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日本のBIM成熟度レポート:データが解き明かす、ワークフロー革命と「真のデジタル意思決定者」

BIMobjectとは、建設業界のデジタル化とBIMデータ普及を目的とした、建材メーカーと設計者をつなぐグローバルなマーケットプレイス型のサービスです。ユーザーはBIMobjectに登録された部材のBIMオブジェクトを無償でダウンロードでき、3Dモデリングや設計作業を効率化できます。一方で建材メーカーは、自社製品のデジタルデータを世界中の建築家や建設技術者に発信し、ダウンロードを通じて新しい設計プロジェクトへの採用や見込顧客の獲得といったマーケティング上のメリットを得られます。

今回はBIMobject Japanが保有する国内ユーザーデータを基に、実務視点から、

  • 2025年現在、大手ゼネコンをはじめとしたBIMマネージャーがどのようにBIMを利用しているのか
  • 現在、「建材メーカー」に求められるBIMデータのオープン化とは?

を解説します。

序文:BIM導入のその先へ—データが語る日本のBIMの「今」

2025年のBIM義務化は、もはや遠い未来の目標ではなく、建設業界の新たな現実です。戦略の焦点は、もはや「BIMを導入するか否か」ではなく、「BIMによってワークフローが『いかに』進化させるか」に移っています。

この進化の証は、BIMobjectプラットフォーム上で明確に示されています。過去7年半にわたり、当プラットフォームの国内ユーザー数は約17倍に増加し、年平均成長率(CAGR)は51%に達しました。この普及を牽引しているのは、日本国内で影響力のある企業に所属する、個々の専門家たちです。

事実、日本の全BIMobjectプラットフォーム登録ユーザーの11%以上が、竹中工務店、大成建設、大林組といったスーパーゼネコン、およびその他の主要なゼネコンの専門家で構成されています。彼らは単なる閲覧者ではなく、日本の建設の未来を定義づける建築士、エンジニア、そしてBIMマネージャーなのです。

ユーザー分類(所属企業別)ダウンロード割合 (過去12ヶ月)
主要6社合計 (大和、大成、大林、清水、竹中、鹿島)7.83%
その他のゼネコン3.93%
合計11.76%

このエリート集団の動向こそが、業界の進化を解き明かす重要な手がかりとなります。最終的にプロジェクトで採用されるデジタル製品を「一体誰が選んでいるのか」?

2025年上半期のBIMobjectプラットフォームの独自データは、専門職の役割と責任における重大な変化を明らかにしています。建設プロセスにおける2つの重要なセグメント—「現場施工」と「建築設備(MEP)」—を分析することで、日本のBIM市場がいかに急速に成熟しているか、そしてそれがすべての建材メーカーにとって何を意味するのかを解き明かします。


第1部:変化する「土台」— 現場施工データが示す、より連携された施工現場

BIMが建設現場のロジスティクスに活用されていることは、市場成熟度を表す重要な指標です。それは、デジタル化が設計室の壁を飛び越え、物理的な建設現場へと浸透している証だからです。「現場施工」関連コンテンツ(仮設足場、建設機械など)のダウンロードデータを分析すると、3つの主要なトレンドが浮かび上がります。

1. 「パワープランナー」の台頭


データは、デジタルによる施工計画の責任が、劇的に集約されていることを明らかにしています。2025年上半期には、BIM/CADマネージャーと設計者を合わせると、現場施工関連の全ダウンロードの約80%を占め、特にBIMマネージャー単独のダウンロード量は300%以上も急増しました。この傾向は偶然ではありません。これらの専門家が日本の大手ゼネコンに所属していることを考慮すると、彼らが現場のロジスティクスに強くこだわっている点は、デジタル化を通じて現場の効率性と安全性を向上させようとする、業界全体の戦略的な動きを示唆しています。

職種2024年上半期シェア2025年上半期シェア
BIM/CADマネージャー36.10%46.80%
建築家23.00%32.80%

2. 進化するサブコン(専門工事業者)の役割

対照的に、サブコンの役割は大きく変化しました。コンテンツを閲覧するユーザーの数は増加したものの、実際のダウンロードシェアが大幅に減少したことは、より連携の取れたワークフローへの大きな移行を示唆しています。個々にオブジェクトを調達・管理するのではなく、プロジェクトのBIMリーダーが管理するマスターモデルの中で協業するという形へと進化しているのです。

職種2024年上半期シェア2025年上半期シェア
BIM/CADマネージャー18.10%40.50%
建築家14.00%15.20%
メーカー1.80%6.80%

3. ビジネスオペレーションへの拡大

最も注目すべきは、新たな職務のユーザーがこのデータにアクセスし始めたことです。2025年には、積算担当者、データエンジニア、プロジェクトマネージャーが現場施工コンテンツをダウンロードし始めています。これは、BIMオブジェクトが設計の領域を超え、コスト積算からデータ分析に至るまで、プロジェクトの根幹をなす財務・運営計画にまで活用され始めた強力な証拠です。


第2部:成熟する「システム」— MEPデータが示す、新たな「エンゲージメントのルール」

現場施工がプロジェクトの「計画」段階の変化を示すとすれば、価値の高い建築設備(MEP)は、プロジェクトが「どのように構築されるか」、そして「意思決定が実際にどのように行われるか」を明らかにします。一つの製品選択がシステム全体に影響を及ぼす、この「スティッキー(定着しやすい)」なコンテンツのデータは、ワークフロー成熟の、さらに顕著なトレンドを示しています。

1. 「デジタルゲートキーパー」としてのBIMマネージャー

中央集権化のトレンドは、もはや疑いようがありません。BIM/CADマネージャーのダウンロードシェアは18%から40%以上へと倍増し、価値の高いMEPコンテンツの、誰もが認める「ゲートキーパー」としての地位を確立しました。彼らは今や、プロジェクト全体の基盤となるデジタルライブラリを管理・選定する責任を担っています。

2. 専門家の新たなワークフロー

意外に思えるかもしれませんが、この分野の専門家であるMEP(設備)エンジニアのダウンロードシェアは大幅に減少しました。これは、彼らがもはや個別のオブジェクトを探すのではなく、BIMマネージャーによって中央管理された、承認済みのデジタルライブラリを使って設計・仕様決定を行うという、非常に進化した、効率的なワークフローを示唆しています。これは、企業レベルでBIMが活用されている真の証です。

3. バリューチェーン全体への拡大

データはさらに、MEPオブジェクトが分野横断的な連携(構造エンジニアのダウンロードシェアは3倍に増加)や、競合分析(メーカー自身によるダウンロード)にも利用されていることを示しています。さらに、卸売業者自治体関係者といった新たな役割の登場は、BIMオブジェクトの価値が、設計から調達、サプライチェーン、さらには行政監督の領域にまで拡大していることを証明しています。


建材メーカーのための、新たな「プレイブック」

データから、極めて明確な状況と、差し迫った課題が見て取れます。日本のBIM市場は急速に成熟しており、エンゲージメントのルールは変わりました。

もはや、エンドユーザーや現場のエンジニアだけにマーケティングを行う旧来のモデルでは不十分です。「デジタルの意思決定者」—多くの場合、プロジェクトのデジタル資産のゲートキーパーであるBIM/CADマネージャー—が、新たに、そして極めて重要な顧客として浮上したのです。

この新たな状況で成功するには、メーカーには二方面からの戦略が求められます。

  1. ゲートキーパーの信頼を勝ち取ること: BIMマネージャーが信頼し、自社の標準ライブラリに採用したくなるような、高品質で信頼性の高い、情報が豊富なBIMオブジェクトを提供しなければなりません。
  2. 専門家(スペシャリスト)の業務を支援すること: 同時に、オブジェクトには、MEPエンジニアや設計者が自信を持って効率的に設計できるような、詳細な技術データが含まれている必要があります

この戦略を実行するための、完全かつ実践的なソリューションを提供するのが、BIMobject Japanとキャパの戦略的パートナーシップです。

「ゲートキーパーの信頼を勝ち取る」ためには、コンテンツは完璧で、かつ容易に統合できるものでなければなりません。株式会社キャパは、40年以上のソフトウェア開発経験を活かし、単なるモデリングを超えたソリューションを提供します。Autodesk Platform Services認定インテグレータとして、クライアントのコアワークフローに貴社製品のライブラリを直接統合するカスタムライブラリやAPIソリューションを構築し、コンテンツの信頼性と中央管理を確実にします。

「専門家の業務を支援する」ためには、データは完璧でなければなりません。株式会社キャパは、エンジニアが解析に利用する、正確な技術的パラメータを備えた高精度のオブジェクトを開発します。現場施工計画のような複雑なニーズに対しては、静的なモデルとしてではなく、高度な設計ツールとして機能する、先進的なパラメトリックファミリやアドインさえも構築します。

そして最後に、BIMobject Japanが、この専門的に作り上げられたコンテンツを、エンゲージメントの高い建築家、エンジニア、BIMマネージャーから成る最大の生態系(エコシステム/プラットフォーム)に展開し、制作から仕様決定までの一気通貫したソリューションを完成させます。

貴社の営業・マーケティング戦略は、現代の日本の建設プロジェクトが「実際に」どのように構築されているか、その現実に適合する準備ができているでしょうか?貴社のビジネスをこの新たな現実に適合させるためのご相談は、ぜひ株式会社キャパまでお気軽にご連絡ください。


記事執筆者:日光 速 / BIMobject Japan株式会社 Head of Business Operations Strategy

2001年に土木工学の学士課程を修了後、15年間にわたりプラント・土木・構造分野でエンジニアリング業務に従事。2015年にMBAを取得し、海外事業開発および建設業界のデジタル化推進へとキャリアを転換。現在はBIMobject Japanにて国内市場向けの戦略立案・運営管理を担うほか、国際プロジェクトやJV構築にも従事している。2018年より国際標準「ISO 19650」シリーズの実務研究に取り組み、香港品質保証機構(HKQAA)にて講師として登壇。情報マネジメントに関する企業研修も行うなど、標準化と実務の橋渡しに取り組んでいる。2020年から2025年4月まではグロービス経営大学院の評議員。


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(※本記事はBIMobject Japanと株式会社キャパの共同企画記事です。)

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