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BIMを拡張した新概念「LIM」とは?長谷工が切り開くデジタル設計の新地平

長谷工コーポレーションといえば、関東地方のマンション開発、特に300世帯をこえる大規模マンション・タワーマンション事業を主軸とするゼネコン兼ディベロッパー企業です。

本記事は、そんな長谷工コーポレーションが提唱した、設計における新概念「LIM」について紹介するものです。*1)
LIMとは「living information modeling」の頭文字をとった単語であり、今建築業界で導入が進められているBIM(building information modeling)データの対象を、建物の保守管理や防犯・防災、あるいはリノベーションといったより広いフェーズの利用にまで拡張した思想です。
LIMデータとは具体的にどのようなものなのか、その背景や運用事例・これからの展望も交えつつ、紹介していきたいと思います。

LIMとは?BIMとLIMの共通点と相違点

LIMとは、建設されたマンションに備え付けた各種センシング機器やIoT端末、モニタリングシステムから送られてきた情報を、建物の設計モデル内に組み込み見える化するシステムを意味する、長谷工コーポレーションが提唱した設計システムのことです。
一つの建物の設計モデル内にさまざまな数値・属性データを付与し、それを関係者全員が共有できる状態にするという点では、今建設業界でトレンドとなっている「BIM」に共通する発想と言えるでしょう。

【内部リンク:https://www.capa.co.jp/archives/32027】

ただしBIMが「建物の竣工までに必要な設計・施工の情報」を付与したモデリングデータであるのに対し、LIMは「建物が竣工してから生じる、保守・利用データ」を集約したものであるという点に、両概念の大きな違いがあります。
LIMで取り扱う情報の具体例としては、顔認証システムや給排水センシングによる住人の生活パターン、地震を知らせる振動センサーや気象センサーによる周辺環境のデータなどが挙げられます。

このようにLIMとは、BIMの対となる概念として編み出されたものであり、その真価はBIMデータと連携させることによって発揮されるものと言えるでしょう。
そのため長谷工は2018年8月に「オープンイノベーション」戦略を打ち出し、長谷工は旧来までのBIMデータと上述のLIMデータを統合する「HASEKO BIM&LIM Cloud」の立ち上げを発表しました。*2)

これは、長谷工がACCESS社らと共同で開発したオンラインプラットフォームのことで、同社の保有しているBIMデータとこれから蓄積されるであろうLIMデータを管理するためのシステムです。
建物ができるまでのデータと建物ができてからのデータ、これら2つのデータを組み合わせることにより、セキュリティ向上・災害対応のスムーズ化・建築物の長寿命化から不動産価値の向上にまで至る一体的なサービスの提供が試みられているのです。

新概念「LIM」が誕生した背景

この「LIM」という概念が長谷工コーポレーションから生まれた背景には、大きく2つの要素があるとされています。

一つは長谷工コーポレーションが2009年進めてきた、開発・設計・保守業務全般のDX(デジタルトランスフォーメーション)事業です。
長谷工は建設の効率化・高付加価値化を目的とした社内BIMシステムの開発・導入や、VRやドローン・センシング技術といった先端技術による施工作業のICT化など、比較的早い段階から設計業務のデジタル化を進めてきていました。
本記事でとりあげる「LIM」というシステムもまた、こうしたマンションの開発・管理業務をデジタル化する試みの一環として位置づけられるものといえます。

【内部リンク:https://www.capa.co.jp/archives/33475】
【内部リンク:https://www.capa.co.jp/archives/35074】

今一つの要素は、人口減少やストック型社会への転換といった、マンション業界全体の動態変化が挙げられるでしょう。
2020年現在、マンション空き家率が世田谷区ですら13%を記録する住宅事情にもかかわらず、依然国内では新規マンションが毎年3万戸以上継続的に供給され続けています。
特に晴海のオリンピック選手村マンションをはじめとする大規模マンションは、管理費不足による廃墟化や入居者の一斉高齢化、及びそれによる投資用マンションの暴落といった将来が、ほぼ確実な未来として予想されている分野です。
マンション事業に特化した長谷工にとって、こうしたマンション建設の受給バランス崩壊は無視して通ることのできない、極めて深刻な課題と言えるでしょう。*3)

今回取り上げた「LIM」の概念は、こうしたマンション運営の課題に取り組む長谷工コーポレーションだからこそ打ち出すことができた、起死回生を賭けた切り札といっても過言ではないのです。

LIMデータ活用の実例

そして2018年の12月には、ついにLIMの思想を取り入れた「ICTマンション」のにむけた実証実験が行われました。
この実証実験はNTT西日本と共同で行われたもので、千葉県にある既存の社宅施設のエントランスに顔認証システムを設置するとともに、宅配BOXやサイネージとも情報をリンクさせるというものでした。*4)

この実験そのものは、単に顔認証によるセキュリティ向上に加えて、帰宅時に宅配ボックスの情報が自動で表示されるというだけのシンプルなシステムです。
しかしこの実験によって検証された各システムの機能性や設置可能性、そして事業性検証を足掛かりに、長谷工は本格的なIoTマンションの第一号物件に向けてプロジェクトを進めました。
*5)

この物件では、
(1)振動センサー:地震時の本人・家族への通知/スマートロックによる防災備蓄庫の非常時自動開錠/エキスパンション・ジョイント部の状態監視を実施
(2)気象センサー:居住者等にタイムリーなピンスポット気象情報を提供
(3)給排水センシング:給排水管の状態監視(検討中)
(4)顔認証システム:入館・エレベータ制御を行うとともにライフログデータとして集約
(5)HEMS:家電の遠隔制御まで拡張することで、エネルギーマネジメントを促進するとともにライフログデータとして集約
などのセンシング技術の導入が予定されました。

そして2020年3月には、LIMの思想が取り入れられたマンション設計の第一号である「Feel I Residence」の入居が開始されました。
全72戸、鉄筋コンクリート造の本施設は、長谷工が描くBIMデータとLIMデータの融合というビジョンを実現するための、第一の矢と呼ぶべき重要な事業と言えるでしょう。*6)

まとめ

LIMの概念は、竣工後に数十年が経過し、数々のデータが蓄積された頃に進化を発揮する中長期的な取り組みと言えます。
そのため、まだ第一号物件が誕生した現時点でその評価を下すことはできません。

しかし現代は、建物の長寿命化やライフサイクルコスト意識の向上が重要視される時代です。
BIMの概念を竣工後にまで拡張する長谷工の取り組みは、縮小する日本の建築業界において極めて重要な第一歩となったのではないでしょうか?

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参考文献(いずれも最終閲覧2020年11月10日

*1)長谷工コーポレーション |HASEKO BIM&LIM Cloudとは?
https://www.haseko.co.jp/bimlim/index2.html
*2)monoist|長谷工が2019年にBIM着工100%目指す、暮らしの情報を集積する「LIM」も構築へ
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1808/02/news041.html
*3)空き家活用Lab|高級マンションが危ない マンションが空き家になる問題点と解決方法https://akikatsu.co.jp/lab/%E9%AB%98%E7%B4%9A%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%8C%E5%8D%B1%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%80%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%8C%E7%A9%BA%E3%81%8D%E5%AE%B6%E3%81%AB/
*4)長谷工コーポレーション|「IoTマンション」 の実現に向けた共同実証実験の開始について ~マンション共用部の利便性向上をめざして~https://www.haseko.co.jp/hc/information/press/20181212_1.html
*5)長谷工コーポレーション|オープンイノベーションによる付加価値の高いマンションづくり 先進的なICTやシステムを本格導入 「ICTマンション」第1号物件に着手
https://www.haseko.co.jp/hc/information/press/20190912_1.html
*6)長谷工コーポレーション|ICT活用とオープンイノベーション推進
https://www.haseko.co.jp/hc/csr/product/open_innovation.html

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