生成AIを使った建築デザインの新時代
建築デザインの世界は、常に新しい技術と手法の導入によって進化を続けています。近年、特に注目を集めているのが「生成AI」を用いた自動設計です。生成AIは、人工知能(AI)の一種であり、データを基に新しいデザインやアイデアを生成する能力を持っています。この技術は、建築デザインのプロセスを大幅に効率化し、革新的なデザインを生み出す可能性を秘めています。
本記事では、生成AIが建築デザインにどのように活用されているのか、その基本概念から具体的な事例までを詳しく解説します。特に、隈研吾設計事務所やザハ・ハディド・アーキテクツ、大林組などの先進的な事例を通じて、生成AIの実際の活用方法とその効果について紹介します。また、建築分野向けの新しい生成AIサービス「Architecture Design Bot」についても触れ、生成AIを用いた建築デザインの未来展望について考察します。
この記事を通じて、建築設計者やDX推進担当者が生成AIをどのように活用できるのか、その具体的な方法とメリットを理解し、実践に役立てていただければ幸いです。
生成AIとは
生成AIとは、データを基に新しい情報やデザインを生成する人工知能の一種です。具体的には、テキスト、画像、音声などのデータを入力として受け取り、それを基に新しいコンテンツを生成します。生成AIの代表的な技術には、OpenAIの「GPT-3」や「DALL-E 2」、Stability AIの「Stable Diffusion」などがあります。これらの技術は、自然言語処理や画像生成の分野で高い性能を発揮しており、建築デザインにも応用されています。
建築デザインにおける生成AIの役割
建築デザインにおいて、生成AIは主に以下の役割を果たします。
1. デザインのアイデア生成
生成AIは、膨大なデータを基に新しいデザインアイデアを生成します。これにより、設計者は従来の手法では思いつかないような革新的なデザインを提案することができます。
2. 効率化
生成AIは、設計プロセスの初期段階での作業を効率化します。例えば、スケッチや3Dモデルから自動的にファサードデザインを生成することができます。
3. 多様性の追求
生成AIは、多様なデザインオプションを提供するため、設計者はより多くの選択肢から最適なデザインを選ぶことができます。
これらの役割を通じて、生成AIは建築デザインのプロセスを革新し、より効率的で創造的な設計を可能にします。
生成AIを活用した建築デザインの事例紹介
設計事務所における革新的な活用事例
隈研吾建築都市設計事務所のケーススタディ
隈研吾建築都市設計事務所では、生成AIツール「midjourney」を利用して企画設計を行っています。特に、設計時の案出しにおいて、AIが生成したデザインを「否定の材料」として活用しています。これにより、AIが提案するデザインとは異なる方向性を模索し、これまでの傾向からは想像できないようなデザインにチャレンジすることが可能となります。この手法は、設計の幅を広げ、より先進的なデザインを提案するための有効なツールとなっています。※1
ザハ・ハディド・アーキテクツのデザインアイデア生成
ザハ・ハディド・アーキテクツでは、プロジェクトのデザインアイデアを生み出すために、DALL-E 2やMidjourneyなどのAIテキスト画像生成ツールを使用しています。スタジオ代表のパトリック・シューマッハ氏は、従来のデザイン会議でチームを促したり、以前のプロジェクトやアイデアを参照するのと同様に、生成AIをアイデア生成のツールとして活用しています。これにより、デザインの多様性と独自性を追求し、革新的な建築デザインを実現しています。※2
大手ゼネコンによる効率化事例
大林組のAiCorb®技術
株式会社大林組は、米国シリコンバレーのSRI Internationalと共同で、建築設計の初期段階の作業を効率化する「AiCorb®」を開発しました。この技術は、スケッチや3Dモデルからさまざまなファサードデザインを提案できるAI技術であり、設計者向けプラットフォーム「Hypar」と連携することで、ボリュームデザインを含めて一気通貫で設計する新たな手法を確立しました。これにより、設計プロセスの効率化と生産性の向上が実現され、より多くのデザイン案を短時間で検討することが可能となります。※3
建築分野向けの生成AIサービス
mign「Architecture Design Bot」の紹介
建築分野向けの生成AIサービスを提供しているmignは、2023年7月18日に新サービス「Architecture Design Bot」を発表しました。このサービスは、設計者による発注者へのインタビューを生成AIが肩代わりするというものです。具体的には、米OpenAIの対話型AI「ChatGPT」と英Stability AIの画像生成AI「Stable Diffusion」を組み合わせて開発されています。AIが設計者の代わりとなり、発注者に住宅の理想のスタイルや色、周囲の環境などをインタビューし、その回答内容を基に建物の外観や内観の画像を自動生成します。※4
AIによるインタビューとデザイン生成のプロセス
「Architecture Design Bot」のプロセスは以下の通りです。
1. インタビュー
AIが発注者に対して6~8問の質問を行い、住宅の理想のスタイルや色、周囲の環境などをヒアリングします。このインタビューは約5分程度で完了します。
2. デザイン生成
インタビューの回答内容を基に、AIが建物の外観や内観の画像を4枚自動生成します。これにより、設計者は発注者の要望に即したデザイン案を迅速に提案することができます。
このプロセスにより、設計者は発注者のニーズを的確に把握し、効率的にデザインを提案することが可能となります。
生成AIを用いた建築デザインのメリット
デザインプロセスの効率化と革新
生成AIを用いることで、デザインプロセスが大幅に効率化されます。例えば、スケッチや3Dモデルから自動的にデザイン案を生成することで、設計の初期段階での作業が迅速に進められます。また、生成AIは膨大なデータを基に新しいデザインアイデアを提供するため、従来の手法では思いつかないような革新的なデザインが生まれます。
デザインの多様性と独自性の追求
生成AIは、多様なデザインオプションを提供するため、設計者はより多くの選択肢から最適なデザインを選ぶことができます。これにより、デザインの多様性と独自性を追求し、他にはない独自の建築デザインを実現することが可能です。
クライアント提案力の強化
生成AIを活用することで、クライアントに対してより魅力的で説得力のある提案が可能となります。AIによって生成された革新的なデザイン案を提示することで、クライアントの期待を超える提案ができ、受注率の向上が期待されます。
生成AIによる建築デザインの未来展望
生成AIを用いた建築デザインは、今後ますます重要な役割を果たすことが予想されます。設計事務所や大手ゼネコンが既に導入している事例からも分かるように、生成AIはデザインプロセスの効率化と革新をもたらし、より多様で独自性のあるデザインを実現するための強力なツールです。特に、中小規模の事業者でも既存の画像生成AIサービスを活用することで、先進的なデザイン手法を取り入れることが可能です。
今後も生成AIの技術は進化し続け、建築デザインの分野において新たな可能性を切り開いていくことでしょう。設計者やDX推進担当者は、この技術を積極的に取り入れ、より革新的で効率的な建築デザインを実現していくことが求められます。
建築・土木業向け BIM/CIMの導入方法から活用までがトータルで理解できる ホワイトペーパー配布中!
❶BIM/CIMの概要と重要性
❷BIM/CIM導入までの流れ
❸BIM/CIM導入でよくある失敗と課題
❹BIM活用を進めるためのポイント
についてまとめたホワイトペーパーを配布中
※1 日経クロステック「建築家の隈研吾氏「自分を超えるために生成AIを使う、藤井聡太名人のように」」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02449/053000006/
※2 dezeen「ZHA developing “most” projects using AI-generated images says Patrik Schumacher」
https://www.dezeen.com/2023/04/26/zaha-hadid-architects-patrik-schumacher-ai-dalle-midjourney/
※3 大林組「建築設計の初期段階の作業を効率化する「AiCorb®」を開発」
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220301_3.html
※4 日経アーキテクチュア 2023年8月24日号 「画像生成AIが描く絵から使えるアイデアを最短で示す」