BIMマネージャーが知っておきたいBEP(BIM実行計画)の基本と作成ポイント
1. はじめに|BIMマネージャーにとってBEPが重要な理由
近年、BIMを活用したプロジェクトが広がっており、国土交通省も建築BIM推進会議を通じてBIM活用の普及や標準化を進めています(参照*1)。一方で、関係者間の情報共有ルールが十分に整備されないまま進行するケースも見られます。 そのような状況では、データの整合性や責任範囲が曖昧になり、手戻りや混乱を招くことがあります。こうした課題への対応策として、BIMマネージャーが中心となって策定するBIM実行計画(BEP)が注目されています。
BIMマネージャーは、BIMファイル管理やBIMモデル管理だけでなく、情報共有ルールやBIM運用ルールの整備と継続的な運用にも深く関わります。BEPを策定することで、プロジェクトの方向性や作業手順を整理し、関係者の業務の進め方を統一しやすくなります。その結果、BIM設計変更管理やBIM干渉チェックなどの業務も円滑に進めやすくなります。
本記事では、BIM導入の現場でBIMマネージャーとして業務に携わる方にもわかりやすいよう、BEPの作成ポイントを中心に運用方法や考え方を解説します。BIM戦略を明確にし、BIMプロジェクト管理を円滑に進めるために、BEPをどのように活用すればよいのかを見ていきましょう。
2. BEP(BIM実行計画)とは何か

2.1. BEPの基本的な考え方と定義
BEP(BIM実行計画)とは、BIM導入を前提に、プロジェクト全体の進め方や情報の扱い方を明確にまとめた計画書です。国土交通省の「BIMを通じた建築データの活用に関するガイドライン Ver.1」では、BIM活用における情報共有や役割分担を整理する重要性が示されており、BEPはそれらを具体化する計画書として活用されています(参照*2)。プロジェクトの開始段階で作成し、各ステークホルダーに共有することで、建築情報モデリングで扱う多様なデータを円滑に連携しやすくなります。
この計画書には、BIMモデル管理のルールや、誰がどの業務を担当するかといった責任範囲も含まれます。たとえば、BIMマネージャー、BIMコーディネーター、BIMモデラーといった役割ごとの業務範囲を明確に定めることで、後々の作業重複やトラブルを減らしやすくなります。情報共有ルールや納品フォーマットなども、BEPで事前に取り決めておくことが重要です。
また、BEPはプロジェクトの要望や目的、BIM活用ガイドラインとの整合性を踏まえて作成されます。完成形を最初に定めるだけでなく、運用開始後に必要に応じて見直しを行うことで、常に最新の状況に合ったBIMプロジェクト管理を維持できます。
2.2. BEPが必要な理由とその効果
第一に、BEPは情報共有の仕組みを統一する役割を果たします。プロジェクトには設計者や施工者、設備担当、発注者などさまざまな関係者が参加しますが、使用するプラットフォームやツールが異なると、データが分散しやすくなります。BIMデータ受け渡しの手順やIFC活用の方法をBEPであらかじめ取り決めることで、buildingSMARTが推進するOpenBIMの考え方に沿ったデータ連携を行いやすくなります(参照*3)。関係者がどの段階でどのフォーマットを使うべきかを共有でき、手戻りを抑える効果が期待できます。
第二に、BEPがあることで、プロジェクト全体の目標や役割分担を明確にしやすくなります。BIMマネージャーが主導して策定する際は、BIM責任範囲を明確にしながら、各組織や専門家に具体的な指示を出しやすい状態にすることがポイントです。これにより、BIMモデラーはLOD(詳細度)や命名規則を守りながらモデルを作成でき、BIMコーディネーターも衝突箇所(干渉チェック)の調整や設計変更情報の共有、更新情報の周知を円滑に行いやすくなります。
第三に、BEPはプロジェクトのリスクや不確定要素を洗い出し、対策を整理するための指針にもなります。特に大型プロジェクトでは、BIMファイル管理やBIM運用ルールを事前に確立しておくことで、現場や管理者の混乱を抑えやすくなります。結果として、工程全体の効率化や品質向上につながり、関係者間の信頼関係を強化することにも役立ちます。
| 項目 | BEPがない場合 | BEPがある場合 |
| 情報共有 | データ管理が担当者任せになりやすい | 手順やルールが統一される |
| 役割分担 | 責任範囲が曖昧になりやすい | 担当業務が明確になる |
| 設計変更対応 | 手戻りが発生しやすい | 変更手順を共有しやすい |
| モデル品質 | 品質にばらつきが出やすい | 一定水準を維持しやすい |
3. BIMマネージャーとBEPの関係

3.1. BIMマネージャーの業務とBEP策定の重要性
BIMマネージャーの主な業務には、BIM運用ルールの作成や関係者との調整、モデル全体の品質管理があります。その中でもBEPの策定は、プロジェクト開始時の道筋を示すものであり、BIM活用の方向性を明確にする重要な役割を担います。これが不十分だと、作業の重複や責任範囲の曖昧さが生じ、プロジェクト全体の信頼性に影響を及ぼす可能性があります。
BIM導入が進む中、多くの組織がBIM戦略を打ち出していますが、それを実務レベルで円滑に運用できるかどうかは、BIMマネージャーの手腕に左右されることが少なくありません。具体的には、BIMモデル管理のルールを各組織と協議しながら調整することや、国土交通省のBIM関連ガイドラインを踏まえつつ、実務に適した形へ落とし込むことが挙げられます(参照*2)。
最終的にBEPは文書としてまとめられますが、その作成過程で関係者が意見を交わすこと自体が、BIM情報管理の基盤づくりにつながります。策定後も運用状況に応じて見直しを行うことで、チーム全体のレベル向上が期待できます。
3.2. BIMコーディネーターとの役割の違い
BIMマネージャーと混同されやすい役割に、BIMコーディネーターがあります。一般的には、BIMマネージャーがプロジェクト全体のBIM戦略や運用ルールの策定を担うのに対し、BIMコーディネーターはモデルの統合や関係者間の技術的な調整、干渉チェックの管理などを担当することが多いです。両者の連携がうまく取れないと、モデルの整合性や情報伝達に支障が生じるため、役割を明確にしておく必要があります。
例えば、BIMマネージャーがBEPの作成方針をまとめ、IFC活用やOpenBIMに関する方針を決定する一方で、BIMコーディネーターは実行段階におけるモデリング方法の調整やモデル間の干渉チェックを担当することが多くあります。どちらの立場においても、「誰が何を担当するのか」を文書化しておくことで、情報共有ルールを運用しやすくなります。
このように両者は補完関係にあり、BIMコーディネーターが整理したデータや現場の課題を、BIMマネージャーがBIMルール全体やBIM戦略の視点から調整する形が理想的です。こうした役割分担の明確化こそが、BIM実行計画を効果的に活用するための基本となります。
| 役割 | 主な担当業務 |
| BIMマネージャー | BIM戦略策定、BEP作成、ルール整備、全体統括 |
| BIMコーディネーター | モデル統合、干渉チェック、関係者調整 |
| BIMモデラー | モデル作成、属性情報入力、図面作成 |
4. BEPで決める主な項目
4.1. BIMの活用目的と主要な利用シナリオ
BIMを導入する際は、そのプロジェクトで何を実現したいのかという「BIMの活用目的」を明確にする必要があります。たとえば、設計意図を早い段階で可視化して設計変更を減らしたいのか、BIM数量拾いによる正確なコスト把握を重視するのか、あるいは維持管理段階までデータを活用してアフターサービスの向上を目指すのかなど、目的はさまざまです。
こうした目的に応じて、BIM実行計画の内容も変わります。具体的には、干渉チェックの実施頻度や情報の粒度をどこまで細かくするかなどを検討する必要があります。BIMマネージャーは、発注者の要望やプロジェクトチームの能力を踏まえながら、優先順位を決めていくことが大切です。
実際の運用では、「まずは設計段階でのBIM活用を優先し、施工段階は次のステップで検討する」といった段階的なアプローチも有効です。どこが効果的な導入ポイントなのかを関係者全員で話し合い、それをBEPに反映することで目標が明確になり、全員が同じ方向を向いて業務を進めやすくなります。
4.2. モデル作成ルール:命名規則とLOD
BIM運用を円滑に進めるには、モデル作成ルールをあらかじめ定めておくことが欠かせません。特に重要なのが、BIM命名規則とLOD(モデルの詳細度)です。命名規則では、ファイルの保存場所やファイル名の付け方、階層構成などを統一し、誰が見ても内容を把握しやすい状態にします。例えば、「建築_1F_壁_LOD300」のように、要素や階数、LODレベルを含む独自ルールを設けるケースがあります。このようなルールを統一することで、後から検索や分類を行いやすくなります。
LODについては、プロジェクトのフェーズや利用目的に応じたレベルを設定します。設計の初期段階では必要最低限の形状・属性情報とし、実施設計段階に進むにつれて必要な情報を追加していく考え方が一般的です。BEP作成時には、各フェーズでのLOD目標を定めておくことで、関係者の認識を揃えやすくなります。
これはBIMモデル管理の基盤となるため、過不足のない設定が重要です。国際標準のIFCフォーマットに準拠する場合は、要素ごとに必要なパラメータを整理し、漏れや重複が生じないよう配慮しましょう。
4.3. 情報共有ルールとデータ受け渡しのプロセス
BIMプロジェクト管理を成功させるには、情報共有ルールを明確に定めることが欠かせません。特にクラウド環境での共同作業が一般的になった現在では、誰がいつどの段階でファイルを更新し、どのような承認フローを経て公開するのかをBEPにまとめておく必要があります。例えば、週に1回モデルを集約し、各担当者が承認したうえで正式登録するといった運用方法を採用するケースもあります。
また、BIMデータを受け渡す際には、データの互換性をどのように確保するかが重要な課題となります。専用ソフトやプラグインのバージョン違いによる不整合を避けるためにも、使用ソフトのバージョン管理や、OpenBIMの考え方に沿ったIFC形式でのデータ交換などを事前に決めておくことが大切です。これにより、異なるシステム間でも円滑な情報共有が可能になります。
さらに、情報共有のタイミングに関わる設計変更管理も重要です。変更内容をモデルへ反映する順序や担当者を定め、責任範囲を明確にすることで、誤ったデータが流通するリスクを抑えられます。こうした取り決めをBEPに盛り込み、関係者全員に周知しておきましょう。
4.4. IFCとOpenBIMによるデータ連携
BIMルールの統一を進めるうえで、IFC(Industry Foundation Classes)の活用は欠かせません。IFCとは、buildingSMARTが開発・維持管理する国際標準のデータ交換仕様であり、異なるBIMソフト間でモデル情報を共有するための基盤として利用されています(参照*3)。 異なるBIMソフト間で建築モデルを交換するための基盤となっており、OpenBIMと呼ばれるオープンなデータ連携の実現に役立ちます。これにより、ソフトウェアやバージョンの違いに左右されにくいプロジェクト運営が可能になります。
BEPの策定段階では、「承認済みのモデルはIFCに変換して関係各社へ配布する」といった具体的な運用ルールを明記しておくとよいでしょう。また、細かなパラメータ設定がIFCファイルへ正しく反映されるよう、各ソフトのエクスポート設定やプロパティ情報を統一しておくことも重要です。これにより、BIMコーディネーターがモデルを集約する際にも、想定外のデータ欠損が起こりにくくなります。
OpenBIMの取り組みは、特定ベンダーに依存しない柔軟なプロジェクト運営を可能にします。長期的には、BIM維持管理の段階でも効果を発揮し、建物のライフサイクル全体を通じて価値ある情報を残せることが大きな強みです。
| BEPで決める項目 | 主な内容 |
| BIM活用目的 | 干渉チェック、数量拾い、維持管理など |
| モデル作成ルール | 命名規則、LOD、属性情報 |
| 情報共有ルール | 更新頻度、承認フロー |
| データ受け渡し | IFC形式、ソフトのバージョン管理 |
| 役割分担 | BIMマネージャー、コーディネーター、モデラー |
5. BEP作成でよくある失敗と対策

5.1. 過度なルール設定の避け方
BEPを作成する際、細かな規定を盛り込みすぎた結果、かえって現場の運用に合わない計画書になってしまうことがあります。誰も守れないほど複雑なマニュアルになると、本来目指していた統一性や効率性が失われ、形だけの文書になってしまう恐れがあります。
これを防ぐには、まずプロジェクトの規模やメンバーのスキルを見極め、必要最低限のルールから始めることが重要です。例えば、BIM命名規則についても、すべてを網羅しようとするのではなく、まずは必須項目に絞って運用ルールを定めておくとよいでしょう。
最終的には状況に応じて段階的にルールを詳細化していくほうが現実的です。また、BIMマネージャーが定期的に現場の声を取り入れながら見直しを行うことで、柔軟で実効性のあるBEPへと育てることができます。
5.2. 関係者間の合意形成とその重要性
BIMプロジェクトには、建築設計者だけでなく、構造・設備・施工・発注者など多くの関係者が関わります。そのため、BEPを策定するうえで重要なのは、関係者全員が理解し納得できるルールを作ることです。特定の部署だけで策定し、他部署へ十分に共有しないまま運用すると、後になって認識の違いによる対立が生じやすくなります。
合意形成を進めるには、定期的な打ち合わせやワークショップを実施し、BIM実行計画のドラフトを関係者と共有しながら修正していくプロセスが効果的です。例えば、「このデータ受け渡し方法は設備チームにとって実用的か」といった具体的な意見を確認することで、早い段階で調整すべき点を洗い出せます。
その結果、全員が協力しやすい環境が整い、手戻りの削減にもつながります。合意形成には時間がかかることもありますが、事前に十分なコミュニケーションを取ることで、後々の大きな混乱を防ぎやすくなります。
5.3. BIM活用目的の明確化
BEP作成時によくある失敗の一つが、BIM活用の目的が曖昧なまま計画書を作成してしまうことです。目的が不明確だと、BIM運用ルールに何を盛り込むべきか判断しにくくなり、結果として評価しづらいBEPになってしまいます。
例えば、「BIMモデルを使って設計品質を向上させる」といった抽象的な目標だけでなく、「主要な干渉を80%以上事前に発見する」「設計変更時の作業時間を30%削減する」といった定量的な指標を設定すると効果的です。そうすることで、関係者が同じ目標を共有しやすくなり、モデリングや情報共有のプロセスも組み立てやすくなります。
BIMマネージャーは、発注者や社内外のチームと連携しながら、こうした目標をBEPに反映させることが大切です。目標が明確であるほど、期待される効果が見えやすくなり、合理的な判断もしやすくなります。
5.4. 運用開始後のBEP更新管理
一度BEPを完成させても、その後まったく更新せずに放置すると、実際のプロジェクト運営との間にずれが生じてしまいます。BIMモデル管理の状況が変化したり、新しいツールや運用方法が導入されたりした場合には、その都度計画書を見直す必要があります。
特に、BIM図面審査などの新しい制度や施策に対応する際には、BEPを更新し、基準や手順を見直しておくことが求められます。建築DXが進む現在では、ソフトウェアのアップデートやクラウドプラットフォームの変更も頻繁に行われるため、常に最新の情報を反映する姿勢が大切です。
運用開始後は定期的に点検を行い、実際の運用で見つかった課題や新たな要望を集約する仕組みを、BIMマネージャーが主導して整えるとよいでしょう。そうすることで、BEPを常に現場で活用できる実践的なルールとして維持しやすくなります。
6. BIM図面審査を見据えたBEPの考え方
国土交通省は2026年4月からBIM図面審査を開始しており、建築確認申請におけるBIM活用が本格化しています(参照*4)。 これは、従来の図面による確認申請に加え、BIMモデルやIFCデータを活用して審査の効率化と品質向上を図る取り組みです。このような流れの中で、BIM実行計画の品質はこれまで以上に重要になっています。
その理由は、「建築確認におけるBIM図面審査ガイドライン」で示されるように、BIMモデルの整合性や情報の正確性が求められるためです(参照*4)。 関係者間の責任分担や合意形成の内容が曖昧な計画書では、審査者から追加の確認や修正を求められる可能性が高まり、再提出までの期間が長引く恐れがあります。
そのため、BIM図面審査を見据えたBEPには、モデルの精度や情報の正確性を維持するための具体的な方針を盛り込むことが重要です。例えば、どの段階でどのレベルのLODが必要なのか、IFC活用によって確認できる情報の範囲はどこまでかを整理しておくことで、審査プロセスを円滑に進めやすくなります。
BIM図面審査を見据えて確認したいポイント
- LODの設定基準は明確か
- IFC出力ルールは統一されているか
- モデル更新手順は定義されているか
- 責任分担は明文化されているか
- 情報共有ルールは周知されているか
7. まとめ|BEPはBIMマネージャーの重要な管理ツール
本記事では、BIMマネージャーが理解しておきたいBIM実行計画(BEP)の基本と、作成時に押さえておくべきポイントを解説しました。BEPは単なる文書ではなく、BIMプロジェクトの運用を支える重要な管理ツールです。情報共有ルールやモデル作成基準を明文化することで、重複作業や運用上のミスを減らしやすくなります。
また、BEPの作成過程では、BIM導入の目的や役割分担を整理し、プロジェクト全体の方向性を共有できます。合意形成には時間がかかることもありますが、その過程を通じてプロジェクトの信頼性や運用効率の向上が期待できます。特にBIM図面審査や建築DXが進む中で、BEPの重要性は今後さらに高まっていくでしょう。
BIMマネージャーには、BEPを作成して終わりではなく、運用状況に応じて継続的に見直していくことが求められます。定期的な更新と関係者との連携を通じて、BIM実行計画を実務に活かせる形で維持していくことが大切です。
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<参考文献>
(*1)建築:建築BIM推進会議 - 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/kenchikuBIMsuishinkaigi.html
(*2)BIMを通じた建築データの活用に関するガイドライン Ver.1 - 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001882469.pdf
(*3)IFCとは? – buildingSMART Japan
https://www.building-smart.or.jp/ifc/whatsifc/
(*4)建築確認における BIM 図面審査ガイドライン 建築BIM推進会議
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001990514.pdf
