HDRビデオの再生がGoogle Chrome(Win10)でサポート開始
2017年12月にWindows10のGoogle ChromeでHDRビデオのストリーミング再生がサポートされるとの発表がありました。家庭用のテレビモニタでもHDR動画への対応などがアピールされているのをよく見かけるようになりましたが、今回はこのHDR動画についてご紹介しましょう。
HDRとは何か
写真を撮影する場合を考えます。明るいところと暗いところの差が大きい場合、全てを綺麗に写真で表現することが通常はできません。明るいところに露出を合わせると暗いところが「黒つぶれ」してしまい、逆なら明るいところが「白とび」してしまいます。このように明るさを記録・表現する場合にはその信号の最大値と最小値に一定の幅があります。この幅のことをダイナミックレンジ(Dynamic Range)といいます。
人間の目はこうした輝度の変化の激しい風景などもうまく補正して認識しているため、自然に見えますが、カメラなどの機材を通して撮影する場合はその輝度の表現には限界がありました。CRT時代の規格がSDR(Standard Dynamic Range)であり、それよりも広い(約100倍)の表現力をもつ技術がHDR(High Dynamic Range)です。
静止画におけるHDR合成の仕組み
iPhoneなどのスマホでもHDRという機能が実装されています。この機能を使うと、上記のような「黒つぶれ」や「白とび」を起こさないように写真を取ることが可能になりました。これはどのような仕組みを利用しているのでしょう?
HDRをオンにして撮影をすると、露出の異なる2枚の写真を撮影します。一つは暗い方に合わせた画像、もう一つは明るい方に露出を合わせた画像です。これを内部で合成して明るいところから暗いところまで表現できる画像を作り上げています。しかし、実は表現できる輝度の差はSDRの幅のままです。そこで、HDR画像を合成する際に輝度を圧縮してSDRの規格に合わせています。そうするとコントラストがはっきりしない画像ができてしまうので、できるだけコントラストがはっきりとするようにさらに補正をかけて一つの画像を作っています。
こうしたことから、HDR合成技術を使って撮影した写真はややコントラストが強調されたまるでCGで作られたような画像になるという特徴があります。ゴシックホラー調の写真になるのを経験した方も多いのではないでしょうか?コントラストを補正する時に、実際には存在しない色調を作ってしまうことが原因ですが、うまく使えば効果的な画像を得ることができます。
動画におけるHDR
テレビモニタの進化について考えてみます。CRTモニタから液晶へ、さらに有機ELTへとハード面の進化がありました。表示される画素数についても2Kから4Kへ、さらに8Kへとより高精細の画像が表示できるように年々進化しています。この画素数の進化の次に来ると言われているのがHDR対応です。
これまでよりも美しい画像をテレビで見たいという欲求に応えるには、暗いところから明るいところまではっきりと見えるように表示する必要があります。これを実現するのがHDR対応のテレビモニタです。2016年7月にHDRの国際規格であるBT.2100が制定され、コンテンツ制作や伝送の基準が決まったことで、今後はHDRの普及が加速していきそうです。
HDR動画は制作する方にも便利
皆さんはトンネルから急に外に出た時に、その明るさに目が眩んで周りが一瞬見えなくなった経験をお持ちだと思います。映画制作などの際にもカメラのダイナミックレンジの関係からそうした現象がおきます。相対的に暗い部屋の中で撮影をすると、明るい外の風景が白とびしてしまいます。そのため、部屋の中の撮影とそこから外に出るシーンではカットを分けて編集でつなぐということをしていました。ところが、HDRに対応した機材で撮影すると、このシーンをカット割りすることなく一連のカメラワークで撮影することができます。HDRに機器が対応することで、これまでとは異なる表現の動画を撮影することが可能になります。
WEBとテレビでのHDR動画の違い
HDR動画の規格についてはPQ方式とHLG方式という2つの方式が採用されています。PQ方式の場合はWEBでのストリーミング配信や映画などを目的としていて、実際に広範囲のダイナミックレンジを持ちます。映像の高精細な表現に重きを置いた規格です。一方のHLG方式はHDRに対応していないSDR機器(従来のテレビモニタ)での表示を想定した規格です。相対的な輝度しか表現できませんので、表現力はやや落ちますが、SDR機器で視聴しても違和感のないようにと定められた規格です。
WEBでのHDRへの対応
前置きが長くなりましたが、今回のWindows10上で動作するChromeがHDR対応というのは、こうした動画再生についての一連の流れに適応したものです。もともと、世界最大の動画コンテンツをもつYoutubeが4K,8K,360度動画への対応など、次々に新しい動画の規格を取り入れていましたが、2016年にはHDR動画についても対応を開始していました。
Youtubeでの対応を受けて、ブラウザの側でもHDRコンテンツをストリーミング再生できることが待たれていましたが、2017年になってそれが実現したということになります。もちろん、再生環境であるモニタやグラフィックボードがHDRに対応していることが前提になります。
まとめ
テレビやWEBでのストリーミング動画再生は今後、より自然に近く、高精細で表現力の豊かなものへ進化をしていくでしょう。解像度・フレームレートなどの進化に続いて、昨年ぐらいから順次対応が進んでいるのがHDRです。今後、美しくリアルな動画を家庭で楽しむためには、こうしたHDR機器に対応したハードやソフトを準備する必要があります。PCの買い替えや新しいソフトの導入に際しては、少し気にかけて見てはいかがでしょうか。
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