建設DX、うまくいかない理由とその打開策
はじめに:建設DXの重要性と現状の課題
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、現代のビジネス環境において不可欠な要素となっています。建設業界においてDXの導入は業務効率の向上やコスト削減、品質の向上に寄与することが期待されています。
しかし、建設業界でのDXの取り組み割合は、他の業界と比較しても低い傾向にあります。この背景には、業界特有の構造的な課題が存在します。例えば、小規模事業者が多く、地方に事業者が分散していることが挙げられます。これらの要因が、DXの導入を妨げているのです。本記事では、建設業界におけるDXの現状を分析し、その重要性を再確認するとともに、今後の展望について考察します。
建設業界のDX取り組みの現状
国内におけるDXの潮流
国内企業におけるDXの取り組みは、年々増加しています。『DX白書2023』によれば、2022年度には69.3%の企業が何らかの形でDXに取り組んでおり、そのうち26.9%は全社的に取り組んでいると報告されています。このデータから、多くの企業がDXを重要な戦略として位置づけていることがわかります。DXの導入は、業務プロセスの効率化や新たなビジネスモデルの創出に寄与し、企業の競争力を高める手段として注目されています。※1
建設業界の取り組み割合
一方で、建設業界におけるDXの取り組み割合は、他の業界と比較して低い水準にあります。2020年度のデータによると、建設業界で何らかの形でDXに取り組んでいる企業は20.7%にとどまっています。この低い割合の背景には、建設業界特有の構造的な課題が存在します。具体的には、小規模事業者が多く、地方に事業者が分散していることが挙げられます。これらの要因が、DXの導入を妨げているのです。※1
建設DXがうまくいかない理由
業界構造に関する課題
一品受注生産の問題点
建設業界では、一品受注生産が一般的です。これは、異なる土地でお客様の注文に基づき一品ずつ生産する方式であり、製造業のようなライン生産方式を採用することが難しいという特性があります。このため、標準化や効率化が進みにくく、DXの導入が遅れる要因となっています。※2
現地屋外生産の課題
建設業は、現地屋外生産が基本です。様々な地理、地形条件の下で、日々変化する気象条件等に対処する必要があり、スケジュールや生産工程が動的に変動します。このため、デジタルツールを用いたスケジュール管理や生産工程管理が難しく、DXの導入が進まない要因となっています。※2
労働集約型生産の弊害
建設業界は労働集約型生産であり、各工程を専門会社に外注する分業体制(重層下請け構造)を取っています。このため、元請のゼネコンのみがシステムを導入しても効率化につながりにくい側面があります。また、要員はプロジェクトごとに集められるため、下請け企業からすると、A社が推奨するシステムを導入してもB社のプロジェクトでは利用できないなど、ツール導入の負担が大きい状態にあります。※3
事業者の特性
小規模事業者のDX導入障壁
中小企業庁のデータによれば、建設業の企業数のうち、資本金3億円かつ従事者規模300人超の大企業は0.1%以下であり、中小企業が99.9%以上を占めています。このような企業では、ITの専門知識を持つ人材の確保や、DX化に必要な投資資金の捻出が難しいのが現状です。さらに、小規模事業者は日々の業務に追われ、DX化に向けた戦略的な計画を立てる余裕がないことも多いです。※4
地方事業者のDX推進課題
地方の建設事業者にとっても、DXの導入は大きな課題です。地方では、ITの専門知識を持つ人材の採用が難しく、また、DXを進めるためのソフトウェアベンダーやコンサルタント会社が都市部に集中しているため、支援を受けにくい状況にあります。これらの要因が、地方事業者のDX取り組みを阻む障壁となっています。
文化的特性
法的な規制とデジタル化の障壁
建設業界では、提出書類など法的な規制が多く、デジタル化しきれない業務が多いのが現状です。これにより、デジタルツールの導入が進まない要因となっています。法的な規制がデジタル化の障壁となっているため、業界全体での規制緩和やデジタル化推進が求められます。
デジタル技術への抵抗感
建設業界では、デジタルに前向きでない従業員が多いことも、DX推進の障壁となっています。従業員がデジタル技術に対して抵抗感を持っているため、デジタルツールの導入が進まないのです。これに対して、従業員の意識改革やデジタル技術の教育が必要です。
建設DX推進のための打開策
業界内でのリーダーシップの確立
建設業界におけるDX推進には、業界内でのリーダーシップの確立が重要です。特に大手企業は、DXを通じて新たなビジネスモデルを創出し、業界全体のデジタル化を牽引する役割を果たすことが求められます。これにより、業界全体のDX推進が進むことが期待されます。
クライアントとの協力体制の構築
DXを推進するためには、クライアントとの協力体制の構築が重要です。クラウドベースのプラットフォームを活用して、クライアントとリアルタイムで情報を共有し、プロジェクトの進捗を可視化することができます。これにより、クライアントはプロジェクトの状況を常に把握でき、迅速な意思決定が可能となります。
技術革新と人材育成
技術革新と人材育成は、建設業界におけるDX推進の鍵です。IoT技術やAIを活用したプロジェクト管理の効率化、BIM技術の活用など、最新のデジタル技術を導入することで、業務効率の向上やコスト削減が期待されます。また、デジタル技術に精通した人材を育成し、組織内での定着を促進することが重要です。
大手企業におけるDX取り組みの事例
IoT技術の導入事例
大手ゼネコンでは、IoT技術の導入が進んでいます。例えば、ドローンを用いた現場の進捗管理を行い、リアルタイムでのデータ収集と分析を可能にしています。これにより、現場の状況を迅速に把握し、適切な対応を行うことができるようになりました。
AIを活用したプロジェクト管理
AIを活用したプロジェクト管理の効率化も、大手企業でのDX取り組みの一例です。AIを用いた予測分析により、リスクの早期発見と対策が可能となり、プロジェクトの成功率を高めることができます。
BIM技術の活用とその効果
BIM(Building Information Modeling)技術を活用することで、設計から施工、維持管理までのプロセスを一元管理し、無駄を省くことができます。これにより、プロジェクトの透明性が向上し、関係者間のコミュニケーションが円滑になります。
建設業界のDX推進に向けた展望
DX推進のメリットと期待される効果
建設業界におけるDX推進は、業務効率の向上やコスト削減、品質の向上に寄与することが期待されています。具体的には、建設プロジェクトの進捗管理やコスト管理の効率化、品質管理の強化などが挙げられます。これにより、プロジェクトの納期短縮やコスト削減が実現し、競争力の向上につながります。
業界全体での協力と支援の必要性
DX推進には、業界全体での協力と支援が必要です。特に小規模事業者や地方事業者に対しては、業界全体での支援が求められます。これにより、業界全体のDX推進が進み、持続可能な成長が実現することが期待されます。
まとめ:建設業界におけるDX推進の重要性と未来の方向性
建設業界におけるDXの推進は、業務効率の向上やコスト削減、品質の向上に寄与する重要な取り組みです。特に大手企業は、DXを通じて新たなビジネスモデルを創出し、業界全体のデジタル化を牽引する役割を果たしています。
しかし、小規模事業者や地方事業者にとっては、DXの導入が難しい状況にあります。これらの課題を克服するためには、業界全体での協力や支援が必要です。今後、建設業界におけるDXの推進が進むことで、業界全体の競争力が向上し、持続可能な成長が実現することが期待されます。
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参考情報:
※1 独立行政法人情報処理推進機構『DX白書2023』
https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108041.pdf
※2 国土交通省 九州地方整備局『i-Constructionとは』
https://www.qsr.mlit.go.jp/ict/iconstruction/page2.html
※3 木村 駿 (著, 編集) 『建設DX2 データドリブンな建設産業に生まれ変わる』
※4 中小企業庁『産業別規模別事業者数』
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_kigyocnt/2023/231213kigyou2.pdf