デザイン思考によるプロトタピングの潮流
プロトタイピング(prototyping)は、試作品(プロトタイプ)をユーザーに使ってもらい、収集した意見を反映しながら改良を加えて完成形に近づける手法です。
IT業界では、システム開発、アプリやWebサイトの制作にも活用されています。しかし、もともと自動車や家電製品の筐体などプロダクトデザインの分野では、製品や商品の開発に欠かせない手法でした。
プロトタイピングの基盤にあるデザイン思考
旧来のシステム開発は、ウォーターフォール・モデルが主流でした。要件定義、内部・外部設計、開発、テスト、運用まで、滝から水が流れ落ちるように一直線に進める方法です。しかし、当初のイメージやコンセプト、問題解決の認識がずれていると、最終的に取り返しのつかないことにもなりかねませんでした。
最近では、試作品を検討しながら完成形に近づける、プロトタイピングの手法を採用することが多くなりました。正式版をリリースする前にβ版を公開して、ユーザーの意見を収集することもあります。
このプロトタイピングは、「デザイン思考(Design Thinking)」を基盤にしているといえるでしょう。
デザイン思考は、IDEOのティム・ブラウンが提唱した考え方です。IDEOといえば、2016年の4月に博報堂DYホールディングスに事業の一部を売却したことで話題になりましたね。シリコンバレーで設立された世界的なデザイン会社です。
デザイン思考は、技術やマーケティング主体ではなく「人間中心デザイン(Human-Centered Design)」を重視します。
開発者には「最先端技術のこれが面白いから使ってみよう」、マーケターには「市場データを入手したから、これで企画を立てよう」というタイプが多いのではないでしょうか。
しかし、デザイン思考はユーザーにこだわります。
デザイン思考の中核は、技術や市場のシーズではなく「人間」です。人間の分析を起点としてアイデアや問題を整理し、解決方法を具体的なプロトタイプとして形にします。そして、ユーザーに使ってもらいながら改良して磨き上げていきます。フィードバックした意見をもとに、上昇スパイラル型に完成させるプロセスの考え方がデザイン思考です。
実際にさまざまな領域でデザイン思考、プロトタイピングの手法が使用されています。IT関連に関していくつか挙げてみましょう。
CADシステムにおけるラピッドプロトタイピング
かつてプロダクトデザインでは、木材を削ってモックアップという模型を作ってデザインを検討していました。しかし、木材を削るのには時間がかかります。修正が入ると、最初からまた木材を削り直してモックアップを作らなければなりませんでした。
しかし、3Dプリンタの登場により、3D CADや3D CGなどのモデリングソフトを使って、ディスプレイ上でデザインしたデータから、樹脂や石膏による立体造形が迅速にできるようになりました。
工業製品によっては、プロトタイプをブラッシュアップして完成したデータを製品化することが可能です。したがって、製品開発から出荷までの時間短縮とコスト削減を実現しています。
システム開発におけるプロトタイピング
基幹系システムや、業務管理システムにおいても、テストを繰り返しながらシステムを開発する手法が主流になっています。
アジャイルの開発手法も、プロトタイピングのひとつといえるでしょう。アジャイルでは、全体をいくつかの範囲に分けます。そして、重要な範囲から設計して、実装とテストを行い、修正を繰り返してリリースします。
システム開発でプロトタイピングが導入されるようになった背景には、プログラミング言語を使わなくても、グラフィカル・ユーザーインター・フェースによる開発ツールが登場したことも理由としてあります。
Web制作やアプリ開発のプロトタイピング
Web制作やモバイルアプリの開発でも、プロトタイピングが使われます。
ただし、最近のWebサイトやモバイルアプリでは、画面のユーザーインターフェースだけでなく、操作した後のインタラクションやアニメーションを試作することも必要です。
クリックやタップしたときの効果や、メニューを滑らかに表示する演出は、紙の企画書では直感的な理解ができません。プロトタイプでイメージを確認しておくと、お客様の理解も得やすくなります。
デザインには「設計」と言う意味もあります。工業デザイン、システム開発、Web制作、アプリ開発において、よりユーザーを重視した設計のためにプロトタイピングは効果的な手法です。
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