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清水建設が取り組む原発に関わるBIMの活用について

建設業界で今最もホットな話題であり、これからの業界を劇的に改革していく可能性を秘めているものは、言うまでもなく「BIMの導入とその活用」でしょう。今後は単なるBIMの利用だけでなく、具体的な活用が重要となってきます。
今回の記事では、清水建設が新たに構築した「原発関連事業へのBIM活用について」まとめていきましょう

この記事でわかること
 ・原発建屋建築に特化した清水建設の「NuDIS-BIM」について
 ・廃炉エンジニアリングの効率化を実現する「Deco-BIM」について
 ・日本の原発産業の現状と今後の市場

原発建屋建築に特化した清水建設の「NuDIS-BIM」とは

2022年7月のプレスリリースで清水建設は、原子力発電所建屋の構造設計業務の効率化に向け、BIMをベースとする設計業務統合システム「NuDIS-BIM(Nuclear Design Integration System on BIM)」を開発したと発表しました。

日本における原子力発電所建屋の建設は、鹿島建設・大林組・大成建設・竹中工務店・清水建設の5大ゼネコンが独占状態で受注しています。その一角を担う清水建設は、以前から社内にBIM推進室を立ち上げるなど、BIMの導入・活用を積極的に進めていました。
今回は、特殊な建築物である原子炉建屋に対して、独自のBIMシステムを構築したという内容です。

大きなポイントは次の3点です。

1)データの共有化と一元管理

原子炉建屋には数多くの設備機器が配置されており、配管やそれぞれの設備の干渉チェックなど膨大な確認項目があり、従来はそれぞれのメーカーが独自に起こした設計図面を、個別に確かめる必要がありました。*注1

「NuDIS-BIM」では、一連の設計システムとBIMを双方向に連動することによって、データの一元管理が可能になっています。
 
 このことにより
 ・設備機器と配管と建屋構造体の干渉を検知
 ・構造部材である壁・床・柱・梁の配置と断面スケールの最適化
 ・構造解析モデルの作成
 ・部材の配筋検討
 ・建屋構造設計図面の出力

などがスムーズにできるようなり、さらにヒューマンエラーを防止するなどの効果が期待できます。

2)構造解析の自動化

一般建築物と異なり、巨大な壁や扉など特殊な設備機器が数多く配置される原子炉建屋において、構造解析はベテラン技術者の経験や知識が必要不可欠です。
清水建設では、このような特殊設備や設備や機器をデータベース化するとともに、構造解析モデルを自動生成するアルゴリズムを完成させました。
これまで、いわば職人技に頼ってきた部分を自動化することにより、効率よくスピーディに構造解析を実施することが可能となります。

3)外部とのデータ連携

設備機器を設計する外部の機電メーカーが、BIM上で配置計画図を作成しそれを清水建設が引き継ぐことによって、効率よくデータを活用することができます。
このことにより個別に作成したデータの変換作業や、再入力などが不要になります。

「NuDIS-BIM」の導入により期待できる効果

清水建設によれば、NuDIS-BIMを活用することで原子炉建屋の工期が約2ヶ月、約10%ほど短縮することができるとされています。

原子炉の規模にもよりますが、100万KWクラスの原子力発電所建設にはトータルで数千億円もの費用が必要です。

実際に過去の事例で見てみると
 
 ◯九州電力玄海原子力発電所
 ・1号機(1975年) 545億円
 ・2号機(1981年) 1,236億円
 ・3号機(1994年) 3,993億円
 ・4号機(1997年) 3,244億円

と1990年代では3,000億円~4,000億円もの費用がかかっています。
 
また、「The World Nuclear Supply Chain: Outlook 2035」によると、

 ・設計、建築、エンジニアリング、許認可取得   全体の5%
 ・設計、調達、マネジメント 全体の7%
 ・建設及び設置作業(原子力設備) 全体の28%
 ・建設及び設置作業(2次系設備) 全体の15%
 ・建設及び設置作業(その他周辺機器) 全体の18%
 ・用地開発及び土木工事 全体の20%
 ・輸送 全体の2%
 ・試験運転、初期燃料装荷 全体の5%

とされており、原子炉建屋の設計・建設・設備設置にかかるウェートがかなり高いことがわかります。

工期の短縮は人件費の削減にも繋がるとともに、建設を依頼する電力会社にとっては営業運転が早期にできることから、資金回収の期間の短縮にも繋がります。*注2

清水建設では「NuDIS-BIM」の機能を拡充し、施工・維持管理業務への適用を予定しており、今後のさらなる効率的な原子炉建屋の建設を実現していく予定です。

廃炉エンジニアリングの効率化を実現する「Deco-BIM」とは

国内における新規の原子力発電所建設は、東日本大震災の影響もあり見通しが立っていない状況下にあります。その一方で廃炉が決定した発電所が多数あり、早急に工事に取り組む必要があります。

福島原子力発電所のように事故を起こしたケースでは、廃炉作業も特殊であり長期にわたる除染などが必要となることから、約40年もの時間がかかると見られています。
一方で、事故を起こしていない発電所においても、設備・機器や部材の汚染度を測定し、その程度に応じた廃棄物処理・人員の配置などが必要となり、決して簡単な工事ではありません。

清水建設では、このような廃炉作業にBIMの機能を活用した、エンジニアリング支援システム「Deco-BIM」を開発しています。

原子炉の廃止措置では、

 ・建屋や格納容器を構成するコンクリート部材の放射線汚染レベルの評価
 ・汚染レベル別の廃棄物量の算定
 ・解体計画の立案
 ・作業員の被曝量を勘案した解体工事の工数や工期の算定
 ・廃棄物の処理費用を含むトータルコストの評価

など多岐にわたる作業が必要となります。

このような作業を2次元の図面や資料をベースに進めると、膨大な時間と手間を要していました。これを「Deco-BIM」が解決するという訳です。

清水建設は原子炉建屋の工事だけでなく、すでに廃炉作業においても実績がある企業です。
日本原子力研究所(現日本原子力研究機構)のJPDR(Japan Power Demonstration Reactor)の廃炉作業は、1982年から1996年にかけて行われていますが、清水建設はこの作業にも関わっています。

2015年の「原発のコンクリート放射化レベルを高精度評価する廃炉システム開発」や、2017年の「廃炉調査にヘビ型ロボットを活用」などによって、廃炉作業に関する技術力を蓄えてきました。
さらに2016年には、英国のCavendish Nuclear社と廃炉事業に関する技術協力協定を締結しています。

「Deco-BIM」は、このようにして培ってきた経験とノウハウを活かしたシステム開発であり、今後国内で本格化する廃炉作業に大きく活躍することが期待されています。

国内では、原子炉タイプによって建屋建設を担当するゼネコンが分かれており、清水建設は、「BWR(沸騰水型)」に特化していました。
しかし廃炉については、このような分類はあまり関係ないことから、清水建設は「Deco-BIM」によって、新たな案件獲得のチャンスが生まれるかもしれません。

また電力各社にとっては、廃炉自体は単なる後処理でしかなく、新たな利益を産まない工事ですので、できる限り早期に、低コストで実施できることにこしたことはありません。
BIMを活用した新たなシステムを活用することによって、工期の短縮・費用の削減・安全な作業が実現するのであれば、大きなメリットとなります。*注3

日本の原発産業の現状と今後の市場について

日本の原子力発電所は現在60基ありますが、そのうち再稼働が許可されているのはわずかに10基であり、実際に稼働しているものは7基に過ぎません。
また、24基については廃炉が決定しており、順次廃炉作業が実施される予定です。

しかし、実際に国内において廃炉作業が完了しているものは、日本原子力研究所(現日本原子力研究機構)のJPDRしかなく、今後増加する廃炉作業を効率的に処理していくためにはシステム化が不可欠です。
一方、新規の建設については東日本大震災の影響もあり、一部停止になったり新基準に対応すべく工事計画が変更されている状況です。

この先、国内における原子力発電所の新規着工がどの程度進むかについては、政府の政策や世論の動向などにも影響されます。しかし廃炉作業は確実に増加していくことから、清水建設のBIMを活用したシステムは特に注目されています。*注4

【まとめ】
建設業界にとって、効率化・小コスト化・高機能化を実現し市場競争力をつける為には、BIMの導入と活用は不可欠となっています。
今回の記事では、その中でも原子力発電所という特殊な分野で、BIMの積極的な活用を進める清水建設の取り組みについて紹介しました。
今後、さまざまな分野でこのような取り組みが拡大していくことが予想され、時には市場の勢力図にまで影響を与える事例が出てくるかもしれません。

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■参考文献
注1
清水建設 「BIMで原子力発電所建屋の設計業務を効率化」
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2022/2022024.html

注2
株式会社三菱総合研究所 「令和元年度原子力の利用状況等に関する調査(国内外の原子力産業に関する調査)報告書」
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000406.pdf

注3
清水建設 「Deco-BIM(デコビム)で廃止措置エンジニアリングを効率化』
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2022/2022041.html
環境ニュース 「清水建設、原発のコンクリート放射化レベルを高精度評価する廃炉システム開発」
https://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=35357
日刊工業新聞 「清水建設など、廃炉調査にヘビ型ロボ?がれきの隙間進入」
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/427019

注4
経済産業省資源エネルギー庁 「日本の原子力発電所の状況」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/001/pdf/001_02_001.pdf

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