大成建設の土木分野のデジタル技術を紹介!注目の自動協調運転技術とは
大成建設は、日本の5大ゼネコンのひとつに数えられる建設業界のリーディングカンパニーです。2019年に完成した「新国立競技場プロジェクト」では、当時はまだ実務レベルで使われることが少なかったBIMをプロジェクトの核に据えて成功を収め、BIMの先駆者となりました。
大成建設は、現在もリーディングカンパニーとして建設DXを牽引しています。そこでこの記事では、大成建設の土木分野のデジタル技術を紹介します。なかでも注目していただきたいのは、「自動協調運転技術」です。興味のある方は、ぜひご覧になってみてください。
大成建設の「Construction NEXT」
新技術の前に、大成建設のデジタル戦略のコンセプトを紹介します。大成建設は、未来の建設を見据え、デジタル技術を活用した建設プロセスのキーフレーズとして「Constrution NEXT」を掲げています*1。Constrution NEXTのなかでは、以下のような方針が示されています。
・従来のプロセスを全体共有しながら、一人一人がデータの精度・確度を高める
・信頼できるナレッジデータベースを構築・活用する
この2つの方針に基づいた取り組みにより、熟練社員の技から専門性の高い先端技術まで、「NEXTな技術」が繋がる未来の建設を築いていくとのことです。今回紹介する技術のなかにも、施工管理情報のリアルタイムな共有といった内容が出てくるので、チェックしてみてください。
建設機械の自動協調運転技術
最初に紹介する技術は、「自動協調運転技術」です。独自の「作業用ロボット」「協調制御システム」「位置情報取得技術」などにより、生産性向上や人手不足の解消に向けた自動協調運転技術の開発を進めています。
作業用ロボットシリーズ「T-iROBO」
作業用ロボットシリーズ「T-iROBO」は、人とロボットの協調を目的とする建設機械です*1。ここでは、土木工事で活躍する5機種を紹介します。
・T-iROBO Roller*2
自動走行で振動ローラによる転圧作業を行います。従来の無人化施工のようなオペレーターによるラジコン式の遠隔操作が不要なので、熟練作業員の不足といった課題に対応可能です。
・T-iROBO Breaker*3
がけ崩れや土砂災害で生じる巨岩を無人施工で短時間かつ安全に運搬可能なサイズに破壊します。作業場所へのカメラの設置や、オペレーターによる操作が不要なので、災害地でも安全な作業が可能です。
・T-iROBO Excavator*4
キャタピラージャパン社製の次世代油圧ショベル「Cat320」に「自律割岩システム」を実装し、掘削・積込作業を自動化しています。実証試験では、土砂掘削・積み込み作業の自動化のほか、有人ダンプトラックとの円滑な連携作業が確認されました。
・T-iROBO Crawler Carrier*5
諸岡社製クローラダンプMST-2200VDRをベースに、人体検知システムを搭載することで自動運転に対応させています。走行ルートは、座標入力のほか、有人走行させたルートを記憶させる「ティーチング」によって指示することが可能です。AIを活用した人体検知システムにより、人体を検知すると自動で減速・急停止します。
・T-iROBO Bulldozer*6
各種センシング機能の連携により最適な押土経路を自動作成する自律制御型のブルドーザーです。AIの解析技術により、規格外の巨礫を検知し、使用材料の適正化を自動で行います。
協調制御システム「T-iCraft」
協調制御システム「T-iCraft」は、自動運転建設機械の協調運転を制御するシステムです*7。「T-iROBOシリーズ」による建設現場のDX戦略の一翼を担う技術として開発されました。実証試験では、「T-iROBO Excavator」「T-iROBO Crawler Carrier」「T-iROBO Roller」「T-iROBO Bulldozer」をコントロールし、「掘削・積込」「運搬」「敷均し」「転圧」の施工が検証されています。
T-iCraftは、自動運転している建設機械の位置情報と作業進捗を監視し、必要に応じて自動運転の実行・停止などを指示する司令塔です。T-iROBOシリーズだけでなく、幅広い自動運転建設機械に対応しているため、さまざまな工事現場で協調制御のプラットフォームとして活躍します。
位置情報取得技術「T-iDraw Map」
「T-iDraw Map」は、SLAM技術を活用した位置情報取得技術です*8。SLAM技術とは、建設機械の周辺環境を示す「地図作成」と「自己位置推定」を3次元で同時に行う技術です。これにより、建設機械の位置情報を随時取得できるようになり、周辺環境に応じた適切な自動運転が可能になります。
T-iDraw Mapが真価を発揮するのは、トンネル工事です。従来のT-iROBOシリーズが搭載している位置情報システムはトンネル内では機能せず、トンネルの自動施工を実現できないという課題がありました。T-iDraw Mapは、トンネル内における位置情報取得という課題を解決できるため、自動運転建設機械の活躍の場を広げる技術として注目されています。
その他の技術
大成建設が力を入れているのは、自動協調運転技術だけではありません。ここでは、コンクリートの品質管理や現場管理をサポートするシステムを紹介します。
生コンクリート情報の見える化
「コンクリートは生もの」と表現されるとおり、打設するまでの間に生コンクリートの状態は刻一刻と変化します。生コンクリートの鮮度が悪くなる前に打設を完了することが、コンクリートの品質管理の肝であるといえるでしょう。
大成建設は、生コンクリートの情報をリアルタイムで見える化するシステムを開発しています*1。生コン工場と連携して生コンの伝票情報をクラウドにアップし、出荷時の状態を共有します。施工管理者をはじめとした工事関係者は、スマートフォンやタブレッドにより打設の状況をどこからでも確認することが可能です。従来は施工管理者が打設中に現場を離れるのは困難でしたが、他の作業と並行してコンクリート打設を進められるようになるかもしれません。
映像・IoTデータを活用した現場管理システム「T-iDigital Field」
「T-iDigital Field」は、カメラやIoT危機で取得した建設現場の施工状況を可視化し、遠隔地でも工事関係者間でリアルタイムに情報共有できるシステムです*9。現場を俯瞰する定点カメラ、作業状況を映すウェアラブルカメラ、建設機械の位置情報や打設進捗状況を取得するIoT機器などを活用し、スマートフォンやパソコンから施工状況を把握できます。
ダム建設現場における実証実験においては、コンクリートの打設管理や、発注者による立会検査に対する検証を行っています。省人化に向けた「現場に行かない施工管理」の実現に大きく貢献するシステムといえるでしょう。
建設機械と作業員に対する安全管理を可能とする「クレーン衝突防止システム」
T-iDigital Fieldの拡張機能として発表されたのが「クレーン衝突防止システム」です*10。クレーン衝突防止システムは、ブーム先端部および作業員に設置したIoT機器からの位置データや映像をもとに、クレーン同士の接近や吊荷下に近づく作業員を検知し、オペレーターや作業員にアラートを発します。
自動施工が普及するにつれて、建設機械と作業員の接触事故に対する安全策はより一層大切になっていきます。しかし、安全確保のために人員を配置するようでは、生産性向上に繋がりません。安全確保と生産性向上を両立するためには、クレーン衝突防止システムのような「人に頼らない安全対策」が重要になってくるでしょう。
おわりに
新国立競技場を機にBIM時代の口火を切った大成建設には、これからも建設DXを牽引するリーディングカンパニーとしての役割が期待されています。大成建設が開発する新技術により、土木・建築工事の生産性が向上し、建設業界が益々明るくなることを期待しましょう。
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注釈
*1
出所)大成建設株式会社「Construction NEXT」
https://www.aiiot.taisei-techsolu.jp/mirai/construction/
*2
出所)大成建設株式会社「自動化振動ローラ 「T-iROBO® Roller」」
https://www.taisei.co.jp/ss/tech/C0123.html
*3
出所)大成建設株式会社「割岩無人化施工システム「T-iROBO Breaker」を開発」
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2015/151002_3643.html
*4
出所)大成建設株式会社「次世代油圧ショベルによる作業自動化を実証」
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2019/190426_4636.html
*5
出所)大成建設株式会社「自動運転クローラダンプ「T-iROBO® Crawler Carrier」の実用化に目途」
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2019/191127_4826.html
*6
出所)大成建設株式会社「T-iROBO Bulldozer」
https://www.taisei-150.jp/dx/dx_02_t-irobobulldozer.html
*7
出所)大成建設株式会社「協調運転制御システム「T-iCraft®」を開発し、施工現場のDXを推進」
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2021/210209_5072.html
*8
出所)大成建設株式会社「国内初 GPS等の位置情報が届かない坑内で無人建設機械を自動運転」
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2021/210611_8304.html
*9
出所)大成建設株式会社「映像・IoTデータを活用した現場管理システム「T‐iDigital Field」を開発」
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2020/200727_4966.html
*10
出所)大成建設株式会社「デジタルデータを活用した現場管理システム「T‐iDigital Field」の機能を拡張」