Mastercam推奨環境とおすすめPC構成をやさしく解説
1. はじめに
Mastercamは、世界中で広く使われているCAD/CAMソフトウェアです。特に3次元モデルを扱いながら加工パスをシミュレーションし、最適な加工方法を検討する場面が多いため、PCの性能が快適な操作性に直結します。
もしPCのスペックが不足していると、大きなデータを開いたときに動作が遅くなったり、最悪の場合フリーズして作業が止まってしまうこともあります。これでは学習効率や業務の生産性に大きな影響を与えてしまいます。
そこで本記事では、Mastercamを快適に動かすための推奨環境や、用途別におすすめできるPC構成をわかりやすく解説します。これから導入する方でも理解できるように、必要なスペックの基準や部品の選び方を整理しました。
最後まで読んでいただければ、限られた予算でも安心してMastercamを活用できるPC選びのポイントが見えてくるはずです。
2. Mastercamとは?
まずは、Mastercamというソフトウェアについて簡単に整理しておきましょう。
Mastercamは世界中で広く利用されているCAD/CAMソフトウェアで、金属やプラスチックといった多様な材料を加工するためのツールパスを作成できます。3軸や5軸といった複数軸のマシニングセンタをはじめ、旋盤・ワイヤ放電・ルータなど幅広い工作機械に対応しているため、製品開発から試作段階まで幅広い現場で活躍しています。
また、3Dモデルの読み込みや切削シミュレーションといった処理ではGPU(グラフィックカード)の性能が大きく影響します。同時に、ソフト自体の計算やツールパス生成はCPU(中央処理装置)の処理能力に左右されるため、専用の高性能PC環境を整えておくと作業が格段にスムーズになります。
2.1. Mastercamの基本概要
Mastercamは、設計データをもとに加工シミュレーションを行い、実際の切削ルートを自動で生成するソフトウェアです。
デザインデータの読み込みや編集、工具の動きの設定に加えて、加工時間や工具への負荷を事前に確認できるため、試行錯誤の手間を大幅に減らせます。ただし、この一連のプロセスには膨大な演算処理が必要となるため、パソコンに求められる性能は決して低くありません。
さらに、Mastercamはバージョンアップのたびに複雑な加工へ対応するよう進化しており、最新版を快適に使うためにはより高いパフォーマンスを要求します。導入時には、余裕のあるPCスペックを用意しておくことが重要です。
学習を始めたばかりの学生や初心者であっても、将来本格的に活用する段階で動作が重くならないよう、最低限の環境にとどまらず長期的な視点で構成を考えることをおすすめします。
2.2. なぜPCスペックが重要なのか
では、なぜMastercamにおいてPCスペックが特に重視されるのでしょうか。
理由はシンプルで、大きな3Dデータを読み込んでツールパスを生成する際に、CPUやGPU、そしてメモリが一斉にフル稼働するからです。もし性能不足のPCを使っていると、モデルの描画に時間がかかるだけでなく、ツールパス計算に数十分もかかってしまうことがあります。
さらに、リアルタイムでシミュレーションを行う際にGPU性能が不足していると、画面表示がカクついて正確な経路確認ができません。これは現場の効率や製品の品質に直結するため、安定して動作する高性能PCを用意することは非常に大きなメリットとなります。
もちろん、予算に限りがある場合はすべてのパーツを一度に強化する必要はありません。まずは処理の要となるCPUやGPUを優先し、その次にメモリやストレージを強化する、といった形でバランスを取りながらPCを構成していくのが賢い選び方です。
3. Mastercamの推奨環境
ここでは、一般的に公開されているMastercamの最低動作環境と推奨動作環境の違い、そして主要なPCパーツごとの要件について解説します。
最低要件は「とりあえず起動できる」ことを保証する程度にすぎません。そのため、実務や学習を快適に進めたい場合は、必ず推奨動作環境を意識することが重要です。スペックに余裕を持たせることで、Mastercamの処理速度や3D表示の滑らかさが向上し、作業時間全体を短縮できます。
なお、Mastercamはバージョンによって必要なスペックが変わる場合があります。ここでは最新バージョンを想定した一般的な例を紹介しますが、実際に導入する際には必ず公式サイトや販売代理店の情報を確認し、最新の要件をチェックしましょう。
3.1. 最低動作環境と推奨動作環境の違い
最低動作環境とは、あくまで「ソフトが起動して基本操作ができる」レベルを指します。たとえばメモリが8GB程度、CPUも比較的古いモデルで間に合う場合が多いです。
しかしこの水準では、大きな3Dモデルや複雑なツールパスを扱うときに処理が極端に遅くなり、実務では大きなストレスとなります。快適に活用するためには、推奨動作環境以上のスペックを満たすことが理想です。
推奨環境では、Windows 11 64ビット Professionalを前提に、最新世代の高クロック・多コアCPU、32〜64GBのメモリ、そしてVRAM 4GB以上の専用GPU(NVIDIA RTX または AMD FirePro/Radeon Pro)が想定されます。なお、Windows 10はMastercam 2028が最後の対応バージョンである点にも注意が必要です。
さらに将来のバージョンアップを考慮すると、推奨環境よりも余裕を持った構成を選ぶ方が、結果的にコストパフォーマンスが高くなるケースも多く見られます。
3.2. 主要なスペック要件
OSは、Windows 11 64ビット Professional が推奨です。Windows 10 でも動作は可能ですが、Mastercam 2028でサポートが終了予定と明言されているため、長期的に使うならWindows 11を選んでおくのが安心です。
CPUは、IntelならCore i7やXeon、AMDならRyzen以上のクラスが一般的に推奨されます。Mastercamはマルチコアに対応しており、コア数が多いCPUほど演算処理を並列化できるため、ツールパス計算などの処理が高速化されます。
メモリは、最低8〜12GB程度でも起動は可能ですが、Mastercam公式では推奨32〜64GBとされています。複雑な加工や大規模データを扱う場面では、32GBを目安にすると安心です。特に複数のファイルを同時に開いたり、大規模なアセンブリを扱うときには、十分なメモリがないと処理速度が大幅に低下するため、余裕を持った構成をおすすめします。
GPUは、NVIDIA RTX(プロフェッショナル向け、例:RTX Aシリーズ)や AMD FirePro / Radeon Pro が推奨です。VRAMは最低でも4GB以上を確保し、オンボードグラフィックは非対応となります。Mastercamは OpenGL 3.2 と OpenCL 1.2 に対応したGPUを必要とするため、CAD向けに最適化された認定ドライバを持つモデルを選ぶと、表示の安定性や不具合の少なさに直結します。
4. PC構成を選ぶポイント
Mastercamを快適に使うためのPCを構成する際は、CPU・GPU・メモリ・ストレージの4つが大きな柱となります。さらに、用途や作業環境に応じて「ノートPCにするか、デスクトップPCにするか」を判断することも重要です。
以下では、それぞれのパーツ選びで意識すべきポイントや判断基準を整理しました。選び方のコツを押さえることで、余計なコストをかけずに効率よく作業環境を整えることができます。
あわせて、今後のMastercamのバージョンアップやWindowsの更新も考慮し、余裕を持った構成を目指すことをおすすめします。特に一度組んだあとで増設が難しいパーツもあるため、どこを優先的に強化すべきかを把握しておくことが失敗を防ぐポイントです。
4.1. CPUの選び方
CPUはPCの「頭脳」にあたり、Mastercamでは演算処理の速度に直結します。
一般的には、Intel Core i7以上またはAMD Ryzen 7以上のクラスが標準的です。マルチコアCPUを選べばツールパス計算や複数工程の同時処理を効率化でき、クロック数が高いほど単純な処理のスピードが向上するため、細かい設定を試す場面でもストレスを減らせます。
予算を抑えるなら1世代前のCPUを検討するのも選択肢ですが、型番やアーキテクチャによって性能差が大きく、古いモデルを安易に選ぶと後悔するケースもあるので注意が必要です。
また、学校や企業で複数ライセンスを利用する場合は、安定性を重視してIntel Xeonを選ぶのも有効です。いずれにしても、十分なコア数と高いクロック数を備えたCPUが快適な作業の鍵になると覚えておきましょう。
4.2. GPUの選び方
Mastercamでは、複雑な3Dモデルや加工の可視化にGPUの性能が大きく関わります。
OpenGLやハードウェアアクセラレーションを最大限活用するためには、CAD/CAM向けに最適化されたGPUを選ぶ方が安定性や描画品質の面で有利です。代表的な選択肢としては、NVIDIA RTX(Aシリーズなど)やAMD Radeon Proシリーズが推奨されます。
ゲーム用GPUでも動作は可能ですが、ドライバがゲーム向けかCAD向けかで表示品質や安定性に違いが出る場合があります。安心して使うなら、公式サイトで紹介されている「Mastercam対応GPU」やCAD認定ドライバ付きモデルを選ぶとよいでしょう。
最低限では2〜4GBのVRAMでも起動は可能ですが、推奨は4GB以上です。予算が許せば最新世代のGPUを導入することで、長期的に使えるメリットが大きくなります。
4.3. メモリとストレージの選び方
メモリ(RAM)は、同時に処理できる作業範囲を決定します。最低8〜12GBでも起動自体は可能ですが、公式推奨は32〜64GBです。まずは32GBを基準にし、扱うデータ量やプロジェクト規模に応じて増設を検討するとよいでしょう。メモリが不足すると仮想メモリに依存し、SSDやHDDへのアクセスが増えて処理速度が大幅に低下します。特に複雑な設計や大規模データでは、十分なメモリがあるかどうかで作業効率が大きく変わります。
ストレージでは、読み書き速度が極めて重要です。SSDを選ぶのは必須ですが、従来のSATA接続よりも、NVMe規格対応のSSDを選ぶと体感速度が大きく向上します。容量は最低256〜512GBを確保し、データが多い場合は1TB以上を検討するのが安心です。
OSやMastercam本体をSSDにインストールするだけでも効果はありますが、加工データもSSDに置くとさらに快適になります。あわせてバックアップ用に大容量HDDを用意するなど、データ保護の工夫もしておくと安心です。
4.4. ノートPCとデスクトップの選び方
ノートPCとデスクトップPC、どちらを選ぶかは学習環境や作業スタイルによって変わります。
ノートPCは持ち運びができるため、教室や自宅など複数の場所で作業する学生にとって便利です。ただし拡張性が低く、同価格帯では性能が劣ることが多い点には注意が必要です。また、CPUやGPUが省電力仕様の場合は長時間の演算処理に不向きで、発熱問題が発生しやすいこともあります。
一方でデスクトップPCは拡張性に優れ、同じ予算でも高性能なCPUや大型GPUを搭載しやすいのが魅力です。作業場所が固定される代わりに、性能・コストパフォーマンス・カスタマイズ性で大きなメリットがあります。そのため、持ち運びの必要がなければデスクトップを選ぶ方が効率的です。
もっとも、ノートPCでも最新の高性能GPUを搭載したモデルは存在します。最終的には、必要な性能・作業環境・予算のバランスを見て選ぶことが大切です。
5. おすすめPC構成例

ここからは、目的や予算に合わせて考えられる3つのPC構成例を紹介します。
あくまで一例ですが、「どのレベルのPCが学習向けか」「中小企業の業務に適しているか」「大規模で複雑な加工に必要か」をイメージしながらご覧ください。自作PCに不安がある方は、BTO(Build to Order)対応のパソコンショップで同等構成が組めるか確認するとスムーズです。
なお、紹介する価格帯はあくまで目安であり、パーツの世代や市場価格によって変動します。導入時期やキャンペーンによっては、同じ予算でも性能が上のモデルを選べる場合もあるため、最新情報のチェックを欠かさないことが大切です。
5.1. 学習・入門向け構成
予算が限られていて、まずはMastercamを学習したい方に向けた構成例です。
CPUはIntel Core i5やAMD Ryzen 5クラスを基準とし、メモリは16GB程度、GPUはNVIDIA GeForce GTXクラスのエントリーモデルを組み合わせます。ストレージはNVMe SSD 512GBを用意すれば、ソフト本体や学習用データの読み書きも快適です。
このレベルでも基本操作は十分可能ですが、大規模データや複雑な加工では処理が重くなる場合があります。それでも、学習段階で扱うシンプルな工程であればコストパフォーマンスに優れ、入門用としては良い選択肢といえます。
将来的にメモリの増設やGPUの交換を検討できるように、マザーボードの拡張性を意識しておくと後悔が少なくなります。また、予算に少し余裕があれば、CPUをワンランク上げるだけでも作業スピードの違いを実感できるでしょう。
5.2. 中小企業の現場向け構成
日常的に設計や加工を行う現場で使いやすい、実用性重視の構成例です。
CPUはIntel Core i7やAMD Ryzen 7以上、メモリは32GBを確保し、GPUはNVIDIA RTXシリーズの中堅クラス(VRAM 8GB前後)を目安とします。ストレージはNVMe SSD 1TBがあると、OS・Mastercam・製品データ管理のいずれも余裕を持って運用できます。
ディスプレイ環境については、フルHD以上の解像度を備えた2台のモニターを用意するのがおすすめです。作業画面とツールパス設定画面を分けて表示できるため、作業効率が大きく向上します。
このクラスなら、3D視点のリアルタイム操作もスムーズで、切削シミュレーションも快適に行えます。価格帯はおおよそ30万〜40万円前後が目安で、導入を検討する際は複数社から見積もりを取り、仕様やサポート内容を比較すると安心です。
5.3. 大規模・複雑加工向け構成
5軸加工や複雑な3Dモデル、大型アセンブリを扱う現場では、さらに高性能な構成が必要になります。
CPUはIntel Core i9やAMD Ryzen 9、もしくはXeonの上位モデルを候補とし、メモリは64GB以上を視野に入れましょう。GPUはNVIDIA RTXの上位モデルやAMD Radeon Proといったプロフェッショナル向けを選び、VRAMも16GB前後あると安心です。
ストレージはNVMe SSD 1〜2TBクラスを確保し、大規模データや加工プログラムを高速に扱えるようにします。さらに、バックアップやアーカイブ用に大容量HDDを追加するのも一般的です。
このクラスの構成は50万円以上になることが多いですが、処理の安定性や作業効率が大幅に向上するため、生産性アップの投資効果は非常に高いといえます。特に、大規模案件や複数の重いファイルを並行して扱う現場でこそ、その真価を発揮するでしょう。
6. よくある失敗と注意点
Mastercamを導入・学習する際に多くの人がつまずく失敗や注意すべきポイントを整理します。
まず多いのが、最低動作環境だけを基準にPCを購入してしまうケースです。確かに起動はできますが、実際にデータを扱うと処理が遅く、作業にならないことが少なくありません。Mastercamの推奨環境は「快適に使うための目安」であり、余裕を持ったスペックが望まれます。特にCPUやGPUはあとから簡単に交換できない場合もあるため、最初から一定以上の性能を備えた構成を選んだ方が、長期的に見るとコストを抑えられることが多いです。
次に注意したいのが、GPUを安易にゲーミング用モデルで済ませてしまうことです。確かにゲーム向けGPUでも動作は可能ですが、CAD用に最適化された認定ドライバが使えないと、エラーや描画の乱れが頻発することがあります。特にソフトのバージョンアップ時に不具合が出るリスクが高まるため、できるだけ公式推奨リストに掲載されているGPUを選ぶのが安心です。
さらに、メモリ不足によるトラブルもよくある問題です。容量が足りないとフリーズや極端な読み込みの遅さに直結します。最低限動作させるだけなら16GBでも足りますが、実務や長期利用を考えるなら最初から32GB以上、できれば64GBを積んでおくと安心感が大きく変わります。
最後に、将来の拡張性やサポート状況を軽視してしまう点も見逃せません。Mastercamの新バージョンやWindowsのアップデートが行われた際、古いCPUやGPU、OSでは対応できない可能性があります。導入時に少し先を見越して構成を考えておくことで、長く安定して使える環境を整えることができます。
7. まとめ
ここまで、Mastercamの推奨環境と用途に応じたおすすめPC構成について解説してきました。
Mastercamを快適に使うためには、CPU・GPU・メモリ・ストレージといった基本パーツをバランスよく選ぶことが何より大切です。最低動作環境を満たしていても、実際の作業では動作が重くなることが多いため、可能な限り推奨スペック以上を意識しておくと安心です。
学習用にコストを優先する場合でも、特にCPUとメモリは妥協せず選んでおくことで、後々のトラブルを大きく減らせます。中小企業や業務利用では、日々の作業効率やトータルの時間短縮を考えると、中〜上位クラスの構成を導入する方が結果的に費用対効果が高まります。
さらに、大規模な3Dデータや複雑な5軸加工を扱う場合は、ハイスペックPCが必須です。高性能GPUや大容量メモリを備えていれば、処理の安定性とスピードが格段に向上し、現場全体の生産性向上にもつながります。
最終的には、自分の用途を明確にしたうえで、将来のバージョンアップやデータ量の増加を見越してPCを選ぶことが重要です。そうすることで、長期的にストレスなく作業でき、Mastercamの持つ高い機能を最大限に活かすことができるでしょう。
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<参考文献>
Mastercam – 世界No.1インストール数を誇る3D CAD/CAMシステム
推奨環境 | Mastercam – 世界No.1インストール数を誇る3D CAD/CAMシステム
https://www.mastercam.co.jp/product/mastercam/recommended-environment/
Quadro と RTX によるプロフェッショナル デザインおよびビジュアライゼーションのためのソリューション – NVIDIA
https://www.nvidia.com/ja-jp/design-visualization/rtx/
プロフェッショナル、クリエイター、アーティスト向け AMD Radeon™ PRO グラフィックス
https://www.amd.com/ja/products/graphics/workstations.html
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