデルが必要になります。
こうした非線形材料の解析で広く使われているのが、Hyperelastic(超弾性)モデルです。中でも Marlow model は、限られた実験データからでも高精度な材料特性の定義ができる柔軟なモデルとして注目されています。単軸引張試験のデータだけでも利用できるため、コストや試験条件に制約がある場面でも導入しやすいのが特徴です。
本記事では、Marlow modelの基本的な仕組みや、他の代表的なHyperelastic model(Mooney-RivlinやOgden modelなど)との比較、そしてAbaqus CAEでの具体的な設定方法や注意点について、初心者にもわかりやすく解説していきます。さらに、ゴム製パッキンの設計や人工関節材料の解析など、実際の応用例にも触れながら、実務での活用イメージも持てるように構成しています。
また、解析中に起こりやすいトラブルや、収束しにくい場合の対処法についても取り上げ、初めての非線形解析をスムーズに進めるためのヒントを提供します。
これからAbaqusを使って非線形材料のモデリングを始めたい方、あるいは実験データをどう扱えばよいか迷っている方にとって、本記事が有益なガイドとなることを目指しています。
1.1. この記事で学べること
本記事では、Abaqus CAEを使って非線形材料のモデリングを行うための基本的な知識と手順をわかりやすく解説します。特に、超弾性材料に適したMarlow modelに焦点を当て、次のような内容を学ぶことができます:
- Marlow modelの基本と仕組み:Mooney-RivlinやOgden modelなど他のHyperelastic modelと比較しながら、Marlow modelの特徴やメリットを理解します。
- 実験データの活用方法:単軸引張試験などの実験データをAbaqusに取り込む方法や、実際の材料定義の手順を学びます。
- 材料モデルの設定と活用のコツ:AbaqusのProperty Moduleを使った材料定義の操作や、モデル適用の流れをやさしく解説します。
- 収束エラーや設定ミスへの対処法:初心者がつまずきやすいポイントとその回避方法についても取り上げます。
- 応用のヒント:ゴム製品や医療用部品など、実務での活用を想定したモデリングの考え方にも触れます。
1.2. Abaqusと材料モデリングの基本
Abaqusは、構造解析や熱解析などの複雑な物理現象をシミュレーションできる高機能なCAEソフトウェアです。特に、非線形材料の挙動を精密に再現することに強みを持っており、ゴムや生体材料など、大きな変形を伴う材料解析によく使われます。
材料モデリングの基本は、対象材料の力学特性を正確に表現することです。Abaqusでは、**Hyperelastic model(超弾性モデル)**を活用することで、大きなひずみにも対応したシミュレーションが可能になります。
中でもMarlow modelは、比較的少ない実験データでも材料特性を定義できる点が特徴です。たとえば、単軸引張試験だけでも基本的な設定が可能なため、「すべての試験データを用意できない」場合にも対応しやすく、解析のハードルを下げてくれます。
本記事では、Abaqus初心者がモデリングを始めるために必要な考え方や準備、そして具体的な操作ステップをわかりやすく紹介していきます。
2. Marlow modelの基本
Marlow modelは、Hyperelastic model(超弾性モデル)の一種で、主にゴムや生体材料などの大きな変形を伴う非線形材料の解析に適したモデルです。Abaqusでは、こうした材料の複雑な挙動を正確に再現するために複数の材料モデルが用意されていますが、Marlow modelはその中でも実験データから直接応力―ひずみ関係を構築できる使いやすさが特徴です。
本章では、Marlow modelの定義や仕組み、他のHyperelastic modelとの違い、そして実務に役立つ具体的なメリットについて、順を追って解説していきます。たとえば、ゴム製のパッキンや人工関節など、高い精度と信頼性が求められる場面でもMarlow modelは効果的に活用できます。
この章を通して、非線形材料解析の基礎としてMarlow modelを理解し、Abaqusでの材料定義に自信を持って取り組めるようになることを目指します。
2.1. Marlow modelとは何か?
Marlow modelは、超弾性材料を扱うために設計された材料モデルで、大きく変形しても弾性的に元へ戻る特性を持つ材料に適用されます。たとえば、ゴムやシリコーン、さらには生体組織の一部などがこれに該当します。
このモデルの最大の特徴は、材料のひずみエネルギー密度関数を、実験データをもとに定義できる点にあります。通常、Hyperelastic modelではあらかじめ決められた数式を使って材料の挙動を再現しますが、Marlow modelでは応力―ひずみデータそのものをもとに、より直接的に材料特性を設定することができます。
Abaqus CAEでは、試験データを入力するだけで材料モデルが構築できるため、複雑な数式を理解したりフィッティング作業を行ったりする必要がありません。そのため、材料モデリングの初心者にも扱いやすく、初めての非線形解析に挑戦する方にとってもハードルが低いモデルといえるでしょう。
また、単軸引張試験だけでなく、等二軸引張や平面引張(純せん断)など他の試験モードを利用することもできますが、Marlowモデルでは偏差(せん断)応答は1種類の試験モードから定義されます。複数モードのデータが揃っていて、それらすべてのモードを同時に高精度で再現したい場合は、Mooney-RivlinやOgdenモデルなどのパラメータフィッティング型モデルのほうが適しています。
2.2. 他のモデルとの比較
Marlow modelは、Mooney-RivlinやOgden modelといった他のHyperelastic modelと同様に、大きなひずみに伴う応力―ひずみ挙動を扱うために開発されたモデルです。ただし、そのアプローチには明確な違いがあります。
たとえば、Mooney-RivlinやOgden modelでは、材料のひずみエネルギーを表す関数に対してパラメータを設定し、実験データをもとにその最適化を行う必要があります。これにより、数式モデルとしての柔軟性や理論的な精度が得られますが、一方で複雑な数式や多くの実験データを理解・準備する手間がかかります。
これに対してMarlow modelでは、実験データをそのまま材料定義に活用できるため、数式の理解やパラメータの調整を省略できるというメリットがあります。特に試験データが限定されている場合や、まずは簡易的に解析を進めたい場合に適しています。
ただし、多数の試験データを揃えて材料挙動を高精度に再現したい場合は、Mooney-RivlinやOgden modelの方が有利になるケースもあります。材料の種類や求められる精度、作業の難易度を考慮して、最適なmodelを選ぶことが重要です。
2.3. Marlow modelの主な利点
Marlow modelには、材料モデリングをスムーズに進めるためのさまざまな利点があります。以下に、代表的な3つのポイントを紹介します。
まず1つ目は、単軸引張試験のみでも比較的高い精度で材料の特性を再現できる点です。これは、試験データが限られている状況や、材料試験にかかるコストを抑えたい場合に非常に有効です。複雑な設定を行わずに、実験データを使ったシンプルな定義が可能となります。
2つ目の利点は、フィッティング作業が不要なため、材料定義にかかる時間と労力を大幅に削減できることです。従来のモデルでは数式へのフィットやパラメータ調整に時間がかかりましたが、Marlow modelでは実験データをそのまま活用できるため、作業工程がシンプルになります。これにより、Abaqus初心者でも非線形材料解析に取り組みやすくなります。
3つ目は、医療分野や精密機器など、誤差の許容範囲が小さい分野にも柔軟に対応できる点です。たとえば、人工関節やバイオマテリアルのモデリングでは、安全性や再現性が求められますが、Marlow modelはそれらの要求にも応えるだけの精度を備えています。
このように、Marlow modelは扱いやすさと柔軟性を兼ね備えており、非線形材料を扱うさまざまな場面で有力な選択肢となるモデルです。
3. AbaqusでのMarlow modelの設定
ここでは、Abaqus CAEを使ってMarlow modelを設定する手順を、初心者の方にもわかりやすいように解説します。Hyperelastic材料モデルの中でも、Marlow modelは比較的シンプルに定義できるため、Abaqusを初めて使う方にも扱いやすいのが特徴です。
設定作業では、まず実験データの準備が必要です。特に、応力―ひずみ関係を示す引張試験のデータは、モデルの精度を大きく左右します。そして、AbaqusのProperty Moduleを使って材料定義を行い、モデル全体に割り当てて解析へと進みます。
この章では、実験データの整理からMarlow modelの設定、そして最終的なモデルの検証と調整に至るまでの一連の流れを丁寧に紹介します。正確なデータ入力と慎重な設定確認が、収束性の高い解析結果につながります。
3.1. 必要な実験データの準備
Marlow modelの設定を始めるにあたって、最初に用意すべきなのが信頼性のある実験データです。特に重要なのは、材料の応力―ひずみ特性を示す単軸引張試験のデータであり、これはMarlow modelの最小要件として求められます。
もし可能であれば、等二軸引張試験や平面引張(純せん断)試験、単純せん断試験などのデータを追加で用意すると、モデルの再現性がさらに向上します。
※「平面ひずみ」は解析条件を指す用語であり、ここで言う試験は平面引張(純せん断)試験です。
取得したデータは通常、公称応力と公称ひずみの形式で出力されます。Abaqusでは公称応力-公称ひずみデータを昇順で入力する必要があります(真応力-真ひずみのままでは使用できません)。解析前に必ず公称値に変換し、指定のデータ形式に整えてください。たとえば、Excelで作成したデータをテキストファイルに変換し、区切り文字や単位系の確認を忘れずに行いましょう。
なお、他の試験データが揃っていない場合でも、単軸引張の結果のみでモデル構築が可能です。これは、実験設備やコストに制限がある場面では大きな利点になります。とはいえ、再現精度を重視する場合は、できるだけ複数の試験データを用意するのが望ましいでしょう。
こうした準備を丁寧に行うことで、後の材料定義作業や解析でのトラブルを未然に防ぐことができます。
3.2. Marlow modelの材料定義手順
実験データの準備ができたら、次はAbaqus CAEでMarlow modelを使った材料定義の手順に進みます。ここでは、Abaqusの「Property Module」を使用し、材料の性質をモデルに設定していきます。
まず、Abaqus CAEを起動し、「Property」モジュールから「Material」を新規作成します。その際、「Mechanical」カテゴリ内の「Elasticity」から「Hyperelastic」を選択し、表示される選択肢の中から「Marlow」を選びます。
次に、先ほど用意した応力―ひずみデータを入力します。Abaqusでは、単軸引張や二軸引張、せん断などのデータを個別に指定することができ、それぞれのデータが利用可能であれば、精度の高いモデル設定が可能になります。
データインポートの際には、ファイル形式や数値の並び順、区切り文字(カンマ、スペースなど)に注意してください。特に、単位系が一致していない場合や、不要な空白が含まれていると、Abaqusが正しく読み込めずエラーが発生することがあります。データを事前にテキストエディタで確認しておくと安心です。
材料定義が完了したら、その材料を部品(Part)に割り当て、メッシュ設定や境界条件、解析ステップの定義を行います。Hyperelastic modelを用いた解析では、時間ステップや収束条件の調整が解析の成否を大きく左右するため、慎重に設定を確認しておきましょう。
以上の手順を経て、Marlow modelを活用した解析の準備が整います。
3.3. モデルの検証と調整
Marlow modelを使って材料定義を行ったあとは、設定内容が実験データに対して正しく機能しているかどうかを検証する作業が不可欠です。これは、シミュレーション結果の信頼性を確保するためにも非常に重要なステップです。
まず行うべきは、Abaqusで解析を実行し、得られた応力―ひずみ曲線と実験データとの比較です。グラフ上で2つの曲線を重ね合わせて確認することで、再現精度の良し悪しを視覚的に判断できます。
もし差異が大きい場合には、入力したデータの単位や順序、数値の整合性を再度確認してください。Abaqusでは些細な入力ミスでも結果に大きく影響が出るため、検証段階での見直しは非常に重要です。
また、解析が途中で停止したり、収束しなかったりする場合には、メッシュのサイズや要素タイプ、境界条件の設定などをチェックする必要があります。荷重が急激に加わる設定になっていないか、解析ステップが適切に細分化されているかなどもポイントです。
さらに、実験条件が理想的すぎると、実際の製品使用環境とは異なる結果になることがあります。現実的な条件を想定したうえで、モデルのパラメータや試験範囲を調整することが重要です。
このように、実験とシミュレーションの両面から結果を見直しながら、モデルの完成度を高めていくことが、質の高い解析につながります。
4. 実践的なモデリングの例
ここでは、Marlow modelを実際の解析に活用する具体例を取り上げて、実務や応用設計に役立つ視点を紹介していきます。Marlow modelは、ゴムや生体材料といった大きな変形を伴う非線形材料の解析に強みを持っており、製品設計の現場でも広く使われています。
たとえば、ゴム製のパッキン設計や人工関節材料のように、精密さや信頼性が求められる分野でも、その柔軟性と再現性の高さを活かすことができます。こうした事例を通じて、理論的な理解だけでなく、実際のAbaqusモデリング作業の流れや注意点もつかんでいただけることでしょう。
この章では、簡単な部品形状を例にシミュレーションを実施し、材料の変形挙動や応力分布を確認します。さらに、得られた解析結果をどのように解釈・検証していくかという点にも焦点を当てていきます。
4.1. 具体的なケーススタディ
ここでは、ゴム製のパッキンを対象としたモデリングの例を取り上げます。パッキンは圧縮荷重を受けることで密閉性を確保する部品であり、その変形挙動を正確に把握することが設計上非常に重要です。
まず、Abaqus CAEで外径と内径を持つリング形状のモデルを作成します。この形状は円環状で、断面は矩形でも円形でもかまいません。その上で、リングに上下から圧縮荷重を加える条件を設定し、単軸圧縮に近い応力状態を再現します。
次に、単軸引張試験の結果をもとに定義したMarlow modelを、Property Moduleでこのパッキンモデルに適用します。材料特性が反映された状態での変形挙動を確認することが目的です。
荷重条件の設定では、片側を固定し、反対側に一定の圧力や変位を与える方法が一般的です。その際、過大な変形による収束エラーを防ぐため、要素サイズや形状には注意が必要です。特に非線形解析では、要素が極端に変形すると数値的に不安定になるため、メッシュの細かさと解析時間のバランスを考慮することが重要です。
解析を実行したら、変形状態を可視化し、応力分布や接触部分の挙動を観察します。これにより、どの部分にひずみが集中しているか、設計上の課題はないかといった点を判断できます。実際の製品開発においても、こうしたシミュレーション結果は、部品の耐久性評価や形状最適化に大いに役立ちます。
このように、単純な形状でもMarlow modelを活用することで、設計時のリスク低減や短期間での製品改良につなげることができます。
4.2. 解析結果の解釈と検証
解析が完了した後は、得られた結果をもとに材料モデルの妥当性や設定内容の正確さを検証する作業が必要です。正しい結果を得るためには、単に変形の様子を見るだけでなく、応力―ひずみの挙動が現実の材料とどれだけ一致しているかを丁寧に確認する必要があります。
まずは、Abaqus CAEの可視化機能を使って、応力分布、ひずみ量、変形形状をグラフィカルに表示します。とくに、変形が集中する領域や局所的な応力ピークに注目すると、設計上の注意点や材料の限界が見えてきます。
次に、解析結果の数値を実験データと比較します。たとえば、同じ荷重条件で得られた応力―ひずみ曲線を実験結果と重ね合わせ、どれだけ再現できているかを評価します。ここで大きな誤差があれば、材料定義や境界条件の再調整が必要です。
また、解析が途中で止まってしまった場合や異常な結果が出た場合には、メッシュの設定、材料の初期値、時間ステップの刻み方、さらには荷重の与え方など、さまざまな要因を段階的に見直すことが重要です。非線形材料の解析では、小さな設定ミスが大きな問題につながることも珍しくありません。
さらに、人工関節などの医療用部品やバイオ材料を扱う場合は、解析結果の正確さが製品の安全性や患者への影響に直結するため、より慎重な検証が求められます。荷重条件や拘束条件に現実的な想定を加えることで、より信頼性の高いモデルを構築することが可能になります。
このように、解析結果の解釈と検証は、単なる作業の終わりではなく、次の設計やモデル改善へとつながる重要なプロセスです。Marlow modelを活用することで、シミュレーションと実験との連携がよりスムーズになり、実用的な知見を得ることができるでしょう。
5. よくある問題とその解決策
Marlow modelを使ってAbaqusでの材料モデリングを進める際、操作自体は比較的シンプルですが、それでも実際の解析作業ではさまざまな問題やトラブルに直面する可能性があります。初心者にとっては、設定のどこが原因かわからず立ち止まってしまうケースも少なくありません。
本章では、Marlow modelの導入時によくある代表的な問題とその解決策を、具体例を交えながら解説していきます。たとえば、実験データの入力ミスや、解析の途中で収束しなくなるといった問題にどう対応すればよいかを知っておくことで、作業の効率や成功率を高めることができます。
トラブルは経験を積む中で避けられない部分でもありますが、正しい知識と対処法を身につけることで、より確実な解析へとつなげることが可能です。
5.1. データ入力エラーの対処法
Marlow modelで最も起こりやすいトラブルのひとつが、実験データの入力時に発生するエラーです。多くの場合、データの形式やファイルの構造に不備があり、Abaqusが正しく認識できずにエラーを出してしまうことがあります。
たとえば、タブ区切りとスペース区切りが混在している、データに不要な空白や特殊文字が含まれている、列の順番や単位が指定と異なっているといった問題が該当します。こうした不備は見落としやすいものの、解析が始まる前に発覚するケースがほとんどです。
このようなエラーを避けるためには、データファイルをテキスト形式で保存し、事前に内容をエディタで確認することが効果的です。Excelから保存する際には、区切り文字や桁数、余分な列がないかをしっかりチェックしましょう。
また、入力するデータが公称応力・公称ひずみなのか、真応力・真ひずみなのかによっても、解析結果に影響が出るため注意が必要です。特に、真ひずみへの変換を行わずにデータをそのまま使ってしまうと、解析結果が大きくずれる原因になります。
最終的に、チームで作業する場合は、使用するフォーマットや単位、変換方法を標準化しておくことで、データ入力時のミスを大幅に減らすことが可能です。こうした準備が、Marlow modelを安定して活用するための土台となります。
5.2. 解析の収束問題とその対策
もうひとつ多く見られるトラブルが、非線形解析特有の「収束しない」問題です。Marlow modelを使っている場合でも、大きな変形や非線形挙動を扱う以上、数値的な安定性を損なう場面は少なくありません。
解析が収束しない主な原因としては、メッシュの設定が不適切であること、荷重や境界条件の与え方が急すぎること、解析ステップの時間刻みが粗すぎることなどが挙げられます。また、材料定義や初期条件の不備も、収束の妨げになる場合があります。
まずチェックすべきは、メッシュのサイズと品質です。要素が極端に小さかったり、形が歪んでいたりすると、計算が不安定になる原因となります。適度な要素サイズを保ち、可能であれば要素タイプを変更して、精度と収束性のバランスを取ることが重要です。
次に、荷重のかけ方も見直すべきポイントです。たとえば、一度に大きな力を加えるとシミュレーションが追いつかなくなることがあります。荷重を段階的にかけるステップ設定を行い、時間増分(Time Increment)を細かく設定することで、解析の安定性を高めることができます。
また、解析中に「Incrementが収束しない」というメッセージが表示される場合には、Nlgeom(幾何学的非線形)設定が適切かどうか、初期状態の設定に不自然な拘束がないかどうかなども併せて確認しましょう。
最終的に、複雑なモデルでの収束が難しい場合は、まず単純化したモデルで試験的に解析を行い、収束しやすい条件を見つけるというアプローチも有効です。段階的に設定を調整していくことで、根本的な問題を切り分けることができます。
このように、収束しない原因はさまざまですが、原因を冷静に分析し、ひとつずつ解決策を試すことが成功の鍵となります。非線形解析においては、試行錯誤を通じた経験の積み重ねが大きな武器になります。
6. まとめ
ここまで、Abaqusにおける材料モデリングの中でも、特に初心者にとって扱いやすく実用性の高い Marlow model に焦点を当てて解説してきました。
理論的な特徴から操作手順、活用事例、さらによくあるトラブルへの対応方法まで、幅広い視点からMarlow modelの実力と可能性をご紹介しました。
Marlow modelは、数あるHyperelastic modelの中でも、試験データを直接使用して材料の挙動を定義できる特長的なモデルです。単軸引張試験のデータさえあれば材料定義を開始できるという点は、解析初心者にとって大きな利点となります。
また、複雑な数式の理解やパラメータの調整が不要であるため、従来のモデルに比べて導入のハードルが低く、短時間で精度の高い解析が可能です。特に、初めて非線形材料を扱う場面や、実験データの取得が難しいケースにおいて、Marlow modelは強力な味方になります。
ただし、解析の安定性を確保するには、正確なデータ形式やメッシュ設定、適切な解析条件が求められます。そうした点を丁寧に押さえておけば、Marlow modelは精度と効率を兼ね備えた材料モデリング手法として、実務でも十分に通用する選択肢になるでしょう。
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<参考文献>
Abaqus 有限要素解析 | SIMULIA – Dassault Systèmes