清水建設で導入された「Autodesk Construction Cloud」とは
建設業界のデジタルトランスフォーメーション(建設DX)を牽引するスーパーゼネコンのひとつである清水建設は、Autodesk社と戦略的連携を結び、「Autodesk Construction Cloud」の導入を発表しました*1。
清水建設が設計BIMを施工・製作・運用段階で運用することで業務効率化を実現するために推進しているのが「Shimz One BIM」です。Autodesk Constrution Cloudは、Shimz One BIMを実現するための次世代建築プラットフォームにおける中心的なシステムとして位置づけられています。
この記事では、清水建設が建設DXの核として選択したAutodesk Construction Cloudについて解説します。
このシステムを使ったデジタル環境で清水建設がどのようなヴィジョンを持っているのかを探っていきましょう。
「Autodesk Constrution Cloud」とは
はじめに、「Autodesk Construction Cloud」(以下、ACC)の概要を紹介します。
ACCを運営しているAutodesk社は、CADソフトウェアとして大きなシェアを占めるAutoCADで有名な会社です。ACCは今後も建設業界を支えていくサービスとして期待できるでしょう。
連携を得意とする建設DXプラットフォーム*2
ACCは「連携を通じて高品質な建築を実現」というコンセプトを掲げるクラウドベースの建設管理ソフトウェアです。計画・設計・施工・運用というプロジェクトにおけるすべてのフェーズで一貫してACCを使用することができます。
*2
引用)Autodesk「連携を通じて高品質な建築を実現」
https://construction.autodesk.co.jp/
前述のとおり、Autodesk社は各フェーズで使用できる信頼性の高いサービスを多く提供しており、ACCにそれらを連携できるのが大きな魅力といえるでしょう。
また、 すべての段階でACCを使用することで情報の一元管理が可能です。これにより、最新図面や打ち合わせ記録などへ正確にアクセスできるようになり、ワークフローが明確になります。古い情報で検討や施工を行うことによる手戻りが減るので、生産性向上を期待できるのがメリットです。
建設に携わるチームを繋ぐ*2
ACCで繋がるのは施工者である「ゼネコン」だけに留まりません。
主に設備工事を担当する「サブコン」と連携ツールを介してやり取りを行うことで、スケジュールと予算を守りながら工事を進められます。
また、設計変更や施工対応に関して「設計者」とシームレスに連携を取ることで、効果的な調整を行い、施工性に配慮した設計が可能です。
さらには、「建築主」と情報を共有すれば透明性が保たれ、信頼関係を築きながらプロジェクトを進められるでしょう。
このように、ゼネコン・サブコン・設計者・建築主といったプロジェクトに携わるすべての関係者とACCを介して繋がることで、スムーズに工事現場を運営できるようになります。
集積されたデータに基づく予測分析・解析機能で利益を向上*3
ACCは、一元管理されたデータをもとに、予測分析・解析機能を使用できます。これにより、リスクの低減や利益の向上を期待できるとしています。
ACCのダッシュボードはカスタマイズすることでプロジェクト全体に関するさまざまな情報を表示できます*4。表示できるのは、プロジェクトのマイルストーンや天気予報、チームの状況などです。
チームの状況に関しては、「Construction IQ」というシステムの機械学習によりプロジェクトデータを分析・解析した結果が表示されます。設計・品質・安全性・プロジェクトコントロールといった観点でリスクの高い部分を特定できるので、課題の早期発見や利益の向上に役立つでしょう。
その他にも、レポートの自動化やプロジェクトデータの抽出など、データ活用に便利な機能が揃っています。これらの情報を関係者と共有することで、チームの連携を図ることが可能です。
清水建設はなぜ「Autodesk Construction Cloud」を導入したのか
では、清水建設がACCを導入した背景に触れていきましょう。
Autodesk社が信頼性の高い会社であり、これからも質の高いサービスを期待できるということがひとつの理由と推測されますが、根本には清水建設の建設DX構想があります。
この構想に触れることで、今後の建設業のひとつの在り方が垣間見えるはずです。
匠の心を礎にデジタルとリアルのベストミックスを追求している*1
清水建設は、「匠の心を礎にデジタルとリアルのベストミックスを追求」(Autodesk社*1)しています。そのための中期デジタル戦略が「Shimzデジタルゼネコン」です。Shimzデジタルゼネコンのなかで、設計BIMを施工・製作・運用まで連携利用することで業務の効率化を図る「Shimz One BIM」が推進されています。
清水建設は、ACCをShimz One BIMの核に据えた次世代建築プラットフォームの構築を進めています。その目的は、デジタルデータを活用するプロジェクトを増やすことで建設DXを加速させることにあるとのことです。今回の戦略的連携を機にますます建設DXを進め、デジタルゼネコンへの変貌を期するヴィジョンが現れています。
Autodesk社との戦略的連携に関する覚書*1
ここで、清水建設とAutodesk社が締結した「新たな戦略的連携に関する覚書の概要」(Autodesk社*1)を紹介します。
・施工図のワークフローをACC上で効率的に実現
・デジタルコンストラクション実現に向けてACC上で施工管理、特にQ(Quality)、C(Cost)、D(Delivery)の効率化を目指す
建設プロジェクトにおいて、コンクリート図や製作図などの施工図は膨大な数になり、多くの図面が並行して進められています。これらを一元管理して最新の正しい情報にアクセスしやすくすることで、手戻りを少なくすることができます。これにより、大幅な工数削減だけでなく、ミスを減らすことにも繋がるのです。
ACC上での施工図ワークフローの実現や施工管理の効率化を今後の目標として挙げていることは、清水建設が建設DXで生産性と品質の向上を目指していることを意味するといえるでしょう。
今までもAutodesk社のサービスを積極的に導入
清水建設は今までもAutodesk社のサービスを積極的に導入してきました。
2011年からBIMソフトウェア「Revit」を本格的に採用したのち、2020年にはスマートシティやデジタルツインのプラットフォームを整備するプロジェクトをAutodesk社と立ち上げています*5。
また、相模鉄道と東急東横線をつなぐ新線建設の際には、Autodesk社のクラウドサービス「BIM360Docs」を導入し、BIMモデル、現場の点群データ、360°写真などを共有したとのことです6。 これにより「現場に行かない施工管理」(建設ITワールド6)を実現し、2021年度の「i-Construction大賞」(国土交通省)を受賞しています。
現在はBIMやクラウドプラットフォームのサービスが続々と登場している最中であり、どのサービスを本格的に使っていくかを決めかねている会社が多いのが実情です。
そのなか、今回の清水建設とAutodesk社の戦略的連携は両者の信頼性の高さと今後のヴィジョンを示唆する出来事といえるでしょう。
「Autodesk Construction Cloud」に含まれている製品*7
最後に、ACCに含まれているサービスを紹介します。
ここで紹介するほかにもオプションサービスがあるのでチェックしてみてください。
Build*8
Buildは、ACCのベースとなる施工管理ソフトウェアです。チームのシームレスな連携をサポートし、工程・品質・コスト・安全の管理に役立ちます。
コストやスケジュールの予測分析機能、品質や安全のチェックリストのテンプレート、レポート作成機能などの施工管理に便利なツールが用意されています。
Takeoff*9
Takeoffは、一元的なデータから数量を算出できるソフトウェアです。
素早く正確に数量を算出して正確な見積もりを作成することで、市場での競争力や現場運用時のコストマネージメントの強化を図れます。
BIMから自動的に数量を算出できるのがTakeoffの特徴です。数量の算出方法はカスタマイズで指定することができ、資材に応じて数量を分類することもできます。また、予測分析機能を活用することでリスクの低減ができるとのことです。
BIM Collaborate*10
BIM Collaborateは、BIMの導入に当たり必須になるモデルの重ね合わせ、干渉チェックなどができるソフトウェアです。RevitやNavisworksといったBIMソフトウェアと連携することで最新のモデルを素早く反映できます。
モデルの干渉は指摘事項としてまとめられ、設計・施工の関係者に通知されます。
指摘事項の解決状況を確認することで、プロジェクト進行の適切な管理が可能です。
また、RevitやNavisworksでも指摘事項にアクセスできるため、それぞれの担当者が普段使っているソフトウェアでそのまま対応できます。
アクセスのしやすさは行動を起こすまでのハードルを下げることに繋がるので、大きなメリットといえるでしょう。
Docs*11
Docsは、プロジェクトのライフサイクル(計画段階から運用・維持管理まで)で一貫してドキュメントを管理できるソフトウェアです。
計画・設計・施工・維持管理の各フェーズでデータが途切れることがないので、フェーズ間で関係者がデータの受け渡しをしたり、正誤のチェックをしたりする手間が省けます。
BIM Collaborateで挙がった指摘事項をDocsで管理・共有できるなど、他のソフトウェアとの連携が良好であることも特徴です。
ひとつのソフトウェアで多くの情報や資料を管理できることは、普段の業務におけるストレスの低減に繋がることでしょう。
おわりに
ACCは信頼性の高いAutodesk社が運営するクラウドベースのプラットフォームです。
多くのサービスがリリースされていますが、ACCは業界をリードして建設DXを支えていくサービスになる可能性が高いといえます。
清水建設のようにBIMやクラウドを活用して生産性や品質を向上したいと考えている方は、導入を検討してみる価値があるかもしれません。
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❶大手ゼネコンのBIM活用事例
❷BIMを活かすためのツール紹介
❸DXレポートについて
❹建設業界におけるDX
*1
出所)Autodesk「Autodesk と清水建設、戦略的連携に関する覚書を締結」
*2
出所)Autodesk「連携を通じて高品質な建築を実現」
https://construction.autodesk.co.jp/
*3
出所)Autodesk「データと予測分析」
https://construction.autodesk.co.jp/workflows/construction-data-analytics/
*4
出所)Autodesk「ダッシュボード」
https://construction.autodesk.co.jp/tools/dashboards-and-data-analytics/
*5
出所)Autodesk「清水建設が推進するBIMの一貫利用 – 設計、建築確認申請、施工そしてファシリティマネージメントまで」
*6
出所)建設ITワールド「清水建設が “現場に行かない”施工管理を実現、i-Construction大賞に! クラウドでBIMや点群、360°写真をリアルタイム共有(オートデスク)」
*7
出所)Autodesk「Autodesk Construction Cloud 製品」
https://construction.autodesk.co.jp/products/
*8
出所)Autodesk「Build」
https://construction.autodesk.co.jp/products/autodesk-build/
*9
出所)Autodesk「Takeoff」
https://construction.autodesk.co.jp/products/autodesk-takeoff/
*10
出所)Autodesk「BIM Collaborate」
https://construction.autodesk.co.jp/products/autodesk-bim-collaborate/
*11
出所)Autodesk「Docs」