建設業界に必要なデジタル化のあり方とは?DX推進のポイント
建設業界は日本の主要産業である一方、人手不足やデジタル化の遅れに悩まされている側面もあります。
10年前と比べれば飛躍的にハイテク化が進んだ一方、全体の普及率は低く、改善の余地は大きいと言えます。そもそも、建設業界に必要なデジタル化とはどのようなものなのでしょうか。
今回は建設業界でデジタル化を進め、DXを実現するために押さえておきたいポイントについて、ご紹介していきます。
目次:
①建設業界におけるデジタル化の現状
②建設業界が実現すべきデジタル化とは
③建設業界におけるDX推進のポイント
④建設デジタル化に活躍するツール事例
建設業界におけるデジタル化の現状
まずは、建設業界におけるデジタル化の現状を確認しておきましょう。
ICT活用件数は増加傾向に
国土交通省が建設業界の業務効率化の推進のため企画したi-Constructionが提唱されて以来、日本におけるICT活用は増加傾向を示しています。発表によると、2016年以降ICT活用工事は増加の一途を辿っており、2016年には約1,600件程度だったICT導入工事は、2020年度にはおよそ4,500件と、3倍近い数字にまで成長しています*1。
新型コロナウイルスの影響もあってか、伸び率としては2019年度から低下はしているものの、ICT需要の拡大や技術の普及が進んでいることから、今後も増加が期待されます。
運用に伴う課題も
一方、建設業界におけるデジタル化には様々な障壁も伴います。例えば2020年はコロナショックをきっかけに働き方改革が大きく前進した年でもありました。これは建設業界も例外ではなく、緊急事態宣言時には多くの企業がテレワークを導入し、自宅などの遠隔地から業務を遂行していた事例は各企業で見られます*2。
ただ問題となったのが、実際にデジタル技術を利用する従業員の、ICTに対するリテラシーの低さや、PCのスペック不足、そして不安定なネットワーク回線などです。どれだけ優れたツールや仕組みを導入しても、現場において十分に環境が整っていなければ、期待していたようなパフォーマンスは見込めません。
建設業界はデジタル化が遅れていた業界であるため、こういった基本的な環境整備から進めなければならず、どこから手をつければいいかわからない、という問題もあります。解消すべき課題が山積しており、放置してしまうというケースです。
建設業界が実現すべきデジタル化とは
そもそも建設業界は、なぜデジタル化を推進しなければならないのでしょうか。国土交通省 のICT導入協議会ではこの本質的な問題について、以下のようなポイントを列挙しています*3。
生産力の向上
一つ目は、生産力の向上です。人口減少による人手不足はもはやどの業界でも同じですが、建設業界にとって喫緊の課題となっているのが、建設投資額の増加と反比例するように、建設業者の数は減少しているという現状です。
平たく言えば、建設の仕事は有り余っているのにもかかわらず、それに対応できる事業者の数が減り、相対的に各事業者の負担が増大する時代に差し掛かっているということです。少ない人数でこれまで以上の成果を達成できなければ、日本の建設業は成り立たなくなっているのです。
また、熟練の従業員が高齢化によって引退し、高度なスキルを若手に引き継げないまま現場を離れていくことで、これまで培ってきた建設技術が低下する可能性も懸念されています。人手が少なくなるだけでなく、技術そのものが失われることで、日本の建設業界は衰退しつつあるというわけです。
こういった事態を手遅れになる前に防ぎ、デジタルなどのハイテクの力で生産性を向上していこうというのが、国土交通省の考える建設業界のデジタル化です。
管理業務の効率化
現場作業だけでなく、管理業務の効率化も求められています。エンジニアや作業員の数はへり、プロジェクトの数だけが増えていく現在、建設業界にはより高度なマネジメント能力が求められています。
高度な管理スキルを持った人材の登用はもちろん、遠隔による現場監督業務の遂行や、映像などを活用したペーパーレスの推進など、デジタル技術を使って管理業務を省人化し、一人で複数のプロジェクトを担当できるシステムの構築が必要です。
建設業界におけるDX推進のポイント
このような技術を建設業界で導入し、DXを実現するためには、以下二つのポイントに注目することが大切です。
DX人材の活躍機会を増やす
一つ目のポイントは、DX人材の登用、および彼らの活躍機会の確保です。建設業界はデジタル化が遅れている分野であるだけに、DXを推進できるようなノウハウとマインドを持った人材が少ないのが課題です。
大きなインセンティブを設けて外部からDX人材を招くのはもちろん、一定の権限を持ったDX推進室などを新たに設立し、抜本的にDXの推進を進められる環境を整える必要があるでしょう。
企業文化としてDXを取り入れる
DXの実現には、小手先のシステム導入やルールの変更ではなく、意思決定者のレベルからイノベーションを行う必要性にも注目が集まります。
デジタルに適合した組織文化の要件として、よく定義されるのが以下の6点です*4。
DXの本質と変革の必要性への理解
創造的な活動の自由と支持
ファクトに基づく意思決定
人材の多様性と組織のトライブ化への対応
個人の組織への貢献の可視化と正当な報奨
リスクの許容と失敗からの学習
つまり、DXに理解のある経営者も積極的にコミットし、企業文化そのものをデジタルネイティブにシフトしていくというものです。DX推進に大きな権限を与え、改革の挑戦を全面的に支持し、挑戦を評価することが、DXの成功には欠かせないということです。
文化の醸成の重要性については上記で紹介した国土交通省のICT導入協議会でも強調されており、抜本的な取り組みの必要性が再確認できます*5。
建設業界のデジタル化に活躍するツール事例
最後に、建設業界のデジタル化に活躍するツールについて、2つほど事例をご紹介しておきます。
StructionSite(ストラクションサイト)
ストラクションサイトは360度カメラを使い、建設現場の品質や安全管理の向上、そして業務効率化を推進するツールです。
スマホやタブレット、PCからいつでも現場の状況を確認でき、メールや通話、テキストチャットで現場にフィードバックや指示を送れるシステムが特徴です。
公式サイト:https://structionsite.com/ja/
TAKUMINOWA(タクミノワ)
日建リース工業が提供するこちらのサービスは、IoTツールやインターネット活用に欠かせない、Wi-Fiのアクセスポイントを提供するというものです。
デジタル活用においてはインターネット環境の整備が欠かせませんが、これにはコストがかかります。Wi-Fi整備の負担を軽減し、効率よく普及させるサポートを提供してくれるのがこのサービスで、建設現場に特化したWi-Fi環境を構築してくれます。
公式サイト:https://www.nrg.co.jp/nikkenlease/takuminowa/indextakuminowa.html
おわりに
建設業界のデジタル化は少しずつ前進しているものの、いまだ十分であるとは言えません。DXをスムーズに実現するためには、企業文化の改革という抜本的な取り組みも必要なため、組織が大きいほど難しくなります。
しかし現場の課題を把握し、一つずつ問題の解消に向けて動き始めることで、確実な前進が期待できます。まずはできるところから始める、という姿勢が大切です。
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参考:
*1 BiC「i-Construction(ICT活用工事)の現状とこれから」
http://www.bic-net.jp/i-construction_ict/
*2 日本建設業連合会「建設現場における先端ICT活用の最新動向」p.6
https://www.nikkenren.com/kenchiku/ict/seminar/pdf/2020/R02_04.pdf
*3 国土交通省「建設業におけるデジタル化推進必要性の再確認」p.3~p.8
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/constplan/content/001388982.pdf
*4 ZDNet Japan「デジタル時代に求められる組織文化–円滑なDXの推進を支える6つの要件」
https://japan.zdnet.com/article/35163793/
*5 *3に同じ p.11