ゼネコンにおけるIT利用状況のまとめ
規模の大小を関わらず、今ゼネコンにおいてITの導入は喫緊の課題として注目を集めています。
比較的先端テクノロジーの導入は遅れているというイメージを持たれてきたゼネコンですが、IT利用の背景には深刻な問題も抱えています。
今回は、ゼネコンにおけるIT利用の背景や活用のメリット、そして実際のIT利用事例をご紹介していきます。
目次:
①ゼネコンにIT利用が迫られる背景
②ITがゼネコンにもたらす恩恵は大きい
③クラウドサービスやBIMなどの段階的な運用が進む
なぜゼネコンはITを利用するのか
まず、建設業界におけるIT利用が進んでいるのは、以下の3つが理由として挙げることができます。
労働人口の減少
1つ目は、日本における少子高齢化に伴う労働人口の減少です。
特に建設業界は就業者数の低下が著しく、平成四年に建設投資額がピークを迎え、九年に就業者数685万人に差し掛かったのち、減少傾向が顕著になっていきました*1。
二十八年には500万人を割る492万人となり、人口減少に歯止めがきかない中、徐々に進められていったのが業務のIT化です。
少ない人材で、従来以上の作業効率をITの利用によって確保することにより、人口の減少に見舞われても業務の遂行を可能とするシステムの構築が、各社で急がれています。
仕事効率化で建設業界に未来を
また、建設業界は重労働で休日が少なく、プライベートな時間を確保できないというイメージが蔓延していることも、人材の確保を難しくしていると考えられます。
労働人口の減少はどの業界にも言えることですが、ただでさえ少なくなった人材の獲得を難しくしているのが、建設業界そのものの働きづらそうなイメージです。
ITの積極的な導入による労働環境の改善は、現在の現場作業員や管理業務にあたる従業員の待遇改善につながるだけでなく、若手人材へのアピールにもつながります。
ゼネコンが自らイメージの刷新に取り組むことで、労働人口の減少にも歯止めをかけることができるでしょう。
2010年代以降、こういったIT化の動きが積極的に進められたことで、徐々に建設業界の就業者が増加傾向にあるという話もあります*2。
IT利用の積極的な検討は、実務の面でも人材獲得の面でも、高いパフォーマンスを発揮してくれることになりそうです。
新型コロナウイルスの感染防止
そして忘れてはならないのが、ITの利用が新型コロナウイルスによる感染防止に、大きな役割を果たしてくれるという点です。
新型コロナウイルスはヒトからヒトへの感染が確認されており、対面での不用意な接触は、感染リスクを大幅に高めてしまう恐れがあります。
特にオフィスや建設現場での活動は高い感染リスクを有しており、クラスターの発生の原因にもなり得ます。
そのため、少しでも対面での業務を減らすためにも、ITを活用したリモートワークの導入が求められています。
現場仕事の多い建設業界ではリモートワークの導入がためらわれることも多いのですが、業務を見直し、活用可能なITツールを探してみると、実現が可能な箇所も見えてきます。
どのようなITを利用すればテレワークを実現できるようになるのかを知るところから、少しずつ対策を進めていくようにしましょう。
ゼネコンが利用するITとは
ここで、ゼネコン各社が利用するIT全般についても見ておきましょう。
情報共有の円滑化に向けたクラウドサービスやソフトウェアの利用
気軽に導入できるITとしては、情報共有の円滑化を行うためのクラウドサービスなどの利用が挙げられます。
クラウドサービスは、PCやスマートフォンなどに直接ソフトウェアをインストールするのではなく、インターネットに接続して利用します。
そのため、そのサービスのアカウントとネットさえあればいつでも誰でもサービスを利用することができ、円滑な情報共有を実現できます。
あるいはBIMデータのように、優れた情報共有能力を有したデータの運用も進んでいます。
BIMデータは従来の3Dモデルに部材の詳細情報などを盛り込むことができるデータ形式です。
以前は部署ごとに新しい3Dモデルを作成し、修正が入るたびにモデルの作り直しが行われてきましたが、BIMデータにおいてはそれが不要になります。
修正データをBIMに入力するだけで自動的に修正が行われるので、作業効率が大幅に向上することが期待できます。
ゼネコンにおけるIT利用は、こういった情報共有のアップデートでの活躍が見込めるでしょう。
IoTやAIの活用にも期待
ハード面においても、新しいテクノロジーの活躍には大きな期待が寄せられています。
例えばモノのインターネット、通称IoTは、各地にセンサーを設置し、インターネットを通じて各地の情報の一括管理を可能にしてくれます。
遠方の建設現場や人が入り込みにくい山奥の安全管理などは、現地に作業員を配置せずとも行えるようになり、大きなコスト削減と効率化が見込まれます。
また、AIによる品質管理やセキュリティ精度の向上も、IoTと同様期待されている技術の1つです。
優れた画像認識機能によって検査の精度とスピードを改善することができれば、やはり少ない人員で、より多くの検査が行えるようになります。
これらの先端技術はまだまだ大手ゼネコンでの実験的な運用に限定されていますが、近い将来には身近なレベルでの運用も進められていくことになるでしょう。
ゼネコンでのIT利用事例まとめ
最後に、ゼネコンにおける最近のIT利用事例についても見ておきましょう。
飛島建設のDropbox導入
クラウドストレージの導入によって業務が改善した例としては、飛島建設のDropbox(ドロップボックス)導入がその1つに挙げられます*3。
飛島建設では、まず全社員に向けてモバイルデバイスを提供することにより、どこからでもクラウドストレージを扱うことができる環境の整備から始めました。
業務用のデバイスとクラウドサービスの活用により、事務所と現場を何度も往復する必要はなくなり、データの共有や保管もクラウド上で行えるようになりました。
そのためデータの紛失や、災害・事故による消失リスクも大幅に減少し、円滑で高いセキュリティレベルを実現することに成功しています。
Dropbox公式:https://www.dropbox.com/business
株式会社イチケンのBIMデータ活用
中堅ゼネコンのイチケンでは、BIMデータの表面的な導入だけでなく、社員教育の段階から進めていくことで成果を挙げています*4。
BIMデータは確かにうまく利用できれば便利な一方、業務プロセスにおける包括的な導入が求められ、BIMを扱うためのスキルも必要とします。
そこでイチケンではBIMツールにARCHICADを採用し、その運用ルールを独自に定め、全社への統一したBIM運用教育を進めていきました。
その結果、2Dと3Dをハイブリッドで活用する施工BIMプラットフォームの構築も実現し、円滑な情報共有と自社の強みを生かしたBIM運用環境が整ったのです。
ARCHICAD公式:https://www.graphisoft.co.jp/archicad/
大成建設の運用保守におけるAI・IoT利用
大成建設は日本マイクロソフトと協業し、運用保守業務におけるAI・IoTの利用を進めています *5。
これは各地の建物や生産施設にIoTセンサーを設置し、アプリケーションと連携することで従業員の作業状況や建物の健全性を、ほぼ無人で管理することを実現するものです。
日本マイクロソフトが提供するMicrosoft Azure上で取得データは管理・蓄積され、新たな作業計画へと応用していく運用方法も想定されています。
運営管理業務にかかるコストの削減だけでなく、運営管理そのものの品質向上にも期待が寄せられています。
Microsoft Azure公式:https://azure.microsoft.com/ja-jp/
おわりに
ゼネコンにおけるITの利用は、多くの利用環境が整備された今、ますます進んでいくことが考えられます。
どのようなITを利用するかは各社の課題にもよりますが、無料で段階的に利用できるサービスも少なくありません。
自社の業務体制を見直し、ITの導入が可能な箇所はないか検討してみるのが良いでしょう。
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出典:
*1 国土交通省「建設業及び建設工事従事者の現状」p.1
https://www.mlit.go.jp/common/001180947.pdf
*2 BUILT 「建設業の就業者数は2年連続で増加、人手不足の中で各社は人材確保に工夫も」
https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/1904/01/news026.html
*3 Dropbox Business「失敗&成功例付き!建設企業がクラウドストレージ導入で成功するために見落としてはいけない 13 のポイント」
https://navi.dropbox.jp/successful-cloudstorage-deployment-for-construction-industry#page6
*4 GRAPHISOFT「ARCHICAD BIM事例レポート 株式会社イチケン」
https://www.graphisoft.co.jp/users/zenecon/ichiken_2019.html
*5 IT Leaders「大成建設、建物の運用・保守業務をAIとIoTで効率化、日本マイクロソフトと協業」
https://it.impress.co.jp/articles/-/18689
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