AIの力で現実に挑む:意匠設計による建設業界のイノベーション
近年、AI技術が急速に進展しており、さまざまな産業において革命的な変革が進行中です。特に建設業界においては、意匠設計のフィールドでAIの活用が増加しており、設計、施工、維持管理の各ステージにおいて劇的なイノベーションが進行しています。本記事では、AIの技術が建設業界、特に意匠設計にどのように影響を与えているのか、その具体的な例とともに詳しく紹介します。
この記事から以下のことが分かります
・AI技術と建設業の変革
・AI技術の具体的な応用
・AI技術とその他の関連技術
デザインの最適化と多様性
AI技術の導入により、建築設計のプロセスは劇的に変革されつつあります。以前は建築家の経験や直感に大きく依存していたデザイン作成も、AIの助けを借りて大量のデータから最適な設計を迅速に導き出すことが現実となりました。この技術は、クライアントの多様な要望に対応する柔軟性や、高速なデザイン生成の能力を持っています。
特に、AIを用いた建築設計支援システムの一つである「部材グルーピングシステム(*注1)」は、その先進性と実用性から業界内での注目度が高いです。安藤ハザマや株式会社リバネス、株式会社ヒューマノーム研究所など、多くの企業が開発に関わったこのシステムは、短時間で最適な構造計算を可能にし、効率的な設計作業を実現しています。
その結果、設計者の負担が大幅に軽減され、熟練した構造設計者と同等の品質を持つ提案が、より短い時間で可能となりました。
施工の効率化
AI技術は、設計だけでなく、施工段階においても多大なメリットをもたらしています。今ではAIを用いた予測分析により、事前に建設現場のリスクや問題点を予測し、その回避策を立案することができます。
例えばSmartvid.ioが開発したAI(*注2)が挙げられます。SmartvidのAIプラットフォームは、アップロードされる写真や動画の内容を緻密に解析し、予め訓練されたモデルに基づいて、内容に応じたタグを自動で付与します。これにより、管理者が後から特定の情報を検索する際の手間が大幅に削減できました。
さらに、このプラットフォームは、音声情報にも対応しており、建築関連の用語や資材名などを事前に学習しています。そのため、動画内の発話からも適切なタグを生成することが可能となりました。
このような高度な自動タグ付け機能のおかげで、管理者はファイルを一々リネームする手間から解放され、作業効率が大きく向上する結果になりました。
また、ドローンを利用した自動検査(*注3)やロボットによる自動施工など、AI技術を活用した新しい施工方法が続々と導入されており、建設業界の生産性向上が期待されています。
ドローンの活用事例として市立吹田スタジアムが挙げられます。竹中工務店は現場内を迅速に移動できるドローンの力を借りて、各作業場所の品質や安全状況を確認し、大屋根の設置においては、鳥の対策や雨どいの状況など、細部の確認もドローンを通じて効率的に行われました。(*注4)
このスタジアムは、縦160m、横210m、高さ40mという圧巻の規模を誇り、施工においてはプレキャストコンクリート(PC)を使用して柱や梁などの基本部材を形成しています。
特に注目すべきは、躯体工事や大屋根の設置において、最小限の足場や作業床しか使用しない先進的な工法が採用された点です。このような大規模な現場では、多くのエリアで同時に作業が進行しており、施工管理者には効率的な監視が求められていました。
ドローンを活用した結果、管理職4人、20代スタッフ7人の計11人で延べ面積6万4000㎡の施工管理を実現しており、この取り組みは建設現場におけるドローン技術の有効性やその進化を示す事例として注目されるものといえます。(*注5)
ロボットによる自動施工では「Spot(注6)」が注目されています。鹿島建設株式会社、ソフトバンクロボティクス株式会社、ソフトバンク株式会社はボストンダイナミクスの四足歩行ロボット「Spot」(スポット)を鹿島建設が導入したことを発表しました。(注7)
今後、トンネル工事において、坑内測量業務や安全管理のための巡視など、実証実験を通じて更に有用性を確認していく方針です。
また四足歩行が可能な特性を活かし、急傾斜地すべり地帯での調査・測量などの危険作業を含め、適用先の拡大を検討していくとしています。
維持管理の革命
建築物やインフラの維持管理にもAIの波が押し寄せています。センサーやIoT技術と組み合わせることで、建築物の健康状態をリアルタイムでモニタリングし、必要なメンテナンスを予測することが可能となりました。
清水建設ではガス圧接継手の施工現場において画像認識AIをトライアル導入し、その認識率や使い勝手を検証する取り組みが行われました。
清水建設が施工しているビルの現場において、スマートフォンを利用して鉄筋継手の画像を撮影し、画像認識AIによって外観検査が行われました。(*注8)これまで目視で行われていた検査と比較することで、判定結果の精度、作業時間、画面操作性などを検証するわけですが、これまでの目視検査では1カ所あたり5分程度を要していたといいます。
一方、画像認識AIを活用すれば、1カ所あたり20秒から30秒程度で検査が可能です。また、スマートフォンのアプリを立ち上げ、鉄筋のサイズ(径)を指定し、撮影ガイドに合わせて撮影するだけという手軽さもあるため、今後画像認識AIの活用は建設業界でも進んでいくのではないでしょうか。
このようなAIによる予測保全は、維持管理コストの削減やライフサイクルの延長、さらには事故やトラブルの予防にも寄与しています。
クライアントとのコミュニケーション強化
AI技術の導入により、クライアントとのコミュニケーションも大きく変わりつつあります。VRやAR技術を組み合わせることで、設計段階でのビジュアル化が容易となり、クライアントがプロジェクトのビジョンを直感的に理解することができるようになりました。
例えば、竹中工務店はビジュアル・テクノロジー研究所と共同で、建築物の設計段階において、室内空間の“視環境評価”を可能にするVRツールを開発しました(*注9)。このツールには、東京工業大学の特許技術が利用されており、建築物の輝度分布に基づいて、空間の明るさ感をシミュレーションして仮想空間に反映させることができます。
建築デザインの現場では、実際の建築空間を模倣する際の「明るさ感」の再現が難題とされてきました。通常、人の目は目で捉えた対象物とその周辺の輝度との対比や、目の順応によって、同じ輝度であっても暗く感じたり、明るく感じたりすることがあるため、これを完全にデジタルで再現することは困難でした。この「明るさ感」の違いは、建築設計の際にクライアントや建築主のイメージとのギャップを生む要因となりました。
この先進的なVRツールは、現実の空間の明るさを仮想空間上で非常に高い精度で再現することを実現し、建築前の設計段階での明るさ感のイメージが、建築後の実際の空間との間でのギャップを最小限に抑えることができるようになりました。これにより、設計者と建築主との間での早期の合意形成が効率的に行われることが期待されています。
この技術の導入により、建築業界はより正確なビジュアルコミュニケーションが可能となり、クライアントや建築主の期待と設計者のビジョンの間の誤解やギャップを大幅に減少させることができるようになるでしょう。
まとめ
AI技術の導入により、建設業界は新しい時代を迎えつつあります。意匠設計の領域においても、これまでの常識を覆すような革新的なアプローチが増加しており、業界全体の発展と成長が期待されています。これからの時代、建設業界のプロフェッショナルは、このAI技術を最大限に活用し、より質の高いサービスを提供していくことが求められるでしょう。
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■参考文献
注1
BUILT 安藤ハザマらがAIを活用した構造設計支援システムを開発、構造計算時間を半分に
https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/2203/15/news025.html
注2
Innovation Toolbox 建設業界の現場管理における海外AI活用事例
https://www.vertex-itb.com/single-post/ai-construction-management
注3
国土交通省 国土交通省のドローン活用事例
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/gijyutu/content/001510876.pdf
注4
けんせつPlaza 建設業におけるドローン活用の現状-工事写真の撮影から土量計算、CIMモデルの作成まで-
http://www.kensetsu-plaza.com/kiji/post/13925
注5
日経XTECH
ガンバ大阪「吹田スタジアム」、低コスト、短工期のワケ
https://xtech.nikkei.com/dm/atcl/column/15/110300017/071500045/
注6
Boston Dynamics® Spot® – The Agile Mobile Robot
https://bostondynamics.com/products/spot/注7
ロボスタ 【速報】鹿島建設が四足歩行ロボット「Spot」(スポット)を正式導入 トンネル工事現場で有用性を確認 ボストンダイナミクスの最先端技術が実践へ
https://robotstart.info/2020/02/20/spot-kashima.html注8
日経XTECH 工事現場にもAI進出、まずは鉄筋のガス圧接継ぎ手を20秒で判定
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/00737/?P=2
注9
BUILT BIMをベースに人が感じる室内の明るさをVRで再現、設計段階で“明るさ感”の合意形成に
https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/1811/22/news043.html