スーパーゼネコンの戦略を総括!各社が建設DXに見出す活路とは
官民一体で進められている建設DXですが、その方針は企業によってさまざまです。これから建設DXに取り組もうとしている方は、どの企業を参考にすべきか分からないかもしれません。
そこで本記事では、建設DXを牽引しているスーパーゼネコン5社のDX戦略を紹介します。
それぞれの企業が強みを活かすDX戦略を掲げているので、今後の建設業界の動きが楽しみになるでしょう。
なかには自社の建設DXに取り入れられるエッセンスがあると思うので、参考になさってください。
竹中工務店「竹中新生産システム」
竹中工務店のDX戦略は、「デジタルを活用した施工段階の生産性向上の追求」です。竹中工務店のDX戦略の中枢を担っている「竹中新生産システム」は、BIMを取り入れた新たな建設プロセスとして注目を集めています*1。
竹中新生産システムとは
「竹中新生産システム」とは、プロジェクト特性に応じた施工プロセスの生産性向上に向けた着工までのつくり込みを軸としたシステムです(図1)*1。
図1 竹中新生産システムの基本業務プロセス
引用)株式会社竹中工務店「竹中新生産システムのコンセプト」
https://www.takenaka.co.jp/solution/shinseisan/concept.html
竹中工務店が挙げている竹中新生産システムのポイントは、以下のとおりです*1。
・生産性向上効果の高い施工計画(最適構工法、工程計画など)の早期検討(設計段階~着工前)
・特定のBIMソフトに依存しないオープンBIM方式での関係者との効果的な連携
- 着工までの主要な施工BIMモデルの作成による生産準備
- BIMモデルを活用した施工計画・施工図の作成ならびに協力会社の製作図および製作へのデータ展開
・現地工数の削減を目指したオフサイト化推進(施工のフロントローディング)
・最先端のデジタル技術、建設機械、ロボット等の効果的な生産性向上技術の運用
これらのポイントから読み取れるのは、竹中工務店が「施工プロセスのフロントローディング(前倒し)」を図っているということです。
設計段階から始まる施工計画のつくり込み、BIMを活用した早期の生産準備、工場での部材製作による実質的な製作の前倒しなどは、すべて施工の効率化に向けた取り組みです。
オープンBIM方式で効果的な生産準備を目指す
竹中新生産システムの大きな特徴のひとつは、「オープンBIM方式」を取り入れていることです。つまり、竹中工務店は、BIMソフトウェアを限定せず、プロジェクト特性に合わせて選択していくということを意味しています。
現在のBIMはまだ過渡期であり、CDEも含めてさまざまなサービスが発展途上であるというのが実情です。そのため、プロジェクトに合わせてメリットを最大限に生かせるソフトウェアを使うということでしょう。
ソフトウェアのノウハウを蓄積しづらいというデメリットはありますが、建物の在り方が多様化している現代においては、柔軟性の高さが大きな付加価値に繋がるかもしれません。
大林組「建設PLMシステム」
大林組のDX戦略は、「デジタル情報の一元管理による建設プロセスの合理化」です*2。大林組が取り入れたPLMは、主に製造業で導入されている手法です。ここで紹介する大林組の取り組みは、「建設業にPLMを取り入れられるのか」という問いに対するひとつの回答といえるでしょう。
建設PLMシステムとは
大林組の「建設PLMシステム」とは、BIMから抽出した部材情報をPLMソフトウェア「Obbligate」(NECのPLMサービス)に格納し、建物の構成情報を一元管理することで幅広い業務で利活用する基盤です(図2)*2。
図2 大林組の「建設PLMシステム」
引用)株式会社大林組「大林組、NECと連携し、DX戦略の中核として設計から施工、アフターサービスまでの情報を一元管理する「建設PLMシステム」を構築」
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20240228_1.html
従来の建設プロセスでは、それぞれの部署が情報を管理していたので、情報の受け渡しに手間と時間がかかっていただけでなく、情報伝達にミスが生じることもありました。大林組は、PLMにより情報をプラットフォームに集約することで、情報処理の高速化と整合性確保の両立を図っています。
PLMによる情報の一元管理で建物のライフサイクルを効率的にサポート
建設DXの目的のひとつは、デジタル技術を活用した効率的な情報管理です。大切なのは、設計や施工といったプロセスの垣根を越えて、ライフサイクルにわたって情報を一元管理することです。これにより、情報伝達の高速化、早期の合意形成、図面間の不整合によるやり直し工事の防止といった効果を期待できます。
筆者としては、製造業でも採用されているシステムを導入したこと自体が、大きな一歩であると考えます。建物の情報を一元管理する基盤として注目されているCDEは、システムのサービスの選択肢が少ないのが実情です。そのため、一部の企業は、独自システムの開発に取り組んでいます。
独自システムはカスタマイズ性が高いというメリットがある一方で、開発・管理にコストがかかるというデメリットがあります。PLMという新たな選択肢により、システム開発の内製化を避けることができることは、大きな意味を持つのではないでしょうか。
鹿島建設「A4CSEL」
鹿島建設のDX戦略は、「自動施工による現場の工場化」です*3。2021年には、全国3ヶ所の現場で稼働する自動化建設機械を東京の本社から一括管制することに成功しています。
A4CSELとは
「A4CSEL」は、鹿島建設が保有する建設機械の自動運転を核とした次世代建設生産システムです(図3)*3。
図3 A4CSELを構成する3つの技術
出所)鹿島建設株式会社「A4CSEL®とは」
https://www.kajima.co.jp/tech/c_a4csel/engineering/index.html
鹿島建設が紹介しているA4CSELのポイントは、以下の3点です*3。
・汎用の建設機械を自動化改造する技術
・熟練技能者の操作データを基にAI手法をとり入れ、作業条件、状況に応じた自動運転技術
・多数の機械を連携させ最も生産性の高い施工計画で稼働させる施工マネジメント技術
汎用の建設機械を自動化改造しており、製作の手間が少ない点が魅力です。また、熟練技能者の技能承継が課題として挙げられているなか、AIに技能を承継するということは、まさにデジタルによる変革であるといえるでしょう。
自動施工で現場を工場化
鹿島建設が謳っているのは、「現場の工場化」です*3。ICT建機による自動運転が幅広い現場で運用できるようになれば、生産性向上を実現できるだけでなく、人が危険な作業を行うケースが少なくなります。生産性と安全性の両立は建設業界にとって難しい課題ですが、自動施工による「現場の工場化」で解決できるかもしれません。
大成建設「Taisei-DaaS」
大成建設のDX戦略は、「統合プラットフォームの構築によるデータ連携」です*4。2024年に統合プラットフォーム「Taisei-DaaS」を構築し、全社でのデータの利活用の基盤とすることを発表しています。
Taisei-DaaSとは
大成建設が構築した統合プラットフォーム「Taisei-DaaS(Taisei-Data as a Service)」は、企画・設計・施工・リニューアルに至る建設ライフサイクルの各工程のデータをシームレスに連携するための基盤です(図4)*4。
図4 統合プラットフォーム「Taisei-DaaS」によるデータ連携・活用イメージ
引用)大成建設株式会社「DX活動における全社でのデータ利活用を実現する統合プラットフォームを構築」
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2024/240221_9915.html
大成建設は、「情報(デジタル技術とデータ活用)を新たな経営資源として活用する」ことを重要視しており、情報の蓄積と利活用を促進するプラットフォームの構築に取り組んだとのことです*4。
独自のプラットフォームで効率的なデータの利活用を図る
外部のPLMサービスを利用する大林組とは異なり、大成建設は独自の統合プラットフォームの構築に踏み込みました。開発・管理コストを払ってでも、情報を経営資源として最大限活用することで、それ以上の付加価値を生み出せるということなのでしょう。清水建設も同じく、独自の統合プラットフォームを開発しています*5。建設DXが「内製化」と「外製化」のどちらに進んでいくのか、注目したいところです。
清水建設「SHIMZデジタルゼネコン 2.0」
清水建設の中期DX戦略を「SHIMZデジタルゼネコン2.0」と名付けています。そのなかで謳われているのが、「デジタルゼネコンの進化」および「データドリブン・DXによる経営・事業推進体制の強化」です*5。そのほかには、デジタル教育が掲げられており、デジタルの力を最大限に発揮できる企業風土・文化への変革が目指されています。
SHIMZデジタルゼネコン 2.0とは
清水建設の中期DX戦略「SHIMZデジタルゼネコン2.0」の核は、以下の3つです*6。
・ものづくりをデジタルで
・デジタルな空間・サービスを提供
・事業の深化と創出を支えるデジタル
図5 清水建設のデジタル戦略
引用)清水建設株式会社「中期DX戦略」pp.6
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2024/pdf/2024026.pdf
これらの核のなかで注目したいのが、「デジタルな空間・サービスを提供」です。清水建設は、統合プラットフォーム「Shimz One BIM」により、設計BIMを施工BIMおよび竣工BIMに展開しています*5。竣工BIMはクラウドに保存され、発注者もアクセスできるため、書類ベースの竣工図書が不要になるとのことです。竣工BIMのカスタマイズは新たなビジネスとして提供するとしており、「デジタルなサービス」の展開に力を入れていることがわかります。
全体的なデジタル力の底上げによる組織の強化
清水建設は、特定のプロセスに特化してDXに取り組むというよりは、それぞれのプロセスのデジタル化を進め、機能連携を強化することで総合力の底上げを図っているようです。デジタル教育「シミズ・デジタル・アカデミー」では、「役員・従業員のデジタルリテラシーの底上げ」が狙いとされており、DX人材の育成にも注力しています*6。
おわりに
スーパーゼネコン5社を見ると、各社でDX戦略が大きく異なることがわかりました。提供されるサービスにも差が出てくるはずなので、これからはさらに多種多様な建物が生み出されることでしょう。労働力不足や過度な時間外労働などを背景に進められている建設DXですが、これらの課題が解決されるだけでなく、魅力的な建物やサービスの創出に繋がるとよいですね。
(5469字)
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❷BIMを活かすためのツール紹介
❸DXレポートについて
❹建設業界におけるDX
注釈
*1
出所)株式会社竹中工務店「竹中新生産システムのコンセプト」
https://www.takenaka.co.jp/solution/shinseisan/concept.html
*2
出所)株式会社大林組「大林組、NECと連携し、DX戦略の中核として設計から施工、アフターサービスまでの情報を一元管理する「建設PLMシステム」を構築」
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20240228_1.html
*3
出所)鹿島建設株式会社「A4CSEL®とは」
https://www.kajima.co.jp/tech/c_a4csel/engineering/index.html
*4
出所)大成建設株式会社「DX活動における全社でのデータ利活用を実現する統合プラットフォームを構築」
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2024/240221_9915.html
*5
出所)清水建設株式会社「竣工BIMで新たなサービスを提供」
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2023/2022075.html
*6
出所)清水建設株式会社「中期DX戦略」pp.6-10
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2024/pdf/2024026.pdf