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錯綜する「AppleがHDR10+に対応」の情報について

動画の高画質化に必要な要素の一つである「HDR10+」について、Appleがこの秋に対応するのでは?という記事が話題となりました。

実際、Appleのサイトでもこの件について一時記載があったのですが、現在は消えています。

果たしてAppleは「HDR10+」に対応するのかどうか?錯綜する情報についてまとめてみましょう。

この記事でわかること

・AppleがHDR10+に対応するという情報について

・HDR10+について

・動画の高画質化に関わる要素

AppleがHDR10+に対応するという情報について

今回、Appleが「HDR10+」に対応したという話題のきっかけは、2022年6月に開催されたAppleの開発者向けイベント「WWDC2022」で発表された複数のOSです。

iPhone用のiOS 16・iPad用のiPadOS 16・Mac用のmacOS Ventureなどが発表され、Appleのサイトにもそれぞれのページがアップされました。

当初そのページには、Apple TVアプリに連携したHDR10+への対応が記載されていましたが、現在はなぜかその部分が削除されています。Appleの情報提供サイトとして有名なMacRumorsでは、デベロッパー向けのtvOS 16 β版でHDR10+がサポートされていることを確認したとレポートしていたこともあり、真実味を増していました。

このような経緯があるため、ネット記事などでは「AppleがHDR10+に対応」という記事「HDR10+への対応は当面見送り」という記事が散見され、やや混乱気味です。

なぜAppleは、一旦サイトに掲載していた情報を削除してしまったのでしょうか?

このことについては内部からのリーク情報などが出ていないため、推測するしかない状態です。間違えて掲載してしまったのか?何か想定していないようなトラブルでも生じて急遽方針を変更したのでしょうか?

現時点でHDR10+をビデオ出力できるApple TVが存在しないことが原因でないか?という見方もあります。

アナウンスを先行させることでも、それなりにメリットがありそうにも思えますが、次世代Apple TVのリリースに合わせて、新たな規格対応を打ち出すことが良いと判断した可能性もあります。

そうなると気になるのは発売時期です。2022年中に発売するのであれば、今のタイミングの発表でもいいと思えることから、新しいApple TVの登場は少し遅れて2023年ぐらいになると見るのが妥当でしょう。*注1

HDR10+とは何か

これまで当たり前のように「HDR10+」と記述してきましたが、用語の意味について一度解説を交えておきましょう。

同じ映像分野で似たような用語が微妙に異なる意味で用いられていますので、慣れないと混乱してしまいます。

◯映像機器の解像度(画素数)を表すのが「HD」

まず、TVなど映像機器の画素数に関連して使われているHDやFHDとの違いについて確認しておきましょう。同じ「HD」が含まれるので、間違えそうですがHDとHDR10+は異なる概念です。

昔懐かしいアナログ放送で一般的だった画面解像度は「720×480px」であり、SD(Standard Definition)と言われています。

SDは当時からそう言われていた訳ではなく、HD(High Definition・ハイビジョン)が登場したことによって、遡ってつけられた経緯があります。

現在主流のHDの画面解像度は「1280×720px」であり、これを基準にして2倍の画素数を持つFHD(フルハイビジョン)を2K、続いて4K・8Kとなっています。

ここで単位となるピクセルは「画素」のことであり、たくさんあるほど大画面でも高精細な画像を表現することができます。

一方、今回話題にしているHDRは「輝度」を表現するものであり、「High Dynamic Range」の略です。そもそも元の英語から違っていますので、全く別の意味を持つ用語であることがわかります。

しかし、素人目には「HD(ハイビジョン)にF(フル)をつけてFHD(フルハイビジョン)だから、HDの後ろにRがついて、、、」という勘違いをしそうです。これは、映像分野に詳しくない一般の方なら無理はない事でしょう。

◯静止画のHDRと動画のHDRとの違い

iPhoneなど、多くのスマホカメラに搭載されている「HDR機能」をご存知の方は多いかと思います。今回の記事で取り扱っているHDRと同じ英語の略ですが、機能は若干異なります。

静止画にしても動画にしても、カメラ性能やデータ保存する際の規格の関係もあり、人間が認識している「明るさと暗さ」よりも狭い範囲しか扱うことができません。

そのことが理由となり、明るい部分に合わせてしまうと暗い部分が「つぶれ」てしまい、逆に暗い部分に合わせると明るい部分が「白飛び」してしまいます。

静止画の場合、1枚の画像の中に明るい部分と暗い部分があるときに、このような問題が生じていました。

これを解決するのがHDRです。1枚の画像に対して複数の露出で撮影したデータをうまく合成することで、明るい部分も暗い部分もきちんと表現できるようになりました。

動画の場合は1枚の画像が対象ではなく、1本の動画の中で明るいシーンや暗いシーンがある時にうまく調整する技術として利用されています。

また動画の場合、静止画のHDRと区別するため「HDR10」という名称が採用されたという経緯があります。

10は10bitを表す数値であり、RGB各色に対して10bitずつのビット深度を記録することができます。計算すると1画素に対して、10億色以上を再現できることになります。

動画の場合のHDRは、1つのコンテンツに対して最大輝度をデータとして記録し、このデータを元にテレビ側でトーンマッピングし、映像を出力する仕組みになっています。

用語がやや難しいので簡単に「翻訳」すると、1本の動画に対してどの明るさ(暗さ)を優先して表示するのか、と言うデータを持たせているのが「HDR」です。

さらに人間の目は、明るいところの階調には鈍感なのに比べ、暗い部分には敏感に差を感じるという特徴があります。この人間の目の特性に合わせたトーンカーブを設定することで、明るいシーンも暗いシーンも「いい具合」に見える仕組みになっています。

ざっくりした言い方ですが、動画のHDRは「白飛びや黒潰れをできるだけ避けるような仕組み」と思って良いでしょう。

◯HDR10の上位規格である「ドルビービジョン」

しかしHDR10では、最大輝度の設定が1通りしかできないという欠点があり、どうしても映像製作者が意図したような微妙な明暗の表現ができません。

高価な機材や照明を使い、細部までこだわった映像制作をしている映画関係者は、この仕様では納得がいきません。

そこで考え出されたのがドルビービジョンという規格です。

ドルビービジョンは、シーンごとに最大輝度のデータを持たせることが可能です。シーンの明るさに合わせた最大輝度を設定できるため、どんなシーンでも精細な映像を再現可能となります。

さらにRGB各色には最大12bitのビット深度を持たせることができるため、カラーの表現も最高レベルと言えます。

◯HDR10対応機器と互換性を持った「HDR10+」

しかし、ドルビービジョンを採用した「Ultra HD規格」があまりにハイエンドすぎるため、対応する機器が普及しないという欠点が出てきました。

Ultra HD規格の認証を受けるには「1000nit」以上の輝度が必要となりますが、これを実現するにはコストがかかることもあり、4K TVでこの基準をクリアしている機器はそれほど多くありません。

せっかく優れた規格であっても、再生環境が普及しないのであれば意味がありません。TVメーカーにとっても、映像コンテンツ製作者にとってもメリットがない規格になってしまいます。

そこで考え出されたのが、HDR10用の再生機器とも互換性を持たせた規格である「HDR10+」です。

HDR10+はドルビービジョンのように、シーンごとの輝度をデータとして持つことができます。

HDR10+対応機器で再生すれば、どんなシーンでも映像製作者が意図したような精細な映像を再生することが可能です。もしHDR10にしか対応してない機器であっても、余分な最大輝度データを無視して、一般的なHDR10の映像として再生することができます。

HDR10+は2017年にサムスンとAmazon Videoが主導して策定し、それにパナソニックや20世紀FOXが参加して2018年に技術ライセンス・認証プログラムが開始されました。

その後、対応するUHD-BDプレイヤーやテレビが発売され、普及が進んできました。

さらに2021年には、視聴する場所の明るさに合わせて輝度レベルを自動調整する「HDR10+ ADAPTIVE」規格も発表されるなど、独自に進化を続けています。

策定の経緯から、HDR10+はまるでドルビービジョンが本格普及するまでの過渡的な規格のように感じられるかもしれません。

しかし、動画配信サービスなどはHDR10+でも十分高精細な映像を表現できることから、わざわざドルビービジョンへの対応を進めなくとも良い現状となっています。

ひょっとしたら今後は映画館などではドルビービジョン。動画配信サービスではHDR10+という棲み分けが進むかもしれません。*注2

動画の高画質化に関わる要素のまとめ

最後に動画の高画質化に影響がある要素について、簡単にまとめておきましょう。

そうすることでHDR10+がどのような位置付けになっているかが、より明確に理解できるでしょう。

◯解像度

一番よく見かける要素です。映像を表示する画面の画素数を表します。

HD(ハイビジョン)を基準として、2K、4K、8Kへと進化を続けてきました。画素数が多いほど大画面TVでも精細な映像を表示することができるようになります。

◯ビット深度

HDR10の説明でも登場しましたが、1ピクセル(1画素)が表示できる色の数です。

例えば8bitのビット深度はRGBそれぞれの色が8bit(2の8乗=256色)を表示できます。RGBの組み合わせはそのさらに3乗のため、1677万色を表現できます。

一昔前のTVはこれが基準でしたが、最新の映像機器では12bitのビット深度を表現することが可能です。

◯フレームレート

動画の場合、1秒間に何コマの画像を表示できるかが重要な要素になります。

アナログ放送当時のブラウン管TVでは、インターレース方式を採用していました。走査線を画面で順番に発光させる仕組みを使っていたブラウン管TVでは、1つの画面を2回の走査で表示していました。

液晶に変わってからはプログレッシブ方式を採用し、1秒間に60コマの画像を表示することができるようになりました。

最新機器では120コマで再生することもでき、より滑らかな動画の表現が実現しています。

◯色域

色域は「色彩の鮮やかさ」に関係する要素です。

人間が視認することができる色の範囲(=色域)は、現在の映像機器で表示可能な範囲よりも広くなっています。従来のフルハイビジョンTVではBT.709という規格に準拠した色域の表示が可能でしたが、最新のBT.2020規格ではさらに広い色域をカバーし、人間が認識できる色の鮮やかさに近づいてきています。

◯輝度

最後が本項で話題にしている輝度です。

明るい部分から暗い部分までの階調を、どのようにうまく表現することができるかという部分に関わる指標です。

実はフルハイビジョン規格では、輝度以外の4要素についてすでに最新のスペックがカバーされていました。

しかし輝度だけが過去の水準に止まっており、HDR規格は映像の高画質化に必要な要素の中で一番遅れていた分野です。

それがウルトラハイビジョン(4K/8K)規格でHDRが規定されることによって、5つの要素全てについて、最高水準を実現することができました。

こうしたこともあり、HDR10+という新しい規格にAppleがいつ対応するのかについても関心が高まっているところです。(※AppleはすでにHDR10に対応しています。)*注3

まとめ

今回、Appleのサイトに情報が掲載されたかと思えば削除されるなど、やや混乱しているHDR10+への対応状況について記事をまとめてみました。

どちらにしても環境が整い次第、間違いなくHDR10+への対応は実現するはずです。

気になるのはその時期でしょうか。今年秋の新製品発表時点なのか、それとも2023年にずれ込むのか?どちらにしてもそんなに待つことはないと思われますので、発表が楽しみです。

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■参考文献
注1
MacRumors ”HDR10+ Support Not Coming to Apple TV App in iOS 16 and macOS Ventura After All?”
https://www.macrumors.com/2022/06/09/ios-16-tv-app-hdr10-plus-support/
iDB ”Why HDR10+ support isn’t coming to Apple’s TV app for the time being”
https://www.idownloadblog.com/2022/06/10/apple-tv-hdr10-plus-support-mentions-removed/
Phile Web 「アップルがHDR10+をサポートへ。Apple TVやiOS 16など新OSで【Gadget Gate】」
https://www.phileweb.com/news/d-av/202206/08/55623.html
注2
Phile Web 「アップルがHDR10+をサポートへ。Apple TVやiOS 16など新OSで【Gadget Gate】」
https://www.phileweb.com/news/d-av/202206/08/55623.html
EIZO 「よくわかる、HDR徹底解説! HDRとは』
https://www.eizo.co.jp/eizolibrary/color_management/hdr/
価格.com マガジン 「4Kテレビ選びの重要ワードHDR=「HDR10」「Dolby Vision」「HLG」って何?」
https://kakakumag.com/av-kaden/?id=10519
Phile Web 「<IFA>「HDR10+」とは何か、パナソニックがなぜ推進するのか。サムスンと手を組んだねらい」
https://www.phileweb.com/news/d-av/201709/03/42027.html
注3
EIZO 「よくわかる、HDR徹底解説! HDRとは」
https://www.eizo.co.jp/eizolibrary/color_management/hdr/

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