3DCADのデータ形式を徹底解説!設計・共有・変換までの基礎と実践
1. はじめに|なぜ3DCADのデータ形式が重要なのか?
3DCAD(3次元CAD)は、製品設計やエンジニアリングに欠かせないツールです。
しかし、いざ他のチームや外部パートナーとデータをやり取りしようとすると、「ファイル形式の違い」が大きな障壁になることがあります。
たとえば、自社ではSolidWorksを使っていても、取引先ではInventorやFusion 360を使っている──。そんなとき、ファイルをそのまま渡しても、開けなかったり、形状が崩れてしまったりすることがあるのです。
こうしたトラブルの原因は、多くの場合「CADデータ形式の選び方」にあります。
実は、CADファイルには「ネイティブ形式」と「中間形式」という2つの大きな分類があり、それぞれに特長と使いどころがあります。
どの形式を使うかによって、保持できる情報の量や種類が変わり、設計の再利用性や修正のしやすさ、外部とのやり取りのスムーズさまで左右されます。
データ形式を適切に選ぶことで、設計の手戻りを減らしたり、変換トラブルを防いだりと、業務全体の効率化にもつながります。
一方で、使い方を誤ると、履歴情報の消失や精度の低下など、後工程に影響を与えるリスクもあります。
本記事では、「設計」「共有」「変換」という3つの観点から、3DCADの主要なデータ形式をわかりやすく解説します。
STEP・IGES・STLといった中間ファイルの特長から、各ソフトウェアのネイティブ形式の違い、実務で役立つ形式選定のコツまで、現場ですぐに使える知識を整理してお届けします。
2. 3DCADの「データ形式」ってそもそも何?
3D CADソフトウェアにはさまざまな種類があり、それぞれが独自の「ネイティブ形式」と呼ばれるファイル形式を採用しています。たとえば、SolidWorksでは .sldprt や .sldasm、Inventorでは .ipt や .iam、Fusion 360ではクラウドベースの独自データ構造が用いられます。CATIAやNXにも、それぞれ固有の拡張子とデータ構造があります。
これらのネイティブ形式は、同一ソフトウェア内で使用することを前提に最適化されており、設計履歴・パラメータ・拘束条件といった詳細な情報がそのまま保持されるのが大きな特徴です。
一方で、異なるCADソフト間で設計データをやり取りするには、「中間形式(中立フォーマット)」の活用が必要です。STEP(.step/.stp)やIGES(.iges/.igs)などがその代表で、データ変換の“共通語”的な役割を果たします。これらを使うことで、異なるCAD間でもある程度の互換性を保ちつつデータの受け渡しが可能になります。ただし、中間形式に変換する際には、履歴情報やパラメトリックな設計要素などが失われる可能性があるため、取り扱いには注意が必要です。
ここで重要なのは、「データ形式」によって保持できる情報の種類や精度、再編集のしやすさが大きく変わるということです。形状の3D情報はもちろんのこと、材料情報・色・製造用の注記(PMI)・アセンブリ構造・属性情報など、設計の背景を伝える上で欠かせない付加情報が多く含まれています。これらが適切に維持されなければ、設計意図の正しい伝達ができず、3DプリントやCAE解析といった後工程で問題が発生することもあります。
したがって、3DCADを扱う上では、「どのデータ形式が、何の情報を含み、何を失うのか」を理解しておくことが非常に重要です。設計作業をスムーズに進め、かつ外部との連携トラブルを避けるためにも、まずはデータ形式の違いとその特性をしっかり把握することが、実務上の第一歩となります。
2.1. ネイティブ形式 vs 中間形式の違い
ネイティブ形式とは、各CADソフトウェア専用に設計されたファイル形式です。この形式では、履歴ツリーや拘束条件、スケッチパラメータなど、モデル作成のプロセスがそのまま記録されており、設計の再編集が容易になります。SolidWorksであれば .sldprt(パーツ)や .sldasm(アセンブリ)、Inventorであれば .ipt や .iam といったファイルが該当します。
一方の中間形式は、ソフトウェアに依存しない共通フォーマットとして、異なるCAD間でのデータ交換を目的としています。代表的なものにSTEPやIGESがありますが、これらは形状情報のやり取りに特化しており、履歴や拘束といったパラメトリック情報までは保持できません。
ネイティブ形式の最大の利点は、変更履歴やフィーチャーの構成が保持されているため、再編集や設計変更に強い点にあります。反復設計やバージョン管理が求められる現場では、ネイティブ形式の活用が非常に有効です。
中間形式は、異なるCADをまたいでデータを共有する際の橋渡しとして欠かせません。たとえば、設計した3Dモデルを外部協力会社に渡すときや、3Dプリント用に最適化された形状を提供する場合などで活躍します。ただし、変換時のデータ損失リスクを踏まえた使い分けが必要になります。
2.2. モデルデータに含まれる情報(形状・履歴・属性など)
3DCADのモデルデータには、単なる幾何形状だけではなく、設計の意図や背景を支える多くの情報が含まれています。たとえば、スケッチやフィーチャーの履歴、拘束条件、パラメータ値、使用材料の種類や物性値、色や表面仕上げといったアピアランス情報、部品番号や製品構成情報、製造指示に関わる注記(PMI)などです。
これらの情報は、設計・解析・製造・管理といった各フェーズにおいて有用であり、正しく保持されていることで、後工程でのトラブル防止や意思疎通の円滑化に寄与します。
ところが、ファイル形式によっては、これらの情報の一部または全部が保持されないことがあります。特に中間形式に変換するときは、「どの情報が残り、どれが失われるのか」を事前に把握しておかないと、思わぬトラブルにつながることがあります。
たとえば、CAE解析でメッシュ設定や材料情報が消えていたり、3Dプリンティング時にカラー情報が伝わらなかったりといった問題が典型です。こうした事態を避けるためにも、形式ごとの「情報保持の限界」を理解しておくことが重要です。
2.3. フォーマットによって失われる情報もある
中間ファイルへ変換した際には、形状そのものは維持されても、フィーチャーベースの履歴情報やスケッチ、拘束条件などが消失するケースが一般的です。特にIGES形式は、点・線・面などの単位でデータを構成する古い規格であり、履歴やパラメトリック性の保持はほとんど期待できません。
STEP形式は、より新しい仕様であり、PMI(製造注記)やアセンブリ構造、部品属性などを含めたデータ構造を扱える規格(AP214やAP242など)が存在します。そのため、多くの企業で標準的な中間形式として採用されています。ただし、それでも完全な再編集には向かず、CADネイティブ形式ほどの柔軟性はありません。
このように、どのファイル形式を使うかによって保持される情報の範囲が異なるため、「いつ」「誰が」「何のために」データを使うのかを明確にしたうえで、最適な形式を選定する必要があります。適切な形式選びは、設計品質を守るだけでなく、作業時間やコストの最適化にもつながるのです。
3. 代表的な3DCADとそのネイティブ形式
設計業務において中心的な役割を担う3DCADソフトウェアは複数存在し、それぞれに独自の特徴やファイル形式(ネイティブ形式)があります。
このネイティブ形式は、各CADソフトが持つ設計履歴やパラメトリック情報を正確に保存するために最適化されており、そのソフト上での編集や再利用には欠かせない要素です。
ただし注意したいのは、異なるCADソフト間ではネイティブ形式が基本的に互換しないという点です。つまり、あるCADソフトで作られたネイティブファイルを、別のCADで直接開こうとすると、読み込めなかったり、情報の一部が失われたりするケースが多く発生します。
したがって、自社で使用しているCADと、やり取りする相手先のCADが何であるかを正確に把握しておくことは、スムーズなデータ共有と作業効率化のために極めて重要です。
また、各ソフトには専用の変換ツールや中間形式対応機能が用意されており、互換性の課題を緩和する方法も存在します。
それでも、ネイティブ形式と中間形式では保持できる情報の内容が大きく異なるため、どの段階でどの形式を使うべきかを見極める判断力が求められます。
加えて近年では、クラウドベースで設計データを管理するタイプの3DCADも登場しており、ローカル保存とは異なる運用スタイルが広がりつつあります。特にFusion 360のようなクラウド型CADでは、ファイル形式そのものがユーザーに意識されにくくなっていますが、オフライン環境での作業や外部とのやり取りでは、依然として形式の理解が不可欠です。
ここからは代表的な3DCADソフトウェアについて、それぞれが採用しているネイティブ形式と、基本的な特徴や連携のしやすさを簡潔に紹介していきます。
3.1. SolidWorksのデータ形式
SolidWorksは、製造業を中心に広く普及している3DCADで、ネイティブ形式として .sldprt(パーツ)と .sldasm(アセンブリ)を採用しています。
このソフトはParasolidカーネルをベースにしており、パラメトリックモデリングや設計履歴の管理が得意で、複雑な構造や変更履歴のある設計に適しています。
ユーザーインターフェースも直感的で、設計者が効率よくモデルを構築できるように配慮されています。
また、SolidWorksは他CADとの連携にもある程度対応しており、STEPやIGES、Parasolid形式(.x_t / .x_b)へのエクスポート機能が標準で搭載されています。
特にParasolid形式は同じカーネルを使用するCADソフト(例:NX)との互換性が高く、精度の高いデータ変換が期待できます。
ただし、パラメータやフィーチャーの履歴は保持されないため、再編集を見越す場合はネイティブ形式での共有が望ましいです。
3.2. Inventorのデータ形式
InventorはAutodesk社が提供する3DCADで、.ipt(パーツ)と.iam(アセンブリ)という形式を使用します。
AutoCADとの親和性が高く、2D図面と3D設計を組み合わせて活用したい現場では特に利便性があります。Inventor内で .dwg ファイルを直接編集・再利用できる点は、他の3DCADと一線を画しています。
また、同じAutodeskグループのFusion 360との間ではデータのやり取りが比較的スムーズであり、設計情報の再利用やクラウドベースの共有にも強みがあります。
他社CADとの連携時にはSTEP、IGESといった中間形式が主に使われます。Inventor独自のパラメトリックデータは中間形式では保持されないため、細かい設計変更や拘束条件を再編集したい場合は、相手側もInventorを使っている必要があります。
3.3. Fusion 360のクラウドベースデータ形式
Fusion 360はクラウドベースで動作する統合型の3DCADで、モデリング・解析(CAE)・加工(CAM)といった複数機能を一つのプラットフォームで提供します。
データは.f3dという独自形式でクラウド上に保存され、インターネット接続があればどこからでもアクセスできる利便性が特徴です。
このクラウド型の利点により、複数人での同時編集や遠隔地とのコラボレーションが容易になりますが、その反面、オフライン環境で作業する場合にはローカルへのエクスポートが必要であり、形式の変換や管理には一定の注意が必要です。
Fusion 360は中間形式として、STEP・IGES・STL・3MF・Parasolidなど多様なフォーマットに対応しており、3DプリントやCAMデータ生成との連携にも優れています。
ただし、クラウド型ならではのアクセス権管理やプロジェクト単位でのデータ整理には慣れが必要なため、導入時には運用ルールの整備が求められます。
3.4. CATIAとNXの業界特化形式
CATIAはDassault Systèmesが開発した3DCADで、.CATPart(パーツ)、.CATProduct(アセンブリ)をネイティブ形式として扱います。
特に航空機・自動車・宇宙産業といった大規模製品設計の分野で採用されており、膨大な部品構成や高精度な設計要件に対応できる柔軟性があります。
一方、NX(旧Unigraphics)はSiemens製の3DCADで、.prt をネイティブ形式とし、Parasolidカーネルに基づいて動作しています。NXもCATIA同様に大規模設計に強く、PLM(製品ライフサイクル管理)との連携機能も充実しています。
ただし、CATIAとNXの間には互換性がないため、やり取りにはSTEP形式が使われることが多く、プレゼンやレビュー用途ではJTファイルや3DXMLといった軽量フォーマットも活用されます。
これらの高機能CADは、製品全体を俯瞰した設計・管理を行う場面で特に力を発揮しますが、ネイティブ形式が強固であるがゆえに、異種CADとの連携では変換精度やデータ保持範囲に注意が必要です。
4. 中間形式の種類と特徴(STEP, IGES, STLなど)
異なる3DCADソフトウェア間でデータをやり取りする際に欠かせないのが、「中間形式」と呼ばれるファイルフォーマットです。これらは、特定のソフトに依存しない共通仕様で設計されており、設計データの受け渡しをスムーズに行うための“橋渡し役”として活躍します。
中間形式の多くは、設計履歴やパラメトリック情報などの編集用データを保持せず、形状情報を正確に再現することに重点を置いています。そのため、ソフトをまたいで設計データを共有する際に便利な一方で、変換によって一部の情報が失われることは避けられません。
形式ごとに向き不向きがあり、用途に合わせて選ぶ必要があります。たとえば、3Dプリントで形状をそのまま出力したい場合にはSTL形式、高精度な形状データを取引先と共有したい場合にはSTEP形式が推奨されます。また、レガシーシステムとやり取りする必要がある場合には、IGES形式が必要になることもあるでしょう。
この記事では、実務でよく使われる主要な中間形式を取り上げ、それぞれの特性と適した用途を解説します。さらに、今後の標準として注目されつつある新しいファイル形式についても簡単に紹介します。
中間形式は単なる変換手段ではなく、プロジェクト全体の品質・効率・トラブル回避に直結する重要な選択肢です。適切に使い分けるためには、それぞれの形式の特徴を正しく理解しておくことが必要です。
4.1. STEP:履歴なし、形状精度・互換性に優れる
STEP(Standard for the Exchange of Product model data)形式は、.step または .stp という拡張子で知られる、ISOで標準化された中間フォーマットです。形状データのやり取りを高精度かつ安定的に行えることから、最も広く利用されている中間形式のひとつとされています。
STEPは、形状データの精度が高く、異なるCAD間でもズレが少ないのが特徴です。AP203、AP214、AP242などのサブ規格があり、PMI(製造情報)や部品構成などの付加情報も保持できる仕様が存在します。特にAP242は最新規格として、3Dモデルに関連する属性や注記、階層情報のやり取りまで視野に入れた運用が可能です。
ただし、パラメトリックな履歴やスケッチ情報といった、設計過程そのものは含まれていないため、再編集には不向きです。STEPはあくまで「完成形の幾何データ」を正確に伝えるための形式であり、設計途中の細かい意図まで完全に再現することはできません。
それでも、CADソフトの違いを乗り越えて3Dデータをやり取りする必要がある場面では、STEP形式が最も信頼性の高い選択肢と言えるでしょう。
4.2. IGES:古いが一部CAMやCAEで必要
IGES(Initial Graphics Exchange Specification)は、CAD黎明期から存在する中間フォーマットで、.iges や .igs の拡張子で知られています。設計データの交換を目的に1980年代から使われてきた歴史ある形式であり、特にサーフェスやワイヤーフレームで構成されたモデルのやり取りに強みがあります。
IGESの最大の特徴は、非常に広範なシステムでサポートされていることです。古いCADやCAMソフトウェアでも読み込めることが多く、長年にわたってインフラとして機能してきました。特に一部の加工機やCAEツールでは、今なおIGESしか受け付けないケースも存在するため、一定の需要が続いています。
ただし、古い規格ゆえの限界もあります。履歴情報やパラメータは保持されず、曲面処理においてもトリム情報が正しく再現されないことがあります。そのため、変換後に面抜けや不完全な形状となるリスクがあり、できる限りSTEPなどの新しい形式への移行を検討したいところです。
それでも、相手先がIGESを指定している場合や、過去の資産データを活用する際には、IGES形式が今でも重要な選択肢として残されています。
4.3. STL:メッシュ形式、3Dプリント専用
STL(Stereolithography)は、3Dプリンタでの造形に使われる標準的なファイル形式で、.stl の拡張子を持ちます。形状を小さな三角形の集合体(ポリゴンメッシュ)として表現するため、3Dモデルを直接積層造形に適したデータへ変換することができます。
この形式は、形状を忠実に出力するという点では非常に有用ですが、CAD的な情報、たとえば設計履歴、パラメータ、寸法拘束、材質情報などは一切保持しません。純粋に“形だけ”を伝えるための形式であり、編集や再設計には不向きです。
また、STLは解像度の設定によって形状精度に大きな差が出ます。ポリゴン数を増やせば曲面が滑らかに見える一方で、ファイルサイズが大きくなり、データ処理負荷が増すというトレードオフもあります。
最近では、3MF(3D Manufacturing Format)など、より高機能なプリント用形式も登場していますが、STLのシンプルさと広い対応範囲により、依然として3Dプリンタ業界ではスタンダードな存在です。
4.4. その他の中間形式とその用途
中間形式には他にも多様なファイルがあります。それぞれに得意分野や特徴があり、用途や連携先に応じて使い分けることが求められます。
たとえば、Parasolid形式(.x_t / .x_b)は、Siemens NXやSolidWorksなどが使用するParasolidカーネルと親和性が高く、幾何形状の精度や再現性に優れています。ただし、非対応ソフトでは読み込みできないこともあるため、使用範囲には制限があります。
JT(Jupiter Tessellation)形式は、軽量表示に特化した中間フォーマットで、PLMシステムとの連携や大規模アセンブリのビジュアライズに強みを発揮します。詳細設計用ではありませんが、レビューやプレゼン、AR/VR表示などで重宝されます。
3DXML形式は、Dassault Systèmesが開発した軽量3Dフォーマットで、CATIAユーザーを中心にプレゼン用途などで利用されています。製品構成や視点情報なども含めて保存できる点が特徴です。
さらに、glTF(GL Transmission Format)は、Web表示やゲームエンジン、VR/AR環境での活用が進む次世代の中間形式です。JSON構造で軽量かつ扱いやすく、設計データの視覚的共有に新たな可能性をもたらしています。
これらの形式は、単に“変換用”として扱うのではなく、目的に応じた運用をすることで、設計・レビュー・製造の各工程における効率や表現力を向上させる強力なツールとなります。
5. 用途別!データ形式の選び方ガイド
3DCADのデータ形式は、「どんな目的で」「誰と共有するのか」によって最適なものが変わります。単に形状を伝えたいだけなのか、それとも相手に再編集してもらいたいのか。あるいは、3DプリンティングやCAE解析に活用するためか。こうした目的を明確にすることが、形式選定の第一歩です。
たとえば、同じCADソフトウェアを使う社内チーム間でのやり取りであれば、ネイティブ形式が最も効率的です。一方、外部の協力会社や顧客と異なるCADソフト間でデータ交換を行う場合には、STEPファイルなどの中間形式が必要となります。また、3DプリントならSTL形式、レビュー用途ならJTや3DXMLなど、使用するツールや環境によっても適切な形式は異なります。
このように、「形式ごとに適したシーンを把握し、使い分ける」ことが、設計の手戻りや変換トラブルを防ぐカギになります。とくに取引先や業務委託先など、外部とのやり取りが頻繁な現場では、あらかじめ形式選定のルールを定めておくことで、スムーズな運用とトラブルの最小化につながります。
本章では、用途別に最適なファイル形式を具体的に整理し、それぞれのメリット・注意点を交えながら解説します。形式選びに迷ったときの判断基準として、また社内の運用フローを見直す際の参考資料として活用してください。
5.1. 設計のやり取り(同一CAD)
同一の3D CADソフトを使っているメンバー同士でのやり取りであれば、ネイティブ形式が最も適しています。たとえば、SolidWorks同士であれば .sldprt や .sldasm、Inventor同士なら .ipt や .iam を使うことで、設計履歴・スケッチ・拘束条件といった詳細な情報をそのまま保持しながら共有できます。
この方法なら、設計意図や変更履歴を明確に伝えることができ、再編集や後工程での修正もスムーズです。アセンブリ内の部品構成や参照関係も保持されるため、大規模な設計案件や共同作業が多い現場では特に有効です。
社内プロジェクトや製品開発の初期段階では、ネイティブ形式でのやり取りを基本とすることで、効率的な設計サイクルが実現できます。ただし、バージョン差異による読み込みエラーには注意が必要で、プロジェクト全体でのバージョン管理ルールを整備しておくことが重要です。
5.2. 異なるCAD間の連携
外部の企業や部署と異なるCADソフトを使用している場合、ネイティブ形式では互換性に問題が生じるため、中間形式を利用したデータ連携が基本となります。もっとも一般的な選択肢はSTEPファイルで、精度・互換性・広範なソフトウェア対応の面でバランスが取れています。
次いで候補に挙がるのがParasolid形式で、特にNXやSolidWorksなど、同一カーネルを使用するソフト間ではより正確な形状再現が可能です。古い設備やツールとの連携が必要な場合は、IGESも検討対象となりますが、変換トラブルのリスクを踏まえて使用する必要があります。
異CAD間でのやり取りでは、「何のためにデータを渡すのか」「相手側は再編集するのか」「どこまでの情報が必要か」を事前に確認し、最適な形式を選ぶのが理想です。ソフトによってはダイレクトインポートに対応しているケースもあり、CAD間の互換表やサポート情報をあらかじめ調べておくことで、余計なトラブルを防ぐことができます。
5.3. CAE解析
CAE(Computer Aided Engineering)解析に使用するデータ形式としては、STEP形式やIGES形式がよく使われます。多くの解析ツールがこれらのフォーマットに対応しており、形状情報をベースにしたメッシュ生成に適しています。
とくにSTEP形式はトリム処理や面の連続性を保ちやすく、解析精度の確保に貢献します。IGESも一定の互換性がありますが、古いフォーマットであるため、曲面の処理やトポロジの一貫性に注意が必要です。メッシュが荒れる、面が閉じないといった現象が発生することもあるため、変換後のモデル確認は欠かせません。
また、解析の精度にこだわる場合には、変換ツールを活用して複数形式を比較し、最も適した形状表現を持つデータを選択するのも有効です。CAEソフトがネイティブ形式に対応している場合でも、安定性や処理速度を重視してSTEPを選ぶといった選択肢もあります。
5.4. 3Dプリント
3Dプリンタで造形する場合には、STLファイルが基本フォーマットとして広く使われています。形状をポリゴンメッシュで表現するため、プリンタ側での処理がしやすく、ほとんどの3Dプリンタで対応可能です。
近年では、3MF(3D Manufacturing Format)というより高機能なフォーマットにも対応するプリンタが増えてきました。3MFは、色や素材、構造的な属性情報も含めて記録できるため、マルチマテリアルプリントや精密な出力に対応する現場での活用が進んでいます。
ただし、STLや3MFのようなメッシュ形式は、CADの設計履歴や寸法情報などを含まないため、出力用の「完成データ」として利用するのが基本です。メッシュの粗さ(解像度)や法線方向の誤りが造形品質に直結するため、エクスポート時には設定を慎重に見直す必要があります。
5.5. プレゼン・レビュー用途
社内外で設計内容を共有する場面では、必ずしも詳細なモデル情報を含める必要はありません。そうした場合には、軽量かつ表示に特化したファイル形式が有効です。代表的なものとして、JTファイル、3DXML、glTFなどがあります。
JTファイルは、PLM環境との連携を想定した軽量3D形式で、大規模アセンブリの構造を保ちつつ、ファイルサイズを抑えて可視化するのに適しています。3DXMLはCATIA環境に強く、操作ビューや注記の付加などが可能で、レビュー資料や社内報告資料に向いています。
WebブラウザやAR/VRデバイスと連携する際には、glTF形式が注目されています。軽量かつ高精度な視覚表現が可能で、設計のプレゼンテーションをよりインタラクティブに行うことができます。
これらの形式は、設計意図を伝えることに特化しており、詳細な再編集は不要な場面で活躍します。機密性を保ちつつ、スムーズに確認・共有ができるため、社外プレゼンや委託先との初期レビューなどにも非常に有用です。
6. 形式変換で起こるトラブルと回避テクニック
3DCADのデータ形式を変換する際には、注意しなければならない点が数多くあります。ファイルを変換した直後は一見正常に見えても、実際には「面が欠けている」「拘束が失われている」「寸法が微妙にずれている」などの問題が後から判明することも珍しくありません。
こうした不具合は、設計ミスや再作業を引き起こし、最悪の場合は製造トラブルや納期遅延にまでつながる恐れがあります。特に中間形式を介したデータ変換では、形状以外の情報(履歴、パラメータ、属性情報)が失われる可能性があるため、事前の準備と後処理が極めて重要です。
この記事では、形式変換にともなうよくある問題を整理し、それに対する具体的な回避テクニックを紹介します。変換前のチェックリストや、信頼性の高いツールの選び方など、すぐに実践できるノウハウを交えて解説します。
変換作業は一度で済むことが理想ですが、実務では「うまく変換できなかった」「開いたら壊れていた」といった事例が頻発します。だからこそ、ミスを未然に防ぐための“ひと手間”が、設計全体の品質を大きく左右します。形式変換の正しい進め方を理解することは、設計者としての基本スキルといえるでしょう。
6.1. よくある問題(面抜け、履歴消失、精度劣化)
形式変換によって最もよく発生するのが「面抜け」と呼ばれる現象です。これは、元のCADモデルではきれいに閉じていたソリッドが、変換後にサーフェスの継ぎ目に隙間ができてしまい、モデルが破綻する状態を指します。とくに曲面やトリムされた形状が多いモデルでは、このような問題が発生しやすくなります。
次に多いのが、履歴情報や寸法拘束が失われることです。STEPやIGESなどの中間形式は、形状を再現することには優れていますが、設計の過程を保持することには向いていません。そのため、フィーチャー構成やパラメトリックな設計手順がすべて消えてしまい、再編集が非常に困難になります。
さらに注意が必要なのは、形状の精度が微妙に変化することです。たとえば、CADソフトごとに異なる丸め処理やサーフェス近似の方式が影響し、寸法がごくわずかにずれてしまうことがあります。このようなズレは、初期段階では気づかれにくいものの、後工程での不適合や加工エラーにつながるリスクがあります。
6.2. 変換前のチェックリスト
こうしたトラブルを防ぐためには、変換前にあらかじめモデルをチェックし、必要な処理を行っておくことが不可欠です。以下のような項目は、事前確認の基本として押さえておきたいポイントです。
- 単位系の統一(mmとinchの混在を防止)
単位系の不一致は、縮尺や寸法ミスの原因になります。相手側の仕様に合わせて、単位の確認を徹底しましょう。 - モデルの原点位置と座標系の確認
座標がずれていると、読み込み時に部品が意図しない位置に配置されることがあります。グローバル原点を意識することが重要です。 - ソリッドとサーフェスの一体化状況の把握
意図せずサーフェスモデルになっていると、変換後に面抜けが生じやすくなります。ソリッド化の処理を確認しておきましょう。 - フィーチャー履歴の整理と不要要素の削除
複雑すぎる履歴や使われていないフィーチャーは、変換の妨げになることがあります。簡素化・整理を行うと安全です。 - 公差や精度設定の明示
曲面やエッジの滑らかさに影響するため、適切な公差の設定が必要です。出力時の精度パラメータにも気を配りましょう。
これらを変換作業前に確認しておくことで、予期せぬトラブルを大幅に減らすことができます。また、チェックリストをドキュメント化し、社内標準として運用することで、設計チーム全体の品質も底上げされます。
6.3. 無償/有償の変換支援ツール例
形式変換をより安全かつ効率的に行うには、専用の変換支援ツールを活用するのも有効な方法です。こうしたツールには、ファイル形式の変換だけでなく、エラー検出・ヒーリング(自動修復)・プレビュー機能などが搭載されており、手作業では難しい処理も自動で行ってくれます。
たとえば、CAD Exchanger や FreeCAD などは無償で利用可能であり、主要な中間形式(STEP, IGES, STL, Parasolidなど)に対応しつつ、簡易的な修復やエクスポート調整も行えるため、初学者や軽量案件での利用に向いています。
一方、AnyCAD や SpinFire などの有償ツールでは、より高度なエラー処理やバッチ変換、大規模アセンブリへの対応などが可能です。ヒーリング処理のアルゴリズムが強力であり、大量の部品を一括で変換したり、トポロジを維持したまま形式を切り替えるといったことも柔軟に対応できます。
有償ツールの導入にあたっては、業務規模や対象ファイルの複雑さに応じた投資対効果を見極めることが大切です。さらに、PLMとの連携や長期保存用のデータ出力、デジタルツイン構築の前提としても、これらのツールが活躍する場面は今後ますます広がっていくでしょう。
7. 将来を見据えたデータ形式選定の考え方
今日の3DCADにおけるデータ形式は、単に「今開けるかどうか」だけではなく、「将来も使えるか」「再利用できるか」という視点でも選ぶことが重要です。技術や業界の進化が速い現在においては、ファイルの互換性や保管性、クラウド対応性、そしてPLMやデジタルツインとの連携といった観点を踏まえた選定が、今後ますます重要になっていきます。
過去を振り返れば、かつて主流だったIGES形式が、次第にSTEP形式へと置き換えられてきたように、データ形式は常に変化しています。今後も、新しい製造プロセスや設計スタイルの登場とともに、次世代のファイルフォーマットが台頭してくることは避けられません。
そのため、設計データを数年~十数年単位で保管・再活用する必要がある業種では、「将来にわたって閲覧・編集が可能な形式を選ぶこと」や、「クラウドやデータベースとの親和性がある形式を選ぶこと」が求められます。形式の選択を誤ると、将来的に変換が困難になったり、重要な情報を失ったりするリスクがあるためです。
この章では、長期的な視点に立ったデータ形式選定の考え方について、3つの観点「長期保管」「クラウド対応」「PLM/デジタルツイン連携」から解説していきます。
7.1. データ長期保管と再利用
製品寿命の長い業界、たとえば航空・防衛・インフラ・医療機器などでは、設計データを10年以上保存し、必要に応じて再利用できる状態に保つ必要があります。
ところが、各CADソフトのネイティブ形式はソフトウェアバージョンに強く依存しており、5年後・10年後に同じ形式で開ける保証がないという問題があります。
このような場合に有効なのが、広く標準化された中間形式、とりわけSTEP(特にAP242)形式です。STEPはISO標準であり、今後も長くサポートが継続されると見込まれています。さらに、形状データだけでなく、PMI(寸法注記)や製品構成情報なども保持できるため、構造的な再現性にも優れています。
長期的な再利用を視野に入れるなら、「設計履歴や拘束情報の再編集を諦める代わりに、形状と属性を確実に残す」という選択も合理的です。そのため、アーカイブ用途では、設計の完成段階でネイティブ形式とSTEP形式の両方を保存しておくといった運用が推奨されます。
7.2. クラウド設計時代の形式の変化
近年、Fusion 360やOnshapeなどのクラウドベースCADの普及により、従来の「ファイル保存」という考え方が変化しつつあります。こうした環境では、データはクラウドサーバー上に保存され、バージョン管理や共同編集がリアルタイムに行えるようになっています。これにより、拠点の異なるチームでも同一データに同時アクセスできる柔軟な設計環境が実現されています。
一方で、クラウド型CADではファイルのエクスポートが必須になるケースもあり、ローカルでのバックアップや、他社とのデータ受け渡しのために中間形式を使う機会は依然として残ります。クラウド形式だけに頼ると、他CADでの再利用や、オフライン作業に支障が出ることもあるため、必要に応じてSTEPやParasolidなどの外部共有用フォーマットを併用する柔軟さが求められます。
クラウド中心の設計体制をとる場合でも、エクスポートの手順や形式の制限を把握しておくことで、設計業務を止めることなく他者と連携できます。将来的に業務が変化した場合にも対応できるよう、データ運用の方針をあらかじめ整備しておくことが望まれます。
7.3. デジタルツイン/PLMとの連携で求められる情報の粒度
近年、デジタルツイン――現実世界の製品や設備を仮想空間上に正確に再現し、リアルタイムで監視・分析を行う技術――の導入が進んでいます。これにともない、CADデータは単なる形状情報ではなく、構成・属性・動作情報などを含めた“情報のかたまり”として扱われるようになってきました。
このような高度な運用では、3DCADデータをPLM(Product Lifecycle Management)システムと連携させる必要があります。PLMに登録する際には、どのデータ形式でどこまでの情報を持たせるかが極めて重要です。たとえば、部品の属性、材料情報、BOM(部品表)リンク、注記、バージョン履歴といった情報を、どの粒度でファイルに埋め込むかによって、PLMとの親和性が大きく変わります。
情報が足りなければ管理の手間が増え、逆に過剰であれば更新負荷や整合性維持のコストが高まります。そのため、情報の「最適な粒度」と「運用フローの整合性」を両立させる形式選定が必要です。
設計初期の段階から「このデータはPLMに登録するのか?」「将来的にデジタルツインで活用するのか?」といった視点を持つことで、長期的に見て価値の高いデータ資産を構築することができます。
8. おわりに|最適な形式選びが設計の質を左右する
3DCADの設計業務において、データ形式の選択は単なる技術的な選定ではありません。それは、設計品質の安定性・共有のスムーズさ・将来的な再利用性といった、あらゆる工程に直結する“設計戦略”の一部です。
設計の履歴や拘束情報まで含めてやり取りしたいならネイティブ形式、異なるCADソフト間で高精度な共有を行いたいならSTEPやParasolid、試作や製造への出力を目的とするならSTLや3MF、そして社内レビューや提案資料にはJTや3DXML──
このように、目的や連携相手に応じて形式を適切に使い分けることが、トラブルを防ぎ、業務のスピードと精度を同時に高める鍵になります。
また、形式の変換には必ずリスクが伴います。思わぬ面抜け、履歴の欠損、精度の劣化などが発生しないよう、チェックリストの活用や変換ツールの併用といった予防策を組み込むことが、実務上の安全性を高めるうえで欠かせません。
さらに、CAD業界はクラウド設計やデジタルツイン、PLMとの統合運用といった新しい潮流へと進んでいます。従来の「ファイルを保存する」「送る」といった発想から、「どの環境で、どの粒度の情報を、どこまで持たせるか」を設計段階から計画することが、今後の標準になっていくでしょう。
本記事では、3DCADのデータ形式について、基礎知識から実務運用、将来に向けた視点までを総合的に解説してきました。
ぜひここで得た知見をもとに、自社の運用フローを見直し、形式の選定や管理方法を見直してみてください。それだけで、設計品質が安定し、チームや取引先との連携も驚くほどスムーズになります。
適切な形式選びは、小さな一手に見えて、プロジェクト全体の成果を左右する大きな分かれ道です。
設計者としての判断力を高める一歩として、形式に強くなることは、きっと大きな武器になるはずです。
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参考情報
・様々な種類の3Dファイル形式 – Adobe
https://www.adobe.com/jp/products/substance3d/discover/3d-files-formats.html
・STEPファイルの詳細と開く方法 | Adobe
https://www.adobe.com/jp/creativecloud/file-types/image/vector/step-file.html
・JTファイル形式 | Siemens Software
https://plm.sw.siemens.com/ja-JP/plm-components/jt/
・The File Format Optimized for 3D printing – 3MF Consortium
・glTF Overview – The Khronos Group Inc
・Inventor 2026 ヘルプ | トランスレータ(サード パーティ ファイル)およびサポートされるファイル バージョン | Autodesk
https://help.autodesk.com/view/INVNTOR/2026/JPN/?guid=GUID-AF41FA87-7588-4698-9C41-756A01EBE7F4
・ファイルの種類(File Types) – 2025 – SOLIDWORKS ヘルプ
https://help.solidworks.com/2025/japanese/SolidWorks/sldworks/c_file_types.htm
・Export format options for Fusion 360