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信頼を生む「情報の質」:建材メーカーのためのISO 19650とオープンBIM標準 実践ガイド

建築設計や構造設計の分野でのBIM化が進む中、それらの事業者に部材を納入する建材メーカー向けのベストプラクティスはまだ確立されておらず、各事業者が手探りで進めている状況が続いています。BIM化を進める際には、社内業務の移行と効率化に強い関心が寄せられますが、実際には国内外の標準規格に合わせることで社外での利活用も促すことが可能となり、マーケティング面でもメリットを得ることができます。

今回は、実際に建材メーカー向けのデータ設計を支援している、BIMobject Japan 日光速様にISO 19650シリーズ・オープンBIM標準を元に、BIMデータに含めるべき情報とそのご解説いただきました。本記事を読むことで
 

 ・建材メーカーのBIMデータ提供における、標準化の重要性
 ・ISO: 19650をはじめとしたBIMデータの標準規格の概要

 ・「情報の質」を高めるためのBIMデータ作成

について、概要を掴むことができます。BIM検討の第一歩としてご利用ください。

信頼を生む「情報の質」―BIM時代に求められるメーカーの情報提供とは

世界の建設市場は、かつてないスピードでデジタル化が進んでいる。設計から施工、運用に至るまで、建築・設備・資材に関するあらゆる情報がデータとして扱われ、その情報がいかに正確で、信頼できるかが企業評価を左右する時代となった。

この潮流の中心にあるのが、ISO 19650シリーズに代表される国際的な情報管理の仕組みである。この国際標準は、設計事務所やゼネコンだけでなく、製品・材料を提供するメーカーやサプライヤーを、正式に「情報提供者(Appointed Party)」として定義している。つまり、メーカーはもはや「モノを納める立場」だけではなく、建設プロジェクト全体のデジタル情報を担う重要な参加者として位置づけられているのである。

本稿の目的:メーカーが情報の質を競争力へと変え、国内外のプロジェクトで“選ばれる”ための実践の要点を、国際標準に沿って整理する。


1. 情報提供は信頼の証である

従来のように「必要なときに資料を出す」やり方では、デジタル化した建設プロジェクトにおいて存在感を示すことは難しい。ISO 19650では、メーカーやサプライヤーは契約上の情報提供責任を持ち、定められた時期・形式で正確なデータを提出することが求められる。

ここでいう「情報」とは、図面やカタログだけではない。性能値、材質、保証期間、メンテナンス情報、リサイクル・環境情報などを、機械が読み取れる構造化データとして提供することが基本である。これにより、設計者や発注者は製品をより安心して採用でき、情報の質そのものがメーカーの信頼性を証明する要素となる。

さらにISO 19650では、プロジェクトを通じて情報がどの段階で、どの粒度で確定するかを合意する枠組みがある。発注者の要求事項であるEIR、資産側のAIRに基づき、受注側はBEPを策定し、共通データ環境 (CDE)上で合意・流通させる。これがPIM→AIMへと連続する“信頼できる情報の鎖”を生む。


2. 「過不足ない情報」がプロジェクトを動かす

ISO 19650には、必要情報詳細度(LOIN:Level of Information Need)という考え方がある。日本では略称“LOIN”が広く使われているが、本来 ISO が意図したこの概念は、頭字語よりも “Level of Information Need” という言葉そのものが示す意味を重視して理解すべきものである。つまり「必要な情報を、必要な時に、必要な粒度で」という原則であり、ここには「求められていない情報を出しすぎない」という意図が明確に含まれている

  • 初期段階(S1/S2:レイアウト検討や法規検証、干渉チェックに適したジェネリック(汎用)オブジェクトと概略性能で十分。
  • 仕様確定(S3/S4):要求に応じて粒度を上げ、選定候補の比較ができる属性情報(LOI)を充実。
  • 施工・引渡し(S5/S6):採用決定後にメーカー固有情報(メーカー名、型番、製造番号、保証・維持管理情報など)へ置き換え、AIMとして引き継ぐ。

この段階的確定(プログレッシブ・ディベロップメント)により、無駄な作業を減らしつつ、意思決定の迅速化・手戻り削減・概算精度向上を同時に実現できる。

例えば、初期段階(S1/S2)では学校などの建物用途ごとに必要な人数や空間規模など最小限の情報だけで概算見積もりを行い、S3/S4では床面積や配置、比較検討のための属性情報を追加、S5/S6ではポンプなど設備のメーカー名・型番・交換費用といった具体的な属性をAIMへ引き渡す——という具合に、情報を必要な時に必要な粒度で整えることが、ISO 19650の実践における「過不足ない情報」の考え方である。

実務では、初期段階では「空間ボリューム」や「座標位置」などのシンプルな幾何情報が使われ、進行に応じて「床面積」「Uniclass 2015による分類コード」など詳細属性が追加される。S5/S6に至ると、AIMに必要な「Manufacturer メーカー名」「ModelNumber 型番 / モデル番」「WarrantyStartDate 保証開始日」「ReplacementCost  交換費用 / 取替費用」などの構造化属性情報が求められる。さらに、契約形態(伝統的な分離発注方式か、設計施工一括やTVD型契約か)によって LOIN は異なり、近年増えているフロントローディング型契約では、設計段階からメーカー情報を早期に求められる場合がある。その際、構造化された情報コンテナ(最も付加価値を持っているBIMファイル/IFCやRFAなどのスキーマを持つデータ)は、こうした前倒しの情報要求に対応する強力な手段となり、スピーディーな統合・再利用を可能にする。

また、契約形態(伝統的な分離発注方式か、設計施工一括やターゲットバリュー・デザインTVD 型などの新しい契約か)によっても、求められるLOINは大きく異なる。特に近年増えているフロントローディング型契約では、コスト管理や施工性検証を早期段階から進める必要があり、メーカー情報が設計フェーズで既に求められるケースも多い。その際、構造化された情報コンテナ(付加価値の高いBIMファイル:業界で決まっているスキーマを持つデータ)は、データを迅速に統合・再利用できるため、こうした前倒しの情報要求に対応する強力な手段となる。


3. 情報管理の国際標準がもたらす新たな競争力

ISO 19650やbuildingSMARTが推進するオープンBIM標準は、特定のソフトウェアに依存しないデータ交換を可能にする。中でもIFC(Industry Foundation Classes:ISO 16739-1:2018)は、グローバルで認められたデータスキーマであり、Revit、ArchiCAD、Vectorworks など世界中の設計ツールで利用可能な形で製品情報を届けられる。

つまり、国際標準に対応したBIMデータを整備することは、単なる技術対応ではなく、「海外市場で選ばれる条件」を満たす行為である。欧州やアジアの公共プロジェクトでは、BIMデータ(とりわけIFCや分類体系の適用)が入札条件となるケースが増加している。対応できなければ、検討リストに入る前にデジタル上で“見えなくなる”リスクがある。

加えて、Uniclass 2015などの国際的な分類体系コードを適用した属性設計は、製品タイプの意図を人にも機械にも正しく伝達し、調達・積算・性能検証の自動化・省力化を後押しする。IFCの運用では、製品ライブラリ交換や調整用途にIFC4 Reference View (MVD) を使うと、必要情報だけを確実にやり取りできる。


4. 信頼されるメーカーが実践していること

国際標準に基づく情報整備を進めるメーカーが共通して重視しているのは、「誰が見ても理解できる」「どのツールでも使える」情報の一貫性である。これを実現するための要点は次の3つに集約できる。

  1. データの構造化:製品名・型番・性能値・保証・環境・メンテ情報などを体系化し、機械処理可能な形式(IFCスキーマ、標準的プロパティ命名、分類コード等)で整理。
  2. オープンフォーマット対応:IFC等の非専有形式で情報を管理し、ツール非依存・長期利用(10〜15年以上)を保証。ネイティブ形式のバージョン劣化リスクを回避。
  3. 公開と更新の仕組み化:自社サイトやBIMプラットフォーム、およびCDEを活用して常に最新データを維持・共有。施工(S5)で確定するメーカー情報を随時入力し、引渡し(S6)でAIMへ反映、運用(S7)での部品交換・保全で継続更新する体制を整える。

この3点を回すことで、製品は「選ばれるデジタル資産」となり、設計・施工・運用すべての段階で利用され続ける。


5. 今こそ「情報の質」を競争力に変える時である

建設業界のデジタル化は一過性のブームではない。信頼される情報を提供できる企業だけが長期的に選ばれるという“構造的な変化”である。BIMやISO 19650を理解し、自社製品を正しくデジタル化することは、将来の市場で確実に競争力を保つための最も実践的な一歩である。


メーカーが今すぐ始められる3ステップ(実践チェックリスト)

  1. 現状棚卸し:型番体系・仕様書・保証・環境データを洗い出し、必須属性/努力属性を定義(EIR/AIRと整合)。
  2. 標準適合:IFC(ISO 16739-1)とUniclass 2015等の分類を適用、IFC4 Reference Viewでの受け渡しを前提に命名・単位・データ型を統一。
  3. 公開・運用CDEとBIMプラットフォームで配信し、S5→S6→S7での更新プロセス(誰が・いつ・何を)をBEPに明記。

最後に: まとめとプロフェッショナルの支援

本記事がBIMデータ作成の標準化の重要性について、皆さまの理解の一助となれば幸いです。一方で、標準規格と実業務、両者に適合するデータ作成には通常の設計とは異なるノウハウが必要となり、難しいという声も多くいただいています。

BIMobject JapanではBIMobjectプラットフォーム(https://www.bimobject.com/ja )を通じて世界中のユーザーにBIMモデルを通じた製品発信の支援を行うほか、より利活用されやすいBIMデータにするためのコンサルティング・データ作成支援を実施しています。まずはお気軽にご相談ください。

BIMobject Japanの支援(情報整備 × 発信の両輪)

  • BIMデータ/BIMオブジェクト作成サービス:製品の3Dモデルを国際標準準拠の構造化データへ変換し、世界の設計者が利用できる形で提供。
  • Webサービス(BIMobjectプラットフォーム連携)500万人以上の設計者・エンジニアに向けて製品を発信し、海外販路拡大とブランド認知を支援。
  • データガバナンス設計:EIR/AIR対応の属性設計、IFC・分類コード適用、IFC4 RV運用、CDE連携方針、更新ワークフロー(S5→S7)まで一貫支援。

まずは貴社の現状データ(型番・仕様・保証・環境)を拝見し、最短ルートの標準適合プランをご提案します。

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記事執筆者:日光 速 / BIMobject Japan株式会社 Head of Business Operations Strategy

2001年に土木工学の学士課程を修了後、15年間にわたりプラント・土木・構造分野でエンジニアリング業務に従事。2015年にMBAを取得し、海外事業開発および建設業界のデジタル化推進へとキャリアを転換。現在はBIMobject Japanにて国内市場向けの戦略立案・運営管理を担うほか、国際プロジェクトやJV構築にも従事している。2018年より国際標準「ISO 19650」シリーズの実務研究に取り組み、香港品質保証機構(HKQAA)にて講師として登壇。情報マネジメントに関する企業研修も行うなど、標準化と実務の橋渡しに取り組んでいる。2020年から2025年4月まではグロービス経営大学院の評議員。


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参考・出典

  • ISO 19650-1:2018 — Organization and digitization of information about buildings and civil engineering works, including BIM (BIMを用いた情報管理の概念・原則)
  • ISO 19650-2:2018 — Delivery phase of the assets(納品フェーズ)
  • ISO 19650-3:2020 — Operational phase of the assets(運用フェーズ)
  • ISO 19650-5:2020 — Security-minded approach to information management(セキュリティ)
  • UK BIM Framework Guidance Part 1: Concepts
  • UK BIM Framework Guidance Part D: Information management functions
  • buildingSMART International — IFC(Industry Foundation Classes)/openBIM resources
  • ISO 16739-1:2018 — Industry Foundation Classes (IFC) for data sharing in the construction and facility management industries
  • Uniclass 2015 — 国際的に用いられる分類体系

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