新しいApple SiliconではBoot Campが使用できない?新しいCPUとBoot Campの関係性とは
Macユーザーにとって、気になるニュースが入ってきました。
現在Macintoshシリーズで採用されているIntel製CPUから、独自設計の新しいCPUに変わることが予定されています。
CPUが変わることで過去の資産がどうなるのか、ソフトや周辺機器の対応など心配されることが色々あります。
その1つとして、Windows環境をデュアルブートできるBoot Campについては、残念ながら対応しないことが正式にアナウンスされました。
今回は、Boot Camp非対応について、現在わかっていることをまとめていきましょう。
この記事でわかること
・Boot Campは新しいCPUでは動作しないのか?
・仮想化ソフトの対応について現在わかっていることとは
・CISCからRISCへ再び進化を始めたAppleの描く未来について
Boot Campは新しいCPUでは動作しないのか?
安定の20年を過ごしてきたMacユーザー
しばらくの間、MacユーザーはAppleの歴史の中でも、もっとも安定した環境を享受していました。Mac OSXになってからの20年ほどの間は、基本的なOSの操作性、ユーザーインターフェース(UI)に大きな変化はありません。
もちろん、OSの中身やハードウエアについては、時代に合わせてブラッシュアップされてきましたが、そのために操作感が犠牲になることはありませんでした。
一方のWindowsはと言うと、Mac OSXが登場した2001年から見ても、Windows XP・Vista・7・8・10と5種類のOSが登場しています。XPが安定していましたので、長年活躍していましたが、その後に登場したVistaはとても評判が悪く、7でやっと使える水準に戻り、現在は10へと進んできました。
特にXPからVista、Vistaから7への移行の時は、UIにも大きな変化があり、ユーザーを混乱させる原因にもなりました。
Windowsの場合、タッチパネルへの対応など、新しい技術をOSレベルで統合できるようにするため、UIの変更が必要となります。
一方のMac OSでは、頑固にタッチパネル操作を取り入れず、iPhoneやiPadのiOSと棲み分けることで、安定した操作感のあるUIを提供してきました。OSに振り回されることなく、使い慣れた操作で日常的な業務ができるということは、非常に重要なことです。
その点に限って言えばMacの方がWindowsよりも優位性があると言えるでしょう。
例えば、IBMが社員支給PCをWindowsからMacへ変更した際には、ユーザーサポートのコストが激減したという報告もあります。*注1
一度身についた操作は、慣れてしまうと無意識に手が動くものです。もし、OSが変わるたびに一から覚えなおす必要があるとしたら、どれだけ負担になるか日常的にPC操作をしている方なら実感としてわかるのではないでしょうか。
しかし今回、Macユーザーもついに長年の安定・安心のOSから一旦は離れて、新しい段階へと進まなければならないようです。
Appleはインテル製のチップから、自社設計のチップを搭載する方向に舵を切りました。
早ければ2020年末には、自社設計のチップを搭載した、最初の製品が登場することになりそうです。
<追記(2021年1月)> 2020年11月にM1チップ搭載のMacBook Air、13インチMacBook Pro、Mac miniがリリースされました。
Macユーザーにとって気になることは、これまでの資産や既存のソフトが使えるのか?周辺機器の対応・OSの操作性やUIがどうなるかなど多岐にわたります。そんな中、Boot Campを使ってMacOSとWindowsをデュアルブートしていたユーザーに、悲しいお知らせが届いたということなのです。
Apple Silicon搭載MacはBoot Camp非対応と正式発表
先ごろオンラインで開催されたWWDCにおいて、ソフトウエアエンジニアリング担当上級副社長であるクレイグ・フェデリギ氏が「Apple Silicon搭載MacはBoot Campに非対応である」と発表しました。
なんでも、「Windowsをネイティブブートする必要性を感じない」というのがその理由だと言うのです。*注2
WWDCでは、Appleが設計しARMで製造される新しいCPUは「Apple Silicon」という呼称で各種資料に記載されていましたので、この記事でもその名称を使うことにします。
<追記(2021年1月)> 独自設計の新しいCPUチップの名称は「M1チップ」となりました。ARMアーキテクチャを使用して設計されたシステムオンチップ(SoC)であり、TSMCの5nmプロセスで製造されています。
「サポートしない」という表現であることから、「技術的には可能だが、採用しない」ということでしょう。
実は特別なライセンスではありますが、MicrosoftはARM製CPUで動作するWindowsOSも出しています。そのため、同じARM製のチップであるApple Silicon上でも、Boot Campのような仕組みがあればWindowsが動くのでは?と想像することができます。
このアナウンスが出る前には、そのようなサポートを少し期待していましたが、今回正式に「なし」という結論が出されてしまいした。残念ですね。
ライセンスについてはMicrosoftからは具体的なアナウンスはなし
技術的な問題に加えて、MicrosoftがARM版Windowsをライセンスするのか?という問題があります。現在はOEMのみであり、個人が自由にインストールできる形でのライセンス提供はおこなっていません。
海外メディアであるThe Vergeが、この点について問い合わせたところ「現時点で回答することはない」という内容でした。
これを否定的と捉えるか、未定と捉えるか、または提供の余地ありと見るのか、想像の範囲を超えないのが現状です。*注3
<追記(2021年1月)> 2020年11月27日になって、Windows10をM1チップ搭載Mac上で動作させたという猛者が現れています。正式な発売日が11月17日でしたので、わずか10日程度しか経過してない時点での報告となります。仮想化技術を使って、これに成功したのは開発者のAlexander Graf氏です。Alexander Graf氏は11月27日に以下のようにツイートしています。
「誰がApple SiliconでWidndowsが動かないなんて言ったの?ほら、結構キビキビ動作してるでしょ。」*注5 Alexander Graf氏は、M1チップ搭載のMacで仮想化したARM版Windowsに必要なパッチを、メーリングリストで公開しました。このパッチを使ってパフォーマンスの検証が実施された結果、なんと本来のArm版Windows 10機である「Surface Pro X(第2世代)」を上回る数値が示されています。これがM1チップの性能の高さに由来するものだとしたら、驚くべき結果と言えるでしょう。*注6 Alexander Graf氏は、「これはエミュレーションなの?」という問いに対して「いや、ネイティブだよ。Hypervisor.frameworkを使って仮想化したWindows ARM64を動かしているんだ。」と答えています。
ここで、エミュレーションと仮想化の違いについて、少し説明を加えておきましょう。 エミュレーションでは本来、ハードウェアが実行する処理を代わりにソフト上で行っています。そのため、例えばWindowsPCで昔懐かしの家庭用ゲームアプリを動かすことなどができますが、パフォーマンスは明らかに低下します。 一方の仮想化とは、複数のOSに対応していないCPUなどに対して、ソフトとCPUの間に処理を仲介する仕組みを構築することで、仮想的に動作させることを言います。この仕組みを利用すれば、本来はMacOSにしか対応してないはずのM1チップ搭載Mac上でも、Windowsを動かすことができるようになります。
この場合、処理自体はCPUが実施しますので、基本的にはネイティブとして動くことから、エミュレーションよりは処理性能が高いという特徴があります。 とはいうものの、ソフトとCPUの間に余分な処理を挟んでいますので、多少のパフォーマンス低下はあるというのが普通でしょう。それが、Surface Pro Xを超えるベンチマークを叩き出したというのですから、従来のARM版Windows機のメーカーにとっては脅威となり得るニュースです。
もっとも現時点ではまだ、一部のコアユーザーによるテストにすぎませんので、信頼性については、他の検証などを見ないと分からない段階であることを付け加えておきます。
Boot Campはデュアルブート支援ソフト、Windowsはネイティブで動作する
Boot Campのすごいところは、エミュレーターなどではなくWindowsOSがネイティブ環境で実行できるということでしょう。
「WindowsOSを最速で動かすことができるハードは、Boot Campを使ったMacintoshシリーズ」だという人がいるぐらい、その動作はスムーズです。これもネイティブだからこそといえます。
このこと自体はもちろん個人の感想ですし、あまたあるハードウエアの構成によっても当然異なるでしょう。しかし、MacとWindowsの両方とも、通常の用途でストレスなく利用できること、さらに両方の端末を別々に揃えるよりは安価に抑えられることなど、メリットは十分にありました。
ただしBoot Campでは、それぞれのOSをネイティブでデュアルブートするため、同時に立ち上げることができません。毎回、一方をシャットダウンしてからもう一方を立ち上げるという、ちょっと面倒な手続きが必要です。
Boot Campではない、仮想化やエミュレーターという方法を使えば、同時に二つのOSを立ち上げたまま、自由に切り替えて操作することができるのが便利な点でもあります。
仮想化やエミュレータでは、ハードウエアや他のOSをソフト的にエミューレートした環境の上で動作するのですが、Boot Campの場合そもそもの役割が異なります。よく「Boot Camp上でWindowsを動かす」といった表現がされることがありますが、正確には違います。
Boot Campでは、それぞれのOSを独立して動かすための、パーテーションの設定やデータのやりとりができる仕組みを、自動的に構築するための支援ソフトといった役割を果たしています。HDやSSDを分割して、それぞれのOSが直接動く環境を構築しているのがBoot Campです。
仮想化ソフトの対応について現在わかっていること
Mac上でWindowsを動かすには、Boot Camp以外にも、「Parallels Desktop」や「VMware Fusion」などと言った仮想化ソフトを利用するという方法があります。このような仮想化ソフトは、Apple Silicon搭載Macでも使えるのでしょうか?
現時点でわかっていることは、「Intel版ソフトをApple silicon上で動作させるためのRosetta2は仮想化ソフトには対応しない」ということです。
Rosetta2とは?
Rosetta2について説明が必要ですね。Appleは過去にも何度か、MacのCPUを変更をしてきた歴史があります。
初めは68系と呼ばれるCPUを採用していましたが、より強力なRISCチップを導入するため、PowerPCへと切り替えました。その後、再びIntelのCPUを採用して現在に至ります。
これをARM製のチップ(Apple Silicon)へ変更するというのが、今回の話題です。
CPUを変更する際には、これまでユーザーが保有している資産が無駄にならないよう、配慮する必要があります。前回の変更(PowerPCからIntelへ)の時には、PowerPC用のコードをIntel製チップ上で動作するためのエミュレーターがうまく働きました。そのエミュレーターソフトを「Rosetta」と言います。
この「Rosetta」の働きがあったことで、Macユーザーは比較的スムースに過去の資産をうまく活用しながら、新しい環境へと移行することができました。今回のApple Silicon移行の際に提供されるエミュレーターは「Rosetta2」と呼ばれ、これが仮想化ソフトには対応しないことが明らかになりました。
少し複雑になってきたので、整理してみましょう。
現在の仮想化ソフトはIntel製チップ上で動きます。このソフトをそのまま、新しいApple Silicon上で動くようにするには、Rosetta2の対応次第ということです。
今回で言うと「対応しない」=「今のIntel製チップ向け仮想化ソフトは動かない」となります。では、メーカー各社がApple Silicon用の仮想化ソフトを新たに開発すれば良いということになりますが、現時点で明確な予定は発表されてないようです。
なお、Appleは仮想マシンでLinuxを実行する「Parallels Desktop」のデモを実施しています。しかし、Windowsについてはライセンスの問題もあり、何も言及はされてません。
なんとも気になるところではありますが、現時点ではApple・Microsoft・仮想化ソフトメーカーのいずれも、対応についての明確なビジョンは示していない状況です。*
注4
<追記(2021年1月)> WindowsをM1チップ搭載Mac上で動かすことに否定的な発言をしていたAppleですが、実は「ネイティブブートすること自体は可能であり、それはMicrosoft次第だ」と言っています。
昨年、これを聞いた時には、Apple・Microsoftともに積極的ではないことや、パフォーマンスについて未知数なこともあり、実現可能性は低いのかな?という印象を受けました。 しかし、ARM版Windows機よりも高速であるという情報を見ると、このままMac専用機だけでは少しもったいないような気がしてきます。 Microsoftとしても、Windowsが動作する端末の絶対数が増えれば、OSのライセンス販売で収益を上げるチャンスのはずですから、あえて拒否するような話でもありません。もちろん、PC全体の市場規模に対してMacのシェアは決して多くはありませんが。。。
Intel版Macでbootcampを使ってWindows環境と併用していた方にとっては、今後の動向は気になるところではないでしょうか。
CISCからRISCへ再び進化を始めたAppleの描く未来
CPUは大雑把に二分すると、CISCとRISCに分類されます。それぞれがどのようなものかについては、この記事の目的と異なりますので割愛しますが、Intel製チップがCISCタイプ、ARM製がRISCタイプであることを覚えておいてください。
「Intel inside」シールがWindowsPCに貼ってあることからもわかる通り、PCではCISCチップがメジャーな存在です。しかし例えば、iPhoneやAndroidなどではARM製のRISC系チップが多く使われており、現在では存在感を増し、今後もその重要性は変わらないでしょう。
もともと、AppleはCISCタイプである68系から、RISCタイプであるPowerPCへと大きな改革を実施した経緯があります。先進的なOSを動かし、より高速化するためにモトローラ・IBMと協力し、新しいRISCタイプチップに命運をかけました。しかし、結局はIntel製のCISCタイプへと戻ることになります。
「PowerPCのコストが割高だった」
「高速化が実現できなかった」
「WindowsOSのデュアルブートのためだ」
など、理由については色々と言われていますが、コスト・汎用化・安定した品質や供給など、総合的な判断だったのでしょう。
今回のARM製チップへの変更については、RISCタイプへの回帰という意味で、20年以上前にPowerPCへ挑戦した Appleを思い出して、少し胸が熱くなります。もちろん、当時と今ではその意味も戦略も全く異なると思いますが、今回はiOSで動作するアプリをMacOS上でも動かせるよう、CPUレベルでのアーキテクチャーを統一するという狙いが予想されます。
Macにはタッチパネルを搭載しないなど、頑固にMacとモバイル端末の線引きをしてきたAppleが、Windows系とは異なるアプローチで両者の技術を共通化していくのでしょうか。
【まとめ】
私が最初に購入したパソコンはPowerMac6100でした。
ピザボックスタイプの筐体が美しく、付属のソフトで3Dグラフをリアルタイムで回転描画する様子を眺めては、PowerPCの性能に感心していたものです。
今回のApple Siliconへの移行については、その当時を思い出して、ついワクワクしてしまいます。特に最近はiPhoneやiPad・Apple Watchの快進撃に比べて、置いて行かれたような存在のMacでしたので、余計に期待が大きくなります。
オールドMacファンの中には、同じような感覚を持った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
▼キャパの公式Twitter・FacebookではITに関する情報を随時更新しています!
■参考文献
注1
GIZMODO 「Macで仕事すれば、Windowsより安くつく」と、まさかのIBMが絶賛
https://www.gizmodo.jp/2016/11/mac-windows-ibm.html
注2
価格ドットコムマガジン 『アップルのARM版Macは「Boot Camp」に対応せず。Windows 10は利用できない』
https://kakakumag.com/pc-smartphone/?id=15621
注3
engadget 「Arm版Mac、Boot Campはどうなる? MSが「Arm版Win 10は(現時点では)提供できない」と回答」
https://japanese.engadget.com/armmac-Boot Camp-080048762.html
注4
THE VERGE ‘Apple’s new ARM-based Macs won’t support Windows through Boot Camp’
https://www.theverge.com/2020/6/24/21302213/apple-silicon-mac-arm-windows-support-boot-camp
注5
Twitter @AlexGraf
https://twitter.com/_AlexGraf/status/1332081983879569415
注6
engadget 「M1搭載Macでの仮想Arm版Windowsベンチマーク、第2世代Surface Pro Xを上回る結果に」
https://japanese.engadget.com/m1-mac-geekbench-surfaceprox2-091554897.html