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遠隔医療のプラットフォーム「Amazon Clinic」が全米展開へ

あらゆる産業がITによって急速に進化を続けている中、ついに医療分野にも私たちの生活に直結するサービスが本格的にスタートしました。
ネット経由の遠隔医療プラットフォームである「Amazon Clinic」が、全米へと展開されることになり、今後、遠隔医療の分野を牽引してくことになりそうです。
今回の記事ではこの話題を中心にご紹介していきましょう。

この記事でわかること
 ・「Amazon Clinic」の概要について
 ・Amazonの医療分野への取り組みの変遷
 ・日本での遠隔診療の現状について

「Amazon Clinic」の概要

新型コロナの最も深刻な影響は、人と人との接触を避けるようになったことではないでしょうか。しかし医療の現場では、患者を直接医者が診察することが必須とされてきました。
新型コロナの世界的な影響は、このような医療現場の常識にも変革を与え、ネット経由での遠隔診療が世界的に増加しています。

2020年に米国国内で遠隔診療を利用した回数は、コロナ前に比べて30倍の約10億回になりました。2020年3月期では、初診における遠隔診療のシェアが約13%にも達しており、遠隔医療が米国で急速に普及していることが窺えます。

このような状況に合わせ、AIを利用したネット診療サービスや遺伝子検査など、直接的な接触なしで診察や診療サービスを展開する企業が登場し、順調に業績を拡大しています。
例えばテラドック・ヘルスは会員7000万人を確保しており、他にもニュアンス・コミュニケーションズ、アイリズム・テクノロジーズ、インビテコーポレーションなどの企業が挙げられます。

中国では、従来の医療サービスの欠陥を補う形で、遠隔医療のサービスが急成長しています。平安グッドドクターでは、ユーザー数2億人、提携する医療機関が5,000件以上、薬局が1万件以上となっています。
Tencentが買収したWeDoctorも同様のサービスを展開しており、まだまだ大きく成長する余地を残している状況です。

フランスやイギリスなどヨーロッパ各国でも、このような遠隔診療が普及してきており、全世界的なムーブメントとなっています。新型コロナがきっかけとなったとはいえ、患者側にとっても医療サービス提供側にとっても、潜在的なニーズがあったと見るのが正しい見方でしょう。

Amazonが提供する遠隔診療サービスである「Amazon Clinic」は、2022年11月にアメリカ国内の一部の州で導入されました。今回2023年8月に、全米50州+ワシントンD.Cへサービス提供エリアを拡大すると発表されました。

「Amazon Clinic」では、米国在住の18歳から64歳の人が利用可能です。ポータルサイトにアクセスし、診察を受ける医師を選択してから、オンラインで申し込みます。
24時間365日対応で、予約不要・自宅から利用できるという利便性に加え、価格もリーズナブルに抑えられています。

初診料は、メッセージベースで30ドルから40ドル、動画チャットの場合は70ドルから100ドルです。初診料には、診察を受けてから2週間までのフォローアップも含んでおり、保険適用外であることを考慮すると、かなりリーズナブルな設定と言えるでしょう。

診察できる症例は「ニキビ・吹き出物、結膜炎、乗り物酔い、アレルギー、尿路感染症」などがあり、他にも禁煙サポートなど30以上に対応しています。
おそらく「直接患者を見なくても、誤診などの危険性が少ない一般的な症例」に限定されているのだろうと考えられます。

今までの診療の場合、「ただの風邪なのに薬をもらいたいがために近くの病院に行って、何時間も待たされた挙句、わずか数分の診察を受ける」というのが当たり前のようになっていました。そろそろこのような形式的な手続きを、ITの力を借りてシンプルにしてもいい頃ではないでしょうか。

もちろん数万件に1件ぐらいの割合で、直接の診察によって意外な病気が見つかることもあるでしょう。とは言え、「意外な病気を見逃すリスク」と「日々繰り返されている無駄な時間とコストをかけた何百万件もの診察手続きによる時間のロス」を、天秤にかけても良い時期が来ているのではないでしょうか。

風邪で体調が悪くフラフラしてるのに、ほとんど形式的な診察を受けるために車に乗り、何時間も待たされるのは、非効率以前に危険ですらあります。
寒い冬に外に出て、さらに病院で待たされた事によって具合が悪くなっているのに、「暖かくして自宅で安静に」なんて医師から言われるのは何かのブラックジョークでしょうか?

「Amazon Clinic」はまさにこの点に踏み込み、「医療をシンプルにする」をテーマに掲げたオンラインサービスです。また診察だけでなく、処方箋を出すこともできるため、利用者は近くの薬局や、Amazonが運営する「Amazon Pharmacy」などで薬を手にすることが可能となります。

特に米国では、日本と異なり皆保険制度ではありません。そのため保険に加入してない人も相当数存在しており、深刻な病気になっても気軽に医者にかかることができないという問題があります。
このような場合であっても、オンラインを利用し比較的安価で診療と処方箋が得られるのであれば、かなり助かる人がいるのではないでしょうか。*注1

Amazonの医療分野への取り組みの変遷

Amazonはこれまでにも、医療分野に対して積極的に参入を試みてきました。以下にその流れを列記してみましょう。

 2017年   薬局事業への参入を検討
 2018年   オンライン薬局PillPackを買収
 2019年   Amazon Care立ち上げ
 2020年3月  Amazon Careを全米に展開
 2020年7月  One Medical(1Life Healthcare社)を39億ドルで買収
 2020年11月 PillPackをベースにしたオンライン薬局Amazon Pharmacyをスタート
 2022年11月 Amazon Clinicを一部の州で開始
 2023年8月  Amazon Clinicを全米に展開

「Amazon Care」は、遠隔での緊急ケアや診療、検査訪問などを提供するサービスで、当初はAmazon社員への福利厚生としてスタートしました。このサービスを外部にも提供し、全米展開していましたが、「Amazon Clinic」の開始とともに停止となっています。

「Amazon Care」は月額料金が必要であり、診療などの医療サービスを受けない月でも一定の出費があります。そのため広く一般に普及するにはハードルが高いと判断したのでしょう。

「Amazon Clinic」であれば、必要な時だけ料金を支払えばいいため利用もしやすく、「Amazon Pharmacy」や「One Medical」など他のサービスと連携することで、より患者に訴求できる仕組みとなっています。

Amazonが買収した「One Medical」は、サブスクリプション形式でプライマリーケアを提供するオンラインサービスであり、全米に180ヶ所以上の診療所と契約しています。Amazonは買収によってこれらのリソースも入手できたこととなります。

このようなAmazonの取り組みを眺めてみると、医療分野に本格的に参入し、市場を開拓していく方向で戦略的に動いてきたことがよくわかります。
オンライン本屋からスタートしたかつてのベンチャー企業は、今や世界最大のオンラインショップだけでなく、娯楽分野・医療分野・サーバーなどのネットサービス分野をリードする存在になっています。*注2

日本での遠隔診療の現状

海外では新型コロナの流行を契機として、遠隔診療などIT技術を活用した医療サービス分野が活発化しています。新たなサービスが次々に誕生し、いくつものベンチャー企業が明日の覇権を競って活動しています。

ところが日本で生活する私たちにとって、遠隔診療はまだそれほど身近な存在となっていません。IT技術や関連インフラでは、世界各国と比較しても決して劣ってはいないはずの日本で、なぜこのような新たなサービスが普及していないのでしょうか。

実は日本でも新型コロナをきっかけとして、2020年に初診からオンライン診療が受けられる措置が「時限的・特例的」に認められています。さらに2022年には、時限的な措置を恒久的に認めるよう指針が示されました。

しかし、その内容をよく見てみると「かかりつけ医」に限って、オンラインでの『初診』を認めるという、非常に限定的なものとなっています。
「かかりつけ医」=「いつも診てもらっている医者」ですよね?それなのに『初診』とはどういう意味でしょう??

アメリカのように、広く全米から自分にとってふさわしいと思える医者や診療所を選択することができません。日本の場合、医者が抱えている患者を、他の地域のもっとサービスの良いところに取られないよう保護しようとしている。そんな風に思われても仕方ないでしょう。

実際、日本で遠隔診療が普及しない最も大きな要因は、医師会の反対と法整備の遅れと言われています。医療業界と政治家が協力して、遠隔診療の普及にブレーキをかけている状況です。
IT技術は世界でも優れた水準にあるはずの日本ですが、残念ながら「既得権益を守る」勢力がその活用を制限しています。

今後の日本は少子化の影響もあり、地方在住者に対する良質な医療サービスの提供が困難になるなどの問題が発生する可能性が高いと思われます。医療だけでなく、教育やビジネスなど多くの分野でオンラインの活用がもっと進められれば、さまざまな課題を解決することができるはずです。

もちろん、オンライン診療による誤診の発生やプライバシー保護など、解決すべき課題が多いのは事実です。しかし、海外ではこのような課題にきちんと対応し、少しずつ問題を解消しながら新たなサービスを生み出しています。
日本でもあまり保守的になりすぎず、「一般の多くの人」のためになる世界をめざして欲しいものです。*注3

【まとめ】
日本経済新聞の調査によると、2021年1月から3月にオンライン診療を利用した人の数は、人口10万人あたり月1回未満だそうです。ほぼゼロと言って良い水準にとどまっています。
オンライン診療に対応している医療機関も全体の6.5%ほどしかなく、明らかに諸外国に比べて大きく出遅れています。
今後、速やかに遠隔医療の分野を世界水準に近づけていかないと、将来日本の医療は世界で最も遅れていると言われかねません。未来のため、是非とも関係各位には改革の意思を持って取り組んでいただきたいものです。

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■参考文献

注1
CNET Japan 「アマゾン、オンライン診療サービス「Amazon Clinic」を全米に拡大」
https://japan.cnet.com/article/35207302/

知財図鑑 「アマゾン、オンライン診療サービス「Amazon Clinic」を全米50州に展開─24時間365日、医師にアクセス可能」
https://chizaizukan.com/news/5UCb15VTIKCTyWYrnk9Ew1/

注2
クラウドWatch 「「Amazon Clinic」発表 Amazonのヘルスケア戦略」
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/column/infostand/1457356.html

注3
東洋経済ONLINE 「日本人は遠隔医療が進まない事の損失を知らない」
https://toyokeizai.net/articles/-/455715

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