3Dスキャナのデータ変換入門|よくある形式と変換手順を解説
1. はじめに
3Dスキャナは、現実の物体や空間の形状・寸法をデジタルデータとして正確に取り込める技術です。ものづくりや建築、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)、AR/VRなど、さまざまな分野で活用が広がっており、初心者の方も耳にする機会が増えているのではないでしょうか。
しかし、3Dスキャナで取得したデータは、そのままでは用途に応じて使えないことがほとんどです。たとえば、スキャンによって得られる点群データをCADソフトで編集するには、STEP形式などに変換する必要がありますし、3Dプリント用に使いたい場合は、メッシュデータをSTL形式で最適化しなければなりません。
つまり、スキャンした後の「データ変換」は、3Dスキャナを活用するうえで欠かせない重要な工程なのです。
本記事では、3Dスキャナで得られるデータの種類や特徴、変換が必要な理由、そして実践しやすい変換手順やツールについて解説します。専門用語には補足を加えながら、なるべくシンプルな言葉で説明していますので、初めての方でも安心して読み進めていただけます。
スキャンしたデータをどのように加工・変換すれば、自分の目的に合った成果物が得られるのか。この記事を通じて、その全体像をつかんでいただければ幸いです。
2. 3Dスキャナデータの基本
3Dスキャナから取得できるデータは、大きく分けて「点群データ」「メッシュデータ」、そしてそれらをもとに作られる「CADデータ」に派生させることができます。それぞれの特徴や違いを理解しておくと、どのように変換・活用すればよいかが見えやすくなります。
この章では、まず3Dスキャナとはどのような装置なのかを確認し、続いて出力されるデータ形式についてわかりやすく解説します。これらの基本を押さえておくことで、後の変換手順の理解が格段にスムーズになります。
2.1. 3Dスキャナとは何か?
3Dスキャナとは、物体の形や寸法を非接触で読み取り、3次元の位置情報として記録する装置です。一般的にはレーザーや光学カメラ、赤外線などを用いて、対象物の表面の位置を計測します。たとえば、レーザー式では対象にレーザーを当てて跳ね返るまでの時間を測定し、形状を把握します。構造光(ストラクチャードライト)を使った方式では、投影したパターンの変形を読み取ることで形を捉えます。
こうして得られるデータは、無数の「点」の集合で構成されます。各点にはX・Y・Zの座標情報があり、場合によっては色(RGB)情報や反射強度が含まれることもあります。これを「点群データ」と呼びます。点群データは、スキャナ本体に付属する専用ソフトウェアや、外部のオープンソースツールを使って抽出・確認できます。
3Dスキャナは種類によって精度や対応範囲が異なります。産業用の高精度スキャナはミクロン単位の測定が可能ですが、家庭向けやスマートフォンに搭載された簡易スキャナは、手軽な反面、解像度や正確性はやや劣ります。そのため、どのような目的で使うかによって、スキャナの選定が重要になります。
たとえば、製品開発や品質管理など精密さが求められる現場では高精度モデルが適していますし、建築物の形状把握や空間記録など広範囲な対象では、レーザー測量タイプのスキャナが選ばれることもあります。
3Dスキャナを使うことで得られる最大のメリットは、実際の対象物を素早く・正確にデジタル化できることです。このため、リバースエンジニアリング(既存製品の再設計)、寸法計測、3Dプリントなど、さまざまな分野で欠かせないツールとして活用されています。
2.2. 3Dスキャナデータの形式
3Dスキャナで取得される代表的なデータ形式には、「点群データ形式」と「メッシュデータ形式」があります。まず、点群データとしてよく使われるのが、XYZ形式やE57形式です。
XYZファイルは、各点のX・Y・Z座標を単純に並べたテキスト形式で、人が読んでも理解しやすいという特徴があります。ただし、色や反射強度などの付加情報は基本的に含まれていないため、シンプルですが用途は限られます。
一方、E57ファイルは、より大規模で詳細な点群を扱える標準規格で、座標情報に加えてカラーデータやメタデータ(スキャナの設定やセッション情報など)を含めることができます。多くの商用・オープンソースツールがこの形式に対応しており、特に建築や測量分野で広く使われています。
点群データは、そのままでは視覚的な形状としては認識しづらいため、三角形などの面で繋ぎ合わせて「メッシュデータ」として再構築することが多くあります。このときによく用いられる形式が、STLファイルやOBJファイルです。
STL(Stereolithography)形式は、3Dプリンター用のデータとして最も広く普及しており、形状を三角ポリゴンで表現します。色やテクスチャといった情報は含まれませんが、構造がシンプルで軽量なため、出力向けには非常に適しています。
OBJ形式は、形状のほかにマテリアルやテクスチャ情報を別ファイルとして管理できるため、CGやゲーム開発など、ビジュアルの再現性が求められる分野でよく使われます。PLYやFBXなど、ほかにも用途に応じたメッシュ形式が数多く存在します。
さらに、スキャンした形状をCADソフトで編集・再設計したい場合には、STEP形式やIGES形式への変換が必要になります。これにより、ソリッドモデルとして寸法の編集やパーツ設計が可能となり、工業製品の設計・解析などに活用できます。
このように、取得したデータをどの形式に変換すれば目的を果たせるかを把握することが、3Dスキャナの真価を引き出すカギとなります。
■3Dスキャナで扱われる主なデータ形式とその特徴一覧
データ形式 | 種類 | 主な用途 | 特徴・備考 |
XYZ | 点群 | 測量、簡易点群処理 | シンプルなテキスト形式、座標のみで軽量 |
E57 | 点群 | 建築・土木、BIM | メタ情報を含む標準規格、ツール互換性が高い |
STL | メッシュ | 3Dプリント | 軽量、色情報なし、三角ポリゴンで構成 |
OBJ | メッシュ | CG・アニメーション | テクスチャやマテリアルを扱える、汎用性が高い |
PLY | メッシュ | 研究、可視化 | 色や法線情報を保持、可読性あり |
STEP | CAD | 機械設計、製品開発 | ソリッドデータ、寸法編集に対応、業界標準 |
IGES | CAD | 曲面形状の設計など | 古くからあるCAD中間形式、互換性重視 |
3. データ変換の必要性
3Dスキャナの普及により、多くの業界で立体データを活用する機会が増えています。しかし、スキャナの種類や使用するソフトウェアによって、出力されるデータ形式はまちまちで、共通の規格がないのが現状です。そのため、スキャンして得たデータを目的に合った形式に変換する「データ変換」というステップが欠かせません。
変換作業は単なるファイル形式の切り替えではなく、「どのように使いたいか」という目的に応じて、必要な情報を整理・最適化するプロセスでもあります。たとえば、特定のソフトウェアしか対応していない形式に変換したり、大容量の点群データを扱いやすいサイズに縮小したりといった調整が必要です。
変換を行わないままでは、せっかくスキャンしたデータも活用の幅が狭まってしまいます。たとえば、メッシュデータは3Dプリンター向きですが、設計ソフトでは扱いにくく、再編集ができない場合もあります。一方で、BIMやVRに利用したい場合は、軽量かつ構造的な整合性が求められるため、適切な形式への変換が必要不可欠です。
このように、目的や作業環境に応じて柔軟に変換を行うことで、3Dスキャナで得られたデータを最大限に活用できるようになります。形式の違いを理解し、適切に変換する知識は、スキャンデータを有効に使うための基礎スキルといえるでしょう。
3.1. 変換が必要な理由
データ変換が求められる最も大きな理由は、使用するソフトウェアによって対応可能なファイル形式が異なるからです。たとえば、スキャン直後の点群データは、そのままでは多くのCADソフトでは読み込むことができません。また、逆に、CADで作成したモデルをスキャンデータと比較したい場合も、共通の形式に変換する必要があります。
さらに、用途に応じてデータの「最適化」も求められます。たとえば、VRやARで使いたい場合は、容量が大きすぎる点群データでは動作が重くなってしまいます。そのため、軽量な形式への変換や、必要な部分だけを抽出して使う工夫が必要です。一方で、リバースエンジニアリングなどの精密作業では、情報の簡略化は避けなければなりません。用途ごとのバランス感覚が重要です。
また、特定の属性情報を保持するためにも、適切な形式選びが重要です。たとえば、STL形式には色やマテリアルといった情報は含められませんが、OBJ形式ならこれらを別ファイルとして管理することが可能です。したがって、ビジュアルに重点を置く場面ではOBJのような形式が好まれる傾向にあります。
さらに、スキャナの精度が高いほど、点群の点数も多くなり、ファイルサイズが大きくなる傾向があります。とくに建築測量や地形データでは数百MB、場合によっては数GB単位のファイルが生成されることもあります。こうした大規模データを効率よく扱うためにも、形式の変換と軽量化の技術が必要になります。
3.2. データ変換の目的とゴール
データ変換の最終的な目的は、使用したいソフトウェアやハードウェアで問題なく読み込み・編集・出力ができる「使えるデータ」を作ることです。変換のゴールは作業目的によって大きく異なり、それによって必要となるファイル形式や前処理の内容も変わってきます。
たとえば、3Dプリントを前提とする場合には、STL形式で三角ポリゴンの面が正確に閉じていることが求められます。メッシュに穴が空いていたり、重なりがあると出力エラーの原因になります。一方で、設計・製造用途で再編集を行うためには、STEPやIGESといったCADに適した形式に変換して、パラメトリックな編集ができるようにしておく必要があります。
建築分野やBIMでの利用を想定する場合は、Autodesk ReCapなどを使って点群からIFCやRCP形式へ変換することが一般的です。これにより、建物の形状や空間情報を建築モデルに正確に反映させることが可能になります。
また、CG制作やゲーム開発などでは、OBJやFBXのようにテクスチャやマテリアル情報を扱える形式が主に使われます。これらの形式は視覚的な美しさが求められる分野に適しており、表示品質の高さと柔軟な編集機能が特徴です。
どの形式であっても、変換の途中にはノイズ除去やリトポロジー(形状を滑らかに整える処理)などの前処理が必要になるケースが多く、また、変換後には情報が欠損していないか、ファイルが正しく開けるかなどの検証も欠かせません。
まずは小規模なデータを使って試行錯誤しながら変換を練習し、次第に大きなデータや複雑な変換にも対応できるスキルを身につけていくことが、実践的なステップアップの道となります。
4. データ変換の一般的な手順
ここでは、3Dスキャナで取得した点群データを、最終的に必要な形式に変換するまでの一般的な流れを紹介します。使用するスキャナやソフトによって細かな操作は異なりますが、大まかなステップは共通しており、初期データの品質をなるべく損なわず、目的に応じた情報をきちんと引き継ぐことが重要です。
データ変換の工程は、ただ形式を変えるだけではありません。不要な点を取り除いたり、形状の欠損を補ったり、より軽量で扱いやすい状態に整えたりと、多くの前処理が含まれます。逆にこの工程を丁寧に行えば、仕上がったデータはその後の作業で非常に扱いやすくなります。
本章では、スキャンから前処理、そして最終形式への変換まで、初心者の方にも実践しやすいステップを順を追って解説していきます。
4.1. スキャンと初期データ処理
変換の第一歩は、対象物を3Dスキャナでスキャンし、点群データを取得することです。スキャンによって得られるデータは、非常に細かく、数百万〜数千万点の座標情報から構成されています。まずは、スキャナ付属のソフトウェアや、MeshLab、CloudCompareなどの無料ツールを使って、データを読み込み内容を確認しましょう。
スキャン直後のデータには、背景や床、周囲の不要な物体なども含まれており、そのままではノイズが多い状態です。これを手動や自動のフィルター処理によって取り除き、対象物だけを抽出します。また、複数回に分けてスキャンした場合は、それぞれの点群を正確に位置合わせ(アライメント)し、一体化する工程が必要です。
この段階では、全体のデータ密度や精度を確認することも重要です。建築や測量のような大規模スキャンでは、ファイルサイズが数百MBから数GBに達することもあります。その場合、不要な点を間引く「ダウンサンプリング」という処理でデータを軽量化します。逆に、精密さが求められる製品スキャンなどでは、あえて情報量を減らさず、解像度を保ったまま次の工程に進む判断も大切です。
また、欠損部分が大きい場合は、追加のスキャンを実施してデータを補うことも検討しましょう。初期の点群データの精度が高ければ高いほど、その後の変換工程はスムーズかつ効率的に進められます。
4.2. データの前処理とメッシュ生成
スキャンデータの不要な部分を除去し、全体の整合性を確保したら、次は点群を実用的な形に変える「前処理」と「メッシュ生成」のステップへ進みます。
前処理には、さまざまな作業が含まれます。たとえば、ノイズ除去によって無関係な点を消したり、スキャン漏れによる穴(欠損箇所)を自動的に補完したりすることが必要です。また、点群の密度がバラついている場合には、リトポロジーと呼ばれる処理を使って、ポリゴン構造を整理し直すこともあります。
リトポロジーとは、点の配置に応じて三角形や四角形の面を再構成し、なめらかで均一なメッシュに変換する作業のことです。これにより、凹凸の少ない綺麗な表面形状が得られ、後の編集や変換がしやすくなります。とくにリバースエンジニアリングやアニメーション用途では、整ったメッシュ構造が求められるため、重要な処理のひとつです。
前処理がある程度完了した段階で、一度STL形式やOBJ形式などに仮出力し、他のソフトで読み込んでみると、不具合がないかチェックできます。この時点で座標系やスケール、原点の位置なども確認しておくと、後のトラブルを防ぐことができます。
点群からメッシュへの変換には、「Poisson Surface Reconstruction」や「Ball Pivoting Algorithm」などの手法が用いられます。どちらも点の分布から面を生成する技術で、目的や形状に応じて使い分けが可能です。多くのソフトには自動メッシュ生成機能が搭載されており、ガイドに沿って操作すれば初心者でも扱いやすくなっています。
4.3. 最終形式への変換
前処理を終えてメッシュデータが完成したら、いよいよ目的に応じた「最終形式」への変換を行います。この工程では、使用したいソフトウェアやデバイスの仕様を意識しながら、適切な形式を選び、必要な情報を保ったまま書き出すことが重要です。
たとえば、3Dプリンターで使用する場合には、STL形式でポリゴンがしっかり閉じていることが必須です。穴が空いたり、ポリゴンが裏返っていたりすると、プリント時にエラーが発生する原因になります。逆に、CAD編集を目的とする場合には、STEP形式やIGES形式など、ソリッドモデルとして扱える形式が望ましいです。
建築やBIM用途では、Autodesk ReCapで点群をRCP形式に変換したり、IFC形式を使ってRevitなどのBIMソフトと連携させる方法が一般的です。こうした形式は、建物の構造や寸法情報を正確に反映させるための規格として広く使われています。
一方、CG制作やVR/ARでの活用を考える場合には、glTFやFBXのように、テクスチャやアニメーション情報を扱える形式が適しています。OBJ形式も汎用性が高く多くのツールに対応していますが、シーンが大規模になると扱いが重くなるため、必要に応じて軽量な形式を選ぶと快適に作業が進められます。
変換後には、必ずデータを読み込んで確認しましょう。見た目が崩れていないか、座標系が合っているか、テクスチャが反映されているかなど、想定どおりに表示されるかを細かくチェックします。もし問題があれば、前処理や書き出し設定を再調整し、もう一度変換を試みることが大切です。
このように、最終形式への変換は「どの形式で仕上げるか」だけでなく、「変換後にどう使うか」を見据えた設計が求められるステップです。活用目的を明確にし、最適な形式を選ぶことで、3Dスキャンデータの可能性は大きく広がります。
5. 変換時の注意点とトラブルシューティング
3Dスキャナで取得したデータを目的に合わせて変換する際には、思いがけないエラーやトラブルが発生することがあります。せっかくスキャンから前処理、メッシュ化までうまく進んでも、変換後のデータが使い物にならなければ意味がありません。そのため、変換プロセスでは「何が起こりやすいのか」「どう対処すればよいか」をあらかじめ理解しておくことが重要です。
この章では、変換時によくある問題とその解決策、そして変換後も品質の高いデータを維持するための具体的なポイントについて解説します。変換の失敗を減らすことで、スキャンから最終活用までの流れがスムーズになり、作業全体の効率も向上します。
初心者のうちは変換作業に手間取ることもあるかもしれませんが、よくあるミスや注意点を知っておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。ここで紹介するポイントを押さえて、安定した変換作業を目指しましょう。
5.1. 一般的な問題と解決策
変換作業中に最も多く寄せられるトラブルのひとつが、「変換したファイルが開けない」というものです。これは、ファイルの拡張子が正しくても中身の構造が対応していないケースや、読み込む側のソフトがその形式をサポートしていない場合に起こります。このようなときは、MeshLabやCloudCompareのような汎用性の高いツールを間に挟んで、いったん他形式に再変換すると解決することがあります。
次によくあるのが、モデルの形状が崩れている、あるいはポリゴンに穴が空いているといった問題です。これらは、スキャン時にノイズや欠損が多かったり、前処理の段階で補完処理が十分でなかった可能性があります。Poisson ReconstructionやDelaunay Triangulationといった再構築手法を活用し、メッシュを改めて生成し直すことで形状を補正できます。
また、ファイルサイズが大きすぎて読み込みに時間がかかる、あるいはPCがフリーズしてしまうという事態も少なくありません。こうした場合には、メッシュのポリゴン数を減らす「リダクション」や、点群の「ダウンサンプリング」によってデータを軽量化すると、ソフトの負荷を軽減できます。とくにCADや3Dモデリングソフトでは、大きすぎるデータは動作を不安定にする原因になるため注意が必要です。
さらに、変換後にモデルの向きが逆になったり、位置がずれてしまったりすることもあります。これは、ソフトウェアごとに採用している座標軸や原点の定義が異なるために起こる現象です。インポート時に軸の向きや座標原点を調整したり、モデルを回転・反転させる設定を見直すことで、正しい表示状態に修正することができます。
このように、トラブルにはいくつかの共通パターンがあり、それぞれに対応策があります。問題が発生した際には慌てずに、原因を切り分けながら一つずつ確認していくことが大切です。
5.2. データ品質の保持と最適化
データ変換の目的は、単に形式を変えることではなく、「使いやすく、かつ必要な情報がしっかり保たれた状態でデータを引き渡すこと」です。そのためには、変換後の品質を意識しながら、用途に合った処理や最適化を行う必要があります。
たとえば、リバースエンジニアリングや精密な計測が求められる場合には、メッシュをむやみに簡略化するのは避けるべきです。ポリゴン数を落としすぎると、細部の形状が失われたり、設計時に重要なエッジが曖昧になってしまう可能性があります。こうした用途では、あえて重めのデータを保持したまま扱う判断も必要になります。
一方で、VRやAR、あるいはモバイル向けアプリなどのリアルタイム表示を目的とする場合には、ファイルサイズの軽さが重視されます。高密度な点群や複雑なメッシュをそのまま使うと、処理負荷が高まり、動作が遅くなる恐れがあります。こうしたケースでは、ポリゴンの簡略化や、テクスチャの解像度を調整するといった最適化が効果的です。
CloudCompareなどのツールを活用すれば、点群やメッシュの整形・削減を視覚的に確認しながら調整できるため、目的に応じた最適なバランスを見つけやすくなります。また、同じモデルでも複数の変換バージョンを用意し、用途ごとに使い分けるのも効率的な方法です。
CAD向けに変換する際には、輪郭線や曲面の精度にも注意が必要です。STEPやIGESへの変換では、NURBS(滑らかな曲線)やソリッド情報が正しく維持されているか確認しましょう。変換時に一部の面やエッジが欠損していると、後工程でパーツの組み立てや寸法修正ができなくなり、大きな手戻りを招く恐れがあります。
仕上げとして、変換後のデータを実際にソフトに読み込んでみて、見た目や編集操作に問題がないかを確認しましょう。表示の崩れ、スケールの違い、欠損部分などをチェックし、必要に応じて変換条件を再調整します。最終的には、プロジェクトでの活用に耐えうるかどうかを目視と検証で確認することが、品質確保のうえで非常に大切です。
6. データ変換ツールとソフトウェア
3Dスキャナで取得したデータを変換するには、専用のツールやソフトウェアの力を借りる必要があります。変換処理には、点群データの整理、メッシュの作成、不要な部分の除去、そして最終的なファイル形式への書き出しなど、いくつかの工程があります。こうした作業をサポートしてくれるツールには、無料で利用できるものから、産業用途の本格的な有償ソフトウェアまでさまざまな種類があります。
初心者の方は、まずは無償ツールから試して、データの流れや変換の意味を体感してみるのがおすすめです。慣れてきたら、より高度な変換処理や自動化機能を備えた商用ソフトへのステップアップも検討できます。ここでは、実際に多くの現場で使用されている代表的な変換ツールと、その特徴を紹介します。
ツール選びでは、自分の目的やスキルレベル、変換後に扱うソフトウェアとの互換性、そして予算面までを総合的に考慮することが大切です。また、無料ソフトで作成したデータを商用ソフトで補完したり、その逆も可能なので、複数のツールを組み合わせて活用することも視野に入れるとよいでしょう。
6.1. 無料ツールの紹介
■MeshLab(メッシュラボ)
オープンソースの3Dデータ処理ソフトです。MeshLabは、メッシュデータの可視化・編集・変換に対応しており、STL・OBJ・PLYといったさまざまな形式を扱えます。不要なポリゴンの削除や、穴埋め、ポリゴン数の削減、そしてテクスチャの調整など、基本的な編集作業を無料で行うことができます。直感的な操作ができるインターフェースも魅力で、初心者でも取り組みやすいソフトのひとつです。
■CloudCompare(クラウドコンペア)
オープンソースであり、主に点群データの処理に特化した高機能なツールです。E57やXYZ形式をはじめとした複数の点群フォーマットに対応しており、点群同士の比較や整列、断面抽出、ノイズ除去、そしてメッシュ生成など、多彩な機能を備えています。スキャンデータを元に建築・土木・測量分野で活用したい人にとって、非常に頼もしい存在です。
■Blender(ブレンダー)
もともと3Dモデリングやアニメーションの作成を目的としたツールですが、OBJやSTLなどの形式を扱えるため、データの変換や可視化にも活用できます。メッシュの再編集や、テクスチャの確認、さらにはレンダリングまで可能なので、ビジュアル重視のプロジェクトにはとても向いています。ただし、機能が豊富な分、最初は操作に戸惑うかもしれません。
これらの無料ツールは、コストをかけずに基本機能を学びながらスキルアップできる点が大きな魅力です。とくに初心者にとっては、変換プロセスの全体像を理解するうえで役立つでしょう。また、多くのユーザーが利用しているため、ネット上には操作ガイドやチュートリアル動画も豊富にあり、困ったときにも安心です。
6.2. 商用ソフトウェアの利点
無料ツールでも多くの処理が可能ですが、精度や作業効率、業務への導入という観点から見ると、やはり商用ソフトウェアには大きな利点があります。特に、産業用途でのリバースエンジニアリングや精密な3Dモデリングが求められる現場では、商用ソフトの導入が標準となってきています。
たとえば、「Geomagic Design X(ジオマジック・デザイン・エックス)」は、スキャンデータから直接、フィーチャーベースのCADモデルを作成できる代表的なソフトです。点群から自動で面やエッジを抽出し、寸法や形状をもとに3Dソリッドモデルを作成できるため、設計現場での再利用やリバースエンジニアリングに非常に向いています。STEP形式やIGES形式など、CADで扱いやすい形式への変換もスムーズに行えます。
同じく業務用途で活躍するのが「PolyWorks(ポリワークス)」です。測定機器との連携に優れ、精密な点群解析や品質検査、寸法比較など、計測分野に特化した機能が充実しています。データの正確性が問われる製造業や品質保証の場面で多く利用されています。
また、建築や土木分野では「Autodesk ReCap(オートデスク・リキャップ)」が定番です。ReCapはレーザースキャンで取得した点群をBIMソフトへ橋渡しする役割を果たし、RevitやAutoCADとの連携もスムーズです。点群データをRCP形式に変換することで、建築図面やモデルと統合し、設計・改修作業を効率化できます。クラウド連携によって、チーム内でのデータ共有や遠隔地とのコラボレーションも可能です。
商用ソフトはライセンス費用こそ発生しますが、安定した処理性能と専門的な機能、そしてカスタマーサポートやトレーニング環境が整っている点は大きなメリットです。大量のデータを確実に処理したいプロジェクトや、ミスの許されない現場では、業務効率と信頼性の面から導入を検討する価値は十分にあります。
7. まとめ
3Dスキャナを活用するうえで、データの「変換」は避けて通れない重要なプロセスです。スキャンしただけでは、そのまま目的の作業には使えないことが多く、用途に応じて形式を変えたり、前処理を加えたりする必要があります。
この記事では、3Dスキャナで得られるデータの種類から始まり、変換が必要な理由、変換の基本手順、注意すべきトラブル、そして具体的なツールの選び方までを、初心者にもわかりやすく解説してきました。最初は難しく感じられるかもしれませんが、一つひとつの工程を丁寧に理解すれば、スキャンデータを自在に活用できるようになります。
最終的に目指すゴールは、「自分が使いたいソフトやデバイスで、正確に・効率よくデータを使える状態にすること」です。そのためには、変換という作業を単なる形式の置き換えと考えるのではなく、目的に合ったデータを仕上げるための「編集」や「整備」の一環と捉えることが大切です。
本記事が、あなたの3Dスキャン活用の第一歩となり、データ変換の基本を着実に身につけるための参考になれば幸いです。
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<参考文献>
Geomagic Design X リバースエンジニアリング ソフトウエア│製造業向けCAD/CAM/CAEシステムのセイロジャパン
https://www.saeilo.co.jp/products/geomagic-design-x.html
MeshLab
CloudCompare – Open Source project
https://www.danielgm.net/cc/
トップ | Blender.jp
https://www.blender.jp/
Autodesk ReCap Pro ソフトウェア | ReCap Pro 2026 正規品の価格と購入
https://www.autodesk.com/jp/products/recap/overview
STL – Wikipedia