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清水建設のBIMを活用した原発関連事業

BIMを活用することでリアルな建物の3次元モデルを仮想空間上に構築し、そこに資材や機材の細かい情報を盛り込むことができます。その結果、精密な工事計画を作成することができ、業務の効率化を図ることができます。

2018年、清水建設ではBIMの取り組みを推進するためにBIM推進部を設け、建築のデジタル化に積極的に取り組んでいます。さらに清水建設は、原子炉建屋としては福島第二原子力発電所4号機や、柏崎刈羽原子力発電所4号機・7号機などを手がけてきました。

この記事ではそんな清水建設が行っている原子力発電所の関連事業についてご紹介します。

この記事を読むと以下の3つのことがわかります。

(1)Shimz One BIMについて
(2)原子力発電所建屋の構造設計業務の効率化事業について
(3)原子力発電所の廃止措置エンジニアリングの効率化事業について

Shimz One BIMとは何か

2019年から、清水建設はAutodesk社のBIMツール「Revit」をベースにした「Shimz One BIM(設計施工連携BIM)」の構築を始めました。*1 

Shimz One BIMとは設計者が作成する設計BIMデータを施工から製作、そして運用に至る段階まで連携させるシステムのことです。このシステムでは設計BIMがプロジェクトメンバー間で共有され、クライアントが完成イメージを理解したら発注がかかり、施工でも協力会社がBIMを利用しながら各工程を考えていきます。設計・施工のプロセスを自動化、効率化することで生産性の向上へとつなげていきます。

BIMを活用した原発建屋の構造設計について

2022年7月、清水建設は原子力発電所建屋の構造設計業務の効率化に向け、BIMをべースとする設計業務統合システム「NuDIS-BIM(Nuclear Design Integration System on BIM)」を開発しました。*2

この技術により、これまで手作業で行っていた設計プロセスとBIMモデルを双方向でデータ連動することが可能になりました。

原発建屋設計の課題

原子力発電所建屋の構造設計業務はシステム化が進んでいますが、構造技術者の知見に頼る部分が多く、システムへのデータ入力やヒューマンエラーなどを回避するための確認にかなりの時間と手間が割かれてしまっているのが現状です。また原子力発電所建屋は複雑な形状をした巨大な部材で構成されているのが原因で、多くの設計プロセスを必要とするものの設計データが連動していません。そのうえ2次元の設計データ上で検討されているため、時間と労力が余分にかかるのも問題となっています。

NuDIS-BIMの仕組みとは

NuDIS-BIMでは原子炉メーカーが3次元で作成した設備機器配置計画図を取り込み、BIM上で原子炉建屋の形状や必要な放射線遮蔽性能などの情報を反映させた3次元モデルを作成します。このモデルを元に清水建設の技術者が同じBIM上で床や梁、柱の配置やサイズなどの構造計画の妥当性を判断し、設備と躯体の干渉を検証してBIMモデルの形状を確定していきます。

こうして作成されたBIMモデルのデータを解析用モデルに自動で変換し、地震応答解析やFEM(有限要素法)応力解析を含む本解析によって、原子力発電所建屋が構造的に安全かどうか検証していきます。そして最後に、この解析結果から求めた、必要な鉄筋本数などの部材断面情報をBIMモデルに自動フィードバックを行って建屋の構造BIMモデルが完成します。完成したBIMモデルからは平面図・断面図、配筋リストなどの構造図を簡単に作ることができます。

NuDIS-BIMの凄い点と今後の活用について

このシステムの開発にあたって、これまでの構造技術者が解析モデル作成時に検討してきた事項をデータベース化し、部材断面が巨大で、壁や床が複雑な開口部をもつなどの特徴的な構造を持つ原子力発電所建屋の構造解析モデルを自動で作成するアルゴリズムを完成させました。

清水建設社内だけでなく、社外の原子炉メーカーと社内の技術者のやりとりも3Dモデルを介すことで円滑に行うことを実現しているのが革新的になっています。

また、上で述べたようなデータの連動によって原子力発電所建屋の設計期間を10%にあたる2ヶ月短縮できると見込んでいます。

今後はNuDIS-BIMの機能を拡充し、施工段階や維持管理業務への適用をしていくことを計画しています。

引き続き、清水建設によるもう一つのBIMを活用した原子力発電所事業についてご紹介します。

原子力発電所の廃止措置エンジニアリングの効率化事業について

清水建設は原子力発電所の廃止措置(廃炉)エンジニアリングの効率化とトータルコストの削減を目的に、BIMの機能を活用して一連のエンジニアリング業務を代替する支援システム「Deco-BIM」を開発しました。*3 

これにより、複雑な構造を持つ原子力発電所建屋において、効率的かつ高度な廃止措置エンジニアリングが可能になります。  

廃止措置(廃炉)エンジニアリングとは

老朽化や経済性などが原因でその運転を終える原子力発電所は、長期にわたる廃止措置を安全かつ合理的に進める必要があります。そのため、計画段階において作業員被ばくの低減、コストの削減などを考慮した作業計画の立案をしなければなりません。また、実施段階では現場の作業支援や発生する廃棄物の処理処分に向けた情報管理などが必要になります。

清水建設は原子炉建屋や原子炉格納容器に使われていたコンクリート部材の放射能汚染レベルの評価や汚染レベル別の廃棄物量の算定、解体計画の立案、作業員の被ばく量を考慮した解体工事の工数や工期の算定、廃棄物の処理費用を含むトータルコストの評価などを行います。

原子力発電所の現状

2011年の東日本大震災をきっかけに、2012年までに全54基の原子力発電所が運転を停止しました。2022年12月現在、新しい安全基準を達成した10基が再稼働し、26基が廃止措置または廃止を決定しています。*4 廃止措置は使用済み燃料の搬出から最終段階の建屋解体まで30〜40年に及ぶ期間を要するので、上流段階で廃止措置エンジニアリングを的確に行い、綿密な計画を立案する必要があります。*3

Deco-BIMの仕組みとは

Deco-BIMを適用する前にいくつか手順を踏む必要があります。2次元の図面や資料を基にBIMモデルを作成し、コンクリート部材の放射能汚染レベルをBIMの属性情報として取り込みます。その後、解体工法の基準工数や空間線量率、処分費用の算定式を入力することでDeco-BIMのデータベースを構築します。そして最後に技術者が、コンクリート部材の汚染レベル分布を基に解体工法・計画、解体工事日程を入力します。

Deco-BIMは、以上の入力情報を元に汚染レベル別の廃棄物量や作業員の被ばく量、解体工事の総人口数や工期、コストの算定を行い、解体計画立案のサポートをします。

 

Deco-BIMを活用すれば、2次元の図面や資料に基づいて検討していたときに比べ、80%もの時間を削減できます。そのため従来よりも多くの解体計画を立案し、慎重に評価することが可能になりました。さらに、解体工事段階では、廃棄物に割り振られたIDをBIMデータに盛り込むことで、長期にわたって放射能汚染物質のトレーサビリティを確認できます。

清水建設は各電力事業者にDeco-BIMとともに作成した、効率的な解体計画を各電力事業者に提案し、廃止措置の計画・検討段階からプロジェクトに関わることを目指しています。

まとめ

BIMの誕生から様々な業務が効率化されてきました。今後のBIMの展望としては、今回挙げたNuDIS-BIMの事例のように、業務間をデータで連携し、さらなる生産性の向上が目指されていくのでしょう。

世界的な脱炭素化やSDGs達成の動きの中で、再生可能エネルギーの拡大と共にCO2を発生しない原子力発電を再稼働し、共存することが選択肢の一つとなっています。この記事で挙げたような、安全な原子力発電所を実現する技術のさらなる発展が期待されます。

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【参考文献】
*1 清水建設 「BIMをベースにした生産体制を構築へ」
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2019/2019036.html
*2 清水建設 「BIMで原子力発電所建屋の設計業務を効率化」
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2022/2022024.html
*3 清水建設 「Deco-BIM(デコビム)で廃止措置エンジニアリングを効率化」
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2022/2022041.html
*4 原子量規制委員会 「原子力発電所の現在の運転状況」
https://www.nra.go.jp/jimusho/unten_jokyo.html

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