現実世界の再現としてのVRの活用
2018年公開予定のスティーブン・スピルバーグの新作映画「レディ・プレイヤー・ワン」が話題になっていますね。仮想ネットワークシステム「オアシス」というVR世界で少年がヒーローとなって活躍する物語のようです。日本アニメのガンダムなどが仮想世界の中で登場するということで、オールドファンにも楽しみな内容ですね。
現実とは違う世界へ入り込むVR
VR(Virtural Reality:仮想現実)とは、CGなどで作られた仮想的な世界をヘッドマウントディスプレイなどのデバイスを通じて体験する技術です。このため、ゲームやアミューズメントの世界で利用が始まっています。1982年に制作された「トロン」(2010年に続編の「トロン・レガシー」も公開)や1999年の「マトリックス」という映画はVR世界を描いています。このように、元来のイメージは”現実とは違う別の世界”へ入り込むものとしてのVRの利用が、こうした分野へが親和性が高かったものと思われます。しかし、VRの活用できる分野はこのような現実離れした世界だけではありません。
現実を忠実に再現した世界をVRで体験
ここでは、幾つかの利用例をあげて主にビジネス分野での活用についてご紹介してみましょう。
1 シミュレーターとしての利用
実は、もともとVR技術は軍事分野で積極的に研究されていました。戦闘機の操縦訓練などを行う際に、操縦技術の不確かな新人パイロットをトレーニングするために毎回高価な戦闘機を飛ばしていたのでは、燃料代や万が一の事故の時の損失がネックとなります。そこで、フライトシュミレーターが開発され、地上にいながら操縦訓練ができるようになりました。現在多く利用されているのはVRではありませんが、これをVRに置き換えることによってより現実に近い視覚体験をしながら様々な飛行訓練ができるようになります。
こうした、航空機や宇宙ロケットの操縦など現実の機器を使うとコストや安全の面から問題になるような場面、火災現場での消火活動や災害時の救出活動のシミュレーションなどのように再現が困難状況の訓練などでVRの活用が期待されています。
2 ビジネスでの利用(1)住宅購入
マイホームの購入は人生でもっとも大きな買い物になります。ところが新築マンションを購入する際に、一般的には実際に建物が建設される前に契約を交わし、建設後に引渡しとなります。つまり、図面だけで何十年ものローンを組む必要がある買い物をしなくてはいけません。入居してから、「ここの間取りが、、」「この柱が、、、」といった後悔はできればしたくないですよね。こうした場面でもVR技術が役に立ちそうです。
CADで作成した図面を元に3DCGで作成した住宅をVR技術を使って疑似体験する。台所での導線や部屋の間取り、季節ごとの日の入り方などもシミュレートすることができます。家具の配置などを仮想空間で確かめて、満足の行く間取りを確認してから契約できる、そんな世界がVRの技術を使えば実現可能です。
3 ビジネスでの利用(2)遠隔地の訪問
ビジットジャパンプログラム(外国人の日本訪問を加速する政策)が始まって数年が経過しますが、外国人の訪日者は昨年2,000万人を突破し2020年の東京オリンピックイヤーには4,000万人を見込んでいます。このように、旅行などを通じて異文化に直接触れるというのは余暇の楽しみの一つではありますが、VRを使えばもっと気軽に観光地を訪問する体験をすることができます。
例えば、美術館巡りなどがその応用例としては面白いでしょう。フランスのルーブル美術館の館内データをVR空間内に展開し、そこに収納されている美術品を高精細の画像で再現できれば日本にいながら世界の美術品を堪能することができるようになります。実際、Googleはストリートビューの技術を使い、世界各地の観光地や美術館内の3Dビューができるサービスを提供しています。また、Google Arts&Cultureプロジェクトでは有名な美術品が高精細画像で閲覧できるようになっています。あとはこれらのデータを組み合わせてVRの世界で体験するだけで完成です。世界遺産や美術館・博物館巡りが自宅にいながらにしてまるでその場にいるような感覚で体験できる、それがVRの世界です。
4 医療への応用
これはシミュレーターと近い利用法ですが、医療分野での応用も有望です。例えば外科手術を行う時に、あらかじめ患者の体内の臓器や病巣などのデータを取得し3D化します。その状態でVR技術を使い、手術のシミュレーションをおこないます。難易度の高い手術など、失敗の許されないケースにおいて、事前に幾つかのオペレーションの予行演習ができればより確実な術法が選択できるようになるでしょうし、医者の方としても訓練として最適です。こうしたデータが蓄積されてくると医療技術者のトレーニングとしても活用が期待されます。
このようにVR技術は「現実世界の再現」手段としても有効です。再現が難しい、失敗が許されないなどの場面でのトレーニングやシミュレーションとして、また、距離や時間の制約を気にせず安いコストで観光地を訪問するなどのホビーユースとしても利用方法が拡大しそうですね。