3DスキャンデータをCADで活用!STLからSTEPへの効率的な変換方法
はじめに
製造業やデザイン分野で、3Dスキャン技術は今や不可欠な存在となっています。3Dスキャナーを使って物体の形状をデジタルデータとして取り込むことで、設計の精度を向上させ、製品開発の効率化を実現することが可能です。この技術は、複雑な形状のデータ化や、従来の手作業では難しかった寸法取得にも威力を発揮しています。
しかし、3Dスキャンで得られるSTL形式のデータは、そのままでは設計変更や詳細な解析には向きません。STLはポリゴンデータとして形状を表現するため、寸法情報が欠けており、編集が困難です。これを解決するには、編集可能なSTEP形式への変換が重要です。本記事では、Autodesk Fusion 360を使用して、STLデータを効率的にSTEP形式に変換する方法と、その活用法について解説します。
STLとSTEPの基本概要
3DスキャンやCAD設計で利用される主要なファイル形式であるSTLとSTEPには、それぞれ異なる特徴と用途があります。
項目 | STL(Standard Tessellation Language) | STEP(Standard for the Exchange of Product model data) |
---|---|---|
データ構造 | ポリゴン(三角形の集合) | 編集可能なジオメトリと設計情報 |
用途 | 3Dプリンティング、形状確認 | CAD設計、データ交換、解析 |
特徴 | 寸法情報なし、編集困難 | 寸法情報あり、設計変更や解析が容易 |
互換性 | 限定的(特定のツールのみ対応) | 広範囲(異なるCADソフト間でのデータ交換に対応) |
STLとは
STL(Standard Tessellation Language)は、3Dプリンティングや形状確認など、形状データを扱う用途に特化したファイル形式です。この形式では、物体の表面を三角形のポリゴンの集合として表現します。そのため、形状そのものを視覚化することには適していますが、寸法や設計意図などの詳細な情報は含まれていません。この制約により、設計変更や高度な解析を行う際には課題が生じます。
STEPとは
一方で、STEP(Standard for the Exchange of Product model data)は、製品設計や解析に対応する国際標準フォーマットです。STEP形式の特徴は、寸法情報や設計意図を保持しながら、異なるCADソフト間でのデータ交換を可能にする点にあります。これにより、異なるソフトウェアや部門間でスムーズにデータを共有し、プロジェクト全体の効率を高めることができます。
変換が必要な理由
3Dスキャンで取得したSTLデータは、形状を簡易的に視覚化するのに役立ちますが、編集や設計の再利用には適しません。例えば、以下のような状況でSTEP形式への変換が必要になります:
- 設計変更や再利用の必要性
製品開発プロセスでは、スキャンデータを元に設計変更や詳細なモデリングを行うことが頻繁にあります。STLデータは編集が困難なため、編集可能なSTEP形式が求められます。 - データ統合とコラボレーションの強化
プロジェクトにおいては、異なるツールや部門が関与することが一般的です。STEP形式は幅広いCADソフトで利用できるため、データ統合が容易になります。これにより、チーム間のスムーズな連携が可能となります。 - 製品開発の効率化
編集可能なデータを持つことで、設計やプロトタイピングのスピードが向上します。例えば、製造現場でのCNC加工や干渉チェックを迅速に行うことが可能になります。
STLからSTEPへの変換は、単にファイル形式を変えるだけでなく、データを設計プロセス全体で活用するための重要なステップなのです。
STLからSTEPへの変換が必要なシチュエーション
STLデータを直接利用する場面は限られていますが、STEP形式に変換することで、多様な設計や解析のシーンで活用可能になります。以下に、具体的なシチュエーションを挙げ、それぞれのメリットを解説します。
設計変更が必要な場合
製品開発の現場では、既存デザインを基に新たな設計を行う、またはスキャンデータを利用して設計を改変することがよくあります。例えば、部品の形状を微調整して新製品に適用したり、既存製品に追加機能を加えるケースです。
STLデータは編集が困難であり、寸法情報が含まれていないため、直接の変更作業は非効率的です。一方、STEP形式に変換することで、CADソフト上で寸法や形状を自由に操作できるようになり、設計変更が容易になります。これにより、製品開発の初期段階から製造までのプロセスが効率化され、プロジェクトの納期短縮につながります。
リノベーションプロジェクトにおける活用
建築分野やインフラ整備では、既存建物や構造物をスキャンし、そのデータを基に設計を進めるリノベーションプロジェクトが増えています。例えば、古いビルの耐震補強設計や、橋梁の修繕計画を立案する際に3Dスキャンデータが活用されています。
これらのプロジェクトでは、スキャンデータを詳細設計に活用するために編集可能な形式への変換が求められます。STEP形式は、既存構造物の形状を正確に再現しながら、必要な部分を修正したり追加設計を行うのに最適です。この変換によって、プロジェクトの設計品質が向上し、無駄なコストや時間の削減が可能になります。
複数データの統合と解析
複雑な設計プロジェクトでは、スキャンデータを他の設計データや解析データと統合する場面が頻繁に発生します。例えば、大型設備の設計時に、3Dスキャンで得られた現場データを既存のCADモデルと組み合わせて干渉チェックを行うケースがあります。
STL形式のままでは、他のデータとの統合が難しく、解析精度も低下しがちです。しかし、STEP形式に変換することで、異なるソースからのデータを一元的に統合し、CADソフトや解析ツールでの活用が容易になります。これにより、設計の正確性が向上し、プロジェクト全体の成功率が高まります。
Autodesk Fusion 360を使った変換手順
Autodesk Fusion 360は、3Dスキャンデータの編集や形式変換に適したツールであり、初心者からプロフェッショナルまで幅広く利用されています。その特徴は以下の通りです:
- 直感的な操作性:複雑な3Dデータでも、簡単にインポート・編集・エクスポートが可能です。
- クラウドベースの共有機能:チーム間でのデータ共有が容易で、効率的なプロジェクト管理を実現します。
- 柔軟な変換機能:メッシュデータをソリッドボディに変換する「メッシュからBRep」機能を活用すれば、STL形式からSTEP形式への変換もスムーズに行えます。
これらの特性を活かすことで、設計や解析のプロセスを大幅に効率化できます。
具体的な変換手順
以下は、Autodesk公式のサポート情報とユーザーコミュニティの知見を基にした、STLデータをSTEP形式に変換するための手順です。
1. Fusion 360を起動し、STLファイルをインポート
メインメニューから「挿入」→「メッシュを挿入」を選択し、STLファイルを読み込みます。モデルが表示されたら、メッシュの品質を確認します。
2. メッシュデータを解析し、「メッシュからBRep」に変換
メッシュタブを選択し、「面のグループを生成」をクリックします。次に、「速い」と「正確」のどちらかを選択できます。高精度が必要な場合は「正確」を選び、変換結果をプレビューで確認してください。
3. 必要に応じて寸法を調整し、形状を修正
ソリッドボディに変換後、寸法や形状を必要に応じて調整します。不要なエッジや面を削除することで、最終的なSTEPデータの精度を向上させることができます。
4. STEP形式でエクスポート
モデルが完成したら、「ファイル」→「エクスポート」を選択し、ファイル形式として「STEP (*.stp, *.step)」を指定して保存します。この形式は、多くのCADツールで互換性があり、データの再利用性を向上させます。
効率化のポイントと注意点
STLからSTEPへの変換作業をスムーズに進めるためには、事前準備と変換後の確認が重要です。以下では、効率的な作業を実現するための具体的なポイントと、作業中に注意すべき点を解説します。
効率化のポイント
- データのクリーンアップ
STLデータをインポートする前に、不要なノイズや欠損部分を削除します。これにより、変換後の修正作業が大幅に軽減されます。Fusion 360にはノイズ除去やメッシュ修正の機能が搭載されているため、これらを活用してスムーズな変換を実現してください。 - 適切な解像度の設定
メッシュをソリッドボディに変換する際、高精度が必要な場合は「正確」を選択してください。ただし、解像度が高すぎると処理時間が増加するため、プロジェクトの要求に応じて解像度を調整しましょう。 - 自動補正ツールの活用
Fusion 360の自動補正機能を活用することで、形状の修正や補完作業を効率化できます。この機能を利用することで、手動作業を最小限に抑えながら正確な変換が可能です。 - バッチ処理の検討
複数のデータを変換する場合は、一括処理を検討してください。作業時間を短縮できるだけでなく、一定の精度でデータを処理できるメリットがあります。
注意点
- 複雑な形状の変換
複雑な形状を持つSTLデータの場合、変換プロセスでエラーが発生することがあります。このような場合は、メッシュの分割や形状の簡略化を行い、変換を分けて進める方法を試してください。 - PCの処理能力への配慮
高解像度のデータを扱うと、PCの処理能力に依存して動作が遅くなる場合があります。特に大規模なデータを扱う際は、PCのスペックに応じた分割処理を行うと効率的です。 - 変換後のデータ確認
STEP形式に変換後、形状や寸法が正確であることを確認してください。一部のエッジや面が失われている場合は、手動で補正する必要があります。また、他のCADソフトでの読み込み時に互換性の問題がないかも検証してください。 - データの最適化
変換後のデータは、プロジェクトの用途に合わせてサイズや解像度を調整することが重要です。特に、データ量が多い場合は、軽量化を図ることで操作性を向上させられます。
まとめ
STLデータをSTEP形式に変換することで、設計や解析プロセスを大幅に効率化することが可能です。ポリゴンデータであるSTL形式は、スキャンした形状の可視化には優れていますが、設計変更や詳細解析には不向きです。一方で、STEP形式は寸法情報を保持し、編集や他のデータとの統合を容易にします。
Fusion 360は、直感的な操作性と強力な変換機能を兼ね備えたツールであり、STLからSTEPへの変換作業をスムーズに行えます。適切なデータクリーンアップや解像度の設定、変換後の検証を徹底することで、プロジェクト全体の精度と効率を飛躍的に向上させることが可能です。
この変換プロセスを導入することで、製造業や建築、インフラ整備など、さまざまな分野での活用が期待できます。Fusion 360を活用したデータ変換を通じて、より効率的で精度の高い設計プロセスを実現しましょう。
大手ゼネコンBIM活用事例と 建設業界のDXについてまとめた ホワイトペーパー配布中!
❶大手ゼネコンのBIM活用事例
❷BIMを活かすためのツール紹介
❸DXレポートについて
❹建設業界におけるDX

参考情報
・Autodesk『Fusion から STL/3MF ファイルをエクスポートする方法』
https://help.autodesk.com/view/fusion360/JPN/?caas=caas/sfdcarticles/sfdcarticles/JPN/How-to-export-an-STL-file-from-Fusion-360.html
・Autodesk『ファイル内の特定のボディまたは複数のボディを Fusion から STEP ファイルにエクスポートする方法』
https://www.autodesk.com/jp/support/technical/article/caas/sfdcarticles/sfdcarticles/JPN/How-to-export-specific-bodies-in-a-file-to-a-STEP-file-from-Fusion-360.html