iPadでCADは利用可能なのか?使えるCADアプリを探してみた
「iPad」と言えばAppleが販売しているタブレット端末で、同社の携帯電話端末「iPhone」と並び、世界中で大きなシェアを獲得した人気製品です。
日本国内でもタブレット端末と言えば「iPad」の名前が先に挙がる程の知名度です。
また、会社によっては業務用途に支給されていたり、山梨県甲府市の山梨英和中学校・高等学校では、ICT(情報通信技術)の授業(※1)で使用するために、中学1年生の後期から高校3年生までの全生徒が「iPad」を所有している(※2)という教育用途での導入事例もあります。
建設業を営む大手スーパーゼネコンの株式会社 大林組では、工事現場の施工管理を円滑に進める上で、2012年から他社ゼネコンに先駆ける形で「iPad」の本格的な導入(※3)を始めた事が建設業界で大きな話題を呼びました。
「iPad」を導入した事で設計業務図面の閲覧や、急な案件で訂正された図面データが送られてきた際の確認も対応ができるというメリットは大きいです。
仮に「iPad」で図面の訂正まで行えれば、多くの工程を省力できて業務の効率も改善するのでは?と感じている設計者も多いのではないでしょうか。
そこで今回は「iPad」が実際の設計業務にどの程度活用できるのか?という疑問に答えるべく、実用性の高いCADアプリを探してみました。
この記事では以下の3つのことがわかります。
①iPadとクリエイター向けアプリの親和性
②iPad向けCADアプリで出来る事
③iPadで使用できるCADアプリ
デザイナー向けのアプリが豊富
iPadがクリエイターに選ばれる理由
2018年以降発売された第6世代の「iPad」では、それまで「iPad pro」限定での使えていた「Apple Pencil」が使用できるようになりました。
この「Apple Pencil」がタッチ操作よりも細かくて繊細な操作を可能にし、Adobeの提供している「iPad」向けの「Photoshop」や「Adobe Comp」といった、デザイン系ソフトウエアをさらに手軽な物にしたというアドバンテージは大きいと言えます。
他にもグラフィックデザインからイラスト・漫画制作の分野でも根強い人気を持つ「CLIP STUDIO PAINT」も使えるという事で、大部分の仕事を「iPad」で完結させられるのはデザイナーにとっても魅力的です。
また、2020年にはAdobeから「iPad」向けの「illustrator」がリリースされる予定になっており、一層クリエイティブなタブレット端末として、デザイナーの仕事にさらなる広がりを見せる事になりそうです。
このように、デザイナー向けのソフトウエアの大多数が「iPad」で扱えるという事に、Appleの高い先見性も相まってビジネスシーンからプライベートシーンまで、幅広いニーズに答える事ができる「iPad」は、クリエイター達からも高い支持を得ているのだと言えます。
iPadのCADアプリで出来る作業
「iPad」のCADアプリでできる事は共通している部分が多く、具体的には下記の様な特徴が挙げられます。「iPad」を業務用途で使用するニーズは年々に増して高まってきているため、今後は日本国内のソフトメーカーからも国産のCADアプリがリリースされる事があるかもしれません。
図面データ(DWG形式のファイル)の読込・閲覧・計測
「Apple Pencil」とタッチ操作による図形の作図・編集
「Googleドライブ」「OneDrive」「Dropbox」「box」などクラウドストレージサービスとの連帯
図面の読込について
図面のデータを閲覧をしたり、図形要所部分の寸法を計測する程度であれば、無料で利用できるビューアーソフトで代用する事も可能です。
また、ビューアーソフトではなくCADアプリで図面のデータを開く際には、Autodeskの2次元汎用CADソフトウエア「AutoCAD」で使われるDWG形式のファイルが読込先の基本拡張子として、CADアプリごとにDXF形式やDWF形式など個別で対応している場合が多いです。
「AutoCAD」のDWG形式のファイルは、2次元汎用CADソフトウエアの中でもデファクトスタンダードとも言えるメジャーな拡張子なので、「AutoCAD」のシェアが高い建築・製造分野の業界では広く目にするファイル形式です。
図面データの保存形式では、読込が可能なファイル形式の他にPDF・JPG形式で保存できるソフトウエアがほとんどです。CADアプリによっては、PDF・JPG形式の保存に別途料金プランの契約が必要になるソフトウエアもあるようです。
CADアプリの操作性
基本的にはどのCADアプリでも、タッチ操作による図形の編集作業が十分に行えるように定期的なバージョンアップを繰り返して最適化されてきています。
また、「iPad」で「Apple Pencil」の使用が標準化されたのは、2018年以降のモデルというだけあって、一部のCADアプリでは「Apple Pencil」の操作にまだ対応できていないソフトウエアも多くあります。
クラウドストレージとの連携・共有機能
CADで作成された図面データはファイル容量が大きくなりがちです。ファイルサイズ次第ではメールで送信する事も可能ですが、送り先のプロパイダーで使用しているメールサーバーの制限によっては送ったメールが拒否されてしまう事もあります。
大容量のファイルを相手に送れるサービスもありますが、送りたいファイルデータを全てインターネット上のウェブページにアップロードしてから、アップロード先のURLを共有するという流れなので、手間の掛かる作業の上ファイルのダウンロード期限も設けられています。
設計業務では度重なる仕様変更が発生しやすく、図面データへの迅速な訂正対応が求められる場合もあります。クライアント側と常に最新の図面データを共有しておく必要があるため、CADアプリに限らずクリエイター向けのソフトウエアのほとんどに、クラウドサービスと連携したファイル共有機能が存在しています。
クラウドサービスとの連携はインターネットを接続できる環境さえあれば、場所と時間を問わずにタブレット・スマートフォンからアクセスする事が可能です。クラウド上に存在している事で共同作業にも、バックアップの代わりとしても使えるメリットがあるのは大きいです。
iPadで実用的なCADアプリ
AutoCAD
2000年から2016年までの凡そ16年間、CADソフトウエアのシェアを独走し続けてきた(※4)Autodeskの「AutoCAD」を「iPad」向けにリリースした製品です。デスクトップ版の「AutoCAD」「AutoCAD LT」と、スムーズなデータ共有が可能です。
「Apple Pencil」の操作にも対応しており、直感的な操作性と使い易さがユーザーから高く評価されています。
無料版と有料版が存在しており、無料では10MBまでの図面データを開くほか、図面データの寸法確認やデータの出力(DWG・DWF)といった制限された機能しか使えません。
また、デスクトップ版の「AutoCAD」と違い、コマンド操作などを行う事はできませんが、ポリライン&ブロック図形の作成と編集・レイヤー操作等の主要な機能は、ほとんど網羅しているので出先での作図作業も可能です。(※5)
GPS機能を使用した現地の地理情報との整合性をチェックしたりする機能は「iPad」や「iPhone」と非常に相性が良いです。
公式サイト:https://www.autodesk.co.jp/products/autocad-mobile/overview
CAD Pockets
「CAD Pockets」は中国に本社を持つZWSoftが手掛けたモバイル向けのCADアプリです。ZWSoftがリリースするソフトウエアは、低価格でありながらもAutodeskの「AutoCAD」と高い互換性を実現しています。
同社のデスクトップ版、2次元汎用CADソフトウエア「ZWCAD」との互換性もあります。クラウドサービスでは「Googleドライブ」「OneDrive」「Dropbox」との連携が可能になっています。図面データに音声による注釈機能を搭載しているのも特徴的です。(※6)
有料版は他社のCADアプリよりも安価な部類なのでコストパフォーマンスの良い製品と評価されています。
公式サイト:https://zwcad.co.jp/product-CADPockets.html
ARES Touch
ドイツのCADベンダー、Graeberからリリースされている「ARES Touch」は、全機能が日本語対応なので、分かり易い操作方法が特徴的です。無料版でも簡易的な編集が可能で、有料版では基本機能に加えて3D機能とボイスメモによる音声注釈機能にも対応しています。
ライセンスを借用したオフライン操作も可能で、クラウドサービスの自動同期に「Googleドライブ」「OneDrive」「Dropbox」の他、「box」と「iCloud 」などの幅広い連携先があるのも魅力的です。(※7)
デスクトップ版の「ARES」とも連携し易く、デスクトップ版の方ではプラグインを導入する事で「jw cad」のファイル形式「jww」も開く事ができます。
公式サイト:https://www.graebert.com/ja/cad-software/ares-touch/
Shapr3D
iPad Proユーザーに向けてリリースされたShapr 3Dは、ハンガリーのスタートアップが開発した3D CADアプリです。モバイルに特化した製品を開発しているということで、こちらのアプリにおいても優れた操作性を実現しています。
iPad Pro用と銘打っているだけあり、9.7インチ以上のiPad Pro、およびApple Pencilには対応しているものの、iPad Airやminiでは利用ができません。ただ、iPad Proに性能は特化しているということで、抜群のパフォーマンスを発揮してくれます。タップ操作による感覚的な編集機能はもちろん、Apple Pencilを使えば、まるで紙に書いているような感覚で製図を進められ、高い作業効率を実現してくれます。
もちろん、データをデスクトップPCに移して作業することもできるため、あらゆる現場でオールラウンドに活躍してくれるでしょう。
公式サイト:https://www.shapr3d.com/
IJCAD Mobile
Autocadとも互換性を備えるという、インテリジャパンのIJCADのモバイル版が、こちらのアプリです。iPadのようなタブレット端末の最大の魅力は、屋内外を問わず活躍できる点です。現場において図面の確認が発生した場合、タブレットであればオンラインでクラウドからすぐに図面を引っ張ってくることもできます。
IJCAD Mobileは、そんな機動性が必要とされる現場での使用を想定したCADアプリです。図面をDropboxのようなクラウドストレージに保管しておくことで、いつでもIJCADを通じて展開できるようになります。
また、オンライン・オフラインを問わずいつでも図面の編集を行えるため、単なるビューアーにとどまらないのもポイントです。そんなアプリを無料で利用ができるのは嬉しいところです。
公式サイト:https://www.ijcad.jp/product/mobile/
まとめ
今回は「iPad」で実用性の高いCADアプリを紹介してきました。
高いスペックのクリエイター向けノートパソコンを持ち出さなくても、「iPad」で基本的な作図・訂正作業が行えるのは、設計者や移動が多いビジネスマンにとっても、うれしいポイントではないでしょうか。
またどのCADアプリでも、有料版は月額・年間のサブスクリプションサービスが基本になっていますが、常に最新バージョンのソフトウエアが使用できる上、導入時のコストが安価な事も企業が比較的取り入れ易いメリットなのだと思います。
2021/2/22加筆
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◆参考URL
※1 ICT教育|山梨英和中学校・高等学https://www.yamanashi-eiwa.ac.jp/jsh/senior/education/ict
※2 Q&A|山梨英和中学校・高等学
https://www.yamanashi-eiwa.ac.jp/jsh/senior/exam/qa
※3 iPad活用事例(建設・都市開発・地域開発):株式会社大林組
https://www.i3-systems.com/case_obayashi
※4 CADソフト|BCN AWAWRD・BCN ITジュニア賞
https://www.bcnaward.jp/award/section/detail/contents_type=295
※5 AutoCAD モバイル アプリ|アプリ機能|オートデスク
https://www.autodesk.co.jp/products/autocad-mobile/features
※6 CAD Pockets、最適なモバイルCAD
https://zwcad.co.jp/product-CADPockets.html
※7 iOS、AndroidでのDWG用モバイルCADアプリ-ARES Touch
https://www.graebert.com/ja/cad-software/ares-touch/