建設業でLLMはどう活用されている?社内活用事例と導入ポイントを解説

1. はじめに

建設業では、国土交通省が推進するi-Constructionなどを背景に、業務効率化や技術継承のあり方が大きく変化しています(参照*6)。特に、ベテラン社員の経験やノウハウを社内全体で共有する重要性が高まり、ナレッジ共有の仕組みづくりが求められています。

一方で、建設業では書類や資料が膨大で、必要な技術文書を探すだけでも時間がかかります。若手社員にとっては知識を習得しにくく、報告書作成や設計基準の確認にも手間がかかるため、円滑な情報共有を妨げる要因になっています。

こうした中、近年注目されているのが、LLM(大規模言語モデル)を活用した社内システムです。ChatGPTやMicrosoft Copilotなどのツールを活用することで、建設業に特化したナレッジ共有を実現できると期待されています。

本記事では、建設業界でLLMがなぜ有用なのかをわかりやすく解説し、実践例や導入時の注意点を紹介します。プロジェクトマネージャーの視点から、業務効率化や技術継承、競争力向上に役立つヒントを見ていきましょう。

2. LLMとは何か?建設業での重要性

LLM(大規模言語モデル)は、人が普段使う言葉で質問や指示をすると、文章の生成や要約、情報整理などを行えるAI技術です。ChatGPT EnterpriseやMicrosoft 365 Copilotなど企業向けサービスにも採用されており、業務活用が進んでいます(参照*3参照*4)。 

建設業では、設計基準や施工要領書、BIM・CAD関連資料など、多くの技術文書を扱います。LLMを社内文書検索やRAGと組み合わせることで、必要な情報を探しやすくし、業務効率化や技術継承を支援する取り組みが進んでいます。

以下では、建設業でLLMがどのような役割を担うのかを解説します。

2.1. LLMの基本的な概念とは

LLMは、大量の文章データをもとに学習し、文脈を踏まえた回答を生成できるAIです。MicrosoftもAzure AI Foundryを通じて企業向け生成AI基盤を提供しています(参照*2)。 建設業では、社内文書検索やRAGと組み合わせることで、技術文書の検索や要点整理、関連資料の参照支援に活用できます。

また、自然な文章で質問できるため、専門的な検索方法を知らなくても利用しやすい点も特徴です。

2.2. ChatGPTとMicrosoft Copilotの違い

ChatGPTは、文章作成や情報整理など幅広い用途に利用される生成AIサービスです。

一方、Microsoft 365 Copilotは、Microsoft 365の各種アプリと連携しながら業務を支援することを目的としています。建設業では、利用中のシステムやセキュリティ要件に応じて使い分けることが重要です。

2.3. 建設業界でのLLMの役割

建設業では、LLMは単なる文章生成ツールではなく、社内ナレッジを活用する基盤として利用され始めています。

例えば、設計基準や施工要領書の検索、安全書類の確認、ベテラン社員のノウハウ共有などに活用することで、情報共有や技術継承の効率化が期待されています。

3. 建設業でのLLMの具体的な活用方法

建設業でLLMを活用するには、現場のニーズに合った具体的な活用方法を検討することが重要です。以下では、代表的な活用方法を4つ紹介し、それぞれの効果や導入時に留意すべきポイントを解説します。

社内のさまざまなプロジェクトを支援し、若手教育や安全管理を円滑にする取り組みは、すでに複数の企業で進められています。技術文書の検索だけでなく、施工手順の標準化や設計情報の活用など、多面的に支援できる点がLLMの強みです。

また、単なるチャットツールとして利用するだけでなく、施工現場の業務と連携した仕組みに組み込むことで、より大きな効果が期待できます。BIMやCADに関する社内マニュアル、操作手順、設計ルールなどと組み合わせれば、設計業務や操作確認を支援できる可能性があります。ただし、図面や3Dデータと直接連携できるかどうかは、利用するシステムや連携方法によって異なります。

以下では、特に活用が期待される方法を順に解説します。

活用方法活用対象期待できる効果
技術文書の検索と管理品質マニュアル・施工要領書必要な資料を探しやすくする
設計基準と施工要領の整理設計基準・施工要領書要点整理や関連資料の参照を効率化する
BIM・CADの操作支援社内マニュアル・操作手順操作確認や設計検討を支援する
報告書と議事録の自動生成現場報告・会議記録文書作成時間を短縮する

3.1. 技術文書の検索と管理

建設業では、品質マニュアルや施工要領書など、多くの技術文書を扱います。LLMを導入することで、文書の内容を理解し、自然言語で検索しやすい環境を整えられます。

例えば、「安全書類の最新バージョンを教えて」と質問すると、必要なファイルや更新日の情報をすぐに提示してくれるイメージです。これにより、ファイル名を正確に覚えていなくても、必要な資料へスムーズにアクセスできます。

さらに、文書管理システムや検索機能と連携できれば、改訂履歴や関連する設計基準を確認しやすくなり、業務の抜け漏れ防止にもつながります。

3.2. 設計基準と施工要領の整理

設計基準は定期的に改訂されるほか、施工時の要領書が複数に分かれることも少なくありません。LLMや社内検索システムを活用すると、設計基準や施工要領書の検索、要点整理、関連資料の参照を効率化できます。ただし、プロジェクトごとの判断や最終確認は担当者が行う必要があります。

プロジェクトマネージャーは、現場ごとに異なる条件に合わせて施工計画を短時間でまとめる必要があります。その際、LLMが過去の類似事例を提示できれば、施工手順の検討に役立ち、ミスや重複作業の削減につながります。

また、若手社員向けに要点を分かりやすく整理した教育資料を作成できれば、自習や研修にも活用しやすくなります。

3.3. BIM・CADの操作支援

BIM(Building Information Modeling)やCADソフトは、建設業務に欠かせないツールです。Autodeskでは、Autodesk AIを設計・製造・建設分野のワークフローを支援するAI技術として紹介しています(参照*5)。 BIM・CAD分野でも、社内マニュアルや操作手順とLLMを組み合わせることで、操作確認や設計検討を支援できる可能性があります。

例えば、「AutoCADで斜面を作成するには?」といった質問に対して、社内マニュアルや過去のFAQを参照しながら手順を確認できる仕組みが考えられます。

このようにLLMを操作マニュアルとして活用すれば、長い説明書を最初から読み込む負担を減らし、作業時間の短縮につながります。

3.4. 報告書と議事録の自動生成

週次報告書や会議の議事録作成は、プロジェクトマネージャーにとって日々の大きな負担になりがちです。LLMを活用すると、議事内容を要約・整理したうえで、定型の書式にまとめることができます。

例えば、現場の作業内容や安全状況を入力するだけで、定型の報告書を作成する仕組みを構築できます。これにより、文章の作成から紙ベースでの確認までにかかる時間を短縮できます。

また、会議の音声データを要約し、参加者へすぐ共有する仕組みも考えられます。重要なキーワードを整理した状態で共有できるため、チーム全体で情報を把握しやすくなります。

4. 建設業におけるLLMの実践事例

ここでは、実際に建設会社がLLMを社内で活用している事例を紹介します。実際の取り組みを知ることで、導入を検討するプロジェクトマネージャーにとって、期待できる効果を具体的にイメージしやすくなるでしょう。

鹿島建設では、グループ従業員約2万人を対象に専用対話型AI「Kajima ChatAI」の運用を開始しています(参照*1。また、竹中工務店では、建設業向けナレッジ検索システム「デジタル棟梁」の構築・運用に取り組んでいます参照*7)。 いずれも、社内の専門知識や業務ノウハウを活用し、業務効率化や生産性向上を目指す取り組みとして紹介されています。

各社の取り組みは、業務効率化だけでなく、技術継承を支える仕組みとしても注目されています。

企業システム主な特徴
鹿島建設Kajima ChatAIAzure OpenAI Serviceを活用した社内専用の対話型AI
竹中工務店デジタル棟梁Amazon BedrockとRAGを活用したナレッジ検索システム

4.1. 鹿島建設のKajima ChatAI導入事例

鹿島建設では、グループ全体で約2万人の従業員を対象に、専用の対話型AI「Kajima ChatAI」を運用しています。鹿島建設によると、Kajima ChatAIは日本マイクロソフトのAzure OpenAI Serviceを活用し、ChatGPTと同等のAIモデルを社内に構築したシステムです(参照*1)。 

Kajima ChatAIは、鹿島グループ専用の環境として構築されており、入力した情報が外部の学習に利用されない点が特徴です(参照*1)。 鹿島建設では、従業員が活用することで業務効率化や生産性向上につながることを期待しています。

また、Kajima ChatAIはイントラネット内に構築され、従業員認証や利用履歴の記録などの機能を備えています(参照*1)。 鹿島建設は、安全に利用できる環境を整備したと説明しており、情報漏えい対策が重要な建設業において参考となる事例です。

4.2. 竹中工務店のデジタル棟梁活用事例

竹中工務店では、「デジタル棟梁」を構築・運用し、Amazon BedrockとAmazon Kendraを組み合わせたRAG(Retrieval-Augmented Generation)を活用しています。RAGとは、検索した社内文書などの情報を回答生成時に参照する手法です。IT Leadersによると、デジタル棟梁はAmazon BedrockとAmazon Kendraを組み合わせ、社内ルールや技術標準類、ノウハウ集などを検索対象としています(参照*7)。  

このシステムは、建設業の専門知識を活用した回答を提供するナレッジ検索システムとして紹介されています(参照*7)。 社内の専門情報を検索・参照しやすくすることで、技術継承や若手社員の学習支援にも活用できる可能性があります。

また、検索対象には社内ルールや技術標準類、ノウハウ集などが含まれており、社内情報を探す業務の効率化にも役立つ可能性があります。

5. 建設業で利用される主要なLLMサービス

LLMサービスを選ぶ際は、社内システムや既存のワークフローとの親和性が重要です。また、コストやサポート体制、セキュリティも比較する際の重要なポイントになります。

代表的なサービスには、ChatGPT Enterprise、Azure AI Foundry、Microsoft 365 Copilot、Autodesk AIなどがあります(参照*2参照*3参照*4参照*5)。 それぞれ提供元や連携できるツール、利用目的が異なるため、自社の業務に適したサービスを選ぶことが大切です。

建設業では、BIM・CADとの連携、社内ドキュメントの検索性能、情報漏えい対策や権限管理の仕組みなどが選定のポイントになります。以下では、各サービスの特徴を比較して紹介します。

5.1. サービス比較表と特徴

サービス特徴建設業での活用例
ChatGPT Enterprise企業向け生成AIサービス文書作成、情報整理
Azure AI Foundry Azure上で利用できる生成AI社内システムとの連携
Microsoft 365 CopilotMicrosoft 365アプリと連携会議、メール、文書作成
Autodesk AIAutodesk製品向けAI技術設計検討、業務効率化

6. LLM導入による建設業のメリット

LLMを導入すると、建設業では社内情報を探す時間の短縮や、技術継承の効率化が期待できます。設計基準や施工要領書、過去の施工事例などを活用しやすくなることで、日常業務を支援する仕組みとして利用できます。

以下では、代表的なメリットを紹介します。

6.1. 業務効率化とナレッジ共有

LLMや社内検索システムを活用すると、設計基準や施工要領書、社内ルールなどを自然な文章で検索できるようになります。

必要な資料を探す時間を短縮できるため、業務効率化や情報共有の促進が期待できます。

6.2. 技術継承と若手教育の強化

ベテラン社員のノウハウや過去の事例を整理し、社内で共有しやすくすることもLLMの活用方法の一つです。

若手社員が必要な情報を自分で調べられる環境を整えることで、教育支援や技術継承にも活用できます。

7. 導入時の注意点と対策

LLMを導入する際は、情報漏えいのリスクやデータ管理のルールなど、事前に検討すべきポイントがあります。特に建設業では、プロジェクト情報や設計データの外部流出を防ぐため、高いセキュリティを確保することが重要です。

また、LLMは誤った回答を生成する可能性があるため、参照元の明示や回答内容の確認、入力データの取り扱いルールを整備する必要があります。以下では、導入時に押さえておきたい注意点と対策を2つ紹介します。

  • 情報セキュリティとプライバシー保護
  • 社内ルールと権限管理の整備

社内ルールや権限管理を適切に整備すれば、LLMは業務を支援する有効なツールとして活用できます。導入前には十分な検証を行い、試験運用を重ねることが大切です。

7.1. 情報セキュリティとプライバシー保護

建設業では、プロジェクト情報や契約に関する機密情報を扱うことが多く、外部へ漏えいすると企業の信頼性や事業活動に大きな影響を及ぼすおそれがあります。そのため、Azure AI FoundryやChatGPT Enterpriseなど、企業向けのセキュリティ機能を備えたサービスを選ぶことが重要です(参照*2参照*4)。 

また、RAGを導入する場合は、検索対象となる社内文書に適切なアクセス権限を設定し、権限のない利用者が機密情報を参照できないよう管理する必要があります。

実務では、機微情報を扱う際に個人情報を伏せ字にするなど、運用ルールを定め、定期的に社員へ周知することも欠かせません。

7.2. 社内ルールと権限管理の整備

LLMを社内で活用する場合は、誰がどの情報にアクセスできるのかを明確にし、適切な権限管理を行う必要があります。特に、BIMデータやCAD図面への参照権限は、プロジェクトの進行状況や外部委託の状況に応じて柔軟に設定することが重要です。

さらに、入力禁止情報を整理し、機密情報や個人情報を不用意に入力しないためのルールを定めることも大切です。OpenAIは、ChatGPT Enterpriseについて、企業データをモデルの学習に使用しないと説明しています(参照*4)。 

導入後は、定期的に運用状況を確認し、改善を続けることが重要です。社員からのフィードバックを反映しながら、実際の業務に合った利用ルールへ継続的に見直していきましょう。

8. まとめ

本記事では、建設業におけるLLMの活用事例と導入のポイントを解説しました。建設DXを進めるうえでは、膨大な技術文書やBIM・CAD関連の情報を効率よく活用することが重要であり、LLMは検索や情報共有を支援する手段として期待されています。

また、Kajima ChatAIやデジタル棟梁といった事例からも分かるように、LLMを活用した社内情報の検索やナレッジ共有の取り組みが進められています。こうした仕組みは、業務効率化だけでなく、技術継承や若手社員の教育を支える手段としても参考になります。

導入にあたっては、情報セキュリティや権限管理を徹底し、社内ルールを整備することが重要です。まずは小規模な部署やプロジェクトで試験運用を行い、成果を確認しながら段階的に活用範囲を広げていくとよいでしょう。

LLMは、建設業の業務効率化や技術継承を支える有力な技術の一つです。本記事を参考に、自社の課題や運用に合わせた活用方法を検討してみてください。

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<参考文献>

(*1)グループ従業員2万人を対象に専用対話型AI「Kajima ChatAI」の運用を開始 | プレスリリース | 鹿島建設株式会社
https://www.kajima.co.jp/news/press/202308/8m1-j.html

(*2)Microsoft Foundry のドキュメント | Microsoft Learn
https://learn.microsoft.com/ja-jp/azure/foundry/

(*3)Microsoft 365 Copilot | 職場向けの AI 仕事効率化ツール
https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365/copilot

(*4)エンタープライズ向け ChatGPT
https://openai.com/chatgpt/enterprise

(*5)Autodesk AI | Artificial Intelligence for Design & Make
https://www.autodesk.com/ai

(*6)i-Construction
https://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/

(*7)竹中工務店、建設業ナレッジ検索「デジタル棟梁」を生成AI「Amazon Bedrock」で構築 | IT Leaders
https://it.impress.co.jp/articles/-/25424