グリーンBIMで脱炭素化を進める方法|仕組み・活用方法・企業事例を解説
1. はじめに
近年、建築業界では、世界的に脱炭素化への対応が求められています。建物の環境負荷は、運用時のエネルギー消費だけでなく、建材の製造や施工時に排出される炭素(エンボディドカーボン)にも大きく左右されます。そのため、建築設計では建物のライフサイクル全体を見据えたCO2削減が重要です。
こうした背景から、BIM(建築情報モデリング)を活用して環境負荷や炭素排出量を分析する「グリーンBIM」という考え方が注目されています。グリーンBIMを活用することで、設計段階から材料選択やエネルギー使用を見直し、環境に配慮した建築設計を進めやすくなります。
一方で、実際の設計プロセスにおいて「グリーンBIMをどのように導入し、どう活用すればよいのか」が分かりにくいと感じるプロジェクトマネージャーも多いのではないでしょうか。そこで本記事では、グリーンBIMの仕組みを整理したうえで、具体的な活用方法や利用できるツール、企業事例について解説します。
この記事を読むことで、建設プロジェクトの環境負荷低減に取り組む際の具体的な流れをイメージしやすくなります。コスト効率と環境持続性を両立した設計を目指すうえで、グリーンBIMの役割や注意点を理解し、脱炭素建築の推進に役立ててください。
2. グリーンBIMの基本と脱炭素化への影響

グリーンBIMは、特定の製品や規格を指す言葉ではなく、BIMデータを環境性能評価や炭素排出量の算出に活用する考え方です。
BIMには建物の形状・仕様・材料量などの情報が含まれており、これらをエネルギー解析や建材の環境影響評価、LCA(ライフサイクルアセスメント)につなげることで、設計の早い段階からCO2排出量を試算できます。
脱炭素化を進める際は、建物のエネルギー使用に伴うオペレーショナルカーボンだけでなく、建材の原材料採取や製造、輸送、施工、維持管理、廃棄などに伴うエンボディドカーボンにも目を向け、建物のライフサイクル全体で環境負荷を捉えることが重要です(参照*1)。
| 種類 | 主な対象 | グリーンBIMでの活用例 |
| エンボディドカーボン | 建材の製造・輸送・施工など | 材料種類や数量をもとに炭素排出量を評価 |
| オペレーショナルカーボン | 建物運用時のエネルギー使用 | エネルギー消費量を分析し、設備や断熱仕様を検討 |
2.1. グリーンBIMとは何か?
グリーンBIMでは、BIMモデルに含まれる建築情報を活用し、環境負荷に関する定量的なデータを設計に取り入れます。
たとえば、材料の種類や数量をもとにエンボディドカーボンを推定したり、BIMデータを使ってエネルギー消費量を試算したりすることで、CO2削減につながる設計条件を検討できます。
このように、設計の早い段階から環境負荷を考慮できる点がグリーンBIMの特徴です。
2.2. 脱炭素化におけるグリーンBIMの役割
グリーンBIMを活用すると、設計初期から建物のエネルギー分析や材料選択を並行して検討しやすくなります。
設計の各段階で炭素排出量を考慮し、複数の案を比較できるため、より持続可能な建築案の検討につなげられます。また、RevitなどのAutodesk製品と連携しながらBIMデータを活用することも可能です。
このように、グリーンBIMは脱炭素化に向けた設計検討を効率的に進めるためのアプローチの一つです。
3. グリーンBIMで脱炭素化を進める4つの方法
グリーンBIMを具体的な設計プロセスに取り入れる方法として、主に次の4つが挙げられます。
- 建物のエネルギー性能を分析する
- 建材のエンボディドカーボンを評価する
- 複数の設計案を比較する
- 材料や構造を最適化する
いずれもBIMデータを活用し、設計段階から環境負荷を把握して具体的な検討につなげる方法です。設備計画の最適化や建材の選定など、自社のプロジェクトに取り入れられる方法を確認していきましょう。
3.1. 建物のエネルギー性能を分析する
まず重要なのが、設計段階から建物のエネルギー性能を分析することです。BIMモデルでは、壁の断熱性能や開口部の配置、建物の形状や方位などを設定できるため、自然換気や日射取得なども考慮しながら、建物のエネルギー消費量を分析できます。
たとえば、RevitなどのBIMソフトウェアで作成した建物の情報をAutodesk Insightなどと連携させることで、建物性能の解析結果を視覚的に確認できます。これにより、断熱材や窓ガラスなどの条件を変更した場合に、CO2排出量がどのように変化するかを比較できます。
オペレーショナルカーボンの削減は、長期的な環境負荷の低減につながります。そのため、複数の選択肢を比較し、建物の運用コストも含めて判断することが大切です。
3.2. 建材のエンボディドカーボンを評価する
建物の主要構造や仕上げ材を選択する際には、エンボディドカーボンを評価することが重要です。BIMデータから把握した建材の数量をもとに、コンクリートや鋼材、木材などの材料がCO2排出量にどの程度影響するかを分析します。
Autodeskでは、LCA(ライフサイクルアセスメント)を用いて材料のライフサイクルに伴う排出量を評価し、材料選択や構造効率などの検討につなげる方法を紹介しています(参照*1)。LCAに対応したツールと連携することで、具体的な建材の環境影響を比較・検討できます。
材料選択の段階からCO2削減効果を評価することは、大規模な建設プロジェクトほど意義が大きく、環境に配慮した設計を進めるうえで重要なステップとなります。
3.3. 複数の設計案を比較する
グリーンBIMの強みの一つは、複数の設計案について、炭素排出量やエネルギー消費量を比較できることです。形状・材料・設備計画の違いが環境負荷にどの程度影響するのかを定量的に示すことで、根拠に基づいた意思決定につなげられます。
たとえば、外壁材に木質系パネルを使用する案と、鉄骨造を活用する案をそれぞれBIMモデルで作成し、環境性能を比較します。エンボディドカーボンを数値で把握することで、コストだけでなく、炭素排出量の観点からも設計案を比較・検討できます。
こうした比較は、チーム内外のステークホルダーへ説明する際にも有効です。「どの案がより持続可能な建築につながるか」を示しやすくなるため、設計案を検討する際の判断材料になります。
3.4. 材料や構造を最適化する
最後に、環境負荷の削減につながるのが、材料や構造の最適化です。たとえば、余分な補強材を減らしたり、形状を合理化したりすることで、必要な性能を維持しながら材料の使用量を抑えることができます。
BIMデータを活用すれば、各構造部材の寸法や配置などを見直しながら、環境負荷への影響を確認できます。さらに、設備計画を最適化し、機器の選定やレイアウトを見直すことで、消費電力やメンテナンスコストの改善も検討できます。
このように、グリーンBIMを活用して設計を最適化することで、エンボディドカーボンとオペレーショナルカーボンの両面から脱炭素化につなげることができます。
4. Revit・Autodesk Insightを活用した炭素分析
この章では、具体的なツールの活用例として、Autodesk製品のRevitとAutodesk Insightを組み合わせた炭素分析の流れを紹介します。BIMデータと建物性能解析をどのように連携させるのかを理解することで、より実践的な活用イメージをつかめるでしょう。
Revitで作成したBIMモデルの情報をAutodesk Insightと連携させることで、エンボディドカーボンとオペレーショナルカーボンを分析しやすくなります。以下では、この連携によるメリットと具体的な流れを順に説明します。
設計条件の変更によって炭素排出量がどのように変化するのかを分析できるため、設計時の意思決定にも役立ちます。こうしたツールを活用することで、設計段階から脱炭素建築に向けた検討を進められます。
4.1. RevitとAutodesk Insightの連携
Autodesk InsightはRevitと統合されており、Revitのエネルギー解析モデルを基盤として、エンボディドカーボンとオペレーショナルカーボンを分析できます。Autodeskによると、柔軟なダッシュボードによる炭素排出量の評価に加え、設計初期から設計開発まで、炭素排出削減シナリオをシミュレーションして視覚的に比較できます(参照*2)。
こうした分析を設計プロセスに取り入れることで、設計者やプロジェクトマネージャーは、設計条件の変更が建物の環境性能にどのような影響を与えるのかを確認しながら検討を進められます。
RevitとInsightを連携させることで、BIMモデルの情報を建物性能や炭素排出量の分析に活用し、設計段階から環境負荷の低減に向けた検討を進めることができます。
4.2. BIMを脱炭素設計の判断材料にする
BIMモデルを単なる3Dの図面データとして扱うだけでなく、炭素排出量の分析や環境性能評価に活用できる点が、グリーンBIMの重要なポイントです。
設計フローとしては、まずRevitで基本設計モデルを作成し、次にAutodesk Insightと連携して炭素分析や建物エネルギー分析を行います。その結果をもとに、材料選択や断熱仕様などを調整し、設計へ反映するという流れを繰り返します。
この一連の流れでは、設計プロセスに定量的な炭素評価を組み込むことで、脱炭素建築に向けた検討を具体的に進められます。どこをどのように変更すれば環境負荷の低減につながるのかを把握しやすくなる点も、大きなメリットといえます。
5. グリーンBIMによる脱炭素化の企業事例

グリーンBIMを活用した企業事例を見ることで、BIMデータをどのように炭素評価や設計判断につなげているのかを具体的に把握できます。ここでは、海外の設計事務所や設備会社による4つの事例を紹介します。
| 企業 | 主な活用内容 | 主なツール | 主な成果 |
| Perkins&Will | マスティンバーの炭素評価 | Revit、Tally | 3,500メートルトン以上のCO2削減 |
| FCBStudios | 構造・材料の炭素評価 | Revit、FCBS Carbon | コンクリート670m³削減、425,000kgCO2e削減 |
| Lake|Flato | 運用・建材由来の炭素評価 | Autodesk Insight、Tallyなど | 生物由来炭素を含む評価で38~58%の炭素削減 |
| Bravida | 設備・材料使用量の最適化 | AEC Collection、Revit、Dynamo | 53万トンのCO2排出量削減 |
5.1. Perkins&Willの事例
世界的な設計事務所であるPerkins&Willは、サンフランシスコの「1 De Haro」の設計において、Revitで利用できるLCAソフトウェア「Tally」を活用し、建物のエンボディドカーボンを評価しました。
同プロジェクトではマスティンバー構造を採用しており、Autodeskの事例によると、同等のコンクリートや鉄骨を使用した構造と比較して、3,500メートルトン以上のCO2削減につながったとされています(参照*3)。
この事例は、BIMとLCAを組み合わせて建材などに由来する炭素排出量を評価し、その結果を設計判断に活用した事例の一つです。
5.2. FCBStudiosの事例
英国を拠点とするFeilden Clegg Bradley Studios(FCBStudios)は、University of WarwickのFaculty of Arts Buildingの設計において、BIMデータを炭素評価に活用しました。
同社は、Revitの3Dモデルから取得したデータを自社の炭素評価ツール「FCBS Carbon」に取り込み、ファサード材料の変更などがエンボディドカーボンに与える影響を評価しました。また、ポストテンションコンクリート床版の採用によって吊り床版の体積を15%削減し、670m³のコンクリートを節約しています。Autodeskによると、コンクリート要素だけで425,000kgCO2eの削減につながりました(参照*4)。
この事例から、Revitモデルのデータを炭素評価に活用し、その結果を材料や構造の検討につなげる方法が分かります。
5.3. Lake|Flatoの事例
Lake|Flatoは、サステナブルな建築設計に取り組む建築事務所で、オペレーショナルカーボンの管理にAutodesk Insightを活用しています。Insightを用いて、設計上の判断が建物全体のエネルギー消費にどのような影響を与えるのかを分析しています(参照*5)。
また、Hotel Magdalenaではマスティンバー構造を採用しています。Lake|Flatoによると、生物由来炭素を含めて評価した場合、コンクリートや鉄骨からマスティンバーへ変更することで38~58%の炭素削減という結果が得られています(参照*5)。
このようにLake|Flatoでは、建物運用時のエネルギー性能と建材などに由来する炭素排出の両面から、環境負荷の低減に向けた設計を進めています。
5.4. Bravidaの事例
北欧を中心に設備分野で事業を展開するBravidaは、E4ストックホルム・バイパス・プロジェクトにおいて、BIMを活用した設備設計に取り組みました。
Bravidaは、AEC Collectionを活用した解析によって、ケーブルラックや支持材のサイズを削減できることを特定しました。Autodeskの事例によると、この取り組みによって53万トンのCO2排出量削減につながったとされています。また、RevitやDynamoなどを活用し、ワークフローの自動化にも取り組んでいます(参照*6)。
この事例は、BIMを設備設計や材料使用量の最適化に活用することで、環境負荷の低減につなげられる可能性を示しています。
6. グリーンBIMを脱炭素化に活用する際の注意点

グリーンBIMの導入には多くのメリットがありますが、活用する際には注意すべき点もあります。ここでは、BIMモデルの情報精度や算定条件の統一など、環境負荷分析の信頼性に関わる要素を取り上げます。
また、BIMモデルはあくまで炭素排出量の可視化やシミュレーションを支援する手段であり、実際の施工や運用段階での取り組みと組み合わせることで、脱炭素建築につながります。こうした点を押さえ、プロジェクト全体で効果的に環境負荷の低減を進めることが大切です。
以下の3つのポイントを意識して自社の設計フローに取り入れることで、BIMデータをより効果的に活用できるでしょう。
6.1. BIMモデルだけで炭素排出量が決まるわけではない
BIMモデルは環境に配慮した設計を支援する有効なツールですが、モデル上の数値だけに依存すると、実際の現場で必要となる作業や調整を見落とす可能性があります。
たとえば、施工方法によって発生する廃材や材料の輸送距離など、BIMだけではすべてを網羅できない要素もあります。そのため、BIMを導入するだけで自動的に脱炭素化が実現するわけではなく、評価ツールや施工計画との連携が重要です。
BIMを活用する際は、実際の施工・運用データとの比較や追加のヒアリングを行い、プロジェクト全体の整合性を確認しながら進めることが大切です。
6.2. 算定条件・評価範囲を統一する
炭素排出量を算出する際は、評価範囲や前提条件が異なると、算定結果も大きく変わります。たとえば、建物の外装だけを対象とするのか、設備機器まで含めるのかによって、算定値は異なります。
AutodeskとAECOM、Arcadis、Arup、Foster + Partners、Ramboll、SOMによる検証では、同じRevitモデルを用いたエンボディドカーボン評価でも、各社のアプローチに34%のばらつきが確認されました(参照*7)。このことからも、プロジェクトや企業間で比較する場合は、使用するデータの単位やLCAの評価範囲などを明確にし、統一した条件で比較することが重要です。
こうした点を踏まえ、プロジェクトチーム全体で評価基準を共有しながらグリーンBIMを運用することで、より信頼性の高い環境性能評価につなげられます。
6.3. BIMモデルの情報品質を確保する
最後に重要なのが、BIMモデルの情報品質です。材料の数量や仕様が正確に入力されていなければ、どれほど高度な評価ツールを使用しても、分析結果の信頼性が低下する可能性があります。
そのため、設計担当者やBIM担当者だけでなく、環境コンサルタントや施工管理者などとの連携も欠かせません。プロジェクトの段階ごとに、どの程度の詳細度(LOD)でBIMデータを作成するのかを決め、定期的にチェックすることが重要です。
正確なデータをそろえることで、グリーンBIMを活用した環境負荷低減の効果をより引き出しやすくなります。
7. まとめ
グリーンBIMは、BIMデータを脱炭素化に活用するアプローチです。エンボディドカーボンとオペレーショナルカーボンの両方を評価し、建物のエネルギー分析と組み合わせることで、建築物の環境負荷を具体的に把握できます。
さらに、RevitやAutodesk Insightなどのツールを活用すれば、炭素排出量やエネルギー性能を分析しながら、材料選択や設計条件を検討できます。企業事例からもわかるように、BIMデータを炭素排出量の分析や設計判断に活用することは、建築物の環境負荷を低減する有効なアプローチの一つです。
ただし、BIMモデルだけで炭素排出量を管理できるわけではなく、算定条件の明確化や実際の施工情報との照合など、適切な運用が求められます。まずはプロジェクトの目的と評価範囲を明確にし、必要な情報をBIMに取り入れることから、脱炭素化に向けた取り組みを進めていきましょう。
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<参考文献>
(*1)Embodied Carbon | Embodied Carbon Analysis | Autodesk
https://www.autodesk.com/solutions/aec/embodied-carbon
(*2)Autodesk Insight | 建物性能解析ソフトウェア
https://www.autodesk.com/jp/products/insight/overview
(*3)Perkins&Will | Customer Stories | Autodesk
https://www.autodesk.com/customer-stories/perkins-will
(*4)Feilden Clegg Bradley Studios University Warwick Autodesk Revit RIBA
https://www.autodesk.com/customer-stories/feilden-clegg-bradley-studios-university-of-warwick-story
(*5)Lake|Flato Architects | Autodesk
https://www.autodesk.com/customer-stories/lake-flato
(*6)Autodesk-Customer Story-Bravida
https://www.autodesk.com/jp/customer-stories/bravida
(*7)Found in Translation: Industry Alignment of Practices to Translate BIM to Carbon | Autodesk University
https://www.autodesk.com/autodesk-university/class/Found-in-Translation-Industry-Alignment-of-Practices-to-Translate-BIM-to-Carbon-2025
