Inventorの展開図を徹底解説|板金設計に役立つ作成手順・活用法・注意点まで
1. はじめに

本記事では、製造業のCAD担当者向けに、Inventorを使った展開図の作成方法や板金設計のポイントをわかりやすく解説します。特に初心者から中級者の方がつまずきやすい操作方法や設定についても、具体的な手順と根拠を示しながらご紹介します。
製造の現場では、効率よく正確な展開図を作成することが重要となります。大学や専門学校で学ぶ座学と異なり、実際の板金加工やレーザー加工では、CADソフトウェアの操作だけでなく、ベンド処理や加工方法の知識が欠かせません。Inventorは3Dモデリングと板金用のモジュールが充実しており、自動的に展開形状を生成できるなど大きな強みがあります。
しかし、InventorとAutoCADを同じ感覚で扱おうとすると、思わぬエラーや展開不可の形状に悩まされることもあります。そこで本記事では、板金の基礎知識と合わせてInventorの特徴を整理しながら、具体的な手順をステップごとに紹介していきます。初心者の方が現場で求められるスキルを確実に身につけ、効率的な展開図の作成ができるようになることを目指しています。
さらに、記事内では実務上の注意点や、実際によくある失敗例、板金以外のモデルの扱い方など、役立つコツを網羅しています。Inventorの展開図機能を活用することで、作業時間を短縮しながら図面精度を高め、レーザー加工やCAM連携をスムーズに行えるようになるでしょう。さあ、Inventorでの展開図づくりをマスターする第一歩を、一緒に踏み出してみましょう。
2. Inventorとは?展開図の基本を理解する
2.1. 展開図の定義と基本概念
Inventorは3Dモデリングを得意とするCADソフトウェアですが、板金加工に適した「Sheet Metal(板金)モジュール」を備えていることが大きな特徴です。展開図とは、三次元の形状を平面上で表現し、加工や切断に必要な形状情報を提供する図面のことです。
たとえば、フランジ部分をベンド(曲げ)する際に必要となるベンドラインや、板厚に応じた切り欠きなどを可視化できるため、図面をもとに実際の金属板を切り抜き、曲げ加工を行いやすくなります。自動車部品から家電の筐体まで、ありとあらゆる板金製品の下地となる重要な図面です。
多くの場合、現場で板金加工がスムーズに進行するかどうかは、展開図の正確さに左右されます。形状が単純であればよいのですが、複数の曲げを重ねる場合などは、誤差が積み重なりやすくなるのです。そこで、CAD上で正確な寸法とベンド設定を行い、ミスを防ぐための仕組みがInventorには備わっています。
2.2. 板金加工と展開図の役割
板金加工は、金属板を切断や曲げ、打ち抜きなどを行い、立体的な製品形状へと仕上げる工程を指します。例えば、自動車のボディパネルや産業用機械のパネルケースなど、平らな板材を加工して、複雑な立体物を作り上げる使い方が一般的です。
板金加工では、あらかじめ「どの部分を曲げるか」「どの方向に曲げるか」を正しく把握しなければなりません。Inventorの展開図は、これらの要素を視覚的に示すだけでなく、ベンド半径や板厚といった情報を含めた形で、DXFなどの2Dファイルへ出力することを得意としています。これにより、レーザー加工機で正確な形状を切り出し、ベンドラインに合わせて曲げを行う手順が明確になります。
さらに、Inventorではベンドこん跡の長さや曲げの角度、小さな切り欠き形状なども自動整理が可能です。適切なKファクター(曲げ伸びの補正係数)を設定することで、現場での誤差も減らせます。こうした機能があることで、初心者の方でも正確な板金展開を素早くこなせるようになるのです。
2.3. AutoCADとInventorの違い
同じAUTODESK社が提供しているソフトにAutoCADがありますが、両者には大きな違いがあります。AutoCADは2Dの図面作成やトレース作業に強いのに対し、Inventorは3Dモデリングをベースにしています。つまり、Inventorは三次元の立体モデルを作成し、そのモデルを展開して図面化する流れが基本です。
AutoCADの場合、板金の展開図を手動で2D描画しなければならないケースがほとんどですが、Inventorではパーツを板金モジュールで作成しておけば、自動で展開形状を生成できます。この自動処理は、工程の短縮や設計ミスの削減に大きく貢献します。初心者の方は、この点を押さえておくだけで、板金設計における生産性を一段と高められるはずです。
また、AutoCADの図面データ(DWGファイル)を追加で利用したい場合も、Inventor上で読み込みや変換が比較的スムーズに行えます。会社の図面資産を活用しながら、新しく3D設計へ移行したい方にもInventorは有用といえます。
3. Inventorの主要モジュールとその機能
3.1. 板金(Sheet Metal)モジュールの紹介
Inventorには「Sheet Metal」と呼ばれる板金モジュールがあり、これを利用することで様々なベンド形状やフランジを持つ部品を、直感的にモデリングできます。特に、板厚やベンド allowance(曲げ許容値)を事前に設定した「板金スタイル」を用意しておける点が特徴です。
例えば、ステンレス用のスタイルやアルミ用のスタイルなど、材料特性に合わせた設定を複数作っておけば、材質変更があっても展開寸法を自動で補正できます。これは実際の加工現場で非常に重要となるポイントです。板厚が変わるだけで、曲げ寸法が大きく変わってしまうケースがあるためです。
この板金モジュールでは、フランジやベンド、ロフト、コーナー処理など一連の操作がまとめられており、複雑な板金パーツも一貫して作成可能です。初心者の方は最初にシンプルな箱形状から始め、徐々にフランジやガセットを追加してモデリングする練習を行うと良いでしょう。
3.2. アセンブリから図面への変換
Inventorでは、複数の部品をまとめて組み立てる「アセンブリ(Assembly)」機能も備えています。アセンブリ状態で全体の寸法バランスや動作干渉を確認したうえで、各部品を詳細に設計できるのは、3Dソフトならではのメリットです。
一般的に、板金の設計を行う際も、複数のパーツを組み合わせたときに生じる干渉やすきまを確認し、最終的な製品シルエットをチェックすることが大切です。それぞれの板金部品をアセンブリファイルへ配置し、全体像を確かめた後に図面化へ進む流れを取れば、後戻りのコストを抑えられます。
また、アセンブリから直接2D図面へ投影する機能があるため、必要に応じて接合部や取り付け穴位置の寸法を一括で管理することができます。初心者にとってはややステップが多く感じるかもしれませんが、プロジェクトが複雑化するほど有用性が高まる機能だといえます。
3.3. 通常パーツの展開図作成の工夫
Inventorでは、板金モジュール以外にも通常パーツ(Standard Part)モードが存在します。こちらは自由度が高いモデリングが可能ですが、そのままでは自動で展開図を生成できません。そこで、部品の形状によっては「Sheet Metal」環境へ変換したり、パーツの面を一度サーフェス化してフラットに展開する工夫をする場合もあります。
また、複雑な曲面を含むパーツなどは、ベンド曲げの定義ができずに展開が不可能となるケースが出てきます。その際には、板金で作るべき形状か、あるいは溶接など別の方法が適切かを検討するとの判断が必要です。組み立て後の使用目的に合わせてモデリング段階で展開の可否を考慮し、適切にモジュールを選ぶことがスムーズな設計のコツといえます。
4. 実践!Inventorで展開図を作成する手順
4.1. 板金モードでの部品モデリング
まずはInventorで新規にファイルを作成し、テンプレートとして板金(.ipt)を選択します。これにより、標準で板金用の機能や板 thickness(板厚)設定が使えるようになります。
最初に押さえておきたいのが「板金スタイル」です。メニューから「板金タブ > スタイルエディタ」を開き、板厚、ベンド半径、ベンド allowance 設定などを事前に行っておくと、後から仕様が変わっても一括で補正できます。ここでは鋼板やアルミニウムなど、材料に応じて複数設定を持っておくのが理想的です。
部品の形状はスケッチを描いて、フランジ機能を用いて立ち上げたり、ベンド機能で曲げ加工を表現したりして作成します。コーナーにR(アール)を付けたり、必要箇所に切り欠きを入れたりしながら、加工しやすい形状を意識してください。
4.2. 展開ビューの生成と調整
板金モードで形状が完成したら、いよいよ展開図を生成します。Inventorの「展開」コマンドを使うと、自動的に元の形状が平らに伸ばされた状態が作られます。曲げ方向や曲げ順序は、モデリング時点で定義したベンド情報に基づくため、特定のベンドが反転しているときには修正が必要です。
また、この段階でベンドラインの表示有無や、干渉している形状がないかを確認しましょう。曲げと曲げの隙間が狭すぎると、板金が干渉を起こしてしまうことがあります。製造現場の声を取り入れながら、適切な余裕を見て寸法を設計しておくことが、品質トラブルを回避する秘訣です。
4.3. 2D図面への出力と保存
生成した展開図は、2D図面として出力することが可能です。Inventorの「ファイル > 作成 > 図面(.idwまたは.dwg)」を選択し、ビュー配置で展開状態を投影します。これにより、ベンドラインや寸法を含んだ正式な製造用図面を作れます。
レーザー加工用のDXFが必要な場合は、図面上で「右クリック > 保存コピーとして」からDXF形式を選択するか、パーツの展開状態そのものをDXF保存する手段もあります。実際の加工機へ取り込む際には、必要な要素がすべて表示対象になっているか、設定画面で必ず確認してください。特にベンドラインを省略して出力する場合や、袋状の曲げ部を含む場合には要注意です。
5. 展開図作成時の注意点とコツ
5.1. 展開できない形状とその対処法
Inventorの板金モジュールは、多くの形状を自動的に展開してくれますが、すべてに対応できるわけではありません。特に、複数のベンドが複雑に交差していたり、ねじれ形状が含まれていたりすると展開が不可能となる場合があります。
こうしたケースでは、複数のパーツに分割する設計に変える、あるいはベンドを溶接加工に切り替えるなど、製造プロセス自体を見直す必要があります。無理に一体化した形状を作ろうとすると、展開時にエラーが発生したり、仮に展開できても実際の加工が極めて難しい状態に陥ります。
結果として、設計の段階で「これは板金で対応できるのか」を検討することが大切です。加工性を考慮せず形状のみ優先してしまうと、後から大幅なリデザインが必要となることも少なくありません。
5.2. 板厚とベンド許容値の正確な設定
板厚やベンド allowance(ベンド減少量)、Kファクターは、展開図の寸法を左右する最重要パラメータです。例えば、実際の板厚よりも薄い値が設定されていると、加工後の寸法が足りなくなり、部品が組み合わなくなってしまいます。
そのため、製品仕様にあわせた正確な数値を事前に把握し、Inventorの「板金スタイル」に登録しておく習慣をつけましょう。特に複数の材料を扱う現場では、材料ごとにセットアップしたスタイルを使い分けると便利です。こうすることで、間違いを減らしつつ高い再現性を保てます。
5.3. 設計ミスを防ぐためのチェックポイント
展開図の完成後は、「実物を加工できる形状になっているか」という観点で最終確認を行います。レーザー加工機で切断できる取り付け穴のサイズか、ベンドの半径が工具に適合しているかを確かめると同時に、部品どうしの干渉も忘れずチェックしましょう。
特に、図面上では問題なさそうに見えても、実際に曲げ加工を行うときに他のフランジ部分にぶつかるケースがあります。可能ならばサンプル部品を試作して、設計と現場の擦り合わせを十分に行ってください。こうした細かい注意を払うことで、完成品の仕上がり精度が大きく向上します。
6. 板金以外のモデルで展開図を作る方法
6.1. 通常パーツの展開図風表現
板金モジュール以外で作成したパーツでも、どうしても展開図が必要なことがあります。例えば、薄板を想定していたわけではないが、外形を平面で展開して寸法を拾いたいケースです。
こうした場合、一度サーフェス化して面をフラットに反転する方法や、複数のスケッチを組み合わせて疑似的に展開図を表現するアプローチがあります。ただし、正確なベンド allowance やKファクターなどの板金情報は付与されないため、純粋な板金扱いにはなりません。もしも将来的にレーザー加工やベンド加工を行うなら、最初から板金モジュールでの設計を検討するほうが無難です。
応急的に「とりあえず2D配置を作りたい」という用途には役立つものの、製造工程と結びつく作業には注意が必要です。
6.2. iLogicやマクロを使ったカスタマイズ
Inventorには、作業を自動化できる「iLogic」という機能が備わっています。たとえば、よく使用する板金スタイルを切り替えたり、展開図やDXF出力をワンクリックで行うマクロを組んでおくと、反復作業を大幅に削減できます。
実装のハードルは少し高いかもしれませんが、慣れてしまえば職場全体の生産性がアップするだけでなく、操作手順の標準化にもつながります。Inventor初心者の方は、まずは基本機能の習得を優先し、段階的にiLogicに挑戦してみるとよいでしょう。
7. よくある質問(FAQ)
7.1. DXF出力ができない場合の対処法
DXFへ出力しようとした際に「ファイルが生成されない」「ベンド線が消えてしまう」といったトラブルが起こることがあります。原因としては、Inventorの出力オプション設定が不適切だったり、展開の状態そのものが壊れているケースが考えられます。
具体的には、「展開状態を確定しないまま別操作を行う」「図面ビューのレイヤ設定がオフになっている」などがよくある原因です。まずは展開図の状態を再度確認し、Inventorの「出力 > DXFオプション」画面でベンドラインを含むように設定しましょう。もしうまくいかなければ、別のPCや別バージョンのInventorで試験的に出力するのも手段のひとつです。
7.2. ベンドラインの表示設定
レーザー加工では、ベンドラインを加工機に読み込ませないようにしたい場合があります。一方で、板金工にはベンド位置を示す線が必要です。このように、どの線を出力するかで意見が分かれることがあるのです。
Inventorでは図面上のレイヤ制御や、DXF出力時の「ベンドラインを含む・含まない」のチェックボックスで管理することができます。工場の運用方針にあわせて、ベンドラインを実線から点線に切り替えるなどの工夫も検討してみましょう。
7.3. 展開図の精度とCAMへの適用
「展開図の精度はどこまで信用していいのか?」という疑問を持つ方も多いでしょう。Inventorの板金モジュールは、板厚や曲げ半径、Kファクターを正しく設定していれば非常に高精度な展開形状を算出します。現実の加工誤差は、材料特性や曲げ機械の調整次第ですので、一度試作品で誤差を確認し、設計値を微調整する運用をおすすめします。
また、CAMソフトとの連携を行う際は、出力したDXFやDWGがレーザー加工機の制御ソフトで正しく認識されるように、バージョン互換性にも注意しましょう。特に線種や寸法レイアウトが正しく読み込まれない場合は、ファイル形式を変えたり、レイヤを整理してから再度出力すると解決しやすいです。
8. まとめ:Inventorで展開図をマスターする
ここまで、Inventorの展開図機能を中心に、板金設計において押さえておくべきポイントを解説してきました。改めてまとめると、板金モジュールの「Sheet Metal」環境では、ベンド設定やKファクターなどを正しく扱うことで、展開図を自動かつ正確に生成できる強みがあります。
また、AutoCADとの違いとして、3Dモデルからの展開が前提になるため、初期段階でのモデリングが正しいほど後々の作業が楽になります。アセンブリを駆使して全体を設計する際も、各パーツを板金化して展開可能にしておくと、干渉や寸法ミスを防ぎやすいでしょう。
一方で、展開できない形状や複雑なベンドが絡むパーツでは、設計を工夫したり分割して溶接に切り替えたりと、実際の加工現場に即した判断が求められます。こうしたノウハウを積み重ねていくことで、Inventorを使った板金設計の幅がどんどん広がっていくはずです。
初心者の方は、まずはシンプルな形状を板金モードで作成し、展開図を生成してDXF出力する一連の流れを試してみましょう。作りながら操作を覚え、少しずつカスタマイズや高度なモデリングへステップアップすると、使い方の理解が深まります。そして、同僚や上司にも使い勝手の良いテンプレートやiLogicマクロを紹介し、チーム全体で作業効率を高めることも大切です。
Inventorを使いこなせば、板金製造の現場で高い評価を得ることができ、生産性や品質の向上にも大きく貢献できます。ぜひ本記事を活用し、Inventorによる展開図作成をマスターして、自信を持って板金設計に臨んでください。
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<参考文献>
・Autodesk Inventor ソフトウェア | Inventor 2026 の価格と購入(公式ストア)
https://www.autodesk.com/jp/products/inventor/overview
・Autodesk Inventor シート メタル パーツ
https://help.autodesk.com/view/INVNTOR/2024/JPN/?guid=GUID-F3DB9740-D340-4B6C-B9D9-50EAFB2DFAB1
・Autodesk Inventor シート メタルのフラット パターンを使用するには
https://help.autodesk.com/view/INVNTOR/2024/JPN/?guid=GUID-772414ED-A283-4A02-878E-AD0A114F5BA3





