Revitで既存建築の維持管理は可能?導入事例も紹介
Revitでは新築建築だけでなく既存建築のBIMモデル化が可能です。既存建築のBIMモデル化により、維持管理の業務効率化を目指せます。しかし、Revitで既存建築の設計図書を読み取りBIMモデル化したいものの、どの程度の情報を読み取れるのかと疑問を抱えている方もいるのではないでしょうか。
本記事ではRevitで既存建築の維持管理を行うべき理由にふれつつ、紙媒体の設計図書から読み取れる情報の範囲を解説します。また、Revitを活用し、既存建築の維持管理を行っている事例も紹介するため、ぜひ参考にしてみてください。
この記事を読むと、以下のことが分かります。
1.Revitで既存建築の維持管理を行うべき理由
2.Revitで既存建築の設計図書を読み取れる範囲
3.Revitを活用し既存建築の維持管理を行っている事例
Revitで既存建築の維持管理を行う理由と読み取れる範囲
RevitとはAutodesk社が提供しているBIM対応のソフトです。建築物のモデルを作成し、モデルから様々な図面を生成できます。3Dモデルにあらゆる属性情報を与え、BIMモデルの作成が可能です。Revitは建築プロジェクトへの活用に特化しており、プロジェクトにおける設計から構造エンジニアリング、配管、電気、建設施工など幅広く対応しています。
Revitでは新しい建築物に関するモデル作成だけでなく、既存建築の維持管理にも対応しています。では、紙媒体の設計図書を基に既に維持管理が施されている建築物のデータを、Revitに移行する理由やメリットはあるのでしょうか。ここでは、Revitで既存建築の維持管理を行う理由と読み取れる図面の範囲を解説します。
理由
Revitで既存建築の維持管理を行うべき理由は、高度経済成長期に大量に建設されたストックの維持更新が求められているためです。高度経済成長期に建設された建築物の設計図書は紙媒体がほとんどであり、建築物に対する設計図書の把握が困難な状態です。設計図書を探すためには時間や手間を費やさなければならない可能性が高く、大きな負担になりかねません。
高度経済成長期に建設された建築物は老朽化が進んでおり、維持管理や改修工事が必要なケースも少なくありません。Revitにより、建築物の設計図書のデータ化を行い、既存建築の維持管理の手間を少しでも削減できる可能性があります。
既存建築の図面を読み取れる範囲
では、Revitでは既存建築の紙媒体の図面から具体的にどのような範囲を読み取れるのでしょうか。2014年に発表された日本建築学会技術報告集の「既存建築ストックの維持更新に向けたBIMによる設計図書電子化の検討-筑波大学の施設を題材として-(*1)」より、設計図書の意匠図や構造図、機械設備図からRevitで読み取れる範囲もしくは読み取った結果をみていきましょう。
図面 | 読み取れる範囲もしくは読み取った結果 |
意匠図 | ・オリジナルの部材をクラスとして準備しなければ厳密なモデルとして表現できない・設計図書からオリジナルのクラスを準備し、配置されたオブジェクトを都度交換しなければならない可能性がある |
構造図 | ・意匠図と同様にオリジナルの部材をクラスとして準備する必要がある・読み取った図面とBIMモデルとの差異の記述が想定される |
機械設備図 | ・機械設備の具体的なサイズと位置の読み取りが可能・1/1スケールでの記述が可能 |
既存建築の図面を読み取った結果、Revitで既存建築の維持管理を全て行えるわけではない可能性が想定されます。そのため、現状、Revitで読み取ったデータと紙媒体の設計図書に差異がないかを確認しつつ、改修工事の検討などを進める必要があるでしょう。
Revitで既存建築の維持管理を行っている事例
ここでは、Revitで既存建築の維持管理を行っている事例をみていきます。次の2社の取り扱い事例をみていきましょう。
・株式会社長谷川建築企画
・野原グループ株式会社
株式会社長谷川建築企画(*2)
株式会社長谷川建築企画は共同住宅の意匠設計を主な業務として取り扱っている設計事務所です。同社はRevitの導入により、グループ企業とともに建築設計のプロセスから施行、メンテナンスまでワンストップで対応しています。加えて、既存建築のBIMデータ化を取り扱う新事業を発足しました。
同社はBIM導入において、設計業務に関わりのある全ての従業員に対しRevitのライセンスを提供し、BIM導入を推進する専門部署を立ち上げました。BIM推進の経験がある人材を採用し、設計部門者を対象としたマンツーマンの研修を行っています。
現在、新築物件の件数は減少している傾向にあります。そのため、新築物件の事業への活用にBIM導入を限定してしまうと、業績が低迷する可能性も否定できません。同社は設計図書がない古い物件の維持管理に着目し、BIMの活用に取り組みました。Revitにより既存建築物をモデリングし、BIMモデルを作成しました。
今後はBIMを活用し、既存建築の改修やプロジェクトマネジメント、ファシリティマネジメントなどの収益を上げる仕組みの構築を計画しています。
野原グループ株式会社(*3)
野原グループは建設業界のデジタル化に向けたビジネスを展開している建設関連企業です。2023年9月、同社は販売代理を行っているアメリカ・Matterportの360度カメラで取得した点群データを活用し、BIMモデルを作成するサービス「Scan to BIM」を発表しました。Matterportが提供しているシステムのVR撮影や3D測量で取得できる点群データを活用し、BIMモデル化を行います。
現状、BIMは新築物件の設計プロセスで活用される傾向にあり、既存建築の維持管理のプロセスでの活用は浸透していません。同社は既存建築のデジタルデータ化、維持管理および防災計画などの業務効率化を目的とし、Scan to BIMの始動に至りました。Scan to BIMはBIMモデルの作成から改修工事の現場調査、2D図面の生成なども可能です。
Scan to BIMの始動により、不動産管理の顧客とともに既存建築のライフサイクルにおける3DおよびVR空間モデルの活用とBIM普及による業務効率化を目指しています。また、既存建築のデジタルデータ化の支援により、社会インフラ全体のデジタル化とデータ連携を構築し、政府が推進する「Society 5.0」構想の実現にもつなげる意向です。なお、Scan to BIMの最低価格は33~55万円程度です。(*4)
まとめ
RevitのBIMモデルを活用し、既存建築の維持管理を行う理由や具体的な活用事例を解説しました。高度経済成長期に建設された既存建築物の維持管理や改修工事が求められているものの、紙媒体の設計図書がほとんどであり、情報の把握に時間と手間を費やしてしまう可能性も否定できません。
紙媒体の設計図書をBIMモデル化し、付与された属性情報を取得できれば業務効率化につながります。加えて、建設業界では新築物件の減少に伴い、既存建築の維持管理に着目し事業を展開する必要性も高まるでしょう。
しかし、紙媒体の設計図書からRevitにデータの読み取りを行った場合、全ての属性情報を補完できるわけではありません。元の設計図書と読み取ったBIMモデルの差異を確認し、より正確な図面を作成する必要がある点を知っておきましょう。
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❶大手ゼネコンのBIM活用事例
❷BIMを活かすためのツール紹介
❸DXレポートについて
❹建設業界におけるDX
*1
「既存建築ストックの維持更新に向けたBIMによる設計図書電子化の検討」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijt/20/45/20_795/_pdf
*2
「大塚商会|Case Study|M&Aを通じて縦割りの建設業界をBIMでつなぐ 株式会社長谷川建築企画」
https://www.cadjapan.com/special/bim-navi/case/pdf/hasegawa-architect-planners-01.pdf
*3
「ITmedia|点群データを詳細度別にRevitモデルを作成、野原グループが既存建物をBIM化する『Scan to BIM』開始」
https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/2310/20/news125.html
*4
「【別紙】野原グループ『Scan to BIM』の料金表」
https://nohara-inc.co.jp/wp/wp-content/uploads/2023/09/attached_nohara_scantobim_launch_20230927.pdf