建築・土木業界での3Dスキャナ活用事例と、導入のポイントを解説
1.はじめに
建築・土木業界では、人手不足や省力化への要望が年々高まっており、その解決策の一端として3Dスキャナの導入が注目されています。とりわけBIMやCIMを活用したプロジェクト管理が推奨されるようになったことで、正確な点群データの取得やデジタルツインの構築が重要になっています。また、図面のない既存建物を改修しようとするとき、高精度測量による現況把握が欠かせません。こうしたニーズの可視化に役立つのが3Dレーザースキャナであり、建設業界や土木業界での事故防止やミス削減を実現する武器にもなるのです。
そこで本記事では、建設技術の新しいスタンダードとなりつつある3Dスキャナの導入事例や、効果的な導入ポイントについて解説し、現場業務の効率化や精度向上を支援する具体的な方法を示します。特に文化財保全やインフラ点検などにも活かされる実例を取り上げることで、「なぜ今、3Dスキャナが必要なのか」という疑問に根拠を添えて答えていきます。
さらに、Scan to BIMやドローン連携、AI連携など新技術との組み合わせによって可能性が広がる未来像についても言及しながら、建築や土木の現場でどのように活用できるかを検討します。
これらの情報をもとにして、プロジェクトマネージャーの視点から導入する際に気をつけたい保守サポートの注意点やソフト互換性の問題、データ容量や測量技術の進め方にもスポットを当てます。結果として時間短縮を達成し、ミスを大幅に減らすだけでなく、現場の安全性やコスト削減にも寄与できるのが3Dスキャナの大きな魅力です。ここで得られる知見を活かして、企業競争力の強化や環境に配慮した持続可能な工事運営へとつなげていただければ幸いです。
2. 3Dスキャナが必要とされる背景
ここでは、なぜ建設業界や土木業界で3Dスキャナが急速に導入されるようになったのか、その具体的な背景を整理します。BIMやCIMといった情報化施工の推進は大きな動機となっていますが、他にも事故リスクの低減や省力化、自動化への期待も高まっています。また、老朽化したインフラの点検や建築改修の円滑化を目指す上で、3Dレーザースキャナによる高精度測量は欠かせない要素となっています。以下の各項目で、これらの背景にどのようなニーズと根拠があるかを考察します。現場の作業効率を劇的に引き上げるためには、ただ機器を導入するだけでなく、データ共有の仕組みやスタッフの操作習熟体制などの総合的対策が必要です。そうしたポイントを、次の小見出しで解説します。
2.1. 人手不足と自動化の必要性
少子高齢化の影響で、建設業界や土木業界では慢性的な人手不足が続いています。特に、現場管理や測量技術を担うエンジニアの数が限られると、プロジェクト遅延やミスが起こりやすくなるというリスクが高まります。そこで、3Dスキャナといった高精度測量機器を活用することで、一度のスキャンで膨大な点群データを取得し、従来なら数日かかっていた作業を大幅に短縮できる可能性があるのです。
さらに、Scan to BIMやCIMの環境にそのままデータを取り込むことで、設計から施工、検査段階までのワークフローを自動化に近づけられます。自動的に数量算出を行ったり、現地測量の精度確認を容易にしたりする仕組みは、最終的に省力化の実現につながります。それだけでなく、建設技術の進歩によって必要なスタッフ数を絞り込んでも、高い品質維持が見込まれる点でもメリットが大きいです。さらに、こうした自動化基盤の構築は、社員の業務負担を軽減しつつ、インフラ点検などの持続可能な運営体制の確立にも寄与します。
2.2. ミス削減と進捗の可視化
建築・土木プロジェクトでは、ちょっとした測量ミスや設計段階での誤差が、大きな手戻りや追加コストの原因となる場合があります。3DレーザースキャナやUAVによる点群データを活用すると、微細な寸法違いや障害物の位置を正確に捉えることができるため、設計と実際の施工状況との差を常時モニタリングできるようになります。
例えば、土量管理では現場から得られる3Dスキャンの点群データを用いて、日々の掘削量や埋戻し量を数値化することが可能です。これにより、進捗を可視化しながら施工計画を柔軟に調整できるため、工期遅延のリスクを低減するだけでなく、余剰な資材や人員の手配を抑制するなどのコスト削減効果も期待できます。また、厳密なデータ共有を行うことで、発注者や下請け企業とのコミュニケーションもスムーズに進められ、安全管理の面でも事故防止対策が強化されます。
2.3. BIM/CIM政策との整合性
国や自治体が推進するBIM、CIMの取り組みは、建設現場の効率化とオープンな情報共有を図るために重要です。建築改修においても、CIMモデルを使った設計・施工一元管理は今後ますます増加する見込みです。こうした政策の背景には、老朽化インフラへの迅速かつ精密な対応が必須となってきたという事情も大きく影響しています。
たとえば、橋梁の劣化調査やトンネル掘削工事の進捗確認においては、3Dスキャナを使うことがBIM/CIM対応の第一歩であり、その結果得られた正確な点群データを活用して、適切な補修方法や施工順位をシミュレーションできるようになります。このような取り組みは、最終的にはコストの最適化や施工品質の向上につながり、公共事業における住民の理解も得やすくなるのです。各企業がこの流れに遅れず対応するには、高精度測量の導入だけでなく、ソフト互換性やデータ容量への対処も欠かせない課題となっています。
2.4. 老朽化インフラの効率的管理
幅広い年代にわたるインフラの老朽化が進む中、補修や改修を必要とする案件が年々増加しています。しかし、単純な視認や従来の2D図面だけでは、複雑な箇所の劣化を捉えきれないケースも多いです。それに対して3Dレーザースキャナなら、離れた位置から精度を落とさずにスキャンできるため、作業者が立ち入れない危険個所や複雑な地形の測量でも成果を挙げられます。
また、一度取得したデジタルツインのデータを活用すれば、将来的な保全計画の比較や改修箇所のシミュレーションを行いやすくなります。例えば、文化財保全の現場では、細部を含めた正確な3Dモデルを作ることで修復内容を精緻に検討できるだけでなく、災害が起きた際にも迅速に復旧計画を立てる資料として利用できます。こうした包括的なデータ活用は、建築・土木業界が抱える老朽インフラ管理の課題を効率的に解決していくうえで不可欠です。
3.3Dスキャナの具体的活用事例
ここからは、3Dスキャナがどのように建築・土木業界の現場業務に応用されているか、具体的な事例を取り上げます。精度確認や操作習熟といった点に留意しながらも、ワークフロー全体を大きく変革する点に注目すると、それぞれの活用事例がもつROI(投資対効果)の大きさを理解しやすくなります。文化財保全や建築改修、土量管理、トンネル掘削など、現場のニーズに応じてさまざまな分野で成果をあげているのが3Dレーザースキャナの特徴といえます。
3.1. 文化財のデジタル保存
<画像引用>・清水建設株式会社「デジタル技術で大本山永平寺の重要文化財群を大解剖!」
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2024/2024004.html
文化財保全の分野では、建造物の詳細を正確に記録するために3Dスキャナが活用されています。伝統的な木造建築や歴史的遺産は、一度破損すると復元が難しく、修繕に関する資料不足が大きな問題となってきました。しかし、3Dスキャナで細部まで測量し、デジタルツインとして保管することで、将来的な修繕や再現にも大きく役立つのです。
たとえば、狭い小屋裏や美術的彫刻部分にもスキャナを持ち込むことで、高解像度の点群データを生成できるため、肉眼では気付かないような劣化部分も把握しやすくなります。それだけでなく、データ共有がクラウドを通じて可能になることで、専門家の少ない地方でも遠隔から複数の研究者が分析できる体制を整えやすくなります。結果として、正確な記録を、文化財の所有者や自治体、学術機関など多数の関係者が共有できるため、保護活動や観光資源化にもポジティブな効果をもたらします。
3.2.既存建物の改修作業の精度向上
建築改修のプロジェクトでは、完成当時の図面が存在しない、あるいは実際の構造が図面と大きく食い違っているケースがよく見られます。このような現場で3Dスキャナを使うと、短時間で正確な現況データを取得し、設備改修や増築工事に必要な各種解析がスムーズに進みます。特に、水回り配管や梁・柱の正確な位置確認において点群データが威力を発揮し、設計段階での誤差や抜け漏れを大幅に削減できます。
さらに、BIMソフトウェアと3Dスキャン情報を組み合わせてScan to BIMのプロセスを行えば、既存建築物を仮想空間上に再現し、干渉チェックや施工手順の検討を効率的に行えます。施工期間の短縮だけでなく、スタッフの操作習熟による省力化、自動化まで見据えた導入事例も増えています。また、エコ改修と組み合わせることで建物の寿命延長や廃棄物削減にも寄与できるため、企業の環境貢献度向上につながるメリットも大きいです。
3.3.土工事の土量管理の効率化
土木工事では、掘削や埋め戻しにかかる土量管理が工期やコストに直結します。従来は人手による計測で誤差が大きく出やすい部分も3Dスキャナを使うことで、短時間で高精度に地形を把握可能になります。取得した点群データからメッシュ化を行い、土量を算出するソフトウェアと連携することで、現場の進捗を数値的に可視化しながら施工計画を立案できるようになるのです。
また、ドローン連携によって広範囲を効率的に空撮する手法が定着してきており、危険な斜面や立ち入りが困難な場所でも安全に土量計測を行えます。これにより、無駄な重機の稼働や資材の手配が省かれ、結果として施工の最適化につながっていくのです。さらに、こうした土量管理の省力化はスタッフの負荷を減らし、安全管理面でもメリットをもたらします。
3.4.トンネル掘削の安全管理
<画像引用>・安藤ハザマ「三次元レーザースキャナトンネル変位計測システム(3D-ラスタム)」
https://www.ad-hzm.co.jp/solution/m_tunnel/detail_06/
トンネル掘削は常に大きなリスクを伴う作業であり、地山の変位や掘削断面の把握は安全管理の要となります。3Dスキャナによる計測システムを導入すれば、トンネル内部を定期的にスキャンし、地層の変形や構造補強材の状態を立体的に捉えることが可能です。その結果、従来の2D断面図だけでは見落としがちな箇所を早期に発見し、事故防止に直結させられます。
とくに、構造物近接部での掘削リスクは非常に大きいため、リアルタイムで得られる点群データを監視する仕組みを構築すると、異常があった際に迅速かつ的確な対策を講じることができます。これに加えて、保守サポートをしっかり行うメーカーの機材を選べば、精度確認や機器トラブルへの対応も万全なので、プロジェクト全体の信頼性が一段と向上します。
4. スキャンデータが変革する現場ワークフロー
3Dスキャナから得られる情報は、単なる測量データにとどまらず、建築・土木現場のワークフロー全体を変革するポテンシャルを持っています。測量技術が高度化すると同時に、クラウドやモバイル端末を介して迅速にデータ共有が可能となり、複雑なプロジェクトでもリアルタイムの進捗把握や事故予防対策を進めやすくなります。以下の各小見出しで、その具体的なメリットと実行のポイントを解説します。
4.1. 測量時間の短縮と自動化
従来の測量方法では、地形や建物の詳細を把握するのに多大な時間と人数を要していました。しかし、3Dスキャナを導入すれば、数時間で膨大な点群データが得られるため、一度に広範囲を測量することも可能になります。自動モデリング機能を備えたソフトウェアと連携すれば、スキャン後の処理をスムーズに進められ、作業者がデータの整合やミスをチェックする時間も短縮できます。
特に、地形の起伏が激しい場所や足場の悪い現場では、簡易なドローン連携との組み合わせでさらに効率が向上します。ドローンで航空写真を撮影し、それを3Dスキャンデータと重ね合わせることで、従来伸びていた測量時間を大幅に削減し、省力化と自動化を同時に実現できるのです。結果として、短縮された期間をほかのプロセスに回すことで、全体の工期を圧縮し、コスト削減にも寄与します。
4.2. データ共有の高速化と進捗管理
3Dレーザースキャナで得られる膨大な情報量は、クラウド環境の活用によって複数の利害関係者と瞬時に連携できるようになります。設計事務所、施工会社、発注者などが同じデータベースにアクセスし、状況を確認しながら判断を下せる仕組みを整えることこそが、現場業務の効率を飛躍的に高める鍵です。これにより、現状を誤差なく伝えられるだけでなく、修正指示や追加工事の要望もリアルタイムで反映できるため、ミス削減とコミュニケーションロスの低減につながります。
また、各関係者が共有する3Dモデル上で進捗を可視化すれば、計画対実績の比較が容易となり、被害やトラブルの予兆を見逃さずに済むというメリットも得られます。たとえば、土木工事では地盤や地下水の情報と組み合わせることで、事故リスクを予防しながら効率的に施工を進める判断材料を整えやすくなります。こうしたデータ活用こそが、BIMやCIM政策の狙いでもあり、今後さらに重要性が高まるでしょう。
4.3. ミスと事故の防止
プロジェクトの成否を左右するのは、いかに施工現場でのミスと事故を減らすかという点です。3Dスキャナで取得した正確な点群データを活用すれば、想定していない障害物や構造のゆがみを早期に発見できるため、事前に対策を施すことができます。これにより、突発的な修正工事や資材手配の遅延といったリスクを抑制することが可能になるのです。
さらに、施工前後のデータを比較できる点も大きなメリットです。実際の状態をスキャンで可視化し、それを計画段階のモデルと重ね合わせることで、施工ズレの範囲や劣化箇所を迅速に特定できます。大規模プロジェクトほど複数の業者が入り交じるため、誰がどこまで責任を負うのかが曖昧になりやすいですが、客観的な3Dデータを提示することで、透明性の高い問題解決が実現できます。結果的に、施工品質と安全性の向上に大きく貢献するでしょう。
5. 3Dスキャナ導入時の失敗と注意点
3Dスキャナを導入すれば、あらゆる現場業務が自動的に最適化されるわけではありません。実際には機材の選定からデータ容量への対策、ソフトウェアの互換性検証、そしてスタッフの操作習熟や保守サポート体制など、慎重にチェックすべきポイントが多数存在します。ここでは、よくある失敗を踏まえながら、具体的にどのような注意を払うべきかを解説します。
5.1. 適切な機材選定と精度確認
3Dレーザースキャナにはさまざまな種類があり、屋外向け・屋内向け、高精度測量に強いモデルや軽量モデルなど、それぞれ特徴が異なります。実際の導入にあたっては、まず想定される測量範囲や精度要件を明確にすることが必須です。誤ってオーバースペックな機材を購入すると、設置や操作に手間取るだけでなく、無駄にコストがかかる可能性があるからです。
また、導入後は定期的な精度確認が欠かせません。スキャナ本体のキャリブレーションや、計測時の基準点の取り方など、細かな部分で測定誤差が積み重なると、最終的なモデルの品質に大きく影響します。特に、トンネル掘削や文化財保全のように高い精度が要求される案件では、メーカー推奨のチェックリストや校正手順に厳密に従い、信頼性を損なわないよう管理しましょう。
5.2. データ容量とシステム要件
3Dスキャナで得られる点群データは非常に大容量となる場合があります。工事現場の広さやスキャン頻度によっては、数GBから数十GB単位のファイルを取り扱う可能性があり、高性能のPCや十分なストレージ環境がなければスムーズに作業を進められません。さらに、クラウドでのデータ共有を行う場合は、ネットワーク回線の速度や安定性も重要です。
このため、事前に必要とされるシステム要件を把握し、導入スケジュールや予算に反映させることが大切です。特に土量管理や建築改修など、プロジェクト進行中に複数回のスキャンを行うケースでは、大量のデータが積み重なるため、効率よくデータを圧縮・整理する手法も検討しなければなりません。適切なハードウェアやクラウドサービスを選定しないと、後々の運用コストが大きく膨らむリスクがあるので注意しましょう。
5.3.ソフトウェアの互換性と現場対応
Scan to BIMやCIMなど、3Dスキャナのデータを活かすソフトウェアは多種多様です。メーカーごとにフォーマットが異なる場合もあり、互換性が十分に確保されないと、せっかく取得した点群データを無駄にしてしまうケースも想定されます。したがって、導入前に主要なソフト間のインポート・エクスポート機能の確認や、実際のワークフローを想定したテストを行うことが重要です。
それに加え、現場対応力も見逃せません。屋外の天候によってはスキャナの精度が左右される場合があるほか、測量場所への機材搬入経路やセキュリティ上の制約など、予期しない問題が起こりやすいです。こうしたリスクを考慮し、エンジニアが現場で臨機応変に対処できるような環境整備を行うことで、3Dスキャナの利点を最大限に引き出せるでしょう。
5.4.操作習熟とスタッフ教育
新しい測量技術を導入するには、スタッフの操作習熟やデータ活用のリテラシーが不可欠です。3Dレーザースキャナの操作自体は直感的な部分もありますが、点群処理ソフトとの連携や精度管理、BIMモデルへの統合など、一連の工程を理解してはじめて真の効率化を実現できます。したがって、メーカーが提供する研修プログラムや、現場が主体となる実地トレーニングを計画的に実施することが望ましいです。
特に、社内で3Dスキャナに精通した担当者を育成する効果は大きく、将来的な技術継承にもつながります。その結果、プロジェクトごとのノウハウが蓄積し、より正確かつ迅速な施工管理が可能になるでしょう。操作習熟を高めることで、点群データを活かしたデジタルツインの構築や、インフラ点検での長期計画策定にも貢献できるようになります。
5.5.保守サポートとメーカーの信頼性
3Dスキャナは比較的高価な精密機器であり、不具合が生じた場合のサポート体制が薄いと、業務が大幅に遅延する恐れがあります。導入時には、どの程度の期間の保守契約が含まれるのか、機器が故障した場合の交換・修理対応はどのように行うのかをあらかじめチェックしておくことが重要です。安価なモデルであっても、メーカーの信頼性が低く、トラブル時の対応が不十分であれば、結果的にコスト増を招いてしまいます。
また、ソフトウェアアップデートや新機能の追加がどの程度のサイクルで行われるのかも、メーカー選定の大きなポイントとなります。Scan to BIMやAI連携などの先端技術に迅速に追随しているメーカーは、長期的な運用においてもユーザーが最新の機能を享受できるよう配慮しています。そのため、価格だけでなくサポート・アップデート体制といった総合的な信頼度を判断基準にすることが肝要です。
6.3Dスキャナ技術の進化と建設業の未来
最後に、3Dスキャナ技術と建設業が交わることで生まれる未来像を展望します。AIとの連携、ドローンとの協調運用、そして点群データからBIMへ自動変換する技術の進歩はいずれも、建築・土木現場の効率化だけでなく、安全性やコスト削減、さらには環境面でのインパクトにも大きく寄与すると考えられています。今後の制度面の整備によって導入がさらに加速することが予想されるため、早期に情報をキャッチし実装することで、プロジェクトマネージャーとしても大きな優位性を確保できるでしょう。
6.1.AIとの連携で進化する自動モデリング
近年、AI技術を組み合わせた3Dスキャナのソリューションが次々と登場しています。従来は人手で行っていた図面の抽出や柱・梁の認識といった作業を機械学習によって自動化できるようになり、さらに複雑な部材の自動モデリングが実現しつつあります。これにより、建設現場の人員配置を最適化し、作業時間とコストを大幅に削減する効率化が期待されます。
ただし、AIによる自動識別が完璧というわけではなく、現場特有のノイズや想定外の構造物などに対応するために、まだまだ人的なチェックが欠かせません。ただ今後はアルゴリズムの学習データが充実することで誤差が減少し、BIM環境へのデータインポートが一層スムーズになる見通しです。結果的に、プロジェクト全体の工程管理が大きく変わっていくでしょう。
6.2.点群からBIMデータへの自動変換
建築・土木業界で求められるBIMモデルは、構造や設備の属性情報を含む高度なデータです。これまでは3Dスキャナで取得した点群データを手動でモデリングソフトに取り込んで作業していましたが、近年は自動変換ツールの精度が急激に向上しています。特に、壁や床と見なされる部分を自動で抽出してBIM化する「Scan to BIM」のプロセスが飛躍的に早まっており、設備改修やインフラ点検でも活用され始めています。
一方で、3DスキャンデータをそのままBIM化すると、不要なノイズが含まれてモデルが肥大化しがちです。そこで、不要部分を削除したり、最適なポリゴン数にリダクションしたりする工程をどう自動化していくかが課題となっています。今後、この点が解決されれば、あらゆる現場とデジタル空間との乖離が激減し、工事計画やメンテナンス計画をより厳密に立案可能になるでしょう。
6.3.モバイル化とドローン連携
3Dスキャナ自体がより小型化され、スマートフォンやタブレットと連携できる機種も増えています。これにより、従来は大がかりな装置が必要だった現場測量が、より気軽に実施できるようになっているのです。さらにドローン連携の技術が進化することで、地上と空中から同時に取得したデータを組み合わせ、広大なエリアを短時間でスキャンすることも可能となりました。
こうしたモバイル化とドローンの融合によって、同じプロジェクトでも複数の視点から点群データを取得できるようになり、施工前のシミュレーションや危険エリアの特定などに役立ちます。作業工程のどこにリソースを配分すべきかを明確化し、的確な省力化やコストコントロールを行いやすくなるのです。ドローン技術の精度が向上すれば、さらに広範囲の土量管理やインフラ構造物の検査も安全に実行できます。
6.4. 制度面の変化と導入の加速
BIMやCIMの原則適用化が進むなかで、3Dスキャナの導入はもはや選択ではなく必須事項になる流れが強まっています。公共事業では情報化施工が指針として掲げられ、入札要件にもBIM/CIM対応が含まれるケースが増加中です。こうした制度要件に適応しなければ、新規の工事案件を受注できないリスクもあり、各社がいち早く導入を進める動機となっています。
また、大規模災害への備えや老朽化インフラの更新が社会的議題となるなか、将来的には自治体レベルでの3Dスキャナ普及施策が加速する可能性もあります。導入支援や補助金の仕組みが整備されれば、中小規模の建設会社でも先進技術を取り入れるハードルが下がるでしょう。結果として、建築・土木の現場では3Dスキャナが標準的なツールとなり、新しい世代の作業者にとっては当たり前の技術運用へ移行していくと考えられます。
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❷BIMを活かすためのツール紹介
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❹建設業界におけるDX

<参考文献>
・株式会社岩崎「3次元レーザースキャナ」
https://www.iwasakinet.co.jp/iwasaki-solution/3d-measurement/3dls/
・クモノスコーポレーション株式会社「3Dレーザースキャナーの活用事例12選!多種多様な業界の実例を紹介」
https://kumonos.co.jp/media/3d-laser-scanner-casestudy/
・京津測量株式会社「「3Dレーザースキャナー測量」で新たなステージへ。」
https://keishin-survey.co.jp/technology/survey-measurement/3d-laserscanner-measurement/
・清水建設株式会社「デジタル技術で大本山永平寺の重要文化財群を大解剖!」
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2024/2024004.html
・日本建築学会「既存建築物の改修工事における3次元スキャニングの活用に関する研究-設備改修を対象として-」pp.1-4
http://news-sv.aij.or.jp/jyoho/s1/proceedings/2012/pdf/H23.pdf
・福井コンピュータ株式会社「3次元点群処理ソフト( TREND-POINT)を用いた施工土量計測システム」pp.2-5
https://www.kkr.mlit.go.jp/plan/ippan/kensetsugijutsuten/ol9a8v000001uby2-att/a1572394549858.pdf
・安藤ハザマ「三次元レーザースキャナトンネル変位計測システム(3D-ラスタム)」