インハウスCADとは何?開発背景と現状を解説
CADは製図や設計、生産などをはじめ、オンラインマニュアルや営業資料、維持管理の情報などさまざまな目的で使用されます。
しかし汎用CADの場合完全に自社のニーズが反映できるわけではありません。
この記事ではCADの内製化であるインハウスCADについて、メリットやデメリット、現状などをCADの歴史や動向などとあわせてご紹介します。
インハウスのおさらい
インハウスとは何のことでしょうか?簡単に言葉の意味を確認します。
インハウスは内部で実施すること
インハウス*1とは、英語で「in-house」と表記します。
in-house advertising(社内広告)、in-house brands(自社ブランド)、in-house database(社内データべース)、in-house staff(社内スタッフ)などのように使われていて、「組織内の」「社内の」といった意味です。
ある業務を行う際は、社内のメンバーで実施する場合と外部に委託をする場合があります。自社の組織やリソースを使って運営することがインハウスです。
インハウスの対義語はアウトソース*2
インハウスの対義語はアウトソース (outsource)です。
外部に発注や委託を行う場合、費用はかかりますが自社のリソースを使用しません。業務をインハウスで行うかアウトソースで行うかは経営判断により異なります。
専門性が高い業務や事務処理が多い業務、定型的な業務などはアウトソースされることがあります。
昨今はクラウドソーシングの発達などにより、さまざまな業務をアウトソースする余地があります。
インハウスCADのメリット・デメリット
インハウスCADとは自社開発されたCADのことです。市販されている汎用CADとの違いは以下のような点があります。
インハウスCADのメリット*3
インハウスCADの場合、開発チームが社内にいるので以下のようなメリットがあります。
・CADの開発チームとユーザーの距離が近く、仕様の目的や用途、効果、優先順位など自社内のニーズが反映されやすい
・仕様変更の要望が開発チームに伝わりやすく、開発スピードが早い
・発注側がCADで実現したいことと受注側がやってほしいことの利害が対立しない
・追加開発がある場合にも契約上の成約がなく大規模なコストがかかりにくい
・開発ノウハウが社内の開発チームや関連部門内に蓄積される
インハウスCADのデメリット*4
インハウスCADを制作しているのは製造業であり専門のソフトウェア会社ではないため、以下のようなデメリットがあります。
・事業継続性やコストの面から大きな投資が必要になる
・属人的な開発になりやすく、開発して時間が経ってからの課題解決が行いづらい
・設備投資や人件費、人材育成のリソースがかかる
・インハウスCADと外部とのデータ連携の方法確立が必要
・CADの業界動向など分析的な知見を踏まえた開発は専業の開発会社のほうが有利
インハウスCADの開発動向
ここでは各CADが登場した時期を振り返りつつ、インハウスCADが特に多く登場した時期を見ていきましょう。
CAD開発の歴史
以下の表は、代表的なCADやBIMがどの時期に登場し始めたかを表しています。
年代 | 登場したCADの例 | CADユーザーの主流 |
1960年代 | ・Sketchpad ・CADAM | インハウスCAD |
1970年代 | ・MicroCADAM | |
1980年代 | ・AutoCAD ・CATIA ・Pro/E ・Unigraphics ・I-DEAS | |
1990年代 | ・ArchiCAD ・SolidWorks | 汎用CAD |
2000年代~ | ・Autodesk inventor ・BricsCAD ・Autodesk Revit ・Vectorworks Architect ・Fusion360 |
・1960年代:Sketchpad、CADAMなど
CADの原型とされるのが1963年に登場したSketchpadです。
今までドラフターで手書き図面を作成していたなかで、現在のペンタブレットのような要領でパソコンの画面上に線を描画していました。
・1970年代:MicroCADAMなどが登場
製図用のCADに加えて3次元で表現が可能なCADが登場し始めた時期です。
まだソリッドやサーフェスは描画できず、ワイヤーフレームで取り扱われていました。
・1980年代:AutoCAD、CATIA、Pro/E、Unigraphics、I-DEASなどが登場
サーフェスが描画できるようになり、複雑な形状をCAD上で作成したりCAEに活用したりできるようになりました。
企業ごとにニーズがさまざまあることから、CADの内製化が盛んにおこなわれた時期です。
また、現在も開発が続く汎用CADが登場し始めています。
・1990年代:ArchiCAD、SolidWorksなどが登場
航空、自動車など大企業などで3DCADが普及し始め、一部の専門家に限らず設計担当者がCADやCAEを使い始めました。
・2000年代~:Autodesk inventor、BricsCAD、Autodesk Revit、Vectorworks Architect、Fusion360などが登場
中小企業にもCADが普及して、データ連携が重視されるようになりました。
同時にデータの一元管理や活用が重視され、CADデータが設計製造のほか企画や営業、維持管理などにも活かされるようになりました。
あわせてBIMやクラウド上で動くCADも登場しています。
インハウスCADの開発事例
現在もインハウスCADが開発されていますが、特に1980年代にはインハウスCADの開発が盛んに行われていました。
かつては、ヤマハ発動機*5やスズキ*6*7など多くの製造業がCADの開発を行っていたのです。
現在も残っている代表的なインハウスCADには以下などがあります。
・CATIA*8
CATIAは、Creo ParametricやNXとならぶ3大ハイエンドCADのひとつです。
CATIAはもともとはフランスの航空機メーカーであるDassault Aviation(ダッソー・アビアシオン)が自社で航空機を作るために開発されたインハウスCADでした。
・Caelum*9
Caelumは、トヨタグループが使用するCADとして開発されたインハウスCADです。現在は分社化されたトヨタケーラムが他のグループ内の情報系企業と統合されトヨタシステムズにて、CaelumⅣの販売が行われています。
昨今はCADカスタマイズが増えている*10
2000年代以降は、汎用CADの機能が成熟し、作ったデータを使い倒す方向へ考え方が変化してきています。
汎用CADが広く普及して機能が拡充しているため、インハウスCADを開発するよりも汎用CADを用いて必要な箇所をカスタマイズするという使い方が多くみられます。
例えば、AutoCADやInventor、BricsCADなどはカスタマイズを想定したAPIがあります。
APIを活用するなどしてCADのカスタマイズを行えば、自社の業務のさらなる効率化が可能です。
CADカスタマイズの事例
汎用CADのカスタマイズにはさまざまな事例があります。
・VBA、VB、.NETなどを活用したツールやコマンド、ライブラリ、チェックなどの作成
・自動設計、作図
・自社と顧客や関連会社間のCADデータ連携
・CADデータとRPAを組み合わせた定型業務の自動化
CADカスタマイズに関する詳しい事例*11については、CADカスタマイズ*12のリンクを参考にしてください。
まとめ
インハウスCADとはCADを自社で設計して活用することです。
1980年代には各製造業で盛んに開発されていましたが、近年は汎用CADの普及などからCADのカスタマイズが盛んに行われています。
自社のニーズを実現する選択肢には、インハウスCADのほかCADのカスタマイズも考えられるでしょう。
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参照
*1:https://www.k-evolva.com/glossary/in_house/
*2:https://paraft.jp/r000017002068
*3:https://u-1roh.hatenadiary.org/entry/20090510/1241944876
*4:https://paraft.jp/r000017002068
*5:https://www.yec.co.jp/recruit/work/cad/index.html
*6:https://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/1983/03/1983_03_12.pdf
*7:https://response.jp/article/2001/01/30/6898.html
*8:https://www.dassault-aviation.com/en/passion/history/1916-to-this-day/1965-1986/
*9:https://www.toyotasystems.com/product/tool/detail/caelum4.html
*10:https://www.andor.co.jp/product/CADCustomize.html
*11:https://www.andor.co.jp/product/CADCustomize.html
*12:https://www.capa.co.jp/business#business03