製造業のDXに不可欠なスマート・ファクトリーが実現する未来
日本の主要産業である製造業は、グローバル化に伴い事業のハイテク化が喫緊の課題となっています。いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現において、同領域で注目を集めているのがスマート・ファクトリーの概念です。
今回は、スマート・ファクトリーが製造業にどのような影響を与えるのかについて、実現のメリットや事例に触れながらご紹介します。
目次:
①スマート・ファクトリーとは
②スマート・ファクトリーの実現で得られるメリット
③スマート・ファクトリーの実現には何が必要か
④スマート・ファクトリー導入の懸念点
⑤スマート・ファクトリーの導入事例
スマート・ファクトリーとは
スマート・ファクトリーは、デジタルデータを活用して既存の工場をハイテク化し、生産性の向上や無人管理などを実現するコンセプトを指します。製造業においては、これまでロボットの導入など、一部の業務において自動化が行われてきましたが、完全な自動化が実現したケースは少なく、人間の存在が不可欠でした。
スマート・ファクトリーの概念を実際の工場に落としこむ場合、AIやIoTといったハイテクを活用し、工場の完全な自動化や、質の高いコントロールを実現することができます。熟練の技術やノウハウがなくとも、高いレベルで工場を稼働させることが可能です。
スマート・ファクトリーの実現で得られるメリット
スマート・ファクトリーの実現は、製造業界へ多くのメリットをもたらしてくれます。具体的な恩恵について、主なものを確認しておきましょう。
人材不足の解消
1つ目のメリットは、人材不足の解消です。日本では少子高齢化の影響により、労働人口の減少が問題となっています。若い世代が少なくなっていることで、次世代を引き継ぐ人材の確保が困難になっているだけでなく、高齢化の影響で熟練の技術を持った人材が現場を離れ、既存の生産性や品質を維持することも難しくなっています。
スマート・ファクトリーの実現は、そんな人材不足の解消に役立ちます。作業労働の多くをロボットに代替し、人間はより複雑な工程に携わったり、意思決定にのみ関われる仕組みづくりを実現します。
工場の生産管理や機器管理もIoTによって制御できるため、低リスクで効率的な工場運営が実現します。
生産性向上
スマート・ファクトリーはデータドリブンな製造環境へと移行する手助けをしてくれるので、生産効率を飛躍的に高められるのもポイントです。最適化されたマネジメントがAIや最新のシステムによって実現するため、人間よりも合理的かつ素早い判断で工場を運営してくれます。
品質の改善
AIやロボットが工場を管理するようになれば、工場運営の品質や、製品のクオリティも改善することが期待できます。工場のメンテナンスは人の目ではなくセンサーや運用期間から自動的に適切なタイミングで行われます。
製品の製造はもちろん、品質チェックも人間よりも優れたセンサーによって行われるので、確認漏れやそのほかのヒューマンエラーの心配はありません。
熟練の技を継承できる人材がいなくとも、ノウハウをシステムに落とし込むことで、高度な技術を半永久的に事業の中に継承することができます。
コスト削減
製造業を悩ませている、事業コストの高騰についても、スマート・ファクトリーの実践で解消できます。原材料の仕入れについては適切な在庫管理と生産ラインの効率化によって、余計な負担を削減できるだけでなく、人件費についても大幅な削減が可能です。新しい人材の確保に以前ほど力を入れる必要がなくなり、彼らに支払う賃金も抑えられるためです。
少ない人材で最大限の成果を得たい場合には、スマート・ファクトリーの実践が不可欠になるでしょう。
スマート・ファクトリーの実現には何が必要か
上記のようなスマート・ファクトリーの実現による恩恵を受けるためには、どのような準備が必要なのでしょうか。ここで主な要件について、2点ご紹介します。
システム管理の自動化・デジタル化
1つ目の要件は、工場を管理できる設備やシステムの導入です。工場を一括管理できるソフトウェアソリューションはもちろんのこと、生産ラインを監視するセンサーや、工場における人の出入りを記録するカメラ、最新のロボットなど、ハードウェアの導入も必要となります。
これらの導入には初期費用がかかるものの、長期的に見れば導入企業に多くの恩恵をもたらしてくれることは間違いありません。
DX人材の確保・育成
スマート・ファクトリーは無人での工場稼働を実現するとはいえ、ある程度の人手を確保することは必要です。スマート・ファクトリー時代に求められる人材像は、DXに対して深い見識を持った人材です。ハイテクに強い人材の確保、あるいはDX人材へと育てるための研修を実行し、全社的なハイテク化を進めましょう。
スマート・ファクトリー導入の懸念点
スマート・ファクトリーには多くの期待が寄せられる一方で、導入には懸念も浮かびます。
初期コストが大きい
まず、ハイテク技術の導入には多くの初期投資が必要なため、キャッシュに余裕のない中小企業にとってはハイリスクな取り組みとなりかねません。
政府が実施する補助金制度や銀行からの融資を行い、初期費用を捻出することが求められます。
DX人材の確保が困難
ハイテク活用にはDXに強い人材が不可欠ですが、近年は多くの業界や企業がDX人材の確保に取り組んでいるため、優れた技術や知見を持った人材の価値が高まっている点も懸念材料です。
外部から確保することが難しい場合は、社内での研修環境を整備し、人材育成に力を入れるところから始める必要があるでしょう。
ITリテラシーの改善が必要
スマート・ファクトリーを最大限活用するためには、全社的なITリテラシーの見直しも求められます。どのようなハイテクを活用すれば良いのか、どうやってデータを分析するか、といった、多くの意思決定が最低限のITスキルを前提としているためです。
経営者も含め、社員全員を巻き込んだIT教育を実施する必要があるでしょう。
スマート・ファクトリーの導入事例
スマート・ファクトリーはすでに国内でも複数の企業で導入が進んでいます。最後に最近の事例について、ご紹介します。
パナソニック
大手家電メーカーのパナソニックでは、自社開発のAIプラットフォームを活用した、生産ラインのメンテナンス自動化を実現しています*1。
生産現場の変動要素である5M(huMan、Machine、Material、Method、Measurement)に注目し、AIが自律的にこれらの要素をコントロールする仕組みを開発したことで、技術者に頼る必要のない生産ラインの導入を可能にしました。
東芝
同じく家電メーカーとしてお馴染みの東芝は、スマート・ファクトリーを次の次元に導く新しい概念「スマートマニュファクチャリング」を提唱し、実装に向けた準備を進めています。
スマートマニュファクチャリングは、工場のスマート・ファクトリー化を進めるだけでなく、その周辺にあるオペレーション&メンテナンスの効率化にも取り組むことを前提としている概念です*2。環境負荷を抑えるための工場のエネルギーマネジメントに注力したり、顧客とのデータ共有を通じて、製品の長寿命化や、エネルギー最適化に繋がる運用サービスを提供したりといった事業を推進しています。
まとめ
スマート・ファクトリーは従来の工場のあり方を刷新するコンセプトとなっており、実現のためには相応の初期投資が求められます。しかしながら人材不足や市場の縮小に伴う競争の激化に対応するためには、早いうちからスマート化に向けた取り組みを実践する必要もあるでしょう。
先進事例を参考にしながら、自社のスケールでできることから着手する姿勢が求められます。
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参考:
*1 AIsmiley「パナソニック発のAIプラットフォーム、生産ラインのメンテナンスを完全自動化 」
https://aismiley.co.jp/ai_news/ai-platform-factory-maintenance/
*2 東芝「製造業DXに向けた東芝の「スマートマニュファクチャリング」の取り組み(前編)」
https://www.global.toshiba/jp/company/digitalsolution/articles/digicon/2022/43.html