Autodesk Vaultとクラウドをどう連携する?最新ワークフローをわかりやすく解説
1. はじめに
設計や製造の現場では、これまで多くの企業がAutodesk Vaultを使い、社内のサーバー(オンプレミス環境)上でPDM(Product Data Management:製品データ管理)を行ってきました。社内ネットワークにいることを前提に、「社内だけで完結するデータ管理」が標準だった時代です。
しかし今は、リモートワークの定着や、外部協力会社・海外拠点とのやり取りの増加によって、「社内にいる人だけがVaultを使えればよい」という前提は崩れつつあります。場所にとらわれずに設計データへアクセスしたい、社外メンバーとも安全に図面を共有したい──こうしたニーズに応えるために、Vaultとクラウドサービスを組み合わせた運用が注目されています。
本記事では、Vaultとクラウドを連携させることでどんなメリットがあるのか、どのようなワークフローで運用できるのか、そしてVPNなしで安全にVaultへ接続するための「Vault Gateway」の仕組みまでを、できるだけやさしい言葉で解説します。Vaultを従来どおりオンプレ中心で使い続けつつも、「そろそろクラウド活用も検討したい」と考えているプロジェクトマネージャーや設計部門のリーダーの方を主な対象としています。
記事の流れとしては、まずVaultの基本的な役割を振り返り、そのうえでクラウドと接続することで得られる利点を整理します。次に、Vault GatewayやAutodesk Docs、Fusion Teamといった関連サービスとの連携方法を紹介し、最後に、自社の運用にどのように組み込めるかをイメージしやすいよう、具体的な利用シナリオと導入時の注意点をまとめていきます。
2. Autodesk Vaultとは?基本のおさらい
Autodesk Vaultは、設計データのバージョン管理やアクセス権限のコントロールを行うPDM(Product Data Management)システムとして、多くの設計・製造企業で活用されています。CADファイルの更新履歴を正確に追跡できるほか、承認フローを自動化する機能も備えており、社内のどこで誰が作業してもデータが散逸せず、常に“正しい最新データ”を共有できる環境をつくります。
Vaultは従来、オンプレミス(自社サーバー)に構築し、社内LANに接続したPCからチェックアウト・チェックインを行って設計データを編集する環境での運用で利用されるケースが多くありました。このため、社外からアクセスする場合にはVPN接続の設定が必要になり、ネットワーク構築や運用管理に手間がかかったり、利用者によって接続の安定性が左右されるといった課題がありました。
しかし近年は、Vaultのクラウドサービスとの連携機能や「Vault Gateway」の登場によって、VPNに依存しない新しいアクセス方法が整いつつあります。インターネット経由であっても安全にVaultへ接続できる環境が構築できるため、リモートワークの普及や外部メンバーとのコラボレーションが進む今、プロジェクトマネージャーにとって大きな価値を持つ選択肢となっています。
3. Vaultとクラウド連携のメリット
Vaultとクラウドサービスを併用することで、設計業務の進め方はこれまで以上に柔軟で効率的なものへと変わります。ここでは、リモートアクセスの強化からモバイル活用まで、現代のワークスタイルに適した具体的なメリットを整理して紹介します。
まず、離れた拠点や自宅からでも安全に設計データへアクセスできるようになり、外部協力会社に対しても必要な情報だけを選んで安全に共有できます。また、クラウドに情報を集約することで、プロジェクト全体の進捗状況や承認状態をいつでも把握できるようになり、コミュニケーションのズレや管理の抜け漏れも減らせます。
さらに、Vaultが持つ強力なバージョン管理機能を活かしつつ、DocsやFusion Teamなどのクラウドサービスの閲覧・コメント機能を組み合わせれば、社内メンバーだけでなく現場スタッフや社外パートナーとのコラボレーション環境が大幅に向上します。
3.1. リモート環境からのアクセス
リモートワークが一般化した現在、会社に出社しなくてもVault内のデータを扱える環境は欠かせません。クラウドとの連携を取り入れることで、事前の認証さえ通過すれば、出張先や自宅からでも設計データを閲覧・編集できるようになります。
たとえば、Vault Gatewayを利用すれば、VPNを使わずに安全な通信経路を確保したうえでVaultサーバーに接続できます。VPN設定の依頼やネットワーク構築の手間が減るだけでなく、通信が暗号化されているため、情報漏えいのリスクを抑えつつ快適に作業できます。
その結果、社外にいるメンバーともリアルタイムで最新の設計データを共有でき、チーム全体の作業スピードと精度が向上します。
3.2. 外部協力会社とのデータ共有
外部の設計事務所や製造パートナーとのデータ共有は設計業務では日常的ですが、メール添付や一般的なファイル共有サービスでは、誤送信・バージョン違い・更新漏れといったリスクが常につきまといます。
Vaultとクラウドを組み合わせれば、承認済みのデータだけをDocsやFusion Teamへ発行し、外部協力会社にはブラウザ上でコメントやレビューだけを行ってもらう運用が可能になります。これにより、余計な複製データを増やすことなく、安全かつ整理された状態で共同作業が進められます。
外部パートナーはどこにいても最新データを参照でき、設計変更の提案や寸法の確認といったフィードバックもスムーズに行えます。
3.3. 情報の一元化
Vaultとクラウドサービスを併用する大きなメリットのひとつが、「単一の情報源(Single Source of Truth)」を実現できる点です。Vaultが社内データの管理基盤として中心にあり、DocsやFusion Teamに必要なデータだけを選んで公開することで、どのメンバーも同じ最新情報を共有できます。
これにより、設計データのバージョン管理や承認状態が複数の場所に散らばることがなくなり、プロジェクトの状況を正確かつ迅速に把握できます。打ち合わせごとに複数ファイルを比較する手間も減り、管理ミスや二重登録のリスクを抑えられます。
さらに、この一元化された構造は、将来的にERPや品質管理システムなど他システムと連携する際にも大きな強みとなります。
3.4. モバイル端末での図面閲覧
現場や移動中などPC環境が用意しづらい場面でも、設計図面をその場で確認できれば業務スピードは大きく向上します。VaultとDocsが連携している環境なら、モバイル端末から3Dモデルや2D図面を直接開いて確認でき、ファイル形式に応じてコメントやマークアップ、Issueによる指摘追加なども可能です。
たとえばAutodesk Docsのモバイルアプリを使えば、急な確認事項が発生した場合でも、その場で図面に注記を加えたり、現場写真を添付したりして、設計チームへすぐに共有できます。紙の図面では難しかったリアルタイムな情報共有が実現し、業務の正確性とスピードが同時に向上します。
このようにモバイル端末を活用したデータ閲覧は、リモート業務が増える時代において意思決定を加速させる重要な要素となっています。
4. Vault Gatewayの概要と機能
Vault Gatewayは、Autodesk社が提供する “VPNを使わずに安全にVaultへリモート接続するための仕組み” です。従来のオンプレミス運用では、外部からVaultにアクセスするにはVPN環境がほぼ必須でしたが、Gatewayを使えばその制約を大きく減らすことができるため、リモートワークを取り入れる企業から注目されています。
仕組みとしては、GatewayサーバーがVaultサーバーと連携し、認証されたVaultクライアントに対して暗号化された通信経路を確保します。トンネルを通して通信するようなイメージで、従来VPNが抱えていたネットワーク構築の複雑さを解消しながら、安全にリモートでの設計作業を可能にします。
以下では、Vault Gatewayの基本構造や必要要件、そして実際にどこまでできるのかといった機能面について詳しく整理していきます。
4.1. Vault Gatewayの基本情報
Vault Gatewayは、Autodesk Vaultサーバーを外部から利用できるようにするための公式サービスで、サーバー側で設定するポートを最小限に抑えつつ、通信内容を暗号化して安全性を確保します。
この仕組みを導入すると、リモートワーク中のエンジニアはVaultクライアントから自分のIDでサインインするだけで、Vault内のデータをチェックアウト・チェックインできるようになります。データのやり取りが暗号化されるため、インターネット経由でも一定の安全性を保ちながら日常業務を行える点が大きな特徴です。
つまり、Vault Gatewayは「サーバーを直接インターネットに公開するのは危険」という従来の課題に対して、公式が用意したセキュアな解決策といえるでしょう。
4.2. セキュアなリモートアクセスの仕組み
セキュアなリモートアクセスとは、ネットワーク内部にいるかどうかではなく、アクセスのたびに認証・暗号化を行って安全性を確保する考え方です。Vault Gatewayでは、ユーザーごとにサインインを行い、その認証情報にもとづいてアクセス権限を確認します。さらに、通信はHTTPSなどの暗号化された経路を通るため、VPNがなくても安全にVaultへ接続できます。
この仕組みにより、不正アクセスを試みられたとしても、正しい認証情報がなければVaultデータに到達することはできません。結果として、社内外のユーザーを含めたアクセス管理がしやすくなり、データ共有範囲を広げてもセキュリティレベルを下げる心配がありません。
4.3. 対応バージョンと要件
Vault Gatewayを利用するためには、Vault側が対応バージョンである必要があります。最低条件はVault Professional 2022.1以降で、サポート期間や機能面を踏まえるとVault 2023以降で運用することが現実的です。導入時には、Autodesk公式が提示するOS要件や必要ポート、対応Vaultバージョンを確認しながら環境を整備します。
一般的には、Windows Server上に構築されたVault Professional 2023以降の環境が例として紹介されており、同時にネットワーク帯域が十分かどうかも重要な要素になります。リモートアクセスが増えるとファイル転送量も増えるため、帯域不足だと通信速度が低下しやすくなります。
また、クライアント側もVault 2023・2024といった比較的新しいバージョンと合わせることで、Gatewayを通した接続がより安定しやすくなります。
4.4. できることとできないこと
Vault Gatewayを利用すれば、リモート環境からでもVaultデータのチェックアウト・チェックインといった通常のPDM業務を問題なく行えます。ただし、大容量ファイルを頻繁に扱う場合は通信時間が長くなることがあり、Vaultサーバー側でJob Processorが大量に動作しているタイミングなどでは負荷が高まる可能性もあります。
また、Autodesk DocsやFusion Teamとの連携機能そのものを提供しているわけではなく、これらはVault本体の機能やProject Syncといった仕組みの上で動くものです。つまり、Gatewayはあくまで「安全な入り口」を提供するものであり、クラウド連携を最大限活用するにはDocsやFusion Teamとの併用が不可欠です。
このように、Vault Gatewayの役割と限界を理解したうえで運用することで、リモート環境でも効率的かつ安全にVaultを活用できるようになります。
5. Autodesk Docs・Fusion Teamとのクラウド連携
Vault Gatewayでリモート接続の基盤が整ったら、次のステップは、Autodesk Docs や Fusion Team といったクラウドサービスとどう組み合わせるかです。これらをうまく活用することで、Vaultの強力なPDM機能とクラウドの共有・レビュー機能を組み合わせた、より生産的なワークフローを構築できます。
Docs と Fusion Team は、ブラウザ上で図面や3Dモデルを確認し、コメントやマークアップを行えるため、外部協力会社や現場チームとの共同作業に非常に適しています。Vaultが保持する図面・モデルの中から必要なデータだけをクラウドへ発行し、関係者へ的確に共有するためには、発行ルールや手順を理解しておくことが欠かせません。
Vault単体では実現しづらかった“リモートアクセス”“モバイルでの図面閲覧”“現場とのリアルタイム連携”なども、これらのクラウドサービスと組み合わせることでスムーズに運用できます。それぞれの役割分担を把握することで、より効率的で迷いのないワークフローを構築できるようになります。
5.1. VaultからDocsへの発行ワークフロー
Vault Professionalでは、Project Sync(クラウドドライブとの同期)を利用して、Vault内の設計データをAutodesk Docsへ“発行”できます。ライフサイクル設定やフォルダ構造を工夫することで、「承認済みデータだけを自動でDocsへ同期する」などの運用ルールも構築できます。
この仕組みを使うメリットは、社内で進行中のデータと、外部へ提供すべき確定版データを明確に区別できる点です。Docs側にはビューア機能・コメント機能が備わっているため、現場や顧客はソフトをインストールせずに図面を確認し、その場でフィードバックを残せます。
発行ワークフローが整理されていれば、図面公開のタイミング管理がしやすくなり、現場スタッフによる確認や承認プロセスの流れも追跡しやすくなります。
5.2. Fusion Teamとの連携ポイント
Fusion Teamは、3Dモデルの共同レビューに強みを持つクラウドサービスで、Vaultで管理しているアセンブリデータを軽量化してクラウドにアップロードできます。ブラウザ上で回転やズーム、寸法測定などができるため、専門ソフトがない外部協力会社でもモデルの細部を確認できます。
Vault側から必要なモデルを選択してクラウドに送信し、Fusion Team上で閲覧範囲や操作権限を設定することで、外部レビューを安全に行えます。
また、Fusion Team上で残されたコメントやマークアップは履歴として保存されるため、「どこを、誰が、いつ指摘したか」が明確になります。設計変更が多いプロジェクトでも、コミュニケーションの齟齬が生まれにくくなります。
5.3. クラウドでできること
DocsやFusion Teamを利用すると、図面の閲覧、コメント、承認フローの管理まで、さまざまな作業をクラウド上で完結できます。図面を横並びで表示して差分を比較したり、モバイル端末から現場で撮影した写真を添えてコメントしたりといった柔軟な使い方も可能です。
さらに、クラウドに保存されたファイルは自動バックアップや災害復旧の機能を備えているため、万が一オンプレミス環境でトラブルが発生しても、クラウド上のデータを使って迅速に復旧できる場合があります。
ただし、クラウド側で編集を行う場合は、Vaultを中心とする従来の業務フローとどう整合性を取るかが重要です。クラウドが“最新データの主導権”を持つ場合は、データ管理ルールを事前に明確にしたうえで運用することが求められます。
5.4. Vaultとクラウドの役割分担
Vaultは、バージョン管理やアクセス制御を担う「データ管理の中心」を担います。一方、DocsやFusion Teamは、「社外との共同作業」「現場との情報共有」「レビューの効率化」を担うクラウドプラットフォームという役割です。
この役割分担を明確にすることで、社内の詳細設計やファイル管理はVaultに一元化しつつ、クラウドには必要最低限の情報だけを公開できます。承認済みデータの扱いや公開ルールをあらかじめ設定しておくことで、データの二重管理を防ぎ、スムーズな業務連携が可能になります。
つまり、Vaultとクラウドをうまく“分業”させることにより、両者が持つ強みを最大限に引き出し、より高度で効率的な設計ワークフローを実現できるのです。
6. Vaultとクラウドを組み合わせたワークフロー例

ここからは、Vaultとクラウド連携が実際の現場でどのように活用されるのかを、シナリオ形式でわかりやすく紹介します。社内・リモートワーク・外注先が混在するプロジェクトでも、データが一貫して管理される様子がイメージできるはずです。
これまでメールの添付や電話連絡で行っていた画像共有やモデルレビューも、Vaultとクラウドを組み合わせることで効率化され、プロジェクトの進行状況をリアルタイムで把握しやすくなります。その結果、ミスや納期遅延といったリスクを大幅に減らすことが可能です。
以下の例はあくまで一つのモデルケースですが、導入を検討する際の参考として活用してください。
6.1. 社内:Vaultでのデータ管理とクラウド共有
まず社内では、すべての設計データをVaultに登録し、ファイル名やバージョン、承認フローなどを整えて運用します。設計担当者が部品を新規作成する際は、Vault上でチェックアウトして編集し、作業後にチェックインして履歴を残します。
設計が一定の段階まで進んだら、承認ステータスに基づいてDocsへ発行します。クラウドへアップロードされるのは“リリース済み”や“承認済み”のデータだけとすることで、未完成データが外部へ流出するリスクを防げます。
このように、社内の作業はVaultに集中させつつ、外部共有が必要なタイミングでのみクラウドへ公開する仕組みを構築できます。
6.2. リモート:Vault Gatewayでの安全な接続
リモート勤務のエンジニアは、特別なネットワーク設定をしなくても、Vault Gatewayを通じて安全にサーバーへ接続できます。VPNの事前準備やルータの設定変更が不要となり、Vaultクライアントからログインすれば、自動的にセキュアな通信がスタートします。
また、重要な情報を扱う場合には、ユーザーごとのアクセス権限を最小限に絞ることで、データ改ざんや漏洩リスクを抑えられます。誰が・いつ・どのデータを扱ったかは、Vaultが保持する履歴により追跡できるため、リモート環境でも確実にトレーサビリティを確保できます。
その結果、出張中に急な修正が必要になっても、最新データを即座に取得して作業でき、プロジェクトの遅延を防ぎやすくなります。
6.3. 現場:Docsでの図面閲覧とコメント
クラウドに発行された図面は、現場スタッフがDocsのWebビューアやモバイルアプリで即時に確認できます。例えば、現場で寸法が正しいかを確認しながら、その場で写真を添えてコメントを投稿する、といった使い方が可能です。
投稿された情報はリアルタイムで設計チームに届き、必要に応じてVaultデータの修正要求へとつなげられます。従来の電話連絡やメールの言い回しだけでは発生しがちだった誤解も、データ付きのフィードバックによって大幅に減らせます。
こうした仕組みにより、現場と設計の認識差が小さくなり、品質向上と作業スピードの改善につながります。
6.4. 外注:Fusion Teamでのモデルレビュー
外部協力会社や外注先が3Dモデルを確認する場合は、Fusion Teamが大きな役割を果たします。Vaultで管理されているアセンブリデータを軽量化してクラウドにアップロードすれば、外部メンバーはブラウザだけでモデルを自由に回転・拡大・寸法測定できます。
複雑な形状であっても、メールで巨大なファイルを何度も送受信する必要がなく、常に最新のモデルを参照できる点が大きなメリットです。レビュー後は、そのままFusion Team上にコメントや指示を残せるため、Vaultで修正作業を行う際にも、履歴を見ながら的確に対応できます。
このようにクラウドを活用することで、チェック漏れの防止や承認のやり直しが減り、最終的には設計サイクルの短縮と品質向上を同時に実現できます。
7. 導入時の注意点
Vaultとクラウドの連携を始める際には、ネットワーク環境やデータ公開のルールなど、事前に整理しておくべき技術的・運用的ポイントがあります。準備不足のまま運用を開始してしまうと、パフォーマンス低下や情報漏洩などのリスクが発生し、かえって業務の負担が増えてしまう可能性もあります。
ここでは、導入の計画段階で特に押さえておきたい4つのポイントを詳しく解説します。しっかり対策しておくことで、スムーズで安心できるクラウド連携が実現できます。では、順番に見ていきましょう。
7.1. ネットワーク帯域とファイルサイズの考慮
Vaultに格納されているCADデータは、大規模アセンブリや複雑なモデルになるほどファイルサイズが大きくなります。クラウド連携を行うと、こうしたデータのアップロードやダウンロードが増加し、ネットワーク帯域を圧迫するケースが少なくありません。
大容量ファイルを頻繁に扱う場合は、回線速度の見直しや、夜間バッチ処理での同期、不要パーツの軽量化など、実務に合わせた工夫が重要です。これらの最適化を行わないと、リモートワーク時の接続が極端に遅くなり、生産性を落とす原因となるため、導入前に必ずテスト環境で負荷を検証しておく必要があります。
7.2. データ公開ポリシーの作成
クラウドへ「どのデータを」「どの段階で」出すかを明確に定めることは、クラウド連携における最重要ポイントの一つです。設計途中のデータを誤って外部へ公開してしまうと、協力会社が不完全な情報をもとに作業を進めてしまう危険性があります。
たとえば「承認済みデータのみDocsへ発行する」「外部向けデータは簡易モデルに限定する」などのポリシーを事前に決め、それに基づいて運用することが理想です。プロジェクトマネージャーは、この公開ルールをチーム全体に徹底することで、データ共有にまつわるトラブルを事前に防ぐことができます。
7.3. 権限管理と承認フローの整合性
Vaultでは、設計者・管理者・承認者といった役割に応じて詳細な権限設定が行われています。一方、クラウド側でも閲覧・編集・コメント権限を個別に設定する必要があるため、両者の整合性が取れていないと情報漏洩や操作ミスの原因となります。
DocsやFusion Teamでのユーザー権限設定は、Vault側の権限構造に合わせて設計することが不可欠です。また、シングルサインオンを導入すれば、ID管理を統合できるため、アカウントの乱立防止や管理負荷の軽減にもつながります。
7.4. セキュリティ設定のポイント
クラウド連携では、「Vault側のセキュリティ」と「クラウド側のセキュリティ」の両方に注意を払う必要があります。Vault Gatewayの暗号化通信の設定やアクセス認証の管理はもちろん、クラウド側でも機密データの扱い方を慎重に設計することが求められます。
特に知財や企業機密にあたるデータは、外部公開しないポリシーを徹底する、もしくは閲覧専用設定にするなど、情報漏洩を防ぐための制御が重要です。これらを総合的に整備することで、リモートワークが拡大した環境でも、Vaultとクラウドを安全に併用できる堅牢な運用基盤が構築できます。
8. どの企業に向いている?Vaultとクラウド連携の適性
Vault単体でも、社内で完結するデータ管理を十分に行える企業は多く存在します。しかし、クラウドと組み合わせることで得られるメリットは非常に大きく、特に価値が高いのは「拠点が複数ある企業」や「外部協力会社とのやり取りが日常的に発生するプロジェクト」を抱えているケースです。海外拠点やサテライトオフィス、外注先との連携が多いほど、クラウド併用による利便性は飛躍的に向上します。
一方で、インターネット接続そのものに厳しい制限がある業界や、社外へ一切データを出せない規定がある企業では、オンプレミス中心のVault運用やVPNを利用したローカル接続の方が適している場合もあります。企業ごとのセキュリティ要件や運用方針によって、最適な構成が変わる点は押さえておく必要があります。
とはいえ、製造業・建設業をはじめ多くの業種でリモートワークや協業が前提の働き方へシフトしている現在、Vaultとクラウドを併用した「ハイブリッド運用」を選択する企業は年々増えています。企業規模にかかわらず、まずは限定的な範囲からクラウド活用を始め、段階的に運用を広げていくケースも増加しています。クラウドを組み合わせることで業務の柔軟性が高まり、設計プロジェクト全体の生産性向上につながる可能性が大いにあるといえるでしょう。
9. まとめ:Vault×クラウドで設計データ管理を次のフェーズへ
本記事では、Autodesk Vaultとクラウドサービスを組み合わせることで実現できる新しいデータ管理のあり方について、基本概念から具体的なワークフロー、導入時のポイントまで幅広く解説しました。Vault単体の強みである堅牢なPDM機能(バージョン管理・履歴管理・アクセス制御)に、クラウドの柔軟性を加えることで、設計プロセス全体の効率と透明性が大きく向上します。
特に、Vault GatewayによるVPN不要のセキュアなリモート接続、DocsやFusion Teamによるスムーズなレビューや外部共有といった仕組みは、従来のオンプレ運用では実現しづらかった“場所に縛られない設計環境”を可能にします。こうしたクラウド連携は、リモートワークが一般化し、外部パートナーとの協業が増える現代のプロジェクト運営において、ますます重要な役割を担うでしょう。
企業間の競争が激しくなる中で、設計データの管理基盤を強化し、コミュニケーションのスピードと品質を向上させることは、プロジェクト成功の鍵となります。Vault×クラウドというハイブリッドな運用モデルは、まさにそのための強力な選択肢です。
今後の働き方や事業規模の変化を見据えて、段階的にクラウド活用を取り入れることで、設計データ管理を次のフェーズへと進化させることができるはずです。
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<参考文献>
Vault ヘルプ | Autodesk
https://help.autodesk.com/view/VAULT/2026/JPN/
Vault ヘルプ | Vault Gateway | Autodesk
https://help.autodesk.com/view/VAULT/2026/JPN/?guid=GUID-0311F9A2-AA7C-4EA0-9A20-163470910815





