CDEデータのセキュリティ対策とは?建築BIMで実践したい情報管理のポイントを解説
1. はじめに
近年、クラウドサービスの普及により、設計図面や3Dモデル、点群データ、契約資料などを、複数の関係者で共有する機会が増えています。特に建築BIMの活用が進む中で、効率的な情報共有を実現する仕組みとして、CDE(Common Data Environment)が注目されています。
一方で、機密性の高い情報を扱う建築プロジェクトでは、情報漏えいや不正アクセスへの対策が欠かせません。アクセス権限の設定ミスやランサムウェア攻撃が発生すると、プロジェクト全体の遅延や企業の信用低下につながる恐れがあります。
本記事では、CDEの構成やISO 19650との関係を解説したうえで、建築BIMにおける情報セキュリティの重要性を取り上げます。さらに、アクセス権限、多要素認証、データ暗号化、監査ログ、承認フローなど、具体的な対策について紹介します。
CDEは、導入するだけでなく、ISO 19650の考え方を踏まえて運用することが重要です。Autodesk Construction Cloudのセキュリティ機能にも触れながら、実務に活かせる情報管理のポイントを整理していきます。
2. CDE(Common Data Environment)の基本

CDEは、建築プロジェクトの情報を、共通のルールに基づいて管理・共有するための環境です。単なるクラウドストレージではなく、情報管理のワークフローと、それを技術的に支えるソリューションを含みます。
ここでは、CDEの基本的な役割や構成要素、ISO 19650との関係、JACICが紹介するCDEワークフローについて解説します。
2.1. CDEとは何か?
CDE(Common Data Environment)とは、特定のプロジェクトや建設資産に関する情報を、管理されたプロセスを通じて収集・管理・共有するための共通データ環境です。JACICでは、CDEは運用プロセスを定める「ワークフロー」と、そのプロセスを技術的に支える「ソリューション」という2つの側面から構成されると説明しています(参照*1)。
CDEでは、設計段階のBIMモデルやCAD図面、施工現場で取得された点群データなど、多様な情報を統合的に扱います。クラウド型のCDEソリューションであれば、遠隔地からでも情報へアクセスしやすく、アクセス権限や情報の共有範囲も管理できます。
ただし、CDEを利用するだけで、情報の安全性が自動的に確保されるわけではありません。情報の整合性を保ち、必要な人だけが適切な情報へアクセスできるようにするには、権限設定や承認手順などの運用ルールを整える必要があります。CDEは、ISO 19650シリーズに基づく情報管理を支える重要な仕組みの一つです。
2.2. CDEの役割と構成要素
CDEの主な役割は、プロジェクトに関する情報を共通のルールに基づいて管理し、関係者が適切な情報を共有・利用できる状態を整えることです。担当者がそれぞれ独自にファイルを管理していると、バージョンの違いによって認識のずれが生じたり、必要な情報を追跡しにくくなったりする可能性があります。
CDEのワークフローでは、情報コンテナにステータスを設定し、検証や承認を経て更新・管理します。また、利用するCDEソリューションによっては、アクセス権限の設定や変更履歴、操作ログの確認などが可能です。
CDEソリューションを選定する際は、承認フローやバージョン管理に加え、ロールベースアクセス制御、データ暗号化、多要素認証(MFA)、操作ログなど、プロジェクトに必要な機能を備えているか確認することが重要です。
このように、情報管理のワークフローと、それを支援するソリューションを組み合わせて運用することがCDEの重要な特徴です。
2.3. ISO 19650とCDEの関係
ISO 19650シリーズは、BIMを用いて建築物や土木構造物に関する情報を管理するための国際規格です。建設資産のライフサイクル全体を通じた情報管理のプロセスや役割分担が示されており、その中でCDEは、情報を共有・管理するための重要な役割を担います(参照*2)。
ISO 19650シリーズのうち、セキュリティを考慮した情報管理を主に扱うのがISO 19650-5です。ISO 19650-5では、センシティブ情報を取得・作成・処理・保存する場合に適用する、セキュリティを考慮した情報管理の原則と要求事項が示されています(参照*3)。
CDEの導入時にISO 19650シリーズの考え方を参考にすることで、情報の作成、共有、承認、保存に関する役割や手順を整理しやすくなります。ただし、ISO 19650への準拠は、CDE製品を導入するだけで実現できるものではありません。組織やプロジェクトに応じた情報管理プロセスを整備する必要があります。
2.4. JACICによるCDEワークフローの紹介
日本建設情報総合センター(JACIC)は、ISO 19650に基づくCDEの考え方として、情報コンテナのステータス管理を紹介しています。具体的には、情報コンテナを次の4つのステータスに分け、検証や承認を経て更新・管理します(参照*1)。
| ステータス | 内容 | 主な用途 |
| 作業中 | 作成者やタスクチームが情報を作成・修正している段階 | 編集・検討 |
| 共有 | 他の関係者との共有が承認された段階 | 確認・協議 |
| 確定 | 設計、施工、維持管理などでの利用が認められた段階 | 正式利用 |
| アーカイブ | 情報の更新履歴や監査証跡を保存する段階 | 記録・参照 |
このように、情報の用途や確度をステータスによって明確にすることで、未承認の情報が正式な成果物として利用されるリスクを抑え、プロジェクト関係者が適切な情報を参照しやすくなります。
3. ISO 19650に基づく情報管理とセキュリティ

ISO 19650シリーズは、BIMを用いた建築物や土木構造物の情報を、資産のライフサイクル全体にわたって管理するための国際規格です。情報の作成、共有、承認、保存に関する役割やプロセスを整理し、関係者が必要な情報を適切に利用できる状態を整えることを目的としています(参照*2)。
そのうちISO 19650-5では、センシティブ情報を取得・作成・処理・保存する際の、セキュリティを考慮した情報管理の原則と要求事項が示されています。また、センシティブ情報へアクセスする組織において、適切かつ比例的なセキュリティ意識と文化を形成し、遵守状況を監視・監査する必要性も示されています(参照*3)。
CDEを運用する際は、保護すべき情報とリスクを整理し、アクセスできる利用者や共有範囲、保管方法などを決定します。ただし、ロールベースアクセス制御、多要素認証、暗号化などの具体的な実装方法が、ISO 19650によって一律に指定されているわけではありません。組織のリスク評価やセキュリティポリシー、利用するCDEソリューションに応じて、適切な管理策を選定する必要があります。
また、CDE製品を導入するだけでISO 19650への準拠が実現するわけではありません。組織やプロジェクトごとに、役割分担、承認フロー、情報ステータス、アクセス権限などの運用ルールを整備することが重要です。
4. CDEで実践したいセキュリティ対策
CDEのセキュリティを確保するには、アクセス権限、認証、暗号化、操作ログ、承認フローなどの対策を、建築プロジェクトの運用に合わせて組み合わせることが重要です。
主な対策と目的は、次のとおりです。
| 対策 | 主な目的 |
| アクセス権限の設定 | 閲覧・編集・承認できる範囲を制御する |
| 多要素認証(MFA) | パスワード漏えい時の不正ログインを防ぐ |
| データと通信の暗号化 | 情報の盗み見や不正取得のリスクを抑える |
| 操作ログと監査証跡 | 操作履歴を確認し、問題発生時の調査に役立てる |
| 承認フローと情報ステータス | 未承認情報の誤用を防ぐ |
以下では、それぞれの対策と運用上のポイントを解説します。
4.1. アクセス権限の適切な設定
アクセス権限は、CDEを運用するうえで最も基本的かつ重要な要素です。
ロールベースアクセス制御を導入し、部門や役職に応じて閲覧、編集、承認などの権限を割り当てることで、発注者、施工者、協力会社など、多様な関係者が参加するプロジェクトでも混乱を防ぎやすくなります。
一方で、権限を細かく分けすぎると運用が複雑になり、ユーザーの誤操作につながる可能性もあります。プロジェクトの規模やメンバー構成を踏まえ、最小権限の原則を徹底しながら、定期的に設定内容を見直すことが理想的です。
このように権限設定を最適化することで、情報漏えい対策を強化しつつ、関係者間の円滑なコミュニケーションを維持できます。
4.2. 多要素認証(MFA)の利用
MFAは、IDとパスワードだけに依存しない認証方式です。
例えば、スマートフォンアプリによるワンタイムパスワードや生体認証を組み合わせることで、パスワードが流出した場合でも、第三者による不正ログインを防ぎやすくなります。これは、CDEで扱う重要なデータを保護するうえで非常に有効です。
パスワード管理の不備は、情報漏えいを招く代表的な原因の一つです。MFAの導入はクラウドセキュリティ対策として有効であり、建築プロジェクトに関する契約資料や図面への不正アクセス防止にも大きな役割を果たします。
ただし、導入によってユーザーの負担が増える面もあるため、明確な運用ガイドラインを整備し、十分に周知することが大切です。
4.3. データの暗号化と通信の保護
CDE上でやり取りするCAD図面や3Dモデル、点群データなどを保護するには、保存時と通信時の暗号化に対応したサービスを選ぶことが重要です。
保存時の暗号化は、ストレージ内のデータが不正に取得された場合に、内容を読み取られるリスクを軽減します。また、HTTPSやTLSなどによる通信時の暗号化は、データ送受信の途中で情報を盗み見られたり、改ざんされたりするリスクを抑えるために利用されます。
ただし、暗号化だけですべてのリスクを防げるわけではありません。管理対象端末の利用、OSやソフトウェアの更新、公共Wi-Fiの利用制限など、アクセス環境に応じた対策も必要です。VPNを利用するかどうかは、組織のネットワーク構成やセキュリティポリシーに基づいて判断します。
4.4. 操作ログと監査証跡の活用
CDE製品によっては、ファイルのアップロード、変更、削除、ダウンロードなどの操作を、アクティビティログとして記録できます。ログを活用することで、誰がいつ、どの情報に対して操作したかを確認でき、情報漏えいや誤操作が疑われる場合の調査に役立ちます。
ただし、記録される操作の種類や保存期間、ログを閲覧できる権限は、製品や契約プランによって異なります。ファイルの閲覧履歴を含め、必要な操作が記録されるかどうかを、導入前に確認することが重要です。
また、ログを保存するだけでなく、定期的な確認方法や異常を検知した場合の対応手順を定めておく必要があります。アクセス権限や承認フローが適切に機能しているかを継続的に確認し、必要に応じて設定を見直しましょう。
4.5. 承認フローと情報ステータスの管理
JACICが紹介するCDEワークフローでは、情報コンテナを「作業中」「共有」「確定」「アーカイブ」というステータスに分けて管理します(参照*1)。
「作業中」の情報は、作成者やタスクチームが作成・修正している段階です。所定の検証や承認を経て、他の関係者との調整に利用できる「共有」へ移行します。さらに、設計、施工、維持管理などでの利用が認められた情報は「確定」となり、情報コンテナの更新履歴や監査証跡は「アーカイブ」で管理します。
承認フローと情報ステータスを明確にすることで、検討中の情報と正式な情報を区別しやすくなり、未承認の図面やモデルが誤って利用されるリスクを抑えられます。ただし、具体的な承認者やアクセス権限、保存期間については、プロジェクトごとの情報管理ルールで定める必要があります。
5. Autodesk Construction Cloudのセキュリティ機能

引用:https://construction.autodesk.co.jp/
CDEを実現する代表的なプラットフォームの一つに、Autodesk Construction Cloudがあります。設計・施工に関する情報管理を支援する仕組みを備え、アクセス制御やデータ暗号化などのセキュリティ対策も用意されています(参照*4)。
Autodesk Trust Centerでは、オートデスクのセキュリティ、プライバシー、コンプライアンス、可用性、インシデント対応などに関する情報が公開されています(参照*5)。Security Whitepaperとあわせて確認することで、導入時に必要なセキュリティ要件を検討しやすくなります。
ただし、利用できる機能や設定は製品ごとに異なる場合があります。そのため、必ず公式ドキュメントを確認し、最新の機能を運用ルールへ反映させることが重要です。ここでは、Autodesk Construction Cloudの主なセキュリティ機能と、導入時のポイントを紹介します。
Autodesk Construction Cloudを活用する際は、情報共有の利便性を高めるだけでなく、権限設定や多要素認証などを適切に運用することで、より高い効果が期待できます。
5.1. 主要なセキュリティ機能の紹介
Autodesk Construction Cloudには、建設プロジェクトの情報管理を支援する複数の製品や機能が用意されています。AutodeskのSecurity Whitepaperでは、次のようなセキュリティ対策が紹介されています(参照*4)。
| 機能・対策 | 内容 |
| アクセス制御 | 最小権限の考え方に基づくロールベースアクセス制御を行う |
| 二要素認証 | ログイン時に2段階目の認証を追加する |
| データ暗号化 | 保存データをAES-256、通信をTLSで保護する |
| セキュリティ評価 | 脆弱性スキャン、侵入テスト、外部監査を実施する |
Security Whitepaperでは、保存データの暗号化、通信の暗号化、最小権限に基づくアクセス制御、二要素認証などが説明されています。ただし、利用できる権限設定やログの対象、保存期間などは、製品や契約内容によって異なるため、利用予定の製品に関する最新の公式ヘルプも確認することが重要です。
Autodesk Construction Cloudは、ISO 19650に基づく情報管理を支援する機能を備えていますが、製品を導入するだけで規格への準拠が保証されるわけではありません。組織やプロジェクトごとに、役割分担、命名規則、承認フロー、アクセス権限などの運用ルールを整備する必要があります(参照*2)。
5.2. 製品ごとの機能と運用の重要性
Autodesk Construction Cloudは複数のソリューションで構成されており、利用できる機能は製品ごとに異なります。
例えば、計画段階に特化した機能や、施工現場の写真管理を支援する機能など、プロジェクトのフェーズに応じて適切なツールを組み合わせることができます。一方で、利用できるセキュリティ機能も製品によって異なる場合があるため、導入前に確認しておくことが重要です。
特に、認証方式や監査ログの保存期間などが、プロジェクトの運用ルールに適合しているかを十分に確認する必要があります。導入後も、アップデート情報を定期的に確認し、システムを最新の状態に保ちながら運用することが大切です。
製品ごとの機能を理解し、適切に活用することが、CDEによる情報管理を効果的に進めるための重要なポイントです。
6. まとめ
CDEは単なるデータの保管場所ではなく、建築BIMを円滑に活用するための重要な情報管理基盤です。特に情報セキュリティの面では、アクセス権限の設定、多要素認証(MFA)の導入、データ暗号化、監査ログの活用など、多面的な対策が求められます。
また、ISO 19650の考え方に沿って情報のライフサイクルを管理することで、プロジェクト全体の透明性が高まり、誤った情報が利用されるリスクを抑えられます。JACICが紹介する段階的なワークフローを取り入れることで、承認フローの運用や情報ステータスの共有も行いやすくなります。
Autodesk Construction Cloudなどのプラットフォームを活用すれば、ロールベースアクセス制御や多要素認証などの機能を効率よく利用できます。ただし、プロジェクトの規模や進行状況に応じた設定が必要なため、導入時や運用中には、公式ドキュメントやSecurity Whitepaperを確認しながら進めることが重要です。
本記事のポイントを整理すると、次のとおりです。
- CDEは、建築プロジェクトの情報を一元的に管理・共有するための基盤
- ISO 19650では、情報の作成、共有、承認、保存に関する考え方が示されている
- アクセス権限、MFA、暗号化、操作ログ、承認フローを組み合わせることが重要
- CDE製品の機能だけでなく、組織やプロジェクトごとの運用ルールも必要
CDEとセキュリティを適切に組み合わせ、ISO 19650の考え方を踏まえてプロジェクトを進めることで、情報漏えいや不正アクセスのリスクを抑えながら、品質と生産性の向上につなげていきましょう。
建設・土木業界向け 5分でわかるCAD・BIM・CIMの ホワイトペーパー配布中!
CAD・BIM・CIMの
❶データ活用方法
❷主要ソフトウェア
❸カスタマイズ
❹プログラミング
についてまとめたホワイトペーパーを配布中
<参考文献>
(*1)CDEの定義|一般財団法人 日本建設情報総合センター(JACIC)
https://www.cals.jacic.or.jp/CIM/cde/definition.html
(*2)ISO 19650, 共通データ環境(CDE), Autodesk Construction Cloud|Autodesk University
https://next.au-uw2-prd.autodesk.com/autodesk-university/ja/article/ISO-19650-Common-Data-Environment-and-Autodesk-Construction-Cloud-2021
(*3) ISO 19650-5:2020|ISO
https://www.iso.org/standard/74206.html
(*4) Security Whitepaper- Autodesk Construction Cloud
https://construction.autodesk.com/resources/guides/acc-security-whitepaper/
(*5) Autodesk Trust Center
https://www.autodesk.com/jp/trust/overview
