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わかりやすい「ジェネレーティブデザイン(GD)」と遺伝的アルゴリズムの話

AIの進化が止まりません。
生成系AIの一つとして「ChatGPT」が私たちに驚きを与えて間もないというのに、次々と新たなアプリケーションが登場しています。音楽生成や画像生成など、本来はコンピューターには難しいとされていたクリエイティブ分野でも着実に成果を出しています。
今回は、建築業界などに革命をもたらす可能性がある「ジェネレーティブデザイン」と、そこで使われている「遺伝的アルゴリズム」について、わかりやすさを優先したまとめをしていきましょう。

この記事でわかること
 ・ジェネレーティブデザイン(GD)とはなにか
 ・遺伝的アルゴリズムについて
 ・デザイナーの仕事は今後AIに取って代わられてしまうのか

ジェネレーティブデザイン(GD)とは

ジェネレーティブデザインは、2021年から「Revit」に正式採用されたことから、特に建築業界で注目を集めています。しかし、元来は建築に限らずより広い概念として存在し、さまざまな応用が可能なツールです。

「Autodesk University」によると、ジェネレーティブデザインは「複雑なデザイン問題に対して、迅速に探索し、最適化し、情報に基づいた設計決定を行う能力を提供する実務的なツール」と定義されています。これは建築設計を前提とした説明ですが、一読しただけではピンとこない内容です。

では、具体的な例を考えてみましょう。

例えば、ある土地に事務所を建築するとします。まずは、土地の広さ・建物の大きさや階数、部屋の数などの条件を確認します。その上で、より具体的に窓の場所や大きさ、どちらに開くかなど、個別のパーツについて必要な条件を書き出します。

これらの条件をコンピューターに入力し、設計に必要なロジックを設定すると、あとは自動で設計案を仕上げてくれます。ざっくり説明するならこのような感じです。
さらにジェネレーティブデザインでは、単一の設計案にとどまらず複数案を提示してくれるという特徴があります。

とは言え入力された条件に従うだけで良ければ、それこそ数限りない設計案を作成することができるでしょう。しかし、コンピューター任せでランダムに設計をしてしまうと、現実的な課題にそぐわないものができてしまう可能性があります。そこで重要となるのが「評価」です。

実際に事務所として快適かつ機能的に利用するためには、日差しの入り方や空気の流れ、使用者の動線などを考慮する必要があります。ジェネレーティブデザインでは、このような「満たすべき要件」をポイントで評価し、設計案ごとにランキングをつけていきます。

コンピュータ内部で生成された第一段階の設計案の中から、ランキング上位のものだけを残し、それらを元に遺伝的アルゴリズムを使ってさらにブラッシュアップした設計案を作成していきます。
このステップを繰り返すことで、「より良い設計案」を生成していきます。

中には「豪華な内装」と「コスト」のように、トレードオフの関係にある評価項目もあります。これに関しては複数のプランを提示することで、人間がどの評価項目に重きを置くかを判断し、調整を測ることができます。

例え話に置き換えてみましょう。とある設計事務所でコンペを開くような感じを想像してみてください。

クライアントからの依頼があり、土地の広さ・部屋の数・窓の数など、具体的な条件が示されています。もちろん、法令に従うなどの基本的な要件も考慮し、複数のスタッフに対して設計プランを出すように指示します。

数日後、スタッフごとに個性的でユニークな設計プランが提出されてきます。それぞれに対して、いくつかの評価項目を設定し審査を実施し、有望なプランを残します。
そこであなたは再度スタッフに指示をします。

「この2つのプランは、それぞれにいいところがあるので、お互いに参考にしながら再度提出するように。」

このように「設計プランの提出」「評価」「再提出」を繰り返すことで、最終的なプランを練り上げていきます。
 
もし、人間がこのような過程を忠実に辿るとしたら、膨大な時間と手間がかかることでしょう。しかしジェネレーティブデザインならば、あっという間に仕上げてくれるという訳です。

ここで人間がやることは、「必要な条件の入力」「設計に必要なロジックの定義」「評価する指標の定義」だけです。あとはコンピューターが膨大な計算を実施し、有望な設計プランを複数出力してくれます。
設計事務所の社長が「必須条件はこれこれで、こんな感じに仕上げてね」って丸投げするようなものです。とても楽であることは想像できます。

さらにジェネレーティブデザインの特徴として、「人間が考えつかないデザインを出力することがある」と言う点があげられます。

どうしても人間の設計士やデザイナーの場合、自分の持つ経験や知識・センスの範囲でしかデザインを作成することができません。しかし、コンピューターにはこのような制約がありません。「常識がない」と言っても良いでしょう。
そのためジェネレーティブデザインで作成されたものの中には、とても人間が思いつかないような特徴的なデザインがあります。曲線で構成された有機的なデザインなのに、構造的に全く問題ない椅子の例などが有名です。

ジェネレーティブデザインのメリットをまとめると次のようになります。

 ・設計プロセスを飛躍的に効率化、スピードアップできる
 ・複数のプランが得られるので、比較検討の幅が広がる
 ・人間では思いつかないようなユニークなデザインができる(ことがある)

他にも、コンピューターによるデザイン支援として「トポロジー最適化」と呼ばれる手法もあります。この手法は、基本的に人間が設定した条件に応じて、コンピューターが最適なデザインを提案するという部分はジェネレーティブデザインと共通しています。
しかし「トポロジー最適化」では、デザインのベースはあくまで設計者のイメージする形状であり、単一のモデルしか出力しないという部分が大きく異なります。
そのためジェネレーティブデザインの方が、より進化したデザイン支援ツールと言えるでしょう。

ここではジェネレーティブデザインの説明として、主に建築設計を例としました。しかし、実際には土木設計や工業設計などはもちろん、画像・サウンド・アニメーション、Webデザインなど幅広い応用が可能です。*注1

遺伝的アルゴリズムとは

ではここで、ジェネレーティブデザインに用いられている「遺伝的アルゴリズム」について、わかりやすい事例をあげながら説明していきましょう。

遺伝的アルゴリズムは、生物が遺伝子を変化させながら環境に適応し、生存に適した性質を身につけてきた進化の手法をコンピュータープログラミングに取り入れたものです。
与えられた課題に対して方程式を立てて解くような手法と異なり、「ランダム」や「偶然」をうまく利用したアルゴリズムです。

具体的な例をみていきましょう。

〇×式で回答できる50問の試験があるとします。運転免許試験のようなものだと思ってください。90点以上を合格とし、遺伝的アルゴリズムで試験にパスするようなモデルを構築していきましょう。

まず、コンピューターには「全くランダムに50個の〇と×をセットしたモデル」を大量に生成させます。一つひとつのモデルが遺伝子のようなものであり、50個の遺伝情報で構成されています。
もちろん完全にランダムですから、合格・不合格もバラバラに存在します。

次のステップとして、80点以上を取ったモデルだけを残します。ただし、それぞれのモデルは個別の設問に対する正解・不正解は知らされません。どの問題が正解だったのか、どれが間違えているのかはわからない状態のままです。
その状態でそれぞれのモデルをベースとし、ランダムに〇×の一部を他のモデルと交換する操作を実施し、第二世代のモデルを生成していきます。
ここでは80点以上を取った「優秀なモデル」であるため、高い確率で正解数が増加していくことが期待できます。

この第二世代のモデルでも同様に採点を実施し、さらに遺伝情報を交換する、といった操作を繰り返すことによって、だんだんとこの課題に対して正解率の高い個体を残すことができると考えられます。
以上が「遺伝的アルゴリズム」をざっくりと説明した内容になります。

ここで注目すべきは、各個体は「どの設問に正解し、どの設問が不正解だったか」という情報を持たない点です。もちろん、設問の意味や内容についても全く考慮していません。
単に条件を満たす個体をもとに世代を重ねていくうちに、理想の状態に近づいていることです。

このように、自然界で私たち生物が環境に適応してきたプロセスをアルゴリズムとして採用することで、従来の手法では解決できない課題に対して、効率よく適したモデルを構築することができる。それが遺伝的アルゴリズムの大きな利点です。

ただし、遺伝的アルゴリズムにもいくつかの欠点は存在します。

早い段階で一定の条件を満たすモデルが偶然登場すると、進化が終息してしまい目標とする水準まで到達しないケースや、本来は排除したい「不利な遺伝子」がある条件の元では、排除されずに残ってしまうケースなどが知られています。

このような個別のケースについては、回避する手法も考えられており、目的に応じて精度を高めていく事ができます。このようにして、本稿で取り上げたジェネレーティブデザインをはじめとする、多くのアプリケーションを支えるコア技術として、遺伝的アルゴリズムは活躍しています。

※今回取り上げた例では、2の50乗の異なるモデルを生成すれば、その中の1つは100点
満点を取ります。その時点で最良のモデルが確定する訳ですが、遺伝的アルゴリズムではずっと少ないモデルを生成・進化させることによって、より良いモデルを作ることになります。

パラメーターが50個よりも遥かに大きいモデルを考慮する場合、P≠NP予想で知られるように「現実時間で処理不可能」になっていきます。このような課題に対しても遺伝的アルゴリズムは有効となるため、大きな特徴であると言えるでしょう。*注2

デザイナーの仕事は今後AIに取って代わられてしまうのか

これまで人間にしかできないと思われていたクリエイティブな分野へ、AIが続々と進出しています。一方で建築設計分野ではバウハウス、ル・コルビュジエ、安藤忠雄、黒川紀章など、独自のデザインで歴史に名を残している人物や組織、ムーブメントがあります。
今後はこのような有名建築家は姿を消し、AIにとって変わられるのでしょうか?

現時点では、それほど心配することはないでしょう。むしろ、条件さえ設定すれば大量のデザインプランをあっという間に提案してくれる、優秀なアシスタントがいる状態と言えます。そのプランの中から何を優先するのかは、人間が決めることができます。

もちろん、AIが出力したプランをベースに独自のアレンジを加えて再設計するなど、いくらでも独自性を出すことが可能です。時には思いもよらないプランの提示がヒントとなり、新しい可能性を切り開くことにも繋がっていくでしょう。

どんなに進化したAIであっても、人間のセンスや感性、感情を完全に代替することはできません。AIは人間のクリエイティブを支援し、スピードアップや効率化を助ける非常に強力なツールであり、それをどう活かすかが私たち人間の重要な役割です。

時間のかかる雑務や試行錯誤の部分はAIに任せ、より本質的なデザインに集中することができると捉え、積極的に活用していくことが重要であり、AIの進化した現代でも、未来に名を残すような偉大な建築家は数多く登場してくることでしょう。
私は人間の創造性は、まだまだAIを凌駕していると信じています。

【まとめ】
本稿では、「ジェネレーティブデザイン」と「遺伝的アルゴリズム」について、できるだけわかりやすく解説をしていきました。イメージしやすさを優先しているため、一部厳密ではない部分もありますが、その点についてはご了解ください。
ここ最近の話題として欠かせないAI関連の知識として、なんとなくでも理解が進めば幸いです。

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■参考文献
注1
応用技術株式会社 「建築設計における Generative Design の適用について」
https://www.apptec.co.jp/technical_report/pdf/vol30/treport_vol_30-02.pdf

Zenn 「Generative Design in Revit を始めよう」
https://zenn.dev/tkusaka/articles/3cd9c26a37b635

INTERSTING ENGINEERING ”Generative Design Proves that “The Future is Now” for Engineers”
https://interestingengineering.com/innovation/generative-design-proves-that-the-future-is-now-for-engineers

注2
パーソル クロステクノロジー 「遺伝的アルゴリズムとは?用いられる場面やアルゴリズムの欠点を徹底解説!」
https://staff.persol-xtech.co.jp/corporate/security/article.html?id=63

大阪市立大学 「遺伝的アルゴリズムの基礎」
https://www.econ.osaka-cu.ac.jp/~hashimo/Genetic.pdf

学研 学びTimes 「P≠NP予想の主張の解説」
https://manabitimes.jp/math/762

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