AppleやAutodeskが新たに結成したOpenUSDアライアンスとは?
高度化する3D技術の代表的な活用シーンとして、AR(拡張現実)領域があります。ARはエンターテイメント領域ではもちろん、製造業や建設業、医療などのビジネスシーンにおいても重宝している技術であり、今後はさらなる導入が進むと期待されています。
ただ、AR活用の推進においては課題も多く、企業間の競争激化がかえってARの普及を遅らせてしまう事態も考えられるでしょう。
この記事では、そんなARのさらなる普及に向けて誕生したOpenUSDアライアンスについて、その概要や結成から期待できる展望を解説します。
目次:
- AR開発や普及の課題
- OpenUSDの概要
- OpenUSDを使ってできること
- OpenUSDアライアンスの結成で期待できる展望
AR開発や普及の課題
専用のゴーグルなどを通じて、現実世界に仮想オブジェクトを投影できるAR技術は、エンターテイメント業界の活性化やあらゆる領域のビジネスのハイテク化を促進する技術として注目されている反面、それを阻害する要因についても懸念されています。
懸念事項にはいくつか存在しますが、大きな問題の一つが互換性です。ARは多くの企業が参入を始めている領域であり、各社が独自の規格でARコンテンツやAR関連のソフトを開発しているケースは珍しくありません。
企業間競争が激化すると、ARに限らず多くの企業は自社独自の企画で製品やサービスの開発を進め、それに適合しない規格の製品は排除するような動きを見せることは往々にしてありますが、ARにおいても同様の動向が見られます。
ハードとソフトの互換性、あるいはハード間やソフト間の互換性が獲得できず、ユーザーの間でARの本来のパフォーマンスを得られないという事態が起き始めているのが現状です。
このような互換性の問題はAR導入の効果を低下させてしまったり、AR導入の魅力を低下させる原因となるため、結果的にAR企業にとっては不利益をもたらします。
こういった事情から、AR業界ではかねてより企業の垣根を超えた共通規格の導入の必要性が指摘されてきました。
OpenUSDの概要
このような互換性の問題を解決するため、2023年8月に発表されたのが「OpenUSD」と呼ばれる3Dシーン規格です*1。
OpenUSDは「Open Universal Scene Description」の略称で、大手3Dアニメーション会社のPixar社が開発したファイルフォーマットである「USD」の拡張規格です。USDファイルを使用すれば、シーン作成の際に使用するオブジェクトを独立したレイヤーとして扱い、他のレイヤーへの影響を抑えて編集することができる便利な形式として知られています。
OpenUSDは、そんなUSD規格をより開かれた形で運用するために誕生した規格で、3Dシーン技術の業界標準化や、3D技術のさらなる進化に向けた運用が進む予定です。
OpenUSDアライアンスとは
共通規格として誕生したOpenUSDですが、例え公開されても広く運用が進まなければ共通規格の意味がありません。そこでOpenUSDの公開に伴い、業界で積極的に同フォーマットを活用していく推進活動に取り組む団体として誕生したのが、OpenUSDアライアンス(Alliance for OpenUSD, AOUSD)です*2。
AOUSDは、アメリカの大手3D関連企業が結成を発表した団体で、業界大手の足並みを揃えてOpenUSDの導入を進めることにより、新しい業界標準を定めようと推進活動を行っています。
3Dコンテンツの需要は年々高まっており、ARやVR向けの運用はもちろん、メタバース空間の形成においても欠かせない存在です。
OpenUSDアライアンスに加盟した企業が率先してOpenUSDを使ったコンテンツ制作や技術開発に取り組むことで、企業の垣根を超えて3D活用を推進することができます。
OpenUSDへの加盟を発表した企業
OpenUSDへの加盟を発表している企業は多く、いずれも日本でも知名度の高い名だたる企業が揃っています。加盟企業である創設メンバーでもある企業としては
- Pixar
- Apple
- Autodesk
- Adobe
- NVIDIA
の5社が挙げられ、これらの企業は今後OpenUSDをベースとした3D運用をすすめていくでしょう*3。また、上記の企業以外にも参加を表明している企業は複数存在し、代表例として
- Epic
- Unity
- IKEA
- HEXAGON
が挙げられます。注目すべきはIKEAのようなITが事業の主軸ではない企業においてもOpenUSDの重要性が認知されている点で、今後業界の垣根も超えたグローバルスタンダードとなる可能性は非常に高いと言えるでしょう。
OpenUSDを使ってできること
具体的にOpenUSDを使ってできることとしては、3Dソフトに従来以上の互換性を持たせられることなどが挙げられます。
MayaやAutodesk 3ds Max、Adobe Substance 3D Designerなど、さまざまな3Dソフトが世の中では活躍していますが、これらは別個の仕様設計で構築されているため、完全な互換性は備えていない問題があります。
ただ、今回のOpenUSDアライアンスの結成により、これらのソフトはアセットワークフローをお互いに共有できるようになり、関係者間の情報共有やコラボレーションが一層進むことが期待できるでしょう*4。
3D制作は負荷の大きな業務ではあるものの、こういった互換性の強化が進むことで、現場担当者の負担削減や生産性向上が進み、より高度なプロジェクトを遂行できるようになるでしょう。
OpenUSDアライアンスの結成で期待できる展望
OpenUSDアライアンスには複数の大手企業が加盟を表明していますが、現在は国際標準化に向けた関連企業への加盟の呼びかけを進めています。現在は特定企業が導入を進めている規格の一つであるという扱いにとどまっているものの、国際標準機構(ISO)による規格制定が目指されている団体です*5。
また、共通規格であることをさらに有効活用するべく、現在はOpenUSDを活用したプラットフォームの開発も進められており、より便利に同規格を運用できるようになると考えられます。
OpenUSDが便利に使えるようになっていけば、自然と加盟企業も増え、いずれは国際標準企画として認められることになるでしょう。
まとめ
この記事では、OpenUSDアライアンスの設立背景や、OpenUSD規格の概要や展望について解説しました。
3D業界における共通規格の導入は、同業界にとって多くのメリットをもたらすだけでなく、間接的に他の業界においても利益をもたらすことが期待できます。
OpenUSDアライアンスは現在国際標準化に向けた加盟呼びかけや新たなプラットフォーム開発も進んでおり、今後の活動にも期待が集まるところです。
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出典:
*1 MoguraVR「ピクサーやAdobe、Appleらが3Dシーン規格「OpenUSD」策定へ」
*2 ITmedia NEWS「Apple、Adobe、Pixar、Nvidia、AutodeskがAR加速を目指しOpenUSDアライアンス結成」
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2308/02/news079.html
*3 上に同じ
*4 上に同じ
*5 *1に同じ