建設分野でも大活躍の3Dスキャナー 測量作業の効率・質・安全性を向上
測量作業の効率・質・安全性を大幅に向上させる新技術として注目を集めているのが、「3Dスキャナー」です。3Dスキャンにより取得できる点群データは、3Dモデルの作成やCAD化に活用され、様々な方法で利用されています。
様々な分野で既に導入されている技術ですが、まだ触れたことがないという方も多いのではないでしょうか。今回は、3Dスキャナーの特徴や、3Dスキャナーによる測量のメリット・活用事例を紹介します。測量作業の効率・質・安全性を向上させたいという方は、ぜひご覧になってみてください。
様々な分野で活用されている3Dスキャナー
3Dスキャナーは、生産性向上に向けたICT活用の一環として、様々な分野で取り入れられている新技術です。ここでは、3Dスキャナーの概要についてみていきましょう。
そもそも3Dスキャナーとは
3Dスキャナーとは、レーザーやセンサーを用いて対象の形状、外観を3Dデータとして取得する機器です*1。なかでも、高速で高精度な測定が可能な「3Dレーザースキャナー」が広く活用されています。
3Dレーザースキャナーは、レーザーを放射状に照射し、対象に反射されたレーザーの反射時間や角度から表面形状の3次元座標を取得します。対象物の凹凸や障害物によりレーザーを照射できない部分がある場合は、複数の3Dレーザースキャナーで照射範囲を補い、取得データを重ね合わせることで全体のモデルを再現することが可能です。
3Dレーザースキャナーを使うことで、高密度の点群データを取得することができます。点群データは様々な分野で活用方法が検討されており、今後もさらなる生産性向上への貢献が期待できる情報技術です。
様々な分野で活躍している3Dスキャナー
ここでは、様々な分野における3Dスキャナーの活用事例を紹介します*2。建築分野における活用事例については後に譲るので、そちらを参考になさってください。
・プラント・工場
プラントや工場では、3Dレーザースキャナーで取得した点群データを施設のメンテナンスなどに活用しています。古い施設の機械や配管の配置は、図面に残っていないケースが少なくありません。施設の更新や改修の際は、調査会社に依頼して図面化するのが一般的でした。近年は、3Dレーザースキャナーで現況を点群データとして取得し、CAD化するなどしてプロジェクトに展開しています。
・製造
製造業では、リバースエンジニアリングと呼ばれる手法で3Dレーザースキャナーが活用されています。リバースエンジニアリングとは、既存の製品を分析・解析し、製造方法や動作原理などを明らかにする手法です。3Dレーザースキャナーにより、対象を分解せずとも高精度な測定が可能になり、リバースエンジニアリングの精度・効率が向上しました。
・医療
医療分野では、3Dレーザースキャナーを活用して人体を3Dモデル化しています。義足や義手を製造するときは、迅速かつ高精度のスキャンにより、患者への負担を増やすことなく最適な形状の実現に寄与しています。
3Dスキャナーによる測量のメリット
活用事例からわかるとおり、3Dスキャナーが得意としているのは、計測・測量作業です。ここでは、3Dスキャナーによる測量のメリットを紹介します*3。
効率の向上:作業時間の削減
3Dレーザースキャナーを活用すると、測量の作業時間を削減することができます。例えば、建設業における現地測量の場合、従来は複数の作業員が数日にわたって作業を行っていました。3次元レーザースキャナーを活用すると、点群データの密度にもよりますが、数十分でデータの取得が完了します。
質の向上:様々なデータの取得
3Dレーザースキャナーを活用した測量では、従来の作業では難しかった情報も取得することができます。例えば、土木工事で掘削を行う場合、土の表面形状を読み取ることで、掘削土量などをリアルタイムに把握することが可能です。
また、現地に草や細かな障害物などがある場合には、点群データをフィルタリングすることで、草などをノイズとして除去することができます。従来は草などを除いた地表面の形状を把握するのは困難でしたが、3Dスキャナーとフィルタリングの技術により、簡単に実現できるようになりました。
安全性の向上:機械による作業
3Dスキャナーによる測量は、安全性の高さも魅力のひとつです。従来の物理的な測量と異なり、対象物に近づくことなく、また、触れることなく測量することができます。そのため、崖や汚染エリアといった危険な場所への立ち入りが不要になり、作業の安全性が向上します。
建設分野における3Dスキャナーによる測量の活用事例
3Dスキャナーによる測量は、生産性向上の必要性が叫ばれている建設分野でも活用されています。ここでは、建築・土木分野における活用事例を紹介します。
既存建築物の測量
建築分野では、既存建築物の測量において3Dスキャナーが活用されています。特に注目されているのが、「歴史的建築物の分析」と「改修工事」における活用です。
・歴史的建築物の分析
清水建設は、永平寺伽藍内の重要文化財19棟について点群測量によるデジタルツインの制作を行いました*4。歴史的建築物の多くは、図面類が十分に整備されていません。清水建設は、これらの歴史的建築物のあり様を後世に残すことを大手建設会社の責務と考えているとのことです。歴史的建築物は、優れた建築としてだけでなく、歴史・文化・伝統といった観点でも大きな意義があるものなので、デジタルアーカイブは教育などでも活用されていくことでしょう。
・改修工事
日本では、温室効果ガスの排出量を削減するため、建物の省エネ化が進められています*5。既存建築物に関して定められている目標は、「改修工事によって2030年までに一次エネルギー消費量を半減させること」です。そのため、近年は改修工事の需要が高まっています。改修工事を実施するには建物の現況を詳細に把握する必要がありますが、図面が保存されていない建物も多く存在することがひとつの課題です。その課題を解決するため、3Dスキャナーによる3次元測量が注目されています。
土量計測
土木分野では、3次元点群処理ソフトを活用した施工土量計測システムが開発されています*6。従来は、掘削面の幅と高さを現地で測量し、断面モデルを作成してから断面積を算出することで土量を計算していました。リアルタイムで状況を把握するのに大きな手間がかかっていましたが、点群データの活用により手軽に実現できるようになっています。
3次元レーザースキャナーで取得した点群データを活用すれば、地表面を3次元解析することで土量を即座に算出することが可能です。手作業の測量やモデル作成、計算といった作業が不要なので、施工管理において大きな生産性向上に繋がります。取得した土量情報は、土量計算、進捗管理、運搬計画などに展開されています。
トンネル内の計測
トンネルの建設は、大きな危険を伴います。壁面の崩壊の危険性をいち早く把握するためにも、内空変位の計測が欠かせません。そこで開発が進められているのが、3Dレーザースキャナーを活用した断面形状変化の測定技術です*7。
トンネル壁面を高密度の点群で解析することで変位を測定し、地山が脆弱な部分などで懸念される大変位を即座に検知することができます。施工管理の生産性向上だけでなく、安全性の確保といった観点でも重要な技術です。
おわりに
3Dスキャナーは、測量作業の効率・質・安全性を向上させることができます。建設分野でも、掘削工事の生産性向上や、トンネル工事の安全性の確保、さらには改修工事における設計の質の向上のために活用されています。測量作業の効率・質・安全性についてお悩みの方は、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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注釈
*1
出所)株式会社岩崎「3次元レーザースキャナ」
https://www.iwasakinet.co.jp/iwasaki-solution/3d-measurement/3dls/
*2
出所)クモノスコーポレーション株式会社「3Dレーザースキャナーの活用事例12選!多種多様な業界の実例を紹介」
https://kumonos.co.jp/media/3d-laser-scanner-casestudy/
*3
出所)京津測量株式会社「「3Dレーザースキャナー測量」で新たなステージへ。」
https://keishin-survey.co.jp/technology/survey-measurement/3d-laserscanner-measurement/
*4
出所)清水建設株式会社「デジタル技術で大本山永平寺の重要文化財群を大解剖!」
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2024/2024004.html
*5
出所)日本建築学会「既存建築物の改修工事における3次元スキャニングの活用に関する研究
-設備改修を対象として-」pp.1-4
http://news-sv.aij.or.jp/jyoho/s1/proceedings/2012/pdf/H23.pdf
*6
出所)福井コンピュータ株式会社「3次元点群処理ソフト( TREND-POINT)を用いた施工土量計測システム」pp.2-5
https://www.kkr.mlit.go.jp/plan/ippan/kensetsugijutsuten/ol9a8v000001uby2-att/a1572394549858.pdf
*7
出所)安藤ハザマ「三次元レーザースキャナトンネル変位計測システム(3D-ラスタム)」